カードショップの店員は、主人公だが主人公じゃない 作:どこかのSさん
「店長、新しく持ち込まれたシングルカードを店のデータベースに登録したいんですけど────って、どうしたんですか?」
いつも通りのありふれた休日、朝からシフトに入った俺は新しく店に持ち込まれたカードを片手にカウンターに座っている店長のところに向かう。
普段と同じようにのほほんとした表情でカウンターに座っているものだと思っていたが、普段とは違い頭を抱えながらパソコンと睨めっこをしている姿が目に入る
「あぁ。久導くん……大丈夫、気にしないで良いよ」
「いや、その様子を見て気にしないのは無理ですよ……何があったんですか?」
「まぁ、久導くんならいいか。ウチの従業員だしね……これ見て」
そう言って店長が見せてきたのはウチで開催する予定のショップ大会、その参加者名簿だった……そういえば、そろそろそんな時期だったっけか。いつもなら大規模開催とはいかないがそれなりに人の集まる催しだったはずだが今回はいつもと違って名簿に全然名前がない
「参加者名簿、全然名前ないっすね」
「うん、これでも貯金はかなりある方だし、普段は採算度外視でこのお店やってるけど大会の時くらいは賑やかな様子も見たいからね……さすがにこのガラガラ度合いは堪えるわ」
「駅前に別のカードショップ出来ちゃいましたしね……でも、どうしましょう。開催見送ります?」
「うーん……今回はそうしよっかなぁ。ほんの少しだけ客足が戻ってから────」
「こんにちはー!」
そう店長が言葉を続けようとしたタイミングで店の入り口が開いていつもの三人組が入ってきた
「いらっしゃい、三人とも」
「いらっしゃい……それじゃ、俺は自分の業務にもど────」
「久導さん、今日こそ教えて貰いますよ?」
「……あー、時間があったらね。それじゃ店長、仕事戻りまーす」
※※※※※
何日か前から見るようになった久導さんと空閑さんのやり取り、それが少し気になったあたしはカウンターに座っていた店長さんに聞いてみることにした
「店長さん、久導さんと空閑さんって何かありました?」
「あー、うん。本人が少し空閑さんの琴線に触れることをしちゃって……それで空閑さんから詰められちゃってる感じ?」
「うーん……あんまりよくわかんないです」
「だよねぇ。久導くん、いろんなことを隠しがちだから」
「あっ、やっぱりそうなんですか?」
「うん、私は久導くんをバイトで採用する時に少し聞いたけど、それでも聞けてないことはまだまだあるからねぇ」
困った困ったと少し演技みたいなリアクションをしてる店長さんの話を聞いたけど、やっぱり久導さんって店長さんにも話してないことあるんだ
「まぁ、気になることがあったら本人に聞いてみるのがいいんじゃない?」
「……そうですよね」
R×Rに行ったとき、少しだけ感じたあの不気味な感覚……近くにいるはずなのに、遠くにいるような歪な感覚。心の中にあって、目を逸らし続けてた小さい靄を晴らすにはやっぱり本人に直接聞くしかない
「よし! あたし聞いてみます、久導さんに……教えてくれるか、わかんないですけど」
「うん、そうしな……ところでなんだけど、春野さん達ってこの日は暇だったりする?」
店長さんが見せてきたのは来週の日曜日
「えーっと、その日は何もなかったと思います。ことはと空閑さんは?」
「ちょっと待ってね……うん。わたしもなにもないよ」
「空閑さんは?」
「くっ、また逃げられた……それで、なんの話かしら?」
「えっと、来週の日曜日に予定が入ってないかって話」
「来週の日曜……それなら問題ないわ」
あたしたちがそう言ったのを聞くと、店長さんは少し安心したみたいな表情を見せた
「よかったよぉ、実はその日にウチのショップで小さい大会を開こうと思ってたんだけど参加者が全然いなくって……よかったら三人とも参加してみない?」
「ショップ大会ですか! 参加してみたいです!」
「アタシも、問題ないです」
「ありがとぉ、それじゃこれで三人っと」
「あ、あのわたしはまだ参加するとは……」
「あぁ、安心して。城咲さんはまだカウントしてないよ……三人目はウチの常連さんの一人」
「「常連さん?」」
