デュエル・マスターズOverLord(オーバーロード)   作:シグレサメ

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緑がついに有明と激突。お互いに一進一退のデュエマを繰り広げた後、一度目と逆の決着となる。その後有明は真名月に用済みと処理される前に緑に月の民のアジトの情報を明かし、消えていくのであった。


その境を超えた時・前

 

『だから、もう少しで準備できると思う。真名月を、直接倒しにいけるよ』

 

デュエマ部のグループに入った連絡は、緑からの大きな一歩。有明を下し、彼から得た情報を元に公輝と遥風が走り回ってくれているという知らせ。夕哉はそれを聞いて、シイノのことをメッセージで聞く。

 

『シイノのことはどうなの?』

『わかんない。でも、ずっと何処でも見つかってないなら』

『だよね。そう思う』

 

シイノが真名月に攫われてから約2週間。夕哉は夕花に助けてもらったり、御白と協力してかぐらに対処したりしていたが、やはり何処かで引っ掛かっていたものではあった。こんなに見つからないのなら、真名月が見つからないタネが分かったのなら。

 

『大丈夫です夕哉くん。場所がわかれば自ずとシイノさんにも会えます!私とゴルドランさんが道を開けますし、飛水くんと緑くんにも力を借りれますし!』

 

御白からの励ましに肯定の意味のスタンプを送り、夕哉はスマートフォンを閉じようとする。そうしようとした時、「ブーッ」と音が鳴り、夕哉にスマートフォンを開かせる。

 

夕哉の家族メールに一通の連絡が入っていた。宛名は、自分の父と母。

「……父さん、母さん?」

『予定が早まって今日来れそうだ。皇龍市までもう少しだから』

『夕哉、夕花、待っててね♡』

 

いつも通りの父親と母親。いつも通り強火の母親に苦笑を浮かべながら、迎えに行くための身支度を始める。

 

「お兄ちゃん、お母さん達のお迎え?」

「うん、夕花は婆ちゃんと家で待ってて」

 

そう言って夕哉は家を出る。そして夕哉がドアを開けた瞬間、ジャシンが突然カードから現れ、高速で飛んでくる何かを受け止めた。

 

「小癪な。そんなに余が怖いのか、あの悪魔神の奴隷は」

「ジャシン!?どうしたの!?」

「前に出るな、そして家族も外に出すな」

 

気になって様子を伺う夕花を、夕哉が手振りで遠ざける。夕哉の許可なくジャシンがフォックやダンマのようなクリーチャーを深淵から呼び出し、様子を窺わせる。

「ちょ、ジャシン何して…!?」

「静かにしていろ、嫌な予感がする」

 

夕哉の家は出るとそのまま交差点に差し掛かるような立地となっており、そこには車もそれなりに通っている。はずであった。大きな透明の結晶が夕哉の家を取り囲むように立ち塞がっており、見ていると何故だか力が抜けていく。何より、この結晶の見た目には覚えがある。

 

「ねぇ、この結晶……」

「静かにしていろと言っている。恐らくだがこの結晶は……」

 

「お兄ちゃん、なんか、元気が……!?」

「兄ちゃんなんだこれ!?すぐ退かすからな…!?な、力が、抜けて……!?」

「夕哉、ここから動くな。余が肩代わりしている間に!」

「ジャブラッド!夕花達を結晶から引き離して!」

「ジャブラァ!」

 

家の近くにいた人々が夕花を始めとして次々と気を失っていく。それをジャブラッドに遠いところに運ばせ、公輝に対してコールだけを入れる。もう分かっている。夕哉が上を向くと、ベートーベンを従えた彼女の姿が、そこにあった。

 

「シイノ……!なんで……!!」

「………」

 

シイノ、いや、『シイノのような何か』は、夕哉の前にふわりと降り立つと、淡々と、かといって荘厳な、まるで神様のお告げのような口調で喋り出した。

「わたしは、元気。夕哉、迎えに来た。一緒に真名月のところに行こう?」

「……俺の大事な友達って、なんでこうクリーチャーになりすまされるんだろうね」

「……看破されましたか。まぁいいでしょう」

 

そのシイノになりすましたクリーチャーは、シイノの身体から出てきてその巨大な身体を露わにする。その悍ましい身体、ハエのようなクリーチャーは、夕哉に生理的嫌悪を味合わせるには十分であり、そして何よりそんなクリーチャーが何故シイノと一緒にいるのかと、言葉を続けようとする。

