デュエル・マスターズOverLord(オーバーロード)   作:シグレサメ

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デーモン・オブ・ハイパームーン編
散らばった歯車達


 

スマートフォンの目覚ましが鳴り、黒井 夕哉(くろい ゆうや)は目を覚ます。彼の家は祖母と妹との3人暮らしであり、その家は2階立てであり、妹の夕花(ゆうか)はもう2階から降りているようだった。

「うぅ……おはよう」

 

「おはようお兄ちゃん、遅刻しちゃうよ?」

「夕哉も最近は頑張ってたからねぇ、疲れてたんじゃないのかい?」

「うん、最近色々あってさ。文化祭とか、勉強とか」

 

夕哉はこの会話に、この会話ができていることに充足を感じる。何故なら1年半前から最近まで妹の夕花は原因不明の怪我で下半身不随となっており、最近認可された特殊な薬でようやく怪我が治り、退院できたのだ。ようやくできる最愛の妹と祖母との他愛無い会話に、夕哉は涙を流す…はずだった。

 

何か電流が頭の中にピリッと走るような、頭痛のような感覚が夕哉を襲った。

「……ねぇ、俺勉強してたけど、“何のために”だっけ」

「もう、お兄ちゃんたら。自分で言ってたでしょ。人のために勉強する必要があるんだって」

「あ、そうだよね、ありがとう夕花」

「早くご飯食べちゃいなさい。本当に遅刻してしまうわよ」

「ありがとう婆ちゃん、いただきます」

 

そう言って焼き鮭を自分の口の中に運びながら、夕哉は何かの違和感を拭えずにいた。

(人のために、だよな…。誰の為だったのか、思い出せない…)

「お兄ちゃん、テレビテレビ!」

「分かった、付けるね」

 

夕哉がテレビをつけると、その中に大きなガラス張りの社屋が現れる。日本有数の大企業、光屋コーポレーションであり、今日発表の新たなVRのデュエル・マスターズマシーンの発表、新カードの発表が行われていた。

 

「やっぱり大企業ってのは凄いねぇ。色々生活を便利にさせてくれるだけじゃなくて、ブイアールで遊びも良くしてくれるんだから。夕哉達も世話になってるでしょう?」

「“光屋、コーポレーション”…。”デュエル・マスターズ”…」

「お兄ちゃんがこんな会社入ったら、私も鼻が高いなぁ」

 

違和感の電流が強くなる。しかしそれはすぐに治って、夕哉は外に出る時間が来る。

「「いってきまーす」」

「いってらっしゃい、気をつけてね」

 

『また、次のアップデートでは、海外のウィッチ社との協力のもと、「メカ」、「マジック」、「アーマード」、「ジャイアント」のカードプールの追加により、新たなゲーム体験ができることが期待されています。午後にはアップデート後のマシーンで遊べる体験会なども各地で実施されるとのことです』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

夕哉は教室の自分の席に座り、教科書を開いて勉強を始める、夕哉の元々の習慣である。何故なら夕花の入院代の為にバイト漬けだった夕哉は、学校にいる間に勉強をして、放課後になったらバイトをする生活をしていた。

 

「あ、もう要らないんだった」

 

そう自嘲気味に夕哉は呟き、その後教室を見回す。

「こんなに、広かったっけ」

 

周りでは教室で好きなように話をする生徒達が数グループできていた。夕哉は“友達を作る余裕などなく、グループに入ったり友人を作ったりすることは無かった”。

 

何となしに一番近くにいた男子と女子に話しかける。

「ねぇ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど…」

「うわぁなんだ黒井!?10月にもなって友達集めか?はぁ…お前、俺の名前は分かるか?」

「いや、“分からない“よ」

「俺は田崎 朝陽(たざき あさひ)。ベースとかやってる。これで十分か?」

「え、いや、特にそういうわけじゃないんだけど…」

「じゃあ何だよ、柚子(ゆず)に用があるのか?」

 

