デュエル・マスターズOverLord(オーバーロード) 作:シグレサメ
「ねぇ、シイノってどこに帰るの?」
イベントからの帰りの車の中で、夕哉はシイノにふと聞いた。
「え。ジャシンのあの空間で寝るつもりだったんだけど」
「一旦の危機は脱した。余はもう人間のために場所は貸さんぞ」
ジャシンのその言葉でシイノはフリーズする。
「え、じゃあ…。まぁ、どうしよう…」
「考えてなかったの!?いや、俺もなんだけど…」
「ちょっと待って、まずは話し合うべきだよ」
公輝のその発言を受けて、御白は一旦デュエマ部のグループライン、そのビデオ通話をつけ、夕哉が横から顔を出す。他の3人も心配していたらしく、すぐに連絡が繋がった。
「じゃあ、御白ちゃんの記憶戻ったんだ!」
「はい、おかげさまで。皆さん、ありがとうございます」
「正直ゆうやがいなかったら大変だったよ。ボクたちより先にゆうやにもう一度言ってあげて」
「夕哉くん、ですか。改めて、ありがとう、ございます」
「ど、どういたしまして」
「お前らどした?」
先程のシイノの爆弾発言の余波が残る中、夕哉と御白はどうにか体裁を取り繕って、本題に入る。
「シイノの家か。俺の家族はマンション住みでそんな広くねぇから、シイノを引き取れるような余裕はそんなにねぇかな」
「あたしもそんな感じ…。決してお金に余裕があるわけじゃないらしいし、あたしガサツだし、多分シイノちゃん側が迷惑かけられちゃうと思う」
「公輝さん!ボクの家はダメ?」
「無理ではないけど、やっぱりどうしても負担はあるからね。すぐに首を縦には振れないかな」
どうしても他の4人の目は御白に向かう。
「確かに、私の家は広いですし、シイノさんの部屋も用意できると思います。ただ、家が厳しいので…」
「だよなぁ…」
「皆納得しないと、結局だよね」
「夕哉は行けそう?」
夕哉は首を傾げながら少しずつ切り出す。
「行けなくは、ないと思う。家が狭い訳じゃないし、物置き一つ開ければ多分シイノがいれる場所は作れると思う。食費とかが急に1人分増えるのが問題かなぁ、後何より、シイノがどう思うか」
「ちょっと、考えていい?」
「うん、待ってる」
「何よりシイノの境遇が分かってる、分かってくれる人間がいる前提なのがキツイよな、地味に」
飛水が付け足したその時、夕哉のスマホが鳴る。確認すると夕花からの連絡だった。
「皆ごめん、一旦夕花と連絡する」
夕哉が電話を取ると、夕花の元気そうな声が聞こえてくる。
「お兄ちゃんお疲れ様!無事で良かった…!」
「ありがとう夕花、今家に向かってもらってるから、また後で話そう」
「待って待って!シイノちゃんのこと!」
「シイノの…?」
「うん、おばあちゃんや海外のお父さんとお母さんと話し合って、シイノさんの寝る場所とかをサポートしてあげられないかって話になったの」
「え、それ本当に!?」
「うんうん、お父さん達は少し難色を示したみたいだけど、おばあちゃんがシイノちゃんを気に入ってて、なんかあったら是非引き取りたいんだって」
「そっか、良かった…!」
「じゃあまた後で!結局シイノちゃんがどう思うかだし、決まったら連絡ちょうだい!」
夕哉が電話を切ると、皆が祝福ムードとなっていた。
「良かった、安心できる場所がシイノにもできて良かったよ」
「だね!シイノちゃん、それで大丈夫そ?」
「うん、ユウヤの家なら安心」
「でも、決して負担が無くなるという訳でもないですし。夕哉くんは大丈夫ですか?」
心配する御白に公輝が助け舟を出す。
「シイノさんは悪いことをしないだろうし、家には夕哉くん1人だけじゃなくてご家族の皆さんもいる。そこまで悪い条件じゃないだろうけど、確かに人が増えることによるお金のことだけ不安かな。夕哉くんにまた負担がかかってしまうね。バイト増やすかい?」
「分かってます、シイノが帰れるまでの間、そのつもりでした」
「それなら御白さんの家庭教師にも高頻度で参加できるね。シイノくんに関してはこちらからも手を回しておくよ。これで問題ないんじゃないかな?」
「そう、ですね。大丈夫だと思います。え、サラッと勉強量が増やされます?」
「御白、覚悟しといてね」
「夕哉くん!?」
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シイノが夕哉の家に着くと、夕哉の祖母、暁美(あけみ)と夕花が料理を準備して待っていた。
「美味しそう…」
「まずは手を洗ってね、ご飯はその後よ」
「はい」
お行儀よく夕哉に聞いて黒井家の洗面所の使い方を聞くシイノに、夕花はいたずらっぽく夕哉に微笑む。
「なんか、家族が増えたみたいだね!」
「確かに、家族か。いい響きかも」
(これ、御白お姉さんが聞いたら色々爆発するんだろうなぁ、お兄ちゃんも御白お姉ちゃんも全然アプローチしないしこれくらいしてもいいよね?)
