デュエル・マスターズOverLord(オーバーロード)   作:シグレサメ

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カイザーと火奈の最後の戦いが終わり、夕哉の気持ちはまだ日常へと、いずれ来るであろう真名月へと向けられていなかった。それを見た夕花によって、久しくしていなかった何も掛かっていないデュエマを行い、夕哉は気持ちと思考を新たにするのだった。


その背中は何を背負う

 

なんとなく、一度だけ、夕哉くんの電話を鳴らして、この場所の写真と、「無事です」とだけメールに送った。そんなことをしたら、じいやに伝えられて大騒ぎになって、私は家に連れ帰られる。慣れてないホテルのベッドに寝転びながら、私は大きく息を吸って。

 

「あーもう、私何をやってるんでしょう……」

 

あの後、ドランさんのデッキとお財布に入っていたお小遣いだけを持って家を出た。プチ家出をして、私は完全に我儘娘です。月の民のことも、ドランさんの焦りも、火奈ちゃんのことも。その上でお兄様に色々と言われて、私の中で何かがぷつりと切れる音がしました。

 

「ドランさん。答えてください……。どうすれば良かったんですか?エン・ゲルスさんやカオスマントラさんも、何か答えてくれないんでしょうか…?」

 

そう言ってもう一度寝転がると、スマホに一つの通知が来ます。

『俺1人じゃ入れないから、エントランスに降りてきて』

「!?」

 

私は急いで準備をして、エレベーターのボタンを押します。謎の高揚が、私を支配して、エレベーターを開けた時には。

「御白。どうすれば良いか分からないから、御白本人に聞きにきた。今からどうする?」

 

あぁ、私の恩人は、憧れの人は。本当に辛くなった時に、自分も辛いのに無理をしてくれる。こんなに優しくて、自慢の人なんです。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ドラン・ゴルギーニはサーキットを走り、とにかく速さを追求する。沢山のメカデルディネロ達がついてきたが、10周、20周と増えていくうちに脱落者が増えていき、いずれドランだけになってしまった。

(210周、まだ、速く!もっと、速く!)

 

そう思ってドランがさらにアクセルを踏み締めようとした時、エン・ゲルスが目の前に現れ、ドランの前に立ち塞がった。

「エン・ゲルス様。何かあったのですか」

「これ以上は走っても意味がありません。寧ろ、貴方の体を壊してしまうでしょう。そうなっては元も子もありません」

「ですが!強くなっていく月の民のクリーチャー達に勝つには!今の速度じゃ足りないのです!エン・ゲルス様を超えられるくらいに速くならなければ!!」

「ソレは、どういうイミで言っているのデスカ?」

 

カオスマントラもその会話に割って入った。ドランをこれ以上走らせまいと、2人で前と後ろを取り囲む。

「貴方は十分に強イ。実際貴方がいなケレバ、御白サンはデュエマに勝てなカッタ。そんなデュエルばかりではナイデスカ」

「何より、御白さん自身がそれを望んだことはありません。貴方自身の問題です」

「………」

「もっと他にあるのでしょう?」

 

エン・ゲルスには見透かされていた。勿論、月の民と戦うためというのも嘘ではない。しかし、

「親友のボルシャック・カイザーの仇を取りたいと言って!何が悪いんですか!!」

「そうなんダロウと思ってイマシタ」

「……。ボルシャック・カイザーのことは、残念に思います。しかし残されたものが自棄を起こしてエンストを起こすのは、彼の望むところなのでしょうか」

「………」

「貴方に見せるものがあります。ついてきてください」

 

そう言ってエン・ゲルスが何処かへ向かっていく。ドランはエン・ゲルスに導かれるまま、タイヤを走らせた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

エントランスで、夕哉はおにぎりなどの夜食を御白に渡した。御白は戸惑っていたが、「多分まともに食べてないと思ったから。どの道リズム崩れてるんだから、多少食べた程度じゃ大丈夫だよ」と言って、御白は一応納得した。

 