 

「私は《クリス=タブラ=ラーサ》。世界を支配する《ゼニス》です。しかし私が長い眠りについていた際、真名月という男が私の世界を無くしてしまった」

「だから、ここに来たって?」

「ええ。支配するものがいなければ、世界は空っぽの箱でしかありませんからね。新しい世界に辿り着き、シイノを通して皆を導く。それが私の使命なのです」

「そんなわけないだろ、夕花に何をした」

 

夕哉がそう凄んでも、タブラは取り合わない。どちらかと言うと、彼が持っているジャシンのカードに、もう興味が行っているようだった。

「ほうジャシン……。面白いですね、そんな人間と契約して、今は飼い殺しのペットですか?」

「貴様こそ、あのひ弱な少女に長い間封じ込められていたのが相場だろう」

「何を言うかと思えば。確かに彼女は私を使わないように涙ぐましい努力をしてくれましたよ。しかし真名月の尋問を前に彼女は私の力を使わざるを得なかった。結局人は弱いもの。クリーチャーはその長い生を使って、ゆっくりと自由を待てばいいだけの話なのですから」

「……まぁ、そうだな」

 

ジャシンとタブラの問答に、夕哉が口を挟む。

「ジャシン、こいつ知ってるの?」

「フン。余が一度封印される前、ぶつかったことがある。水晶を媒介にして、人やクリーチャーの生命力を吸い取る神気取りの蝿だ。だが、この虫はその成長しようとする力にとてつもないものがある」

「水晶マナ……!」

「あぁ、これで奴は本来以上の力を使ってくる」

「かたやそちらは万全ではないのでしょう?惨めなものですね」

「大方真名月に組みしている貴様の方がよほど滑稽だ、支配するのも飽きて支配されてみたくなったのか?」

 

ジャシンの口撃にタブラは少しだけ怒りを露わにする。

「そんなわけないでしょう?真名月は資源を得たら次の世界に旅立つ。私は残った人間たちのエネルギーを吸ってこの世界を支配する。利害が一致したのならやることは一つです」

 

タブラがそう言い切る。ジャシンが臨戦体制に入る中、夕哉は一人こう呟いた。

「………どうする気なんだよ」

「なんでしょう?愚かな人間《エサ》よ」

「シイノを!どうする気なんだよ!!」

「彼女を振り払う、契約を破棄するに決まっているでしょう。ジャシンも早く、それをしたいのでしょう?私が彼を殺して手伝いますから、私のシイノ《枷》も殺してください」

「フン、余計な世話だ」

 

ジャシンはそう言い返してタブラの質問を受け流す。しかし夕哉は、そうもいかなかった。

「そっか。シイノはこれを隠して、水晶の力で戦ってたんだ。……俺を助けてくれてたんだ」

「なんですか?彼女のことは遺体にして返しますから後で…」

「お前みたいなクソ野郎を止めるために、真名月っていう外敵と一緒に!!シイノはずっと!!!」

「怒ったところで何にもなりませんよ。精々死ぬのが少し早くなる程度です」

「……ジャシン、行くよ」

 

夕哉は地面を踏み締め、強く宣言する。

 

「デュエマを、始めよう……!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

夕哉が1ターン目から《霊淵 アガルーム=プルーフ》、《シックル=シーク》で墓地を準備していく中で、シイノいや、タブラは《「この私のために華を咲かすのだ!」》で水晶マナを増やしていく。しかしゲームの戦況よりも、夕哉には心残りがあった。

 

(夕花や倒れた人たち、無事なのか……!?しかも、公輝さんに緊急時のコールだけ入れたとはいえあの結晶を壊してこっちに来られるとは限らない!何より……!)

「家族のことが気になりますか」

「!!?」

 

夕哉は心の中で思っていたことを当てられ、酷く動揺する。

 

「元の世界で神をやっていたものですから。人の心を掌握するには、これくらいはできないと。貴方が妹を大切にしていることは知っていますが、他に何かあるのですか?」

 

タブラの心の機微を読む力は、本当とは言い難いが、否定することもできない。このままここに向かっている父と母のことまでバレれば、夕哉は時間稼ぎされているだけで苦しくなっていく。

 

(父さんと母さんが駅からここにくるまで大体歩いて15分。これまでに決着をつけて、シイノを取り返す!)