その朝陽という同級生は、そう言いながら夕哉と一歩距離を取る。恋人である小森 柚子(こもり ゆず)を庇いながら、夕哉を奇異の目で見ている。当たり前だろう。夕哉は“これまで、一度も自発的にクラスメイトと話したことがない”。

「正直気味悪いわ、お前クラスでなんて言われてるか知ってるか?」

「え、何で呼ばれてるの?」

「勉強王。ずっと勉強しかせずに放課後はバイトしてたんだよ、ちょっと気味悪いくらいにな」

「そうなんだ…」

「クラスライン入ってねぇだろ?後で招待送る。なんか余裕出てきたのかは知らないけど、今友達作ろうとしても中々厳しいものがあると思うぞ」

 

そう言って朝陽と柚子は離れて行こうとする。夕哉はそれを呼び止めて、何となく、そう思っただけなんだけどと前置きして、

「ねぇ、俺たち友達じゃなかった?」

と投げかけた。

 

「……やっぱり分からん、ごめんな」

 

そう言われて夕哉はため息をつく。何かがおかしいと分かっているのに、その正体が掴めない。森の中で一枚だけの落ち葉を探せと言われているような気分に、夕哉は憂鬱にならざるを得なかった。

 

その時、扉が開いて、イヤホンで音楽を聴きながら、青色の髪の男子が教室の席に座る。同じく夕哉は話しかけようとしたが、様子を伺っていると一度その男子に睨み返されてしまい、夕哉はあえなく撤退せざるを得なくなってしまった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

学校も終わり、結局違和感の正体も分からないままトボトボと歩いていた夕哉。使うお金の方向性も見つからないバイトにいつも通り向かおうとしていたところに、あるチラシが風に乗って飛んでくる。

「うっ!?何、これ…?」

 

夕哉がチラシを開いて見てみると、それはこの街のカードショップ、DM Stationで光屋コーポレーションの社長令嬢、光屋 御白(ひかるや みしろ)が直接デュエマをしてくれるというチラシだった。

「社長令嬢さん、背は小さいけど美人さんでハキハキしているんだっけ。俺とは住んでいる世界が違うな……」

 

そう言ってチラシを捨てようとした瞬間、夕哉に朝の電流のような頭痛が走る。何か強烈な予感が、何か大きなことが起きているという予感が、夕哉を覆い尽くした。

 

「……今行かなきゃ、一生後悔する、気がする…」

 

あくまでただの予感でしか無い。彼はオカルトを信じるようなタチでも無いし、自分の行動に正当性も、何の根拠もないことも分かっている。それでも夕哉はDM Stationに、絶対に行かなければならないという確信を持って歩いていった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

カードショップの中は人でごった返しており、光屋コーポレーションの社長令嬢を一目見ようと、群衆の壁ができていた。

 

「すいません、光屋御白さんってどこに居ますか?」

「あのマシーンの中だよ、近くのモニターから見れるよ」

 

快く教えてくれた青年の情報を元にモニターを見ると、そこには確かに光屋御白がいた。小柄な身体に、目立つ鮮やかな金髪、白色のワンピース。そして優雅な立ち振る舞いに、見る人は圧倒されていた。

 

「この人、やっぱり何処かで…?」

「どうかしたのかい?」

 

夕哉はその青年に捲し立てるように質問する。

「すいません、あの人とどうやったら直接会えますか!?なんか”デュエル・マスターズ”?が強くないとですか!?お金とかですか!それとも…」

「違うよ違う!落ち着いて!彼女はパフォーマンスのデュエマをやってるんだ。あれで客を呼んで、近くのインストラクター達のところに行ってもらうんだね。だから面白いデュエマができることが条件かな」

「じゃあ、お金とかは要らないんですね」

「うん、でも気をつけた方がいいよ、ここまで彼女は全勝。皆萎縮しちゃって中々次の人が来ない状態なんだ」

 

「シェケダン・ドメチアーレで、ダイレクトアタックです」

「……負けました」

 

「こんな風にね」

「そうなんですね…行って、みます」

「ちょっと、何を言ってるんだい!?」

夕哉はそう答えながらも、とっくに自分のやること、選択に向かって行動を始めていた。

 

