デュエル・マスターズOverLord(オーバーロード)   作:シグレサメ

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シイノが真名月から逃げる為、《クリス=タブラ=ラーサ》を解き放ち、彼女はタブラに乗っ取られてしまう。真名月を倒すためにシイノの記憶を元に水晶を使ってエネルギーを蓄えるタブラと、それを止めようとする夕哉達の戦いが始まったのだった。


その境を超えた時・後

 

「夕哉!気づいてくれた!」

「夕哉!この大きいのはなんだ!?なんで周りの人達は倒れているんだ!?」

 

夕哉達の母、小夜(さよ)がそう叫ぶと、父の明(あきら)もそれに反応する。夕哉が水晶の向こう側の父と母に向かっていく。

 

「なんです、ターンの放棄ですか?ならば……」

「少し想定外の援軍だが……。タブラよ、こやつの面白いところが見られる。黒井夕哉は頭も回るが、何よりここが面白い。奴の家族がどうであるか、余には興味がある」

 

ジャシンはそう言って夕哉とタブラを向かい合わせないように立ち回る。タブラは舌打ちし、不服ながらも夕哉とジャシンにターンを渡す。

 

「夕哉、これは一体…!いや、それどころじゃないよな。俺たちは何をすればいい!?」

「この水晶は、近くにいるとドンドンエネルギーが吸い取られていくんだ、父さんと母さんはなんで無事なの!?なんか他の人がしてないようなこととかした!?」

「わからないわ、強いて言うなら、さっき駅で明くんと遅めの昼ごはんをいただいて、アイスクリームを半分こしたくらいかしら」

「母さん……」

 

今はそんなおしどり夫婦な話を聞きたいわけじゃない、そう言おうとした時、明がこう口を挟む。

「いや、間違いじゃないだろう。ご飯を食べたら元気が出る、父さんも朝ごはんを抜いた日は力が出なくてな…」

「……確かに、そうかもしれない。なんかエネルギーになるものがあったら、俺もまだ戦える気がする。多分、付け焼き刃だと思うけど……」

 

夕哉がそう少しずつ声が小さくなっていくのを見て、2人は安心したように笑う。

「夕哉、大きくなったんだな」

「大丈夫よ夕哉。実は2人のために私が腕によりをかけてお弁当を作ってきたの!」

 

そう言われて夕哉も思わず苦笑する。

「もう母さん、そんな食べられないよって、言える状況なら良かったんだけどね」

「俺はおやつと夕食で2つ食べさせるのかって反対したんだけど、まさか役立つとはね。夕哉、離れてて」

 

ガン!と大きな音が鳴り、水晶の中に小さな穴が出来上がる。

「これ、父さんがやったの!?」

「中に夕哉を見つけたから、近くの人から車にあった緊急用のバールをお借りして、ずっと叩きつけてきた。全然壊れなかったけど、頑張ったよ」

「流石父さん、ありがとう!」

「夕哉、大好きな唐揚げ弁当!あれと戦うんでしょう!頑張ってやっつけちゃいなさい!!」

「うん、夕花達はあそこの駐車場近くで横にしてる、そこの人たちにも分けてもらえる!?」

「分かったわ!」

「頑張ってこい、夕哉!」

 

そう言い切った瞬間、空いた穴は閉じた。しかしその穴を通して、夕哉は大きな元気をもらったのだった。

 

夕哉は唐揚げ弁当を食べ始める。ジャシンは大笑いしながらその一部始終を見ていた。

「やはりこいつが面白ければ親も面白い!どいつもこいつも自分が助かればいいものを、すぐ人のために走り出す!愚かそのものだ!」

「好き勝手言ってて良いけど、今考えてるんだから邪魔だけはしないでね」

「フン、相変わらずだな貴様は!」

(こやつの原動力、原点と言えるようなものは、ここにあったというわけか。何処かでそれを利用してやるとするか)

 

反面タブラは、驚いていた。確かにクリーチャーを何度もぶつければ、この水晶の壁を破壊することも無理はないだろう。大方、その前にエネルギーを吸い尽くしてしまうから強度がいらないのだ。エネルギーは吸い取るもののエネルギー量が多い順番に吸い取っていく。それが一番効率的とタブラが決めて吸い取っているからだ。エネルギー量が多くないただの人間が、一瞬とは言え穴を開けた。意味がわからなかった。

 

