デュエル・マスターズOverLord(オーバーロード) 作:シグレサメ
「カイザー!!」
空に噴き出たその炎は、あっという間にあたしとシイノちゃんの周りを取り囲んでいく。カイザーがすぐにカードから飛び出して、あたし達の周りの地面を引っ張り上げ、岩を近くから持ち出し、バリケードを張る。
「お前、赤坂火奈、だっけ?」
「レント…!なんで…!?」
「火の力でオレに真っ向から勝てると思うなよ、アゲブロムはオレの怒りを吸えば吸うほど強くなっていく。運がなかったんだな!」
「………!」
拳に力が入る。あたしの手に入りそうだった希望が、ガラガラと音を立てて崩れていくのが自分でもわかる。前よりも近くにいて熱いと感じなくなったカイザーの身体を横にして、あたしの息は早くなっていく。
「なんで!!」
「なんでってなんだよ?ボルシャック・カイザーが消えればオレは真名月様に褒めてもらえる。これ以上があるか?真名月様とオレ以外に、何に気を使う必要があんだよ?」
「……そんなこと言っていいわけないでしょ!あたしは、カイザーのことを…!」
「知るかバーーーカ!!これで5人のクリーチャーのうちの1人が消える、これ以上ねえだろ!オレは今、最高に満足してるぜ!!」
身体から熱が抜けていく。確かに、COMPLEXの時に夕哉から本当にそう言う話が通じない人がいるのは聞いた。それは頭で分かっているつもりだった。士穂先輩みたいに、ぶつかり合えば分かってくれると思ってた。
「火奈」
シイノちゃんがあたしの手を繋いでくれる。冷たくなった手に、シイノちゃんの暖かい手が、熱が移ってくる。シイノちゃんはベートーベンを呼び出して、アゲブロムを抑えつけた。
「なんだ!?デュエマしないのにクリーチャーを呼び出したのか!?」
「………ごめん」
「夕哉達がすぐ来る。大丈夫。あなたの味方は沢山いる」
「でも、カイザーが……!」
「そういうのは、ある。理不尽は、ある。でも、自分を見失わないで」
「無理だよ、あたしは、カイザーがいなきゃ……!立ち上がれないよ……!」
「俺がいたから、お前はあの日飛び出したのか?」
バリケードを張り終わったカイザーが、あたしの方に向き直ってくれた。最近嫌でも意識していた元気の無さが、今は無いように、絶対に気にしないで居させてくれるように見えた。
「赤坂火奈。俺とお前が出会った日、覚えているか」
「……悪い人にカイザーが取られそうになって、御白ちゃんが困ってた」
「あぁ、お前は困っていた光屋御白を見て、何も無しに飛び出した」
今度は空いた左手をカイザーが握ってくれる。
「また儀式は行えばいい。俺はその日まで絶対にお前の隣にいよう。ジャシンがいようと、ゴルギーニがいようと、その他のクリーチャー達がいようと、俺が最初に目覚め、戦おうと思った理由は、お前が人を助けたいと呼びかけたからだ」
「……うん」
「お前が齢16の少女なのを忘れていた。俺がいなくなろうとも大丈夫だろうと少し甘えていたのかもしれない。だから早いところ楽になりたいと思っていたのかもしれない。しかしお前は、俺が守りたい人間であると、今再確認できた」
「カイザー」
「最後まで戦うとしよう。儀式の道具が焼かれようと、何度でも俺は復活しよう。そして俺は、今目の前のお前の敵を焼き尽くそう!」
「うん!行くよカイザー!!」
「なんでだよ、なんで毎回お前らの方が調子つくんだよ!?」
「あなたは、絶対に許さない!!」
「火奈。夕哉達はわたしが迎えに行く。思い切って、戦って」
「うん。理不尽にも、皆を踏みつけにする奴にも、絶対負けない!」
あたしは、デッキを高く掲げた。
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「カクメイジンで、ダイレクトアタック!」
飛水が目の前のクリーチャーを撃破すると、近くの植物達がどんどん無くなっていく。