「すいません光屋さん、次で最後に…」

「分かりました、じゃあ次の方…」

「よろしくお願いします、光屋さん」

 

御白は何となしに違和感を感じる。初めて見るはずなのに、何度も戦ってきたような、そんなものを感じたからだ。

「……えっと、名前をお聞かせ願えますか?」

「黒井、夕哉です。よろしくお願いします」

「黒井くんですね、よろしくお願いします。デュエマを始めてどれくらいですか?」

「今始めました」

「今!?それは、中々凄いですね…」

 

夕哉の大胆すぎる行動に、客はどよめきを上げる。ここに立つ意味が分かっているのかと、ブーイングを上げる人間もいる始末だった。

「……なんでデュエマを始めようと思ったんですか?」

「やらなきゃいけない気がしたから、としか…でも、負けません」

 

「おい、アイツの持ってるデッキ、ただのスタートデッキだぞ!?」

「スタートデッキで光屋さんに勝つって言ったのか!?」

 

「スタートデッキですか…。それなら少しこちらもダウングレードして…」

「いいえ、大丈夫です。これで、勝ちます」

 

御白も絶句する。何を言っているのだと驚くが、彼の目からは一切茶化したりする意図が見えない。少し試してみるかと、御白はデッキを構えた。

「そうですか、なら容赦はしません」

「はい、よろしくお願いします!」

 

「「デュエマ、スタート!」」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

先程の青年に、近くに家族で来ていた小学生くらいの少年が訪ねてくる。

「ねぇねぇおじさん、これ何してるの?」

「あ、こら何してるの!?」

「おじ!?…大丈夫ですよ。坊や、これはデュエマだよ。デュエル・マスターズ。一緒に見てみようか?」

「うん!」

「デュエマはクリーチャーや呪文を使って最初に用意される5枚のシールドを破壊して、更に相手に直接攻撃をしたら勝利できるカードゲームなんだ」

「へー」

 

「マナチャージ。ターンエンドです」

 

「あれはマナ。カードを使うためのエネルギーだよ。毎ターン手札からエネルギーを貯めていって、クリーチャーや呪文を使うための準備を整えていくんだ」

 

「俺のターン!《凶戦士 ブレイズ・クロー》を1マナで召喚!」

夕哉の手札からブレイズ・クローというトカゲの顔をし、大きな爪で武装した人型のクリーチャーが現れる。それに対して少年はとても興奮している。

 

「凄い!なんか出た!かっこいい!」

「あれはクリーチャーだね、あれで攻撃して行って全部のシールドをブレイクしたらトドメまで行けるんだ。でも…」

 

「ターンエンド」

「召喚酔いはご存じのようですね」

御白がそう言って、夕哉は一度首を縦に振る。

 

「召喚酔い?」

「今は召喚酔いと言って、出してから1ターン経たないと攻撃することができないんだ」

「へぇ、じゃあ休みが必要なんだね」

「その通り、飲み込みが早くて偉いね」

 

「私のターン、マナチャージして、2マナで《巨大設計図》を唱えます。山札の上から4枚を見て、コスト7以上の《闘門の精霊 ウェルキウス》1枚、《星門の精霊 アケルナル》2枚を手札に加えます」

 

「呪文で手札を増やした、厄介な動きだね」

「お姉ちゃんは手札を増やすんだね」

「うん。あの感じだと狙いは…」

 

「俺のターン!《一番隊 チュチュリス》を2マナで召喚!ブレイズ・クローでシールドを攻撃!」

「攻撃した!」

「カードを横向きにして、タップという休憩状態に入ることで攻撃できるんだ」

ブレイズクローが御白のシールドに向かって走り出す。ブレイズクローが大きく飛び上がり、自慢の爪でシールドを1枚叩き割った。

 

御白 シールド4

「…シールドチェック」

「しーるどちぇっく?」

「うん、シールドが割られてもシールドトリガーを引けば逆転のチャンスがあるんだ。お姉さんのデッキはシールドトリガーからの逆転を目指すデッキだからね」

 