「うん、君たちと同じくらいの女の子でね。たまにふらっと来てくれるんだ」
「へぇー」
「はい、参加登録完了。城咲さんも気が向いたら初めて見てね」
「か、考えておきます」
「うん、今はそれでいいと思うよ……それじゃ、私もそろそろお仕事に戻ろっかな」
「はい、お仕事の邪魔をしちゃってごめんなさい」
「全然、邪魔なんてしてないよ。ウチは基本暇だしね」
軽く笑いながら店長さんはそういうけど、流石にここで話を続けるわけにはいかないしね。あたしたちはいつもの場所に座ってデッキを広げる
「さーてと、今日もデッキを調整調整」
「そろそろ貴方のデッキも形になってるんだし、これ以上は弄らなくてもいいんじゃない?」
「うーん……でも、なんかしっくりこなくってさ」
「仕方ないよ、空閑さん。遊花ちゃんはこういう子だから」
「城咲さん。彼女は昔からそうなの?」
「うん、一見完成してるように見えても……自分が納得いってなかったら納得いくまで続けちゃうんだ」
「……随分と頑固なのね」
「頑固って言うか……凝り性?」
「「……ふふっ」」
「んー……ダメだ! あたしちょっとだけショーケース見てくる……って、二人ともどうかした?」
「なんでもないわ、ね?」
「ふふっ、うん、何でもない」
「そぉ? ならまぁいっか……ショーケース見に行ってくるね」
「うん、いってらっしゃい」
「いってらっしゃい」
何を話してたのか、デッキの見直しに集中しすぎて何を話してたのか聞いてなかったけど……まぁ二人がなんか楽しそうだったし良いか
※※※※※
「さてと……どうしたもんかな」
店のバックヤードでひたすら作業をしているだけってのも支障が出そうだし、そろそろ店の方の作業もしないといけないのだが……店に出たら空閑さんに絡まれる可能性があると考えたら少しだけ店に出るのも憚られる
「しっかし迂闊だった。まさか空閑さんがあそこまでバックストーリーに興味あるとは」
こういう時のために俺の知ってる範囲のストーリーが語られてるカードを集めてはいるが、彼女に話した範囲のカードは現状見つかってない。作り話の一言で片づける手もあるが、それはあの時の記憶を俺自身の手で否定してる感じがして妙に心の底が嫌な気持ちになる
「仕方ない、腹を括るか」
バイトの時間内で絡まれたときは仕事を理由に逃げられるし、バイト時間外に絡まれた時は……その時になったら考えようと腹を括りバックヤードから店に出る
「おっ久導くん、ようやく出てきたね」
「ご迷惑おかけしました、店長」
「気にしないで良いよ、あの子たち以外はいつも通り暇だったからねぇ……っと、それじゃ久導くん、カウンターお願いできる?」
「了解です」
店長と交代する形でカウンターの中に入り、椅子に座って備え付けのパソコンに目を向けると表示されっぱなしになっていたショップ大会の参加者名簿が目に入る
「そういえば店長、今回の大会の優勝賞品って何にするつもりだったんですか?」
「あぁ、持ってたけど使わないカードとウチで使える商品券かなぁ」
「商品券はともかく使わないカードって、それ景品として機能するやつなんですか?」
「そこは問題ナッシング、だよ」
「そうですか」
まぁ、店長が言うなら景品で出しても問題のないカードなんだろう。なんのかんの言ってもこの人のカードを見る目は信用できるし
「それじゃ、私は裏で少し作業してくるから後はよろしくね」
「了解です、またなんかあったら呼びます」
「はいはーい」
返事をしながら裏に引っ込んでいく店長の姿を見送ってから、参加者名簿のファイルを最小化してSNSのブラウザ版を表示して店の広報用に作るだけ作っておいたアカウントにアクセスをする
俺個人のアカウントも含めてフォロワーはごくわずかだが……まぁこれは積極的に運用してるわけじゃないし別に良いか
「とりあえずショップ大会の開催告知だけしておくか……一応参加者は増えたわけだし」
春野さんの初ショップ大会が参加者三人……数合わせで俺が入ってたとしても人数は四人っていうのは少し寂しいし
「あとで相笠さんと長塚さんにも出られないか聞いておくか……よし、下書きはこれでオッケー、一旦保存っと」
