カードショップの店員は、主人公だが主人公じゃない 作:どこかのSさん
少し前、バイト先の帰り道で言った通りウチの妹はちょこちょこバイト先に顔を出すようになった。まぁそれに関しちゃ何だかんだ律儀な妹様は顔を出すたびに何かしら買って帰ってくれるからありがたい
そんなこんなで妹襲来以降は平穏な日常が続き、なんだなんだである程度の参加者も確保できたショップ大会当日
「今回も無事開催出来てよかったっすね」
「そうだねぇ、わざわざ用意した賞品が無駄にならなくてよかったよ」
「そうなったらどっかしらに寄付するなりなんなりで無駄にはしないでしょ、店長」
「まぁね、せっかく見つけてきたカードを眠らせておくのも忍びないし……よし、ちゃちゃっと準備しちゃおっか」
「了解です」
開店時間まで残り僅か、今日の大会はスムーズに進めば午前中から始まって夕方手前くらいには終わる予定だ……いつもよりファイト台だっていつもより少し数は使うし、何よりも何世代か前のとはいえ顕現機能付きのファイト台だって準備しなきゃいけない
「店長、投影機能付きのファイト台ってどこに置いてましたっけ?」
「えーっと…………あれ? どこだっけ?」
「────へっ?」
※※※※※
今日は店長さんのカードショップでやるショップ大会に初めて参加します! 春野遊花です!
いつもよりも軽い足取りでいつもの待ち合わせ場所まで向かうと、いつもより動きやすそうな服装の空閑さんが待ってた
「あっ、空閑さーん!」
「おはよう、春野さん……今日、城咲さんは一緒じゃないの?」
「うん、ことはのおばあちゃんに家族で会いに行くことになって大会見に行けなくなったって金曜日に電話で言ってたから」
「……もしかして、彼女のおばあさん具合が悪いの?」
「ううん、なんか野菜がいっぱいできたから取りに来てって言われたんだって、それで土日で土曜日におばあちゃんの所に行って今日の夕方くらいに帰ってくるって言ってた」
「そう、彼女の家族に何事もないならいいの」
あたしの言葉を聞いた空閑さんはほっとしたみたい
「空閑さん、もしかして……」
「ん? あぁ、いえ、別にウチの家族にそういう事があったわけじゃないわ。ただ単に心配だっただけ」
「そう?」
「えぇ、それじゃ行きましょうか。今から行けば開店前には着けると思うわ」
「そうだね、それで何か手伝えることがあったら手伝う……だよね?」
「えぇ」
あったかい太陽の光に照らされながら、あたしと空閑さんはb-LINEへ向けて歩き始める
「そういえば、春野さんは今回がショップ大会は初めてなのよね?」
「うん、だから楽しみなんだぁ」
「アタシ個人の意見になっちゃうけど、楽しいと思うわよ。普段戦わない人とも戦えるし、今の実力試しもできるから」
「そうなんだ」
「えぇ、人によってプレイングに違いも出るし、同じカードを軸にしていても自分とは全く違う構築になっている人もいるから、勉強にもなるし」
「踏む踏む、成る程」
いまいちピンと来てないけど、たぶん空閑さんが言うなら勉強になるんだろう
「それじゃ、もしかしたらあたしと同じニクスを使ってる人と会えるかもって事?」
「えぇ、もしかしたらだけどね」
「そっか、それも楽しみかも」
そんな他愛のない話をしながらカードショップの前まで到着すると、あたしたちよりも先にカードショップの前で待ってる結音ちゃんが目に入る
「結音ちゃん?」
「あっ、春野さんに空閑さん。おはようございます」
「おっはよ!」
「えぇ、おはよう。それにしても随分と早いのね……もしかしてお兄さんと一緒に来たの?」
「いえ、兄は私よりも先に準備があるからと7時前には出ていきましたね」
「そうなんだ」