「シールドトリガーなしです」

「ターンエンド」

 

「ないって!お兄ちゃんが有利?」

「うん、今のところはね。でもこのカードゲームは、ここからが大事なんだ」

 

「私のターン。3マナで《ギャラクシー・チャージャー》を唱えます。山札の上から3枚を見て、ウェルキウスと《光開の精霊 サイフォゲート》を手札に加えます、ターンエンド」

「…次のターンには大型のブロッカーで攻撃をシャットアウトする流れだね……」

「今度はお兄ちゃんがピンチなの!?」

「うん、でも次のターンの動き次第では…」

 

実際この場のほぼ誰もが、御白の勝利を確信していた。ただ、夕哉とこの少年を除いて。

「俺のターン!ここで全部を出し切る!まずは、チュチュリスの効果で種族:ビートジョッキーの使用コストを1軽減!《ダチッコ・チュリス》を召喚!更にダチッコの効果で、次に使用するビートジョッキーのコストを3軽減!1マナで《烈火大聖 ソンクン》を召喚!更にマスターB・A・D(バッド・アクション・ダイナマイト)の効果で、まずは2コスト軽減!このターンに出した火のクリーチャー×2コストだけ軽減!残った1マナで、《罰怒(バッド)ブランド》を召喚!」

スケートボードに乗り、歯車を肩に乗せた人型のクリーチャーが、バトルゾーンに現れる。彼はビュンビュンとスケボーを乗りこなし、クリーチャー達に力を与えていく。

 

「凄い凄い!何が起きてるの!?」

「沢山のカードの効果を組み合わせて、少ないマナで3枚もクリーチャーを展開したんだ。まるで、今日デュエマを始めた人には見えないな、まさか…。ごめんね坊や、おじさんは行かなきゃいけないところがあるんだ」

「え!?おじさん!?」

そう言って青年は何処かへ走っていってしまった。

 

「光屋さん、行きますよ!」

「いつでもどうぞ!」

 

夕哉は深く深呼吸した後、ソンクンの上に手を添える。

「罰怒ブランドの効果で味方のクリーチャー全員はスピードアタッカー!召喚酔いせずに攻撃できる!ソンクンでシールドを攻撃!その時、攻撃した時の能力でシールドを1枚ブレイク!」

 

御白 シールド3

「シールドトリガー無しです」

「ソンクン本体の攻撃!シールドをブレイク!」

 

御白 シールド2

「シールドトリガー、今日は調子が悪いですね」

「罰怒ブランドはW(ダブル)ブレイカー!シールドを2枚ブレイクする!」

 

ブランドがスケボーをブレードにして、勢いよくシールドに叩きつける。シールドが割れた直後、光でできた門が夕哉に立ち塞がる。

 

「シールドトリガー、呪文《ヘブンズ・ゲート》。手札から光文明のブロッカー2枚を出します。闘門の精霊 ウェルキウスと星門の精霊 アケルナルをバトルゾーンに。更にウェルキウスの登場時の効果で1枚引いて、ブロッカーを呼び出せるため、2枚目のウェルキウスを、さらにその効果で光開の精霊 サイフォゲートを、さらにサイフォゲートの効果でもう1体、光のブロッカーである《閃光の神官 ヴェルベット》をバトルゾーンに。これで処理は終了です」

「ブロッカーが、5体も…!」

 

「何を持って勝てると踏んだかは知りませんが、デュエマはそんなに甘くないんですよ」

「だよね、俺もそう思う」

「…!?じゃあなんで!?」

「俺もわかんないけど。多分、光屋さんが全く楽しそうにしてないのが、辛そうだったのが、どうしても俺にはほっとけなかったんだ」

「…辛そう?そんなことはありません、私は“好きなものを仕事にできた”んです!これ以上幸せなことなんてありませんよ!」

「やっぱり、辛そうだよ。無理矢理言ってる」

 