「ご馳走様でした。美味しかったー…!行けるよ、ジャシン!」

「なぜだ、なぜ人間如きに!」

「シイノが絶対にお前を外に出そうとしなかったのと一緒だよ、使ったら大好きな人たちを傷つける、だからそれをしてこなかったんだ。それと同じ。父さんと母さんはいつも忙しいけど、こんな訳のわからない状態になってたって、俺を助けてくれた!その理由もわからないやつに、俺は絶対に負けない!」

 

ジャシンの鼓動が何故か一瞬強く揺れた。ジャシンが胸に手を当て確認するが、もう収まっている。

「……。この嫌な鼓動、なんだ…!?」

 

夕哉 シールド0 マナ6(内水晶マナ1)

バトルゾーン 無し

タブラ シールド1 マナ15(内水晶マナ12)

《「戦鬼」の頂天 ベートーベン》、《「奇妙」の頂天 クリス=バアル》、《蝿の王 クリス=タブラ=ラーサ》

 

「夕哉よ、奴が帰ってきている、使いこなせ!」

「うん、行くよジャシン!俺のターン!6マナで《邪闘 シス》をアビスラッシュ!」

 

久方ぶりに力を取り戻した4本腕の魔人、シスがバトルゾーンに現れる。

「まずは攻撃誘導を解く!ベートーベンのパワーをマイナス∞!!」

「パワーが0になれば破壊され続け、水晶マナも意味がない…!ぐぅっ!」

 

シスが大量の触手をベートーベンに突き刺し、ベートーベンはそのまま爆発する。

「攻撃誘導は潰した!シールドに攻撃する時、アビス・W・メクレイド5発動!」

 

シスが球体型のステンドグラスを6つ呼び出し、その中からアビス達が現れる。

「来い、《ティンパニ=シンバリー》、《霊淵 ヒドアノッカ=ノアドッカ》!ヒドアノッカの効果で耐性を持たないクリス=バアルを破壊!更にメクレイドは召喚だからティンパニのヨビニオン発動!効果でブロッカーの《オンサ=マンサー》をバトルゾーンに!」

 

タブラ シールド0

「この一撃でここまで展開するだと…!?」

「アビスラッシュの効果でシスを山札下に帰してターンエンド!」

 

「私のターン、呪文《水晶設計図(クリスタル・ディスティニー)》、山札の上4枚からベートーベンを回収し、水晶マナを追加。そのまま召喚。山札の上3枚を全てマナゾーンに送る!」

「水晶マナ16枚…!」

「ベートーベンでジャシンを攻撃」

「オンサマンサーでブロック!」

「タブラ=ラーサでダイレクトアタック」

「ティンパニでブロック!」

「ターンエンド」

 

タブラは意気揚々とターンを返す。夕哉は、この状況を立て直すために頭を必死で回転させていた。

「今のままなら、ジャシンの効果を使ってブロッカーを毎ターン2〜3体用意して、攻撃を受け切るのはできる。でもあっちのターン開始時のドローでクリス=バアル、ベートーベンが来たら出さなきゃいけないブロッカーが増えるし、何よりコスト5以下を全部山札に戻す《黙示録の水晶(クリス=ラグナ=カリプス)》を引かれたら問答無用でゲームオーバーになる…!それは割り切るとして、せめて攻撃にリスクをつけないと!」

「忘れるなよ夕哉、今はお前の母親から貰った飯でエネルギーが持っているだけだ」

「それも分かってる、とにかく早めに打開する!」

 

極めて理性的に状況を分析した夕哉に、ジャシンは微笑み助言を与える。

「やはりあの蝿に勝利を与えるのは癪に障る。…夕哉よ。シスはさっき山札下に送った1枚しかないのは分かっているな」

「…うん、だから水晶マナ3枚を使って除去を堪える、エターナル・Kを貫通できない」

「だが、方法はある。奴の水晶マナの枚数を4より少なくしろ」

「4より…!?」

「あぁ、序盤のボウダン=ロウによる攻勢で墓地は越えている上、ラグナカリプスで除去されたため山札切れを気にすることもない、分かるな」

「オッケー、引きにいけばいいんだね、俺のターン!」

 

夕哉は勢いよくカードを引き抜く。

「合計3コストでオンサ=マンサー2体とアガルーム=プルーフ!更に3コストでジョーロー=スイーローを出してターンエンド!」

「味方全体にスレイヤーを与える効果ですか。ドロー、2コストで《シャングリラ・クリスタル》、水晶マナを2枚増やし、ベートーベンでダイレクトアタック」

「オンサ=マンサーでブロック!ジョーローの効果でついたスレイヤーで反撃し、俺のクリーチャーが破壊されたから1枚ドロー!」

 