下書きを完成させると、それを一時保存する。また店長からどんなカードを景品にするのかを聞いてないし。運用はこっちに一任されてるとは言え告知投稿をしても問題ないのか確認はとっておいた方がいいだろう
「あっ、店長さーん────ってあれ? 久導さん?」
「春野さん、どうかした」
「新しいパック買おうと思って、店長さんは……」
「裏で作業中……っと、パックの数は?」
「えっと、スタンダードパックを3パックお願いします」
「了解」
棚からスタンダードパックを3つ取り出して、レジのスキャナーに通しながら少し思い悩んでいる様子の彼女に声をかける
「春野さん、もしかして何か悩んでる?」
「へっ、そんなことないですよ」
「そう、何か思い悩んでるように見えたから」
「あっ……えっと……実は、なんか完璧だ! って思ってたデッキがしっくり来てなくて」
「あぁ、よくあるよね。俺もしょっちゅう悩んでる」
「そうなんですか?」
「うん、その時は完璧だ! って思ってもだんだんこれでいいのかわかんなくなる、よくあるよ」
「そういう時、久導さんはどうしてるんですか?」
「俺は……そうだね、一回デッキを崩して考え直すかな」
結局、1枚1枚のカードを改めて見返すのが一番俺に合ってるって結論付けたから最近はずっとそうやって自分の納得いくまでデッキと向き合ってる
「どんな風にデッキと向き合うか、カードと向き合うかは人それぞれだし……結局、最後は春野さん次第だと思うよ」
「あたし次第……わかりました! 頑張ってみます!」
「うん、頑張って」
俺と春野さんの話が一区切りついたのと同じタイミングで、店のドアが開く音が聞こえてくる
「いらっしゃ────」
「あら、兄さん。真面目にお仕事をしていると思ったら……年下の女の子と仲良くお話ですか?」
「────今すぐお帰りくださいませ、お客様」
「久導さん!?」
「はい?」
「いや、えっと……あなたじゃなくって……あれ?」
店にやってきた少女を見て思わず店員としてはアウトな言葉が出てしまった……それで春野さんも驚かせてしまったみたいだし。ひとまず入口に突っ立ってるアイツは置いといて、混乱している春野さんの事を落ち着かせよう
「春野さん、少し落ち着いて」
「は、はい。えぇっと……久導さんは久導さんで、あの人も久導さん? あれ?」
「はいはい、落ち着いて、深呼吸深呼吸」
「すぅーっ……はぁーっ……すぅーっ……はぁーっ」
深呼吸をしてる春野さんを横目に見ながら、こちらにニコニコと笑顔を向けている彼女────妹の”
「それで、お前はわざわざ何の用だ?」
「何の用、なんて酷い言い方……あまり邪見に扱われると、私悲しくて泣いてしまいそうです」
「嘘つけ」
「はぁー……落ち着きました、それで久導────店員さん、その人って」
「こいつは結音、俺の妹だと」
「久導結音です、よろしくお願いしますね」
「はい、よろしくお願いします……えっと」
「結音で構いませんよ。久導さんだと兄と被りますし」
「じゃあ、結音ちゃん」
春野さんの様子を見て満足気に頷く妹を見ながら、少しため息を吐く……こいつ、今まで俺のバイト先に来ることなんてなかったのにどうして急に
「ところで春野さん、今日はここにはおひとりで?」
「ううん、友達と一緒に」
「まぁ! そのお友達はどこに?」
「えっと、あっちの席にいると思うけど」
「それでは、行きましょう。先ほどは随分と仲良さげに話をしていたことから貴方たちはこのお店の常連さん。兄の働いている場所を贔屓してくれているのであれば、妹としてぜひ挨拶をしなければ」
そう言って妹はズンズンと春野さんが指をさした方へと歩いて行く
「えっ、ちょっと、く────結音ちゃん!?」
その後を追って春野さんも普段から彼女たちの座っている席の方へと戻っていった……アイツがこの店に来たのにもなにかしら理由があるはず
「何やら一波乱……いや、
「
「聞いてたんすか、店長……まぁ細かいことはいいんすよ」
バックヤード出入口から少し顔を出してそんなことを言ってきた店長に言葉を返しつつ、俺はなるようにしかならないかと普段の業務へ戻った
本編外にキャラクターのデータを投稿するかどうか
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