「流石に部屋の中まではいけないから、ここで話すけど」

「はい……」

「まだよく分かってないんだ、お兄さんと何があったの?」

「お兄様が、成績をもっと上げて、光屋家の一員らしくなれと…」

「御白、今平均点とかじゃん、駄目なの?」

「駄目です。お兄様は平均から20点上とかを軽々取っていた方なので…」

「じゃあ俺と同じくらいのラインまで引き上げろってことなの?」

「そうみたいです…。他にも、もう少し仕事に関する責任者を持ったりしろと言われました。お父様とお母様が家に帰ってくるのもあって、ピリピリしてたんだと思うんですけど。それが出来ないなら、カードを処分するって」

「御白の宝物を!?酷いな……。というかその感じだと、俺たちのこと言えてないよね?」

 

御白は首を縦に振る。

「お兄様はそういうの、信じてくれないと思うんです。じいやからもそう言われました。あまりにも現実離れしすぎて、普通に話しても厳しいだろうって」

「そういう感じで貯めてたものが今爆発しちゃったんだ…」

「はい……」

「なんか、それだけ聞くとお兄さんが悪いように聞こえるというか」

 

それに対しては、御白は強めに否定した。

「そんなことないんです。私は寧ろかなり自由にさせてもらってた側で。長男じゃないからっていう理由で、じいややお父様などから多少の不出来は許してもらえてたんです」

「そういえば、だいぶ最初は勉強に引っかかってたよね」

「お兄様は真逆で。基本的に大体のことはできるから、周りからのハードルが上がっていくタイプというか。私と真逆なんです、期待されればされるほど、当然のようにそれを飛び越えられるタイプみたいな」

「そうなんだ……」

「だからお兄様が私のことを嫌っていても、何の不思議もないんですよね」

 

そう言って御白はおにぎりを一つ完食し、もう一個に手をつける。食欲はあるようで夕哉が安心していると、今度は御白から質問が来た。

「なんで、来てくれたんですか?」

「正直、御白の調子悪そうだったから。色々重なってたでしょ?何が起きてもおかしくないなって」

「それは、私だって…!夕哉くんも無理してるんじゃないかって……」

「でも、連絡くれたじゃん」

「飛水くんや緑くんは家のことで連絡するのは筋違いだと思いますし、火奈ちゃんは、今はもっとまずいと思ったんです」

「だよね。俺も大体同じこと考えた」

「え…?」

「正直、考えて辛くなるより動いてた方が少しはマシになるからさ。御白が俺を頼ってくれて嬉しかった。そう思えたら、力が湧いてくるなって」

 

夕哉はこう続ける。

「もう隠し通すのは無理そうだし、俺が御白と一緒にお兄さんに会いに行くよ。それで頑張って説得してみる」

「え!?お兄様すごい怖いんですよ!?」

「だとしてもだよ。会わなきゃいけない、会って考えを聞かなきゃいけない気がするから」

「夕哉くん……」

「御白の環境が求めるレベルが高くったって、御白が突然別人に変われるとは思えないし、変わったらやばいと思う。だから、少しずつ変われるように、せめて宝物を守れるように、家庭教師の立場から言ってみる」

「………。ありがとうございます。本当に……。私のために、動いてもらっちゃって……」

「結局公輝さん達がアジトを見つけるまで、シイノも探せない。だったら今できることをした方がいいと思うし、それが御白の役に立てるなら尚更だよ」

 

「ありがとうございます……ふわぁ…。ごめんなさい、話してる途中であくびが…」

「御白、もう遅いし寝よっか。俺は家に戻るけど、御白はホテルでゆっくり休んで」

「いえ、もう0時ですよ!?私がもう一部屋取るので、夕哉くんもここで休んでいってください!」

「……そっか。分かった。婆ちゃんたちにメールで連絡するから、その間お願いしていい?」

「はい!」

 

夕哉がスマホで家族たちにメールを送る中、御白はカウンターで部屋を取り直していた。受付が手続きをしに行く中で、御白はふとした疑問を投げかけた。

「夕哉くん」

「どうしたの御白」

「夕哉くんは、何で1人で来たんですか?じいやや、お兄様を呼んでも良かったはずなのに」

「……なんとなく。俺が御白の立場だったら、すごい嫌な気がしたんだ。こんな場所に1人でいるのに、家族が来たら辛いと思ったから」

「そうなんですね。……ありがとうございます」

 

御白はそう言って、握手などしようとは考えず、無意識に夕哉に手を差し出していた。夕哉は意図をつかめないまま手を握り返そうとした時、

「お部屋のご用意できました」と、受付が戻ってきた。それに気づき御白はバッと手を戻し、夕哉の握手は空を切った。

「ありがとうございます。夕哉くん、また明日」

「うん、また明日」

(なんで私急に夕哉くんに手を差し出したんですか!?疲れてるんでしょうか、本当に早く寝ましょう……!)

