デュエル・マスターズOverLord(オーバーロード) 作:シグレサメ
……眠っていたらしい。シイノが身体を起こすと、前に暁美(あけみ)から割り当ててもらった自分の部屋だと認識する。あの後眠ってしまったのだろうと周りを見回すと、近くでスマホを開いて待っていた夕花と目があった。
「シイノちゃん、おはよう!」
「おはよう、ございます……?」
「良かった、すぐ起きて。お母さん達が止めたらシイノちゃんすぐ寝ちゃってさ。お兄ちゃんが2階まで運んでくれたんだ」
「……夕哉が」
あんなことを言った後に、夕哉に介抱されてここまで運ばれたのかと思うと、恥ずかしくて顔が真っ赤になる。
「お兄ちゃん、別に気にしてないと思うよ」
「それとこれとは…!」
「ねぇ。一旦下の階に降りよう。お兄ちゃん達、待ってるから」
2人が階段を降りた先に待っていたのは、夕哉達他の4人だった。台所には小夜と夕哉が立ち、明がキッチンと食卓を、皿を持って行き来している。
「あら、夕哉のお友達さん。おはよう」
「夕哉からは軽く聞いたよ。でもまずはご飯を食べよう。小夜さんのご飯、凄く美味しいんだ」
なんでと問う気力すら、目の前の美味しそうなご飯が奪っていく。夕花に導かれるまま、自分の椅子へと座らされた。
シイノの両横に夕哉夕花の兄妹が座り、その反対側、向き合って暁美、両隣に左から小夜、明の順に座る。
「じゃあ、いただこうかね」
「「「「「いただきます」」」」」
「い、いただきます」
夕哉と一緒の家にいた期間は、客観的に見ても1ヶ月程度とそう長くはない。それでもこの食卓に座ったことに安心感を得てしまっている自分を、シイノはどこか冷めた目で見ていた。久しぶりのご飯、久しぶりの家族の会話もそこそこに、話の内容は子供達の話となった。
「じゃあ、そのジャシンってカードを拾って、夕哉はあんな力を使えるようになったのか?」
「ジャシンが気を向いた時しか使わせてくれないけど、大体そうだよ、父さん」
「……そうか…」
「夕花も似たような感じだったの?」
「うん。でも御白お姉さんに渡したから、今は使えないんだ」
「なるほど…。2人ともお母さん(暁美)には言わないようにしてたの?」
「正直夕哉の帰りが遅くなった時点で大体わかっていたけどね。まさかヨガ教室から帰ってきたらあの結晶掃除をしなきゃならないなんて思わなかったわ」
5人の会話が進む。シイノにも時々質問がされ、シイノも先ほど夕哉に言った自分の生い立ちを話していった。それぞれの情報を概ね交換したところで、明が夕哉に一つ切り出した。
「わかった。……夕哉、3つの質問がある。聞いてくれるか」
「……うん」
「1つ目。暁美さんにも黙ってたけど、なんで俺たちに言ってくれなかったんだ」
「……言ったら、いっぱい心配をかけると思ったんだ。ジャシンのことを言ったところで、何か状況が解決するわけじゃない。ジャシンに狙われることだってあるかもしれない。そう思ったから、ずっと言わなかったんだ」
「……夕哉ならそうだろうな。でも大人は、親は、子供を守るために、子供の未来を開くために毎日頑張ってるんだ。もし夕哉の身に何かがあったりしたら、俺たちだって悲しむ。それは分かってたんだろ?」
「でも、ジャシンのことを言ったって…!」
「もし夕花がジャシンっていうのと契約してたとして、夕哉は関わりたくないからって何もしないのか?」
「それは……!!」
夕哉は言葉に詰まる。元から明にそういうので言い負かせるなんて思っていなかったが、思ったよりも重たいものが飛んできた。
「2つ目だ。シイノさんや光屋さん達。彼らとはどういう関係なんだ?」
「……友達、だよ。確かに、会った方法は少し変かもだけど。でも、大事な友達」
「そうか。そのために、無茶をしたことがあるんだな?」
本命の質問が、夕哉に深く突き刺さる。しかし明のその口調は責めるようなものでは決してなく、ただ夕哉のことを心配しているように、夕哉には聞こえた。
「うん。1回や2回じゃない。そうでもしなきゃ、皆を助けられなかったから」
「夕哉らしいというか、大きくなったと思ったけど、変わらないところは本当に変わらないのね」
小夜が微笑みながらそう言う。明は困ったように首を傾げながら、こう続ける。
「正直、夕哉達を取り巻く環境を深く理解できてないし、シイノさんに対して今すぐ俺たちが同行できるということも保証できない。俺たちはデュエマっていうゲームがあるのを知ってるって程度だからな。それでも聞いておきたいんだ」
