デュエル・マスターズOverLord(オーバーロード) 作:シグレサメ
ある少女の手記(デュエマOverシリーズ総集編)
ドゴン。
雨夜も寝静まり人々が夢の世界に誘われる頃、街の片隅のゴミ捨て場で、夢から覚めるような大きな物音が立つ。それを起こした本人は自分のことがバレてはいけないとすぐにゴミ袋の中に身体を埋める。今の物音に起こされた人の怒る声が一度聞こえたくらいで、あとはすぐに元の街へと戻った。
「………」
少女の背丈は中背くらいだが、その割に痩せていた。焼け焦げたボロボロの布切れを上下に着ており、そして同じくボロボロの革の鞄を肩にかけ、雨の中を歩き始める。間違いなく何かあった人間の服装である。実際何かあったことに変わりはないのだが、彼女の中では大したことではなかった。
「寝る、場所……」
そう言って彼女は街を歩いていく。深夜の豪龍市にはまるで人がおらず、そこにあるのは奇妙なまでの静寂だけ。
「あか、るい……」
一つの建物が彼女の目に止まる。ただのビジネスホテルであるが、10月の寒空の中、今の彼女に取っては藁にも縋る思いで入りたい場所だろう。彼女がホテルの中に入ると、ボロボロの身なりを見たホテルマンが、
「大丈夫ですかあなた!?保護者の方はいらっしゃるのですか?大丈夫ですか!?」
と尋常でない様子の彼女に自分だけでは足りないと、待機しているホテルマン達を呼び出そうとする。それを見た少女はすぐに1つの煌びやかな白色の結晶をホテルマンの背中に付ける。それをつけられたホテルマンは項垂れた様子で、
「お部屋は空いております、どうぞこちらへ」
と、少女を案内し始めた。少女は胸を撫で下ろした後、そのホテルマンに着いて行く。
「あ、忘れ物」
その時少女は思い出したかのようにポケットから透明な結晶を取り出し、代金代わりにとカウンターに置いておいた。日本円に直せば数万円にはなるだろうが、今の彼女に取っては今夜の寝床の方が大事な問題であった。
「お腹減った」
と、先程のホテルマンに聞くと、自動販売機とコンビニの使い方を教えてもらい、先程の水晶でいけないかと聞くと、ホテルマンは項垂れたまま、自分の代金で食べ物と飲み物を買い、少女へと渡した。
「ごめん、こんなやり方しか、なくて」
ホテルマンから鍵を渡され、その部屋の中に入り、ようやく少女は一息をつく。ホテルマンに付けていた先程の結晶を少女は観察する。どのように渡されたパンを開けて食べればいいのかや、寝巻きには前後ろがあることや、入浴の仕方などをそのホテルマンから受け取った記憶を手本に学習していく。
「ふぅーーーー」
ベッドに身体を投げ出し、一度大きく深呼吸する。そのベッドは決して高級とは程遠いものであったが、少女の知っているベッドの中では最高のものであった。何より、自分の命の有無を気にしないで眠れるということが、彼女が一番気に入った点であった。
「ここに、来れた……」
そう言って彼女は安心したのか、ホテルマンから渡されたペットボトルの水を飲みながら、下の売店で売られていた菓子パンを開けて、食べる。
「美味しい…。こんなに美味しいの、久しぶり……」
「……この世界も、消えちゃうのかな」
そう一言呟いた後、少女は入浴の準備を始める。入浴して寝巻きに着替えると、食欲で満たされていた彼女の身体に睡眠欲が顔を出してくる。
「うぅ…眠い。……駄目、まだ、寝れない」
そう言って彼女はボロボロの鞄から1冊の日記とペンを取り出す。部屋の机の上にその日記を広げ、彼女は自分の今までを反芻する。
「ここは、ニンゲンとクリーチャーの世界。私のいる世界とは、別の」
そう言って彼女は日記にペンを走らせる。誰も読めない、いや、読むことのできない言語で書かれたその日記は、彼女だけの秘密がしたためられている。
「この世界は、滅びる、もうすぐ」