4人で食卓を囲み、ご飯とお刺身を食べる。しかしシイノはお箸という初めて見るものに苦戦し、中々食べ進められない。
「ユウヤ、これどうやって使うの…?」
「あー…!えっと、真似してみて!こうやって、人差し指と中指で挟み込むようにして…」
「やっぱり海外から来たらお箸は大変よね、どうすればいいかしら」
「どうする?シイノさんだけお箸使わなくていいようにするとか…」
「いや、使えるようになりたい。しばらくお世話になる以上、家の皆と同じものを食べれるようになりたい」
シイノのその言葉で、2人はえらく感激する。
「確かに、シイノちゃんの気持ち考えてなかった!頑張って教えるね!」
「えぇ、シイノちゃん、明日トレーニング用のお箸を買ってくるわ!」
「あ、ありがとう、ございます…?」
その後の食事はシイノはスプーンとフォークという分かりやすい食器を使って食べた。シイノの世界にも似たようなものはあったらしく、これの習得は簡単に済んだのだった。
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シイノが夕花に案内された先は、元が物置きと思えないほど整理された部屋だった。夕哉と夕花のいる2階の使われていない部屋、いわば夕哉の父と母が使っていた部屋なのだが、父と母の海外からの記念品などを置いたりする、いわば黒井家の宝物庫となっていたのだ。
それが別の物置に片付けられ、6畳の床に敷布団と掛け布団、枕の寝具一式。さらにそこから左を見ると背は低いものの机があった。照明用の電気も取り替えてあり、照明のことをよく分かっていなかったシイノは間違えて直接光を見てしまい、しばらく目が眩んでいた。
「ありがとう、こんな場所まで作ってくれて」
「いいのよ、今日から夕哉や夕花と同じくあなたもここにいていいんだから」
「ここに、いていい…」
シイノはその言葉を噛み締めながら、自室でゆっくりと過ごしていた。深淵では考えられないほど布団はふかふかで、部屋の中は暖かい。シイノは一度大きく伸びをした後、机の上に手帳を出す。しばらく忙しくて、いや、心が重くて書けていなかった、自分の日記に手をつけた。
「なんで、皆こんな優しいんだろう」
夕哉だけではない。夕花や暁美、そしてデュエマ部の御白達も、シイノのことを好意的に受け止めてくれている。シイノから見れば、まだ話せないことはあるのだ。月の民を追い払っても、おそらくまだそれで終わりではないかと。自分の相棒が、いまだ復活しないこと、そしてその相棒の危険性。それでも自分のことを受け入れてくれる自分が、たまらなく不思議だった。
「シイノちゃん!トランプしよー!お兄ちゃんも一緒だよ!」
「トラ、ンプ?」
「うん!早くこっちに慣れてもらいたいから、色々遊ぼうと思って!」
「夕花、そう言ってシイノの元いた世界の話を聞きたいだけじゃないの?」
「それも、あるけど!」
シイノは思わず笑顔をこぼしていた。その好意を渡してくれる皆が、たまらなく愛おしく感じた。
しばらく経って話も盛り上がり、シイノの世界の話に入る。
「じゃあシイノちゃん、ここにくるまで電気とか知らなかったの!?」
「うん、水晶の中にエネルギーを通して、それでものを動かしてた」
「それって、前に使ってた…」
「うん。人間がクリーチャーを実際に呼び出すのに使う、『マナ』に近いものだと、今は思う」
シイノの話によれば、そのようなマナが大量に自然界に存在する世界だったらしい。夕哉が聞いていた太陽を知らないことから考えるに、洞窟のようなものの中に住んでいた民族なのだろう。
「じゃあ、太陽というか、外に出るのも初めてだったの!?」
「わたしたちにとっては、家の外は外だったし」
「あれ、そっか、じゃあ…?」
「その大きく入り組んだ洞窟が、シイノの世界だったんだ」
「うん、時々エネルギーが固まって水晶が沢山できる場所があって、そこを探すのが楽しみだったんだ」