「うん」
「無茶をする意味があったと、夕哉は思ったんだろう」
「……うん。後悔したくないって、がむしゃらにやってきたから」
「……夕哉がそれを辞めたら、一体どうなるんだ」
「分からない。でも、真名月との戦いが悪い方向に行くのは、間違いないと思う」
夕哉がそう言い切ると、明はシイノの方に目配せする。
「そうみたいだ。君も、夕哉にとって必要な人みたいだよ」
「わ、わたしは……!」
「夕哉は母さんに似てるんだ。その人を守る、幸せにするって決めたら、絶対引き下がらないから覚悟しておくといいよ」
「明くん!?」と驚く小夜を尻目に、明は最後の質問を切り出す。
「最後の質問だ、夕哉。『今、楽しいか?』」
「え………?」
「俺のスタンスの問題だ。社会に出ると、自分の役割を持つ。でも、役割を遂行することだけを意識していると、人は少しずつ、本当に少しずつ。沈んでいくようにできているんだ」
「沈んでいく…?」
「あぁ。夕哉、お前は今それをやってて、生きてて、どう思う?」
夕哉は考え込む。皆料理を食べ終わっているが、夕哉の返答を誰も動かず待っている。温かく、それでいてピンと糸が張ったような静寂が30秒ほど続いた後、夕哉はこう言った。
「分からない。御白に教えてもらったデュエマは凄く楽しいけど、決して楽しいってだけで括っちゃいけない気がして」
このまま夕哉はこう続ける。
「でも、学校行って勉強したり朝陽達と話したり。御白の家庭教師やって、飛水や緑、火奈達とデュエマしたりして遊んだりして。家に帰ればシイノがいて、少しずつ箸を持つのが上達しているのを見るのが、凄く、凄く、なくなって欲しくないと思うんだ」
「………」
「だから、その為に、俺は自分の世界を守りたい。自分勝手かもしれないけど、絶対にここを譲りたくないんだ」
夕哉がそう言い切ると、明と小夜が、少し遅れて夕花が夕哉に抱きついた。
「分かった。俺にできることは多くないけど、夕哉を不幸にさせるようなことは、絶対にしない。その代わり、そんな危ないジャシンといても、絶対に負けるなよ」
「夕哉、大きくなったね…!夕哉、大丈夫よ!貴方の中にはたっくさんの家族や友達との思い出があるんだもの!もし何かあっても、夕哉なら跳ね除けられるわ!」
「………ありがとう、父さん、母さん」
「お兄ちゃん!私もいざという時は、カオスマントラと一緒にバシッとやるんだから!あ、でも御白お姉さんから返してもらわないとじゃん」
夕花のその台詞で、家族一同笑いの渦に包まれる。そして夕哉の目から涙がこぼれ落ち、そのまま暫く、親2人に体重を預けていた。シイノがそれを見ていると、横から暁美が、前にシイノが美味しそうに食べていたおはぎを出す。
「好きなんでしょ?どうぞお食べ」
「……わたしは、あそこには」
「知ってるわ。どうしてもそういうのはあるもの。でも結局、相手が、夕哉達が大事な人だと思ってくれているのは、貴方も分かってるんでしょう?」
「………はい。火奈にも、似たようなこと。言われました」
「じゃあそれでいいじゃない。それを無碍にする方が、よっぽど失礼だもの。貴方が元の世界に帰っても帰らなくても、貴方のことを、夕哉達はずっと大切にしてくれるわ。勿論、私もよ?」
悪戯っぽく微笑む暁美と、こちらに気づいた涙交じりの夕哉の顔を見て、自分が夕哉を傷つけてしまったことなど、夕哉達にとって瑣末なことであったとシイノは気づく。
「タブラ=ラーサがこの世界にいたままなら、貴方達は大変だと思う」
「大丈夫よ。夕哉とシイノちゃん達が守ってくれるんでしょう?」
「……!……流石に買い被りすぎ、です」
「そうかしら?」
この人には一生敵わないなと、シイノは観念した。
「夕哉。タブラ=ラーサを、使いこなせるようにする」
「うん、待ってるから!」
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夕哉とシイノの2人は2階の部屋に行き、スマートフォンを立ち上げて他のメンバーと連絡を取る。緑とシイノが手に入れた真名月達のアジトの情報を纏めると、かなり早い段階で場所の割り出しが終わったようであった。
「では、作戦会議を始めます」
御白の一言から始まったその会議は、どのように月の民を無力化するというもの。火奈が戦力として使えないこと、かぐら達程でなくても月の民が行く手を阻んだらどうするかなど、基本的なことから進んでいった。話を聞いて纏めていた飛水が、一枚のノートを撮った写真を送った。