(御白のあの手、なんだったんだ?握手の形だったけど、今やるにしては突然すぎるし……)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ドラン・ゴルギーニはエン・ゲルスに連れられて、ゴルギーニタウンの地下にある、ゴルギーニ・ピットへと案内された。

「ここは知っていますね?」

「はい、光文明がシノビの手に落ちた時、御白さん達とここを拠点として戦いました」

 

カオスマントラが居心地悪そうにいることに気づいたエン・ゲルスがカバーを入れる。

「別に当時がそうだったというだけなのです。気にしないでください」

「……COMPLEXに陽動されてイタことに変わりはナイノデ」

「そうですか」

 

そう返しながらエン・ゲルスはガチャガチャと壁を何やら弄っている。ドランとカオスマントラが不思議そうに見ていると、『やはりまだ動きますね』と言ったのち、壁の一部が前に迫り出した。

「エン・ゲルス様!?」

「人形であるクリーチャーの、ゴルギーニ家。そういう二重ロックの元に作られた隠し部屋です。ドラン、貴方はそれを開けることができる」

「エンジェル・コマンドとなったから……」

「はい。では行きましょう」

 

エン・ゲルスの案内でその壁の奥に向かうと、中にあったのは、沢山の本だった。

「シノビというものは、本来光文明を影から守る為の仕組みでした。つまりこれは、私が一度亡くなる前に生まれたゴルギーニ・タウンについてをまとめた本です」

「………。しかし、それに何の関係が?」

「見ればわかります」

 

そう言われたドランは、カオスマントラと別の本を読み、ページをめくっていく。その中にあったのは、概ねドランが子供の頃から学んでいた歴史。経済が回り、さらなる発展を遂げ、そして更なる経済へと変わっていく。しかしドランの中には、少し意外な文章があった。

「ライトブリンガーの予言を使い天気などを予測し、エンジェル・コマンド達が空を飛び回る。メカ・デル・ディネロ達は陸路を進み、その荷下ろしをジャスティス・ウィング達が行う」

「少し教科書と違いマスネ」

「はい。社会が成立するために必要な者。それは統治者。その統治のためにはその種族やクリーチャーが、ある程度上に立つ必要がある。あくまで、立場上の話としての話ですが」

 

エン・ゲルスの話の意図を掴みかねているドランに、エン・ゲルスはこう続ける。

「私が生まれた時、あらゆる種族は真の意味で平等だった。全てのクリーチャーが自分のできることを行い、できるものを元に、街を強固なものへと変えていった」

「………」

「マナコストの大きいクリーチャーも、軽減クリーチャーやマナ加速が無ければただの木偶の坊となる。その意味がわかるはずです」

「……メカに限らず、力を合わせる」

「はい。今でこそその形になりました。その形を変えることはできませんし、変えるつもりもありません。後世を生きたクリーチャー達が、それが最善だと思って考えたシステムなのですから」

 

そこに「しかし」とエン・ゲルスは前置きしてこういう。

「統率者だけはそう言ってはいけない。ドラン。貴方が背負うものはこの文明そのものであり、あらゆる垣根全てを乗り越えた種族そのものであり、相棒である光屋御白の命でもある。それを聞いて、貴方はまだ周りを鑑みないトレーニングへと励みますか?」

「……すいませんエン・ゲルス様」

「言い過ぎましたが、それくらいの気持ちが必要なのです。貴方ならもっと凄いことができるはず、月宮かぐらを倒すことも」

「月宮かぐらを……!?」

「現代の光の王よ。君臨だけでなく、真の意味で共に戦うことを」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

御白が起きて朝食をとりにいくと、もう既に夕哉は朝食をとっていた。御白は自分の分の料理をとって、おずおずと夕哉の隣に座った。

 