「あーもうここで耐久寄りのデッキぶつけんなよ…!これ、時間稼ぎされたパターンだな…!カクメイジン、上に乗せてってくれ!」
「分かりました」「了解した」
メイとジンからの了承を得て、飛水がカクメイジンの背中にしがみつくと、夕哉が飛水の元に現れた。
「飛水」
「どした、ジャブラッド辺りで先に上がってると思ってたが」
「上は御白に任せて、先に飛水と緑を拾いにきた」
「そうか、俺は大丈夫だから、緑の方行ってやれ」
「うん!」
そう言って夕哉が走り出そうとした時、足を止めて飛水の方に振り向く。
「ねぇ、相棒を失わせるって」
「……クリーチャーを通して有明って奴が言ってたよな、真名月は絡んでねぇみたいだが、前に記憶消した時よりも直接的な奴だよな」
「うん。正直、間に合わなかったら…」
2人の間で、重い空気が流れる。分かっている。何が起きるのか、何が起きてしまったのか。わざわざ現れてもう何処かに消えてしまった有明と、シンベロムの蔓を見て、2人は言外に答えを得てしまっている。
「お前がジャシンを失った時に、どう思ったんだよ」
「自分の一部が、ごっそり持っていかれるような感覚だった」
「……なるほどな。もしもそうなった時、どうすりゃ良いのか俺も分からん、答えなんて無いだろ」
「………」
「深く考えすぎんな。俺もボルシャックも赤坂も悪く無いなら、どうしようもない。お前のせいでもないなら、お前がいつも言ってる通り、できる事をやるだけだろ」
「…ありがとう、言ってくる」
「緑を頼んだ」
そう言って夕哉と別れ、カクメイジンに階段を駆け上がらせる飛水に、メイが声をかける。
「飛水も、そうなったら限界でしょう」
「……だからなんだよ、今一番キツいのは赤坂だろうが」
「『キツさ』とやらは、比べるものじゃありません」
「……無事でいりゃ、なんの問題も無いんだ。気にしてる場合じゃねえ」
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火奈とレントのデュエマは、レントの先行で始まった。火奈は火と光の5コスト以下のアーマードで作られたデッキを、レントは火、光、自然の3文明を使ったデッキで、少し不思議な動きから始まった。
「オレのターン、2マナで呪文、《巨大設計図》。山札の上から4枚を見て、その中からコスト7以上のクリーチャー、《閃光の神官 ヴェルベット》、《超炎怒(ハイパーえんど) アゲブロム》、《R・S・F・K》2枚。全て手札に加える、ターンエンドだ」
「あたしのターン、《チャラ・ルピア》を2マナで召喚、ターンエンド」
「オレのターン、3マナでヴェルベットの呪文側、《フェアリー・パワー》。山札の上から1枚をマナゾーンに置いて、そいつがアゲブロム、パワー6000以上なので1枚ドロー、ターンエンド」
火奈がカードを引き抜く。涙が出そうになるのを堪えて、努めて冷静にカードを使っていく。
「あたしのターン!チャラルピアでドラゴンの使用コストを2軽減!《ボルシャック・アークゼオスNEX》を3マナで召喚!ターンエンド!」
「火奈、調子は良さそうだな」
「うん、ここで負けるわけにはいかないから!」
「あーもー、こういう『しゅじんこうかん』?ムカつくよなぁ!」
「逆ギレばっかり、それはこっちの台詞!」
「こっちの台詞…?火奈、怒ってはいけない!」
火奈の言葉とレントの様子から、カイザーは違和感に気づく。
「あぁ、あの水晶女には効かなかったが、今回はバッチリみたいだな」
「やはり、怒りを集めるためのその態度か」
「あぁ、俺とアゲブロムが強くなるには、これしかねぇからな。こんな回りくどいことしなきゃなんねぇの、本当にムカつくよ」
レントはそう言ってカードを引き抜く。その手には、一種の諦めすらあるように、カイザーは感じ取った。
「5マナで呪文、《ハイパー・エントリー》。手札からコスト7以下のアゲブロムを出し、そいつを呪文の効果でハイパーモードにする!そして出た時に山札の上から3枚を表向きにし、ヴェルベットを手札に、残りをマナに!」
