デュエル・マスターズOverLord(オーバーロード)   作:シグレサメ

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飛水は自分がネットで仲良くなった人間が月の民の流狼であったことに強く動揺するが、その前の彼の行動から次会うときまでに覚悟を決めると宣言する。その頃火奈と御白は、どうしても振り切れないボルシャック・カイザーのことを考えていた。


雪解け、その日まで

御白は、夕哉にいつも通り勉強を教えてもらっていた。しかし、どうにも今日は2人とも集中できていなかった。早めに休憩として切り上げ、じいやから出された紅茶を2人で飲んでいた。

 

「だいぶ慣れましたよね夕哉くん、このバイトも」

「まぁ、4月から初めてもう11月だし」

「…夕哉くん、シイノさんとのお出かけ、どうしましょう」

「シイノは行きたがってたよ、かぐら達が来る前に、できることならやってみたいことやっておきたいって」

「………」

「やっぱり嫌だった?」

「いや、皆、火奈ちゃんのこと、ボルシャック・カイザーのこと、受け入れてるんですねって」

 

夕哉は概ね御白からそう返ってくることは分かっていた。しかし、それに対して綺麗に彼女を励ませるような言葉を、夕哉は持ち合わせていなかった。

「御白、嫌なら休む?」

「一番辛いのは火奈ちゃんじゃないですか、なんで私が」

「でもさ…」

 

御白はそう言い返そうとして黙った。涙が出てきてしまった。自分が辛いのも、本当だった。

「火奈ちゃんが一番辛いって、分かってるつもりなんですけどね……」

「シイノも、飛水も緑も、切り替えてるわけじゃないよ。勿論、俺だって……」

「はい……」

「ちょっとトイレ行ってくるよ。このハンカチ使って良いから」

「分かりました……」

 

御白本人にしか切り替えられる話ではない。夕哉がお手洗いを借りている時、彼自身の記憶の奥底から、急に湧いてきた言葉があった。

 

『そうだよ…お前がヘラヘラしてんのは…「失わないと思っているからだ」。そう思ってるからこんなに…』

 

『知ってるよ!!お前も何も失わないと思うなよ。どうせ積み上げても全部最後は手元には残らないんだから』

 

夕哉の頭の中に、昔戦った虹村に言われた言葉を思い出される。あの後虹村から謝られたものの、失わないと思っていたことに変わりはない。確かにこの言葉は嘘じゃない。

「……これを思い出すあたり、俺も相当……だよね」

(火奈のこと、本質的には誰も助けてあげられない。本当に寄り添うのは難しいと思う。無くす悲しみは、結局本人にしか分からないんだから。……どうすればいいんだろう)

 

お手洗いから戻ると、御白は目の周りを赤くして、デッキを広げていた。最初はもう勉強しないのかと聞こうとしたが、すぐにその言葉を取りやめた。

「夕哉くん。私、次火奈ちゃんに会う時までに、遅くともボルシャック・カイザーがいなくなっちゃうまでに、出来る限り受け止めます。だから、ちょっと時間をください」

「うん、火奈には言わないでおくよ」

「あー……夕哉くんには弱みを見せてばかりですね…」

「俺、今日は帰った方いい?」

「……デュエマしてくれませんか?悲しいことがあっても、その悲しいことに自分の大好きなものが関わっていたとしても、その大好きなものがあったらまた立ち上がれるって、思いたいんです」

「分かった、一緒にじいやさんに怒られよっか」

「……はい!」

 

ドラン・ゴルゲルスのデッキを御白は取り出した。御白の人を思って涙を流す気持ちを受けて、ドランのカードが一瞬光ったように見えた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

火奈は、普段から走る市民公園にいた。普段は朝走っているが、今は日が傾いている。少し冷え込むが、一度運動し出したら問題はないだろうと、少し薄着になり、上着と自分の大事なデッキを近くのロッカーに預けて、走り出した。

 

ぐんぐんと、周りの風景が入れ替わっていく。走っている間は、走ってさえいれば、自分の辛いこと全てを忘れられた。ボルシャック・カイザーの力が、熱が、弱まっていくのを嫌でも感じる。

 

(ハイパードラゴンの力は、そう長くは持たない。それは分かってたし、その覚悟はしたつもりだったのに)

 

走る、走る、走る。公園を走った。ボルシャックとは、この場所で出会った。覚悟が足りないと言っていたボルシャックは、今や自分と一緒に最後の時を過ごすと言っている。

 

いつの間にか公園を抜けて、皇龍市の街並みを走っていた。皇龍高校の横を通った。元々楽しかった学校生活は、カイザーや友達と出会い、もっと楽しくなった。

 