「《邪魂の王道 ジャシン帝》を3マナで召喚!ジャシンをタップしてアガルームをハイパー化!更にシックルでシールドを1枚破壊!」

 

タブラ シールド4

「ほぉ。嫌に短期決戦狙いですね」

「………!!」

「…まぁいいでしょう。早くこの結晶を取り除きたいと思うのは自然ですから」

「……ターンエンド」

 

タブラにターンが渡る。シイノを操り人形のように使いながら、タブラはマナを1枚ずつ貯めていく。

「呪文、《シャングリラ・クリスタル》。水晶マナを2枚追加。更に「華を咲かすのだ」を唱えて更に水晶マナを1枚加速。ターンエンド」

 

タブラのマナゾーンには普通のマナが3枚と水晶マナが4枚。シイノが使ってきたカードを鑑みるに、次のターンは何が起こっても不思議ではない。

「……ここで勝ち切らないと!俺のターン!」

 

夕哉はカードを引き抜き、場のクリーチャー達を全てタップし、墓地から彼の召喚を宣言する。

「ハイパーエナジー!4コストで《超暴淵 ボウダン=ロウ》!」

「10コストのクリーチャーですか」

「召喚時能力で墓地を5枚増やして、墓地からコスト1,2,4の《オンサ=マンサー》、《ド:ノラテップ》、《邪魂龍 ジャビビルブラッド》をバトルゾーンに!オンサの効果で墓地を1枚増やして、ジャビビルの効果で墓地から呼び出した俺のクリーチャーは全員攻撃できる!更にオンサをタップしてジャビビルをハイパーモードに!」

「行くぞ夕哉!このターンに決着をつける!」

「うん!シイノを取り返す!」

 

夕哉がボウダン=ロウに攻撃を命じる。

「プレイヤーに攻撃する時、ジャビビルの効果で2枚墓地へ送り、2体目のシックルをバトルゾーンに!墓地は増やさず、そのまま攻撃時にアガルーム、《ベル=ゲルエール》、《ジョーロー=スイーロー》、2体目のジャビビルをバトルゾーンに!ベル効果で墓地を2枚増やす!」

(自然文明のゼニス=セレス、《「戦鬼」の頂天 ベートーベン》は攻撃誘導があるから、横並びさせてスレイヤーになったクリーチャーたちをぶつければ大丈夫。そうでなくても、このTブレイクが通るのが一番早いけど……!!)

 

ボウダン=ロウの拳がタブラをシールドに叩きつけられ、轟音と共にシールドが割れる。しかし、タブラの作り出した水晶は壊れない。

 

タブラ シールド1

「シールドトリガー、《セレスティアル・トラップ》2枚を発動。ジャビビルブラッド2枚をマナゾーンに送る。更にセレスティアル・トラップの効果で水晶マナを2枚増やす」

「除去が2枚!?ジャビビルがやられて攻撃が止まる…!ターンエンド!」

 

夕哉が時計を見ると、あれから7分は経っている、今からタブラにターンが渡ることを考えると、時間的猶予はまるで残っていなかった。

「私のターン。《Dの寺院 タブラサ・チャンタラム》を展開」

「ベートーベンが来る…!」

「そうかもしれませんね。しかし、それでは貴方の思い通りでしょう?」

 

タブラは不愉快そうにこう続ける。

「私が真名月に土をつけられた理由はマナを無くされたことと破壊、これらの合わせ技によるもの。そしてジャシンに土をつけられた理由も、アビスラッシュによる連続破壊。闇文明は本当に苦手なのですよ」

「………」

「ですから、せめてジャシンを殺せるようにと準備したものがあるのです。水晶マナ4枚を使い、水晶ソウル3を発動。呪文、《黙示録の水晶(クリス=ラグナ=カリプス)》。ジャシンの使うコスト5以下のエレメントを全て山札の下に送り、カードを3枚引く」

 

夕哉のバトルゾーンに大きな水晶でできた鳥籠が現れ、一気にその中にクリーチャー達が吸い込まれていく。

「小癪な……!!」

 

ジャシンも必死に、その呪文に抗う。しかし横にいたオンサ=マンサーが吸い込まれそうになった時、何故かオンサ=マンサーに手を伸ばしていた。

(余は、何を……!?)