アゲブロムが大きな斧を持ち上げて現れる。そしてすぐさまハイパーモードの力を浴びて、彼の緑の大斧が2本へと増える。そしてそれを振り回しながら、チャラ・ルピアに向かって突進し始めた。
「アゲブロムのマッハファイターでチャラルピアに攻撃!その時ハイパーモード効果で手札からマナゾーンにあるクリーチャーと同名のヴェルベットをバトルゾーンに!」
「アークゼオスNEXでブロック!」
「アゲブロムのパワーは15000!その6500の雑魚じゃ受からねえよ!」
「アークゼオスNEXのエスケープで破壊を無効化!」
火奈 シールド4
「はぁ…はぁ…!」
「ヴェルベットの効果を教えてやる。こいつはあらゆる相手のクリーチャーをタップインさせる効果を持つ。これでシールドを削り切れるもんなら削り切ってみろよ」
「火奈、怒るな。落ち着いていくんだ」
「……うん」
火奈は正直かなり消耗していた。カイザーのことを心配して暫く休息が満足に取れてなかった上、今もカイザーのことが気が気でない。しかしそれを忘れて怒りに囚われれば、更に状況は悪くなる。手札を置いて、深呼吸する。
「………」
「おい、早くしろよ」
「………」
(今怒ったら、頼ってくれたカイザーやシイノちゃんを裏切ることになる。飛水や、御白ちゃん達も。だから……)
思いっきり頬を両手で叩いて、気持ちを切り替える。
「あたしのターン!チャラルピアの軽減は生きてる!まずは3マナで《ボルシャック・アークゼオス》をバトルゾーンに!効果でアーマード・メクレイド5を発動!山札の上から3枚から、コスト5以下の《アシステスト・インコッピ》をバトルゾーンに!」
「ほぉ、パワー11000のヴェルベットと相打ちさせるつもりか?」
「ボルシャック・アークゼオスNEXでシールドを攻撃!その時手札からコスト5以下のアーマード、《ピース・盾(パリィ)・ルピア》をバトルゾーンに!ピースの効果で山札の上から3枚を見て、ボルシャック・アークゼオスを手札に加える!そして、アークゼオスの効果発動!各ターン1度、ファイアーバードが出た時にアークゼオスは相手1体とバトルできる!ヴェルベットとバトル!」
アークゼオスがヴェルベットに掴み掛かり、全力で空へ駆け上がっていく。
「アークゼオスのパワーは、あたしの場のファイアーバードの数×3000上がっていく!基礎パワー5000と合わせて今は14000!」
「ちぃっ!!」
「本来はアゲブロムを打ち取りたかったけど、今は仕方ない!」
アークゼオスはそのままヴェルベットをぶん投げる。ヴェルベットがアークゼオスから解放されたと周りを見回した瞬間、アークゼオスが頭上から現れ、近くの火山の中に叩きつけた。
「アークゼオスNEXの攻撃はシールドに!」
レント シールド3
「シールドトリガー、《閃光の守護者 ホーリー》!相手全てをタップする!」
「ターンエンド!」
一進一退の攻防。そんな中、レントが不平の声を上げる。
「お前、怒れよ!怒り続けろよ!相棒を奪われたらすぐに戦意喪失するって!かぐらが嘘ついたのかよ!」
「言われたことをやってばっかりで、人の気持ちなんて考えないあんたに分かんないよ」
「……俺はなぁ、俺たちはなぁ、真名月様に認められなきゃ終わりなんだよ!」
レントが、怒りを更に露わにする。感情が昂りすぎて、何を言っているのか聞き取るのにすら苦労する。落ち着いた火奈は、せめて、カイザーとの繋がりを断ち切ろうとした人間が、どのような気持ちでやってきたのかを聞きたいと、そう思った。
「真名月様は4人の配下を作る、そうやって世界を奪っていくんだ、俺が怒り担当である以上、色んな奴を怒らせる。そうすれば、『真名月様に俺が凄いと思ってもらえる、俺が価値ある存在だと思ってもらえる!』」
「……それ、だけ…?」