タブラ マナ21(水晶マナ15)

「それで時間稼ぎというわけですか?ターンエンド」

「俺のターン!《シックル=シーク》、オンサ、ジョーロー2体目をバトルゾーンに!シックルをタップして、ヒドアノッカをハイパー化!スレイヤーは重複して効果を使えるから、俺のアガルームはスレイヤーを2回使える!ベートーベンに攻撃!破壊されるけど、ジョーローで2ドロー!」

 

タブラ マナ21(水晶マナ9)

「ぐぅっ!スレイヤーの重複で、無理やり破壊しきるわけですか!」

「いいやまだだ!ヒドアノッカでもベートーベンに攻撃!ジョーロー2体のスレイヤーと、ハイパー化したヒドアノッカのスレイヤーで合計3回破壊!更にジョーローで2ドロー!」

 

タブラ マナ21(水晶マナ0)

(水晶マナを使い切らされましたか、この後ジャシンの攻撃があるから、耐性を使わないと言う選択肢がない!)

「ジャシンでベートーベンと相打ち!ハァ、ハァ…!ターンエンド!」

 

ベートーベンが倒れ伏し、ついに夕哉の前の視界が開ける。しかしタブラが次に放った言葉は、その視界をまた暗闇に引き戻す言葉だった。

 

「私のターン。ドロー。ハハ、あなたの負けですね。呪文、黙示録の水晶。コスト5以下を全て山札の下に置き、3枚ドロー」

「嘘……!?時間切れ…!?」

「18枚もの水晶マナを使い切らせたことは褒めましょう。しかし、時間を使いすぎましたね。更に10マナを払ってクリス=バアルを召喚。これで2体のクリーチャーでトドメとなる」

 

空っぽとなったシイノの手が上がり、タブラ=ラーサが夕哉にジリジリと近寄ってくる。蝿の神のけたたましい羽音が、夕哉に凄まじいプレッシャーを与えてくる。

「私で、ダイレクトアタック」

 

蝿の神が夕哉を持ち上げ、一気にとどめを刺そうとする。彼の手が夕哉の体を貫こうとした時、タブラの身体がバラバラと崩れ落ち始める。

「な、なんですかこれは!?身体が、崩れ落ちていく…!?」

「呪文、《深淵の逆転撃》。これは次のターンに3マナを払う代わりに、相手の攻撃時に唱えられる呪文。効果は相手1体のパワーをマイナス∞にする。沢山ドローして、ようやく引けたよ」

「水晶マナを崩すだけでなく、このカードを引きに…!?」

「ようやく余の力で貴様に直接鉄槌を下せるな……!タブラよ!」

 

ジャシンが指を鳴らして呪文を唱えると、凄まじい量のパワーをタブラから引き抜く。タブラは必死でそれから逃げようとするが、どんどん力が抜けていく。苦しみから離れようとし、バトルゾーンから逃げ出し、シイノの身体をもう一度乗っ取ろうとする。しかしシイノもタブラ自身が出した水晶の影響で弱っており、シイノとすら分離せざるを得なくなる。

 

「はぁ!はぁ…!ジャシンと、その操り人形ごときにぃ!クリスバアルでダイレクトアタック!!」

「2枚目の深淵の逆転撃!バアルのパワーをマイナス∞!」

「な……!!」

「間抜けなものだな、踏み台にした人間にすら戻れないとは。まぁもう遅い。貴様はターンを終えるしか無いのだからな」

「ターンエンド!だが、だが!私の手札には黙示録の水晶とベートーベンがある!次のターンこれでもう一度壁を構築し、クリーチャーを除去すれば!」

「それ、本気で言ってる?」

 

夕哉がそう言ったかと思えば、夕哉の場には《ベル=ゲルエール》がいる。タブラはそれをみた瞬間、思わず言葉が漏れ出ていた。

「アビス、ラッシュ……!!」

「うん、2マナで墓地から出せるから、深淵の逆転撃の合計6コスト込みでも足りるんだ」

「ジャシンよ、何が違うというのだ!貴様と!私の!!世界を支配しようとする考えは変わらない!何が違うと言うのだ!誰か私を助けろ!水晶の力でエネルギーを与えろ!」

 

タブラはそう絶叫するが、何のエネルギーも流れ込んでこない。もう近くの夕哉とシイノ以外の人間は、明と小夜が移動させてしまったようだった。

「タブラよ、それは余にも分からん。今考えているところだ」

「実際に人を傷つけて、弄んだ。それだけで、止めなきゃいけない理由には十分だから」

 