才縁高校の隣を走る。自分だけじゃ絶対に解決できなかった朱野士穂との軋轢を、カイザーの言葉を背にして乗り越えた。士穂先輩とまた話せたことが、火奈にとって、最高の贈り物だった。

 

何より今こんなに走れていることが、今自分を形作っているものの一つとなっている。クリーチャー世界を駆け回って、陸上以外にも様々なことにチャレンジして、カイザーとの出会いを土台にして、今自分はここにいる。整理をつけようと思えば思うほど、カイザーとの思い出が頭を埋めていく。幸せが、自分の胸を締め付ける。

 

「なんで、なんで消えちゃうのカイザー……!!なんでカイザーなの……!なんでお別れなの!!?」

 

気持ちが溢れ出してしまった。ずっと気丈に振る舞っていたが、赤坂火奈は1人の多感な少女でしかないのだから。カイザーと離れたくないという気持ちが、無いわけないのだから。

 

「はぁ、はぁ……」

 

もう、何も分からない中、まだ走り出そうとする火奈を止めたのは、たまたま夕花から買い物を頼まれた、白髪の少女だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『夕哉、お願いがある』

「シイノどうしたの、ちょうど家に帰ったところなんだけど…え?」

 

夕哉が家に帰っていると、話の渦中だった少女は夕哉の家に上がって、シイノの横に座っていた。

 

「お兄ちゃん、私とこの場所行って火奈お姉ちゃんの上着とってきてくれる!?」

「え、なん……分かった、すぐに行く」

 

夕哉は直ぐにまた外に行かせようとする夕花の意図を理解して、直ぐに言われた場所へ向かっていった。

 

「シイノちゃん、ごめんね。また助けてもらって」

「大丈夫。わたしもしてもらったことだから」

「シイノちゃん、夕哉の家な大事にしてもらってるんだね」

「うん、助かってる」

「上着まで取りに行ってもらっちゃって、ごめんね?」

「……泣いてた。いや、前も泣こうとしていた。なんで貴方は、人前で泣きたがらないの?」

「前って、失敗しちゃった儀式の話?泣こうとなんかしてないよ?」

 

シイノが火奈のことを見据える。

「うぅん。嘘ついた。いっぱい泣きそうだった。今も」

「なんで抑え込んでいたの」

「……今からあたし、独り言言うね」

「……?うん」

「泣いたら、あたしの武装、全部解けちゃう気がして。あたしが陸上始めた理由は、ちっちゃい頃助けてくれた人みたいになりたくて、身体だけでも鍛えようと思って始めたものだから。だから……」

 

火奈はそこまで言って、絞り出すように話した。

「あたし、弱虫なの。本当は……。クラスの皆もデュエマ部の皆も、あたしはこうだって思ってるから、言えないの。言ったら、また弱いあたしに逆戻りしちゃう。だから、カイザーの前でも、弱くなっちゃいけないの」

「それで、夕哉にも言えないって言った」

「うん。恥ずかしい話だよ。だから、この言葉は、シイノちゃんに元の世界に持っていってもらおうかなって」

 

デュエマ部の誰かが聞いていたら、恐らくそのままにしていただろう。しかしシイノは、予想外の事を言った。

「言わせて、その話」

「な、なんでそんな流れになるの!?」

「あなたの話を聞いたから」

「そ、そうじゃなくて、なんでこの流れで…!?」

「もしわたしがいなくなったら、火奈の本当のことを知っている人が、この世から誰もいなくなってしまう」

「でも……でも!!」

「貴方が弱虫だからと言って、夕哉達が離れるとは到底思えない」

「ーーー!!」

「大事なものが無くなるのは、どんな人であっても苦痛。私の尊敬する人も、世界が壊れる中で悲しみに暮れていった。人によっては、自暴自棄に走る人もいた」

 

シイノは、こう続けた。前のように自嘲ではなく、夕哉に言われたように、今あるものを大事にして。

「わたしの世界は、記憶がなくなってそうもいかなかったけど、貴方は悲しみを共有できる相手がいる。わたしも、受け止める。だから、いっぱい泣いていい。気が済むまで、泣いていい。泣いて気持ちが落ち着いて、前に進みたいと思ったら、夕哉達はきっと手を取ってくれるから」

 

ガチャリと黒井家の扉が開く。上着とボルシャックのデッキを持った夕哉と夕花、そして御白と飛水と緑が、シイノの連絡によって集まっていた。火奈は、自分の武装を外して、御白に抱きついた。

「火奈ちゃん……!」

「う、うぅ、ああ……!」

「火奈ちゃんの分も、一緒に私が泣きます。それも多分、受け止めるってことだと思うんです」

「ごめん皆、ごめんカイザー、ごめん……!」

 