「当たり前だろ!俺たち月の民にとって興味があるのは、世界を奪う方法と、どれだけ力を蓄えるか!それが一番なんだよ!」
「火奈ちゃん!」
シイノが、御白を抱えて、フィールドの近くに戻ってくる。
「話は聞いていたけど、本当にそれだけなの?何か他に、考えなかったの」
「あぁ?美味い飯食って、寝て、真名月様に認められて!それ以外に何が必要なんだ!?」
シイノと御白が絶句する。彼は世界を渡る中で、本当に怒りに全てを支配されてしまった。怒りによって考えることを完全に放棄し、ほぼ全ての自分が自分たりうるアイデンティティを投げ捨てて、何処にも見つからない場所に置いてきてしまった。
「火奈ちゃん!あんな人の言うこと、聞かないでください!」
「……そっか」
「あ?怒らねえの?」
「………早くターンを進めてよ」
レントは、怒りを集める者として適任だった。人を怒らせて、それを利用しようとする真名月の人選は正しかったとすら言える。しかし、そうやって怒りを集め続け、自分もアゲブロムの為に怒り続ける中で、レントは人を踏み躙ることに慣れてしまったのだろう。
「オレのターン。《DOOOPPLER・マクーレ》を7マナで召喚。ホーリーをタップしてアゲブロムをハイパー化。そしてアゲブロムでシールドを攻撃!効果でマナゾーンにあるのと同じ名前の《閃光の精霊カンビアーレ》をバトルゾーンに!効果で相手クリーチャー全てをタップし、次のターンアンタップさせない!」
火奈 シールド2
「シールドトリガー、無し」
「マクーレでシールドを攻撃する時、マジボンバー7発動!手札または山札の上から、コスト7以下のクリーチャーをバトルゾーンに、2体目のマクーレをバトルゾーンに!俺のデッキにはホーリーと、カンビアーレの合計8枚が採用されている!お前のクリーチャーは動けない!俺の勝ちは揺るがない!」
火奈 シールド0
「……Gストライク、《ヴァルキリアス・武者・ムサシ「弐天」》。マクーレの動きを止める」
「ターンエンド!」
「あたしのターン!!」
火奈から、迷いが消えた。火奈はそう思えなかったとしても、少なくとも、周りの皆はそう思った。帆鳥にカイザーのことを言われてからずっと悩んでいた火奈が、折り合いをつけて、前に向けて走り出した。カイザーが、自分の相棒と一緒に全力で戦えると思って、久しぶりに笑みが漏れた。
「もし時間が少ないとしても、あたしはカイザーと進むのを絶対に止めない!インコッピの効果でアーマード全ての使用コストを1軽減!まずは《アシスター・コッピ》を1マナで2体召喚!更にチャラルピアの軽減を重ねて、《ボルシャック・ハイパーヴォルジャアク》を1マナで召喚!効果でパワー5000以下のホーリーを破壊!そして、チャラルピアとコッピ、インコッピの効果で合計4軽減!1マナで、《終炎の竜皇 ボルシャック・ハイパードラゴン》を召喚!!」
業炎の勇者が重たい鎧を持って現れる。バクテラスの力を使わないように、リミッターをつけて活動していた。しかし2人にもう迷いはない。
「まずはコッピをタップして、ハイパーヴォルジャアクをハイパーモードに!更にコッピとハイパーヴォルジャアクをタップして、ハイパードラゴンに力を与える、行くよカイザー!」
「「OVERハイパー化!!」」
鎧から、1体のドラゴンが飛び出す。バクテラスの時に比べて痩せてしまったものの、その太陽の力は未だ完全に衰えることなく、暖かな光を放ち続け、仲間に仇なす者達を焼き尽くす炎となっていた。
緑の!今日のカード紹介!
今日のカードは…《超炎怒 アゲブロム》!
出た時に山札の上から3枚を見て、好きな数のクリーチャーを手札に加えられるとっても強いクリーチャーだよ。ハイパーモードになることによって、マッハファイターで襲いかかりながら、手札からマナにあるカードと同じ名前のクリーチャーを、コスト制限なしで呼び出すとんでもない能力も持ってるんだ。
次回、『天を衝く、その火花・後』