夕哉がそう言い切ると、ベル=ゲルエールが飛び上がる。

「ベル=ゲルエールで!ダイレクトアタック!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

クリス=タブラ=ラーサがカードへと戻ると、シイノも力が抜けたかのようにそこに座り込む。ジャシンが指で軽く水晶を弾くと、それらはガラスのように崩れ落ちていった。

 

「奴の力は封じられた。暫くは出てこれないだろう」

「そっか、ありがとう、ジャシン」

 

夕哉はそう言いながらシイノのところに向かい、身体を起こす。

「夕哉…?」

「起きた。良かった…!」

「わたし……!真名月から逃げる為に……タブラ=ラーサの力を使って……!わたし…!」

「その時の最善がそれだったんでしょ、だったら仕方ないって」

「でも、わたし、……それで、あなたを…!!」

「落ち着いて。ねぇ、あのクリーチャーはなんだったの?」

「……わたしの世界の神様だったの。水晶の力を使って、色んな人に力を与えてたんだけど…」

「奴に騙されていたのだろうな。貴様の世界には行ったことないが、他の世界に移動する前に、奴の手口を見たことがある」

「タブラって、世界を越えられるの?」

「あぁ、一部のクリーチャーは一つの世界では足りず、別の世界に資源を得ようとする。世界ごと越えた侵略と言うわけだ。あとは言葉と文化の壁を現地民から力を得ることで乗り越えれば、簡単にその世界に潜り込める。奴はその世界の土着神あたりとしていたのだろうな」

 

ジャシンがそう言うと、シイノが首を縦に振る。

「うん。わたしたちは、かちく?みたいなものだって言ってた。生死を握っている以上、自分に住みやすい場所を作る以外の選択肢は、わたしたちにはなくて」

「シイノ、ずっと虐げられる立場だったんだ……」

「うん。真名月が来て、あの記憶を奪う手口で、皆が離れるまでずっと。タブラ=ラーサはわたしと無理やり契約して、自分の力を失わないようにしたんだけど。それすらもバレて、わたしはタブラと一緒に、真名月に負けたの」

「そんなの、ただの貧乏くじじゃん!」

「そうだけど、結局わたしはそんなクリーチャーの力を借りても守れなかったし、夕哉に沢山迷惑をかけた」

 

シイノはタブラ=ラーサのカードを夕哉に渡して、立ち上がる。

「このカードを無かったことにして、破り捨てて。そうすればわたしはタブラ=ラーサから、お姉ちゃんたちから解放される」

「……そのあと、どうする気なの」

「聞かないで。少し、疲れただけ」

「待ってシイノ!」

 

その後の言葉が出ない。自分もジャシンに乗っ取られたことがあるから、なんてことは言えない。御白達がいなかったらどうなっていたか、なんて想像もしたくない。だから、強く止められなかった。

「わたしがいてもいなくても。真名月を誰かが倒せたところで、わたしの世界は二度と帰ってこない。夕哉を助けて、それがどうにかなるかもしれないなんて。そんな淡い期待に、そんな自分勝手に、あなた達を突き合わせてしまった。ごめんなさい」

「駄目、シイノ!もうシイノは、俺の…!」

「……ごめん」

 

シイノがそう言って夕哉の両手を振り解く。そして歩き出そうとした時、前に人影が現れ、シイノの右手を掴んだ。

「夕哉のお友達、よね。もう夕方よ。どこかに行くにしても、その前に一緒にご飯食べて行かないかしら?」

 

現れた小夜が、シイノの手を強く掴んで離さなかった。後ろから明も、疲れて休んでいる夕花を背負ってやってきていた。

「……夕哉の、お母さん達…?」

「離し……」

 

後ろから夕哉も、シイノの左手を掴む。右手からは、震えが伝わってくる。得体の知れないものへの恐れが伝わってくる。しかし、それよりも強い意志で、シイノの手を掴んで離さない。

「ねぇシイノ、家に戻ろう」

 

何より左手を再び掴まれて、安心した自分がいたことに、シイノはとても驚いていた。

 




夕哉の!今日のカード紹介!
今日のカードは…《深淵の逆転撃》
逆転撃という特殊な呪文で、相手ターン中に使える強力な呪文。次のターン開始時に3マナを払わなければならないけれど、相手1体のパワーをマイナス∞する能力は、頼もしい最後の砦として立ち塞がってくれるんだ。
次回、『思い出の結晶』
父さん、母さん。何も言わずに来てくれてありがとう。
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