「そうなんです。それで兄さんなら問題ないだろうと思っていたのですが……虫の知らせを感じたので、少し早めに来てみました」
「虫の知らせ?」
「何となくよくない事か特別なことが起こる予感がするという意味よ……一応聞くけれど、結音さんの感じたのは」
「嫌な予感の方ですね」
結音ちゃんがそれを言ったすぐ後、お店の中からガッシャーンっていう大きい音が聞こえてきた
「嫌な予感、的中したみたいね」
「ですね……これが言霊と言うものでしょうか」
「言ってる場合じゃないよ!? あの! 大丈夫ですか!?」
お店の開く前の時間だったから自動ドアは開かなかったから自動ドアを叩いて中に居る久導さんと店長さんに言葉をかけると、中から手動で自動ドアが開いて少しだけ埃で汚れた久導さんが出てくる
「あぁ、春野さんに空閑さん、それに結音か……三人とも早いね」
「は、はい。楽しみだったので……ってそうじゃないですよ!? すごい音したけど大丈夫ですか!?」
「あぁ、うん。特に怪我とか何かあったわけじゃないよ……外で待ってるのもアレだし、中入る?」
「いいんですか?」
「うん、店長! 春野さん達早めに来てくれたみたいなんで店の中入れちゃってもいいですかー?」
「いいよー」
「いいってさ」
「そ、それじゃあ。お邪魔します」
お店の奥から聞こえてきた店長さんの声、それを聞いてあたし、空閑さん、結音ちゃんの順番でお店の中に入る
いつもより少しだけ広めになっているファイトスペースの上には専用のプレイマットがしっかりと敷かれていて、なんというかいつもとは少しだけ違うように見える……それに、なんかおっきな台にもたれかかってる店長さんも普段とは────
「────店長さん!?」
「ん? あぁ、春野さんおはよー、今日も元気だねぇ」
「は、はい……じゃなくて! 大丈夫ですか!?」
「うん、少し疲れたから休んでるだけ……これをなんか思ったより奥に仕舞っちゃってたみたいでさ」
ゆっくりした動きで身体を起こした店長さんは軽くさっきまでもたれかかっていた台を叩いた
「なんですか、これ?」
「ファイト台だよ。最近はあんまり使ってなかったけどね」
「顕現機能付きのファイト台……少し前の世代のものみたいですけど、このお店にも置いてあったんですか?」
「うん、もっともうちはこれ使うよりも普通の台でゆったりやりたいって人の方が多かったから、さっきまで埃を被ってたんだけどね」
あたしの少し後ろから顔を見せた空閑さんに店長さんはそうやって言葉を返した
「あの、顕現機能ってなんですか?」
「あぁ、そっか。春野さんは初めてだっけ……おーい、久導くーん」
店長さんは少し離れたところで結音ちゃんと話をしてた久導さんの事を呼ぶと、顕現機能? 付きファイト台の横を少し触った。そうするとファイト台はゴーッと言う音と一緒に電源が入る、それと同じくらいのタイミングで店長さんに呼ばれた久導さんがあたしたちのところにやってくる
「なんですか?」
「久導くん、普段からデッキ持ちっぱなしでしょ? 顕現機能がちゃんと動くか確認してもらってもいい?」
「……あぁ、了解です」
そういった久導さんはファイト台の片方に立って机の上にデッキを置くと、真っ黒だった表面が淡い青色に光ってフィールドが出てきた……これ、テレビで見た事あるやつだ
「店長、準備オッケーです」
「はいはーい、メンテナンスモードで起動してるから、普通にカード置いちゃって大丈夫だよ」
「わかりました」
久導さんはデッキの一番上をめくって、それをフィールドの真ん中に置いた。そうするとフィールドが灰色に光って置かれたカードの上に【新緑の精霊】が出てきた……! これもテレビで見たやつだ!