火奈は、沢山泣いた。クリーチャー達も呼び出して、最後の晩餐とは行かずとも、たくさん話して、食べて、心を融かして。ボルシャック・カイザー本人はカードから出てこなかったが、時々カードが暖かくなるのを感じ、火奈は少しだけ顔が綻んだ。

 

「お先に失礼しますね、おやすみなさい火奈ちゃん」

「おやすみひな!また遊ぼうね!」

「……大丈夫だから、ちゃんと寝ろよ」

 

御白達は迎えが来たため、早めに帰っていった。そして火奈は父と母が迎えにくるということで、少しだけ居残ることになった。シイノは疲れたのかもう眠気に襲われており、夕花が寝ぼけ眼を擦るシイノに肩を貸して2階に連れていっていた。

 

「シイノ、大分家に慣れてくれたみたい。いっぱい遊んでたし。多分いっぱい無くしてるから、いっぱい欲しいんだと思う」

「ねぇ、緑や御白ちゃんと遊ぶって言ってたじゃん、あれあたしも行こうかな、行けたらいいじゃなくて、絶対」

「うん、折角だし行ってきたらいいと思う」

「シイノちゃんに今度は励ましてもらったお礼もしなきゃだから!」

「うん。……火奈さ、割り切れたとは行かないと思うけど……」

 

そう言いかけたところで、夕哉の言葉を遮って火奈は言う。

「……夕哉に初めて会った時。御白ちゃんを探してた夕哉にあたしがポカリを渡したあの日。あたしどう思ってたと思う?」

「え」

 

夕哉は考えこむ。「ごめんわかんない」と観念したように言うと、火奈は満足そうにこう返した。

「まー、意地悪な質問だよね。正解は凄い一生懸命だなーって思ったんだ。友達のために街中走り回って、ぜーぜー言いながらでもまだ探そうとしてたじゃん。普通できないよ、すごい」

「それが、どうして今思い出したの?」

「あたしの憧れの人みたいだった。まぁ子供の時に高校生くらいの人だったから、同じ人ってことはないんだけどさ。漠然としたそういうかっこいい人への憧れが、こうなりたいっていう気持ちが、夕哉やカイザーと会ってから大きくなっていくのは感じたんだ」

「火奈、そんなこと考えてたんだ」

「カイザーがいなくなっても、あたしはそれに向かって進めるのかな」

 

夕哉は深呼吸して、力強くこう返した。

「絶対できるよ。火奈なら、絶対。1回いなくなったとしても、カイザーも、取り戻せる」

「……!ありがと!」

 

火奈は、今日一番の、色んなことから解放された笑顔を夕哉に見せた。

 

「うちの娘がすみません…」「こんな遅くまでありがとうございます」

「いえいえ、困った時はお互い様ですよ」

 

火奈の母が夕哉の家に訪れ、夕哉の祖母と話していた。火奈が出てくると、父と母が火奈を抱擁した。

「火奈、大丈夫だった?」

「うん、心配かけてごめんね、お父さん、お母さん」

 

火奈が夕哉の方に向き直ると、いつか、初めて会った時に見せたような快活さで、大きく夕哉に手を振った。

「じゃあまたね、夕哉!」

「うん、また明日」

「うん、『明日』ね!」

 

火奈は明日という言葉を強く言った。明日。明くる日。1日が終わっても、また登ってくる太陽。きっと、そういう意味なのだろうと、夕哉は思った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「光屋御白達を倒すための一斉行動をしかけますの」

 

かぐらのその言葉に残った帆鳥とその友人2人は、背中に棒でも刺されたように直立していた。

 

「帆鳥が持ち帰った情報によると、光屋御白は明日シイノと守木緑を連れて出かけるらしいですの」

「はい、そうです」

「だったら、守木緑とシイノをそれぞれ1人と2人に分けて倒しなさい。そして私(わたくし)が光屋御白と戦いますのよ」

 

そう言ってかぐらは部屋の奥へと消えていった。後に残っていたのは、不気味なまでの、重苦しい支配の空気だった。

 




火奈の!今日のカード紹介!
今日のカードは…《ボルシャック・ハイパーヴォルジャアク》!
出た時にパワー5000以下を破壊できる3コストのクリーチャーで、ハイパーモードになるとWブレイカーになるよ。そして味方が攻撃する時、その攻撃時効果も2倍にすることができるんだ。相手のクリーチャーを倒して、ハイパードラゴンのサポートまでしてくれるカイザーの相棒の1人だよ。
次回、『貴方の声を聞く人が・前』
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