「おはよう」

「おはようございます。なんか不思議ですね。一緒に朝ごはん食べるの」

「だね、御白パン派なの?」

「はい、いつも洋食ですね。夕哉くんはご飯派ですか?」

「うん。おばあちゃんが和食大好きでね」

 

2人の間にゆったりとした沈黙が流れる。食事をしながら、御白は再度夕哉に礼をした。

「……改めて、本当にありがとうございます。私を探しにきてくれただけじゃなく、一緒にお兄様のところまで会いに行ってくれるなんて」

「心細いだろうなってのは思ったから。でも実際、ちゃんとお兄さんに会わせてもらえるかな……」

「私もかけあってはみますが、結局どうなるのかは分からないので…」

「まぁ出発するとか考えよっか」

「ですね!」

 

そう言って食事を終え、エントランスに戻ってきた2人の前に現れたのは、予想外の人物だった。

「……御白。貴方の隣にいるのは誰?」

「御白。見ない間に、そんな男と現を抜かしていたのか」

「……お父様、お母様…!?」

「お兄さんじゃなくて……!?」

 

夕哉はすぐに警戒の態勢をとるが、何処からか現れた黒服に無理やり引き剥がされてしまう。あっという間に御白はホテルの近くに停められていた車の中に乗せられていってしまい、夕哉は黒服と取り残されてしまった。

 

「嘘……そんなこと…」

「灰理様からの通達だ。これ以上何も関わらないなら、こちら側も手を出さないと……」

 

注意をする黒服の声は夕哉には聞こえていない。もう彼は何度も御白の為に足を進め、手の届く友人は全て救うと、固く心に誓っていたのだから。

「ジャシン帝、脅すくらいはできるよね」

「……貴様、甘くなった上に容赦がなくなっているな」

「助けて欲しいって言ってもらった人、これ以上助けられないなんて耐えられないに決まってるでしょ!」

 

黒服の腕が、ずぶずぶと深淵の中に吸い込まれていく。

「うわぁなんだこれは!?」

「大丈夫です!動かなかったら治るんで!」

「何を言って…!?クソォ、待てぇ!」

(多分黒服さんのこの感じだと、御白とクリーチャー達について御白の家族は知らないと思う。そういう意味でも早く御白と合流しないと…)

 

黒服の驚いた隙をついて、夕哉は光屋家に向かって走り出した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「僕のわがままだけど、休み時間、また顔出して欲しいな」

「ちゃんと飯食ってるかー。食ってるならいいけど」

 

火奈は、緑と飛水からのメールを見て、返信も返さずにスマホの電源を切った。

 

「当たり前の話。別れが来ただけじゃん」

 

割り切って、沢山泣いて。でも、クリーチャーを失って、相棒を失って。今はボルシャック・カイザーの残した、自分の理想に向かうという残り火が、火奈を動かしてくれている。

 

学校には行っている。授業も苦手ながら頑張っている。部活は、百華(ももか)と話せるし、理想の記録に向けて邁進する毎日が楽しい。しかしどうしても、ぽっかりと空いた1つの穴に、冷たい隙間風が吹いてしまう。

 

「楽しいはず。楽しかったはず、なんだけどね」

 

恐らく飛水や御白達は、いつものように行けば出迎えてくれるだろう。しかしそうではないのだ。皆を使って現実逃避をしているのにすぎない。そう考えてしまってから、彼女達に話しかけることも少なくなった。

 

日が沈み、貴重なオフである土曜が終わろうとしている。焚べていた薪すらもないその状態で、火奈は何もなくなったかのように、ただぼーっと時間を過ごしていた。

 

「火奈、貴方宛に届け物」

「……なに?なんかのトレーニンググッズかな?」

 

そこには、送り主が飛水と緑が連名となっている、謎の大きな段ボールがあった。

 




夕哉の!今日のカード紹介!
今日のカードは…《富豪王 ゴルギーニ・エン・ゲルス》!
5コスト以上のメカから革命チェンジできる強力なクリーチャー。ターン開始時を迎えたら終極宣言を発動できて、破壊&ドロー、盾追加&墓地回収を合計4回使うことができるんだ。
次回、『そして風になる・前』
御白、カード取り上げられてないと良いけど…。
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