御白は少し言葉を濁した後、こう返す。

「……だからどうしたというんですか?このデュエマで何か変わるとでも?」

「変わる、いや、変える!ブレイズクローでプレイヤーにダイレクトアタック!」

「ウェルキウスでブロックです!パワーは7500!1000のブレイズクローとバトルして負ける道理はありません!」

「分かってる、だからこうするんだ」

 

突如としてもう1体のウェルキウスが破壊される。それに驚いた御白に、夕哉は言葉をかける。

「ソンクンは味方が破壊された時にも、効果が発動する。その中には相手のブロッカーを破壊する効果もある」

「知ってますが、知らない方もいるはずなので…」

「だからそれだよ、本当の光屋さんは、何に驚いて何に泣くの?教えてよ」

 

「……余計なお世話です!ウェルキウス2体の効果で2枚ドロー!アケルナルの2体目をバトルゾーンに!」

「ダチッコでダイレクトアタック!」

「ヴェルベットでブロック!」

「ウェルキウスを破壊し返す!」

「ぐぅっ!ウェルキウス効果で1枚引いて、ヴェルベットの2体目を出します!」

「チュチュリスでアタック!」

「アケルナルでブロック!」

「ヴェルベット1体を破壊し返す!」

 

夕哉の攻撃を捌き切った御白だったが、夕哉は御白を見る目を逸らさない。その目に御白は不快感を覚えたが、どこかそれを逸らせない自分がいることにも少しだけ気づいていた。

「ブランドはマスターBADで出したターン終了時、味方1体を破壊してターンを終える。ブランドを破壊して、ソンクンの破壊時効果でヴェルベットを破壊し返す。ターンエンド」

「……私のターン!そんな捨て身の攻撃をしても、私にはアケルナル2体とサイフォゲートがあります。手札はかなり使ってしまいましたが、すぐに回復できるでしょうね」

 

夕哉の行動は筋が通っていたわけではない。何か突き動かされるような衝動に身を任せていただけであった。けれども、彼はやらなければならないというその衝動を手放すまいと、必死に動いていたのだ。

 

「私のターン。5マナで呪文、《スターゲイズ・ゲート》。手札から《シェケダン・ドメチアーレ》をバトルゾーンに。場にいる光文明。4枚分までドローします。はぁ、流石にそろそろ折れてくださいよ。アケルナルでソンクンを攻撃します」

御白はそう言いながら攻撃を始める。その目の中には彼女の使うデッキと対照的に、一切の光がなかった。

 

「ソンクンの破壊時効果でもう1体のアケルナルを破壊!」

「ターン終了時、アケルナルの効果で光ブロッカーをバトルゾーンに。ウェルキウスを経由してシェケダンドメチアーレを出します。これで私のブロッカーは5体。振り出しに戻りましたよ」

「俺のターン。…ターンエンド」

「手札切れとはいえ、マナチャージもせずにすぐにターンエンドですか?あぁ、そのスタートデッキなら、ブランドのカードを引いたんですね。それで一抹のそれに賭けて…」

「……やっぱりそうだよね。俺たちは何処かで会ってる。ただ、なんとなくだけど」

「…はい?あなたのことなんて知りませんよ?」

「今知らなくても、多分、何処かで」

 

御白は相対した少年の言動に、彼女は警戒を強めようとする。しかし彼女のどこかにあるものが、この人は自分に害することはしない、警戒する意味がないという奇妙な信頼が、彼女の胸の内にあった。対する夕哉も、もう少しで落ち葉を森の中から見つけられるような感覚が、すぐそこまで来ていた。

「……私のターンです。……時間が押しています、申し訳ありませんが、早めに終わらせますね。ウェルキウスでシールドをWブレイク!」

 

夕哉 シールド3

「シールドトリガー無し…」

「ドメチアーレはシビルカウント5でT(トリプル)ブレイカーを獲得します!シールドをTブレイク!」

 

夕哉は一度深呼吸した後、シールドを引き抜く。その時様々なものがつながり、一つの大きな電流となって、夕哉に流れる。

(シールドを捲るこの感覚、最後までどう勝敗が転がるかわからないこのひりつき…!俺の大好きな、この感覚は…!)