「……うん、動作も問題なさそうだし。久導くん、もう戻しちゃっていいよ」
「了解です」
「今日の大会って、これを使うんですか!?」
「うん、と言っても使うのは決勝戦だけだけどね。それまではいつも通りのファイト台だよ」
そっかぁ……使えるのは使えるのは決勝戦だけ、それならやることは一つ! だよね
「店長さん、あたし絶対に優勝します!」
「うん、さらにやる気がみなぎったならそれはいいことだ。頑張ってね、もちろん二人もね」
「えぇ、勿論」
「せっかく出場するのですから、全力で勝ちにいかせてもらいます」
※※※※※
春野さん達がやってきてから少しだけ時間は進み、開店時間となった……と言っても春野さん達を先に入れたのとファイト台を引っ張り出したから換気するって事で店の入り口は開けっ放しだった
そういう訳で今回はいつもより少し早く実質開店状態だったわけだが
「やっぱり、いつもよりお客さん入ってますね」
「だねぇ、一時期はどうなるかと思ったけど無事に開催出来て良かった良かった」
「開催で安心してる場合じゃないっすよ……そろそろ時間です」
「よっし、それじゃあ気合入れて始めますか」
今回の大会の形式は一本先取の勝ち残り戦、参加人数は全部で10人……春野さん達3人と普段あんま顔を出さない常連さんで4人は埋まったが残りの枠が埋まるかは正直不安だったが……無事に定員が埋まり切ってくれて良かった
「参加者の皆さんはこちらに集まってくださーい!」
店長が参加者を集めて今回のルールを参加者に説明している姿を横目に見つつ、俺は俺でいつもより多いお客さんに対応する。普通ならこういう仕事が店長で説明が俺じゃないのか? なんて思ったりもするが適材適所だ、一時期はプロ入り確実とも言われていただけあって店長は人に教えるのが俺より上手い
そんなことを考えつつ、目の前のお客さんのお会計を終わらせてから、後ろに人がいないことを確認して一息つく
「……あっちも、そろそろ始まりそうか」
丁度ルール説明が終わったタイミングだったようで、今回の参加者が各々指定された席に着き始めている
見知った人、見知らぬ人達が席に座って対峙していく中で春野さんの体面に座ったのは────
「初戦からか……彼女か」
ゴシックロリータ……って言うんだっけか、そんな感じの服を着た内気そうな少女。この店のもう一人の常連さんだ
※※※※※
始めてのショップ大会、楽しみだけどいざ店長さんからルールの説明が始まると少し緊張するなぁ……
「遊花ちゃん」
「結音ちゃん?」
あたしの身体を軽く突き、結音ちゃんが説明を遮らないくらい小さい声で話しかけてきた
「そこまで緊張する必要はありませんよ。ここにいる人たちは皆、勝つために来ていますがそれと同じくらい、楽しむために来ているのですから」
「そっか、そうだよね」
「えぇ、それに……ほら」
そう言って結音ちゃんがどこかを指刺す、あたしもそっちの方を見るとあたしたちから少しだけ離れた場所で説明を聞いている空閑さんが目に入る
「……なんか、楽しそう?」
普段と変わらないくらいかなぁって思ったけど、ワクワクしてるように見える
「えぇ、とてもワクワクしているように見えます……春野さんは初心者、それ故に緊張するのは当たり前……なので、楽しんでいきましょう」
「うんっ!」
なんか結音ちゃんに励ましてもらっちゃった感じ……だけど、頑張ろう!
店長さんの説明が終わっていよいよ1回戦目、今回は勝ち残り戦だから一回でも負けるとその時点で敗退になるらしい……うぅ、正直自信はあんまりない
「ううん、弱気になっちゃだめだ! 頑張ろう! 頑張るぞ!」
「────はひゃぁ!?」
「はひゃあ?」
そんな声が聞こえてきて目の前を確認すると、ゴシックロリータ風の服を着た女の子が驚きの表情を浮かべていた
「あっ、ご、ごめんなさい! 驚かせちゃって」
「い、いえ……大丈夫……です、お気になさらず」
「は、はい……えっと、対戦よろしくお願いします!」
「お、お願いします?」
何を言っていいのかわからなくて、もう挨拶しちゃったけど……ど、どうしよう、凄いテンパっちゃってるよね、あたし
「そ、そんなに緊張しなくても……大丈夫です、よ?」
「へっ?」
「私でも、何回も参加出来てるん、ですから……」
「は、はい……ありがとうございます」
目の前の子の言葉を聞いたら、少しだけ落ち着いた気がする
それからデッキを出して、シャッフルしてからファイト台の上に置いたりと必要な準備を終えた所でファイトスペース全体に店長さんの声が響く
「それではみなさん! 準備はいいですね? いきますよ、レディ────」
────ファイト!
その言葉がお店の中に響いて、b-LINEのショップ大会が始まった
本編外にキャラクターのデータを投稿するかどうか
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