恐らくこちらの世界でいう鍾乳洞に近いもので構成された世界なのだろう。世界が違えば当たり前が違う。改めてそのようなことを夕哉達は感じ取っていた。
「ふー、流石に疲れてきたね」
「いい時間だし、俺たち明日学校だから寝るね。おやすみ、シイノ」
「おやすみー!」
「おやすみ」
そう言って自分の部屋に引き上げていった夕哉と夕花を見送り、シイノも寝る支度を始めた。
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シイノは深夜にパチリと目を覚ましてしまった。時計は2時ごろを指しており、なんとなしに喉が渇いたシイノは、1階へと降りていった。
「あらシイノちゃん、おはよう。私もなんだか眠れなくてね」
1階では暁美がテレビをつけていた。シイノから見ればどこか遠くのところがその箱の中に映っており、大量の水が崖から零れ落ちているのを確認した。
「そういえば、シイノちゃんはあんこが好きなんでしょ?」
「…?はい」
「これ、おはぎっていうの。お米とあんこで出来てて、お箸がなくても食べれるのよ」
「ありがとう、ございます」
シイノがそれを口にすると、あんぱんとはまた別の美味しさが口の中に広がる。何よりあんぱんを食べていた時にはなかった粒々が、シイノの口の中を刺激してきた。
「あら、つぶあんは初めて?」
「はい、美味しい…!」
「寝る前にまた歯磨きしなきゃだけどね」
シイノがおはぎの残りをもぐもぐと食べていると、暁美がぼんやりと、しかしシイノに語りかけるように喋り出す。
「小夜(さよ)がね、明(あきら)くんを連れてきた日を思い出したの。仕事で失敗してへこんでてね。それで小夜がほっとけないって言ってこの家まで連れてきたのよ。あの子ったらその時は彼と付き合ってることなんて言ってなかったら本当に驚いたわ」
「……怒らなかったの?」
「最初は怒ったけど、明くんの様子を見てそれどころじゃないと思ってね。すぐご飯を作って、布団で寝せて。そしたらちょうどこれくらいの時間に、ごめんなさいって謝りに来たのよ。私も小夜も気にしてないのにね」
「………」
「小夜も私も、明くんもだけど、困ってる人は放っておかないのよ。多分立場が逆でも同じことをしたと思うわ」
シイノは、ずっと言いたくて言えなかったことを切り出す。
「なんで、そんなに助けてくれるの?わからなくて…」
「あなたが、優しくて、素敵な人だからよ。誰も彼も助ける、助けられる訳じゃないのは、分かってると思うけど。夕哉はシイノちゃんを選んだ。その夕哉の考えを私たちは信じた。そしてそれの元を辿れば、シイノちゃんが夕哉にとって、助けたいと思える人だったからじゃないかしら」
「……全員を助ける訳じゃ、なくて」
「それは難しいわよ。まずは自分と、自分が絶対に大事にしたいこと。それを取りこぼさないようにするのよ。自分勝手と言われようとね。それを夕哉に教えたら、夕花のことを全力で守るようになって大変だったけど、今は彼の気持ちで、ちゃんと考えられるようになっていて安心したわ」
気づけば番組は終わり、暁美は面白かったと言いながらテレビを消した。
「もしシイノちゃんに余裕ができたら、あなたの思う大事な人を助けてあげるの。そうやって誰かがまたその大事な誰かを助けられたら、少しずつ世界は良くなっていきそうじゃない?」
「……勿体無い言葉、わたしには」
「そうでもないわ、まぁ、今はゆっくり身体を休めてちょうだい」
「…ありがとう、ございます」
「食器、片付けておくわね」
「ありがとうございます……そうだ、ユウヤに言われた。おやすみ、なさい」
「おやすみなさい」
そう言ってシイノはお茶を飲み干して、上の階へ上がっていった。
「2人とも、あなた達の気持ちや行いは、子ども達が引き継いでくれているわ」
そう言って暁美は、自分の寝室へと歩いていった。