夕哉 シールド0

「思い出した…御白のことも…俺の相棒のことも!シールドトリガー!《閃光の守護者 ホーリー》!」

「な、なんでそのカードを!?」

 

会場が大きくどよめく。当然のことである、今この瞬間まで夕哉が使っているデッキは「一切構築を弄っていないスタートデッキ」だと思っていたのだ。

 

「嘘、そんな都合のいいカードが!?」

「いや、俺もブランドとか出す前に光のカードを引いたら出せないよなって思ってたよ」

 

そう言いながら夕哉は手札のカードを見せる。それは前のターン、手札にドローしていたホーリーだった。

「正直、このターンエンドの時点でバレると思ってた。“御白”なら絶対警戒すると思ってたけど、多分連戦で疲れてたんだよね」

「じゃあ私がブランドと思っていたカードは…!?」

「2枚目のホーリーだったんだ。目の前にあることを決めつけて、大事なことを見失ってた、多分君も、俺も」

(ホーリーを予見していればターン終了時にブロッカーを出すアケルナルを並べてケアすることができた、その筈なのに…!)

「そんな…私は時間を言い訳にして、勝ったと思って防御の準備も取らずに…」

「ホーリーの効果で相手クリーチャーを全てタップ!これでブロッカー達は機能不全になる!」

 

「まだです!ターン終了時、アケルナルの効果で《支配の精霊 ペルフェクト》をバトルゾーンに!ターンエンド!」

「俺のターン!ホーリーをチャージして4マナで2体目のソンクンをバトルゾーンに!ホーリーでダイレクトアタック!」

「ペルフェクトでブロック!ペルフェクトはパワーが0より大きければバトルゾーンを離れません!でも、ブロッカーが足りない…!」

「ソンクンで、ダイレクトアタック!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

会場に今日一番の歓声が響く。今日デュエマを始めた人間が、奇策ありきとはいえどうにか光屋御白に一矢報いたのだ。夕哉は急いでマシーンから出て、御白に声を投げかけようとする。

 

「負けました。これからはお相手を侮らないように気をつけますね」

「違うんだ、俺が伝えたかったことはそうじゃなくて…」

 

「これ以上は看過できないよ、黒井夕哉」

その言葉が突如背後から聞こえて振り向くと、群衆を掻き分けて先程の青年が現れる。

「な、さっきの人!?なんで…!?」

「君は、この世界から消えなきゃいけなくなった。思い出さなきゃ良かったのにね」

 

そう言われた瞬間夕哉はDM Stationから別の場所へと飛ばされてしまう。

 

眠りから覚めた夕哉が周りを見回すと、蝋燭で照らされた薄暗い部屋、その中央には大きな魔法陣が床に1つ、壁に4つあって、正面の壁にはある1枚のカードが魔法陣の中央に縛り付けられていた。

「《アビスベル=ジャシン帝》……!」

「完全に思い出したみたいだよ、どうするの?真名月(まなつき)」

「単純なことだ。黒井夕哉をこの世から消して、この世の歪みをなくす」

 

そう言って現れた真名月という男は、身長がゆうに2mはありそうな黒髪の大男だった。彼が生み出す強烈なオーラに、夕哉は思わず圧倒され、言葉を失わざるを得なかった。

 




御白の!今日のカード紹介!
今日のカードは…《烈火大聖 ソンクン》!
スピードアタッカーを持っており、このクリーチャーが攻撃する時または自分のクリーチャーが破壊された時、ブロッカー1体の破壊、コスト3以下のクリーチャーの破壊、コスト3以下のタマシードの破壊、相手のシールドブレイクを選んで使うことができます。黒井くんがやったように小型クリーチャーが破壊された時にカウンターのように使うと強力ですよ!
次回、『記憶を貪る悪魔神』
黒井くん、何かを伝えようとしてくれたのでしょうけど…。うぅ、どうしても思い出せません…。
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