 

そうジャシンが思ったのも束の間、呪文の効力が強まり、ジャシンも鳥籠、山札の底に送り込まれてしまう。

「ジャシン!!皆!!」

「残ったクリーチャーはボウダン=ロウのみ。可哀想ですね」

「まだだ!そっちのマナはもう残ってない!」

「えぇ、それも知っていますよ。水晶マナが5枚以上あるため、《「奇妙」の頂天 クリス=バアル》をG・0で召喚。ゼニスが召喚されたためタブラサ=チャンタラムのDスイッチを発動。全ての水晶マナをアンタップする」

「そんな……!?」

 

「シイノ《あの愚か者》はこれをも封印して、真名月と戦おうとしていたのだからお笑いですよ。自然マナ1枚と水晶マナ4枚で、ベートーベンを召喚。山札の上から3枚を見て、そのうち1枚、クリス=バアルを手札に加えて残りをマナゾーンに。水晶マナは7枚。良いですね」

 

ベートーベンがボウダン=ロウに迫る。ベートーベンが槍を突き刺そうとしたのをボウダン=ロウは手で受け止め応戦するが、パワーを覆せず破壊されてしまう。

「ボウダン=ロウ!!」

「クリス=バアルでシールドを攻撃。その時《蝿の王 クリス=タブラ=ラーサ》に革命チェンジ。お互いの手札を全て水晶マナにし、私の水晶マナ枚数、12コスト以下のコストの呪文を唱えられなくします」

 

荘厳な蝿の王が、シイノから分離して顕現する。彼が手を振ると、夕哉の残った手札も、マナに送られてしまう。

 

タブラ マナ15(内水晶マナ12)

夕哉 マナ5(内水晶マナ1)

「タブラ=ラーサはワールドブレイカー。シールドを全て破壊」

 

バキバキバキバキと、シールドが軋みながら破壊されていく。タブラの攻撃が夕哉に届きそうになるも、シールドが寄り固まって、ギリギリ夕哉の身体を守り切った。

 

夕哉 シールド0

「はぁ、はぁ……!!」

(この威圧感、このとんでもない感じ…!虹村やCOMPLEX戦以来のこの感覚…!シイノは、こんなクリーチャーを抑え込んでいたのか…!!)

「シールドトリガーはありますか?」

「はぁ、はぁ…!シールドチェック!シールドトリガー、《忍蛇の聖沌 c0br4》!2枚墓地を増やして、ジャシンを墓地からバトルゾーンに!」

「バアルでダイレクトアタック」

「コブラでブロック!」

 

クリス=バアルが刀を振り抜き、コブラがそれを必死に受け止める。その攻撃の余波で、夕哉はまたも吹っ飛んでしまう。夕哉は息も絶え絶えになりながらも、立ち上がる。

「シイノは、目の前なのに……!!」

 

タブラ=ラーサにより、呪文が使えない。水晶マナを使えば4回復活するベートーベンと、1枚のシールドが、シイノへの道を塞いでいる。考えようとするほど、頭が回らない。

「なんで、こんなに頭が……!まだ、諦めるわけには……」

 

夕哉が立ちあがろうとするのを抑えたのはジャシンだった。

「奴の水晶のせいだ。貴様のエネルギーを吸い取る力は、余であっても防御しきれない。貴様はそのままだとエネルギーが切れる。あの姑息な蝿は、そうやって世界を支配してきたのだ。あとは余に身体を託せ」

「そう言って、また乗っ取るつもりでしょ…!!」

 

夕哉はそう言って前に進もうとする。タブラを見据えようとするが、もう足に力が入らない、そう思った時だった。彼の視界の隅に、2人の男女がドンドンと水晶を叩いているのが見えた。その方に顔を向けると、その2人が水晶を壊そうとしている姿が見えるのだった。

 

「父さん……!母さん……!?」

 

「夕哉、絶対助ける!待ってろ!!」

 

夕哉はここで自分が間違っていたことに気づいた。家族は、少なくとも自分の家族は。普段遠く離れていたとしても、何かあれば助けようとしてくれるのだろうと。




夕哉の!今日のカード紹介!
今日のカードは…《蝿の王 クリス=タブラ=ラーサ》
革命チェンジでゼニスと入れ替わる最強クラスのクリーチャー。出た時にお互いの手札を全て水晶マナにして、持ち主の水晶マナ以下の呪文を唱えられなくする大型クリーチャー。除去耐性のエターナル・Kも相まって、凄まじい突破力を誇る切り札。
次回、『その境を越えた時・後』
でも、シイノのことをこのまま踏み躙らせるわけにはいかない!
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