そう言って少女は日記を書くのを止める。そのページには、彼女のいう世界の滅びを左右する人間と、クリーチャーの特徴が描かれていた。少女のものでない字で書かれたその日記には、彼女がここで見つけなければならない人間達の特徴が描かれている。独自の言語が使われているため、少し言葉の深い意味は違うが、ルールさえ分かればこちらの人間にも読めるであろうものだった。
「黒井、夕哉(くろい ゆうや)」
『夕陽のような橙色の髪を持つ中背の少年。妹、祖母の2人と住んでいる。親は生きているが、遠いところに住んでいる。性格は極めて温厚で優しく、性格だけを考えるならば恐らく貴方が第一か第二に接触するべきニンゲン。学習能力が高く機転が効くため、貴方が探すニンゲン達の中心的存在となっている』
少女はページをもう一枚開く。彼らの特徴について、クリーチャー世界の情報を元に書いてあるその日記を、彼女は肌身離さずここまで持ってきた。
『彼の不思議な点は《アビスベル=ジャシン帝》という危険なクリーチャーと共に戦っている点であり、その理由は不明。ジャシンというクリーチャーはクリーチャー世界で何度も悪虐を尽くしたものであるため、油断はできない。また、黒井夕哉の仲間を傷つけられた時に見せる力は特殊であり、ニンゲンの中でもかなりのものである』
彼女はそれを見直しながら、刺激しないのが一番なのだろうと考える。ジャシンというクリーチャーの危険性は抑えられたし、そうでなくてもどうも底が見えず、最初に彼のところに行くのは気が引ける。そう思いながら彼女は次のページを捲った。
「光屋、御白(ひかるや みしろ)」
『透き通るような金髪が特徴の小柄な少女。親が大企業というものの娘であり、彼女の家も例外なく富を持っている。性格は自分の好きなもの、デュエル・マスターズに一直線に向き合っているため、デュエル・マスターズの話をすれば比較的楽に話を進められるだろう』
少女はページをめくり、一つため息を漏らす。デュエマが楽しいものであるなんて考えたことがない。そう思いながら鞄の中に目線を落とすと、彼女が肌身離さず持っているデッキと目が合う。
「デュエマって、楽しいの……?」
そう鞄の中に問いかけながら、彼女は手記に目線を移す。
『使用するカードは《ドラン・ゴルギーニ》。現在は《ドラン・ゴル・ゲルス》へと変化している。お互いに信頼関係で結ばれているらしく、デュエル・マスターズをしていなくても一緒にいたり、話したりすることが多いらしい。彼女と接触するにはやはりデュエマに対して好印象であることが必要だろう』
「ふーん……」
少女はページを捲る。そのまま2つ目の菓子パンに手を伸ばし、口の中に入れる。
「!!!……何これ、甘くて、美味しい!」
少女が今日一番の大きい声を出し、ホテルマンの買ったあんぱんを口に入れる。口の中に広がる優しい甘さに、すっかり虜になり、暫く手記を確認することも忘れてあんぱんの味を楽しんでいた。
「……なんかやる気出てきた。次は、青海 飛水(おうみ ひすい)」
『青髪と簡素な服に頭を隠すための被り物が一体化した服(あちらの言葉でパーカーというらしい)が特徴的な少年。音楽とデュエル・マスターズが趣味であるらしい。こちらの音楽とは違うだろうが、それほど遠いものでもないだろう。性格は不審なもの、苦手なものを遠ざける性格であるため、接触は勧められない。逆に懐に入れれば警戒心が薄れる可能性がある』
この手記を書いたものは、比較的正確に黒井夕哉達のことを調べている。その理由、手段は少女にはわからなかったが、分かっても仕方のないことだろう。何よりそれを確かめる手段は、もう彼女にはない。
『相棒のクリーチャーは《Drache Der'Zen(ドラッヘ ダーゼン)》と《芸魔王将 カクメイジン》。どちらも理知的なクリーチャーであり、前者は『ハイク』というものを探求する芸術家、後者は水文明を守るために2つの意思が日々思考を続ける政治家である。これら2体のクリーチャーに気に入られることから、ある程度本人も知識や知恵があることが推測される』
外の空は強まる雨のせいで更に暗くなっている。なんとなしに寂しさを覚えた少女は、誤魔化すようにページを捲る。
「……わたししか、いないんだから。次は、赤坂 火奈(あかさか ひな)」
『遠くからでも目立つ赤髪が特徴の女性にしては少し背の高い少女。運動、特に走ることが趣味であり、競い合う場などで最近は入賞も始めているらしい。快活な性格であり、人と話していて良い印象を与えるものであり、彼女の周りには人が多い。秘密裏の接触は難しいだろう』
ページを捲る。自分とは合わない人間だなぁと少女は考えていた。
『相棒のクリーチャーは《業炎の竜皇 ボルシャック・カイザー》。クリーチャー界の太陽の力を得たことで《竜皇神 ボルシャック・バクテラス》へと変異している。彼は火文明のリーダーであり、赤坂火奈と並んである種のカリスマがある。また、彼女は黒井夕哉と同じく元々はデュエル・マスターズをしていなかったが、クリーチャーと出会ってからの成長ぶりも目を見張るものがある。ボルシャック・カイザーの力も彼女を支えているのかもしれない』
「守木 緑(もりき みどり)」
『薄い緑色の髪と高い背が特徴的な少年。赤子の頃に時間の流れが違うクリーチャー界に捨てられたことで8年しか生きていないながら身体が16歳という計算になっている。その通りに身体に対して思考などが追いついていないことが多いがその勘の鋭さや知識に対する欲求は高く、そのような背景だけを元に対話することは決して望ましくない』
「わたしに、似てるかも。なんて」
『相棒は《首領竜(キャプテン) ゴルファンタジスタ》。自然文明のカリスマであり、クリーチャー界にいた際の守木緑を育てた本人である。守木緑はゴルファンタジスタを強く慕っており、髪も最初は黒髪だったのをゴルファンタジスタに憧れて染めたらしい。性格は先に述べた通り好奇心旺盛なおおらかな人物だが、仲間や家族といった方向から近づくのは勧めない』
最後のページを捲ると、少女への応援の言葉が綴られている。
『ここまで書いたけれど、それは情報の一部。貴方の目で確認して、感じたことを信じて、この世界を救いなさい、シイノ』
「どうしよう……。結局誰に会えばいいんだろう……」
そう言って少女は手記を閉じて、ベッドに身を投げ出す。結局のところ、この5人の誰かに接触しなければ、少女…いや、シイノと、この手記を託した人間の想いは果たされない。
「ジャシン使いは危ない。デュエマは好きじゃない。気難しい人は大変。明るい人は苦手。デリケートな話が多い人。うぅ、どうすれば……」
そう言ってバタバタ足を動かしていると、外から雨に混じってゴウンゴウンと音が聞こえてくる。
「嘘、こんなに早く……!?」
そう言ってシイノはカーテンを開ける。雨と夜で見づらいが、何かオーラのようなものが、街に広がっているのが確認できた。
「どうしよう、これをこんなに早くされたら、接触する人達が……」
そう言ってシイノは考えを纏めようとする。そう思った瞬間、彼女の意識がプツリと電源を抜かれたように消えていく。
「な、んで……!?」
窓を見ると、そこには深く帽子を被った老人が、窓縁の上に立っている。
「悲しいが、今は眠っていてもらおう」
「ダメ、わたしが行かなきゃ……」
「お主の存在は邪魔になるとワシの主人からのお達しでな。この領域内で影響がなかった人間を片っ端から暫く眠らせろと、ワシらは言われてきているんじゃ」
「嘘、ダ、メ……」
そう言って少女はベッドに倒れ伏す。
「可哀想な子じゃ。せめていい夢でも見られることを祈るとしよう…」
少女は安息の時を無理矢理与えられ、深い夢の世界へと微睡んでいった。