「まず決行は3日後。そして真名月を捉える役は夕哉と光屋になるんだよな。まぁジャシンとゴルドラン、カオスマントラがいることを考えたらそうだろうし、何より居ても立っても居られないだろ?」
そう言われた御白はこくりと首を縦に振る。火奈のこと、エン・ゲルスのこと、御白にとってはどうにかしたい、少しでも取り戻したいものが多すぎる。
「俺は御白のサポート?」
「あぁ、別行動っていう形になる。基本挟撃の形を目指すけど、何人いるかまでわかんないからな…」
「わたしが捕まってた時は儀式だからと言って黒いカーテンで閉じられていたの。脱出する時にはタブラに意識を乗っ取られないように必死だったし、中から人数を推測できたらよかったけど」
「仕方ないよ。シイノが戻ってきてくれて、外で待機してくれてるだけ十分」
「……」
「無くなってほしくない、大事なものなんだよ。だからシイノがいてくれる、外で待っててくれるだけでも十分」
そんな夕哉の台詞に飛水がすかさずつっこみを入れる。
「……家族馬鹿が友達馬鹿になって、異世界人まで友達にし始めたら、もう何処まで行くんだろうな」
「ひすい、でもそんなゆうやだから着いてくんでしょ?」
「おい……。はぁ、なんかいつの間にか中心にいるよな、夕哉って。まぁ話を戻すぞ。緑はゴルファンタジスタと協力して外側を守る。どうせ守り手が出てくるだろうし、それが逃げ出すのをケアする役割だな」
「うん。有明さんに勝ったし、ボクなら行けるよ」
「あぁ、頼りにしてる。あとは……」
そこまで言って飛水は流狼のことを考える。他の四天王はなんらかの動きを見せて、何らかの形で決着しているというのに彼だけ出てこない。あの奇妙なデパートでの出来事といい、気になっているものがとても多かった。
「……どうすっかな…。カクメイジンは正確な座標が分かってないと、COMPLEXの時間の時みたいにワープさせられない。Dracheのハイクによる無力化も、効くかどうかよく分からんしな……」
そこまで言った飛水に、御白が口を挟む。
「飛水くん。気がかりって感じの顔ですね」
「……あぁ、バレちまうよな」
「はい。私も、夕哉くんも、気がかりは自分とクリーチャーの相棒の力でどうにかしました。飛水くんもいってきてください」
「そうだね、飛水は自由行動が良いと思う」
「いや、流石にねぇだろ、それこそCOMPLEX事件の時みたいに最低限戦える連絡役がいねぇと大変なことになるし……」
「わたしがやる」
飛水が渋るのを見て、シイノも加勢した。
「はぁ!?さっき外で待機って、使ってた相棒の力で暴走したんだろ!?」
「タブラは使わない。それで勝つ。今までやってきたことだから大丈夫」
「つっても……」
「わたしにとっても夕哉達が大事。だから少しは頑張らせて」
シイノの目を見ても、譲るようなつもりは毛頭なさそうだった。
「あーもう、しゃあない。俺は自由行動、シイノは司令塔だ。最低限の土地勘とはいえ、アジトのことを知ってる奴の方がいいもんな」
「ありがとう、飛水」
「……こっちの台詞だ」
「じゃあ、3日後までに各々準備をしましょう。絶対に真名月さんを止めるんです」
そう言って会議はお開きとなった。
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入浴などを終えて夕哉が勉強に取り組んでいると、シイノが部屋の扉をコンコンと叩く。
「シイノ?入って良いよ」
「こんな日も勉強なの?疲れてないの?」
「御白の為に教えなきゃいけないし、俺休みすぎると甘えちゃうタイプだから」
「………」
シイノは夕哉の机の近くにあった座布団に座って、こう続ける。
「ごめん、今日のこと」
「気にしてないよ、って言っても気にしちゃう性格だよね、シイノは」
「うん」
「でも同じくらい、家族全員で、シイノと一緒にご飯を食べれたのが楽しかったから」
「……優しいね」
「俺に言えることなんてタカが知れてるし」
暫くの沈黙の後、シイノがこう続ける。
「家族って、いいなって思った。美味しい料理、一緒に食べて」
「…うん」
「お姉ちゃんはもういないのに、こんなに幸せで、夕哉達がいて、良いのかなって思った」
「…良いと思う。これ以上真名月達の理不尽に、誰も巻き込まれてほしくないよ」
「わたしも同じ気持ち。だから、立候補した」
「あんなのがあった後だし、休んでて良いと俺は思ったけど、シイノの目が本気だから何も言わない方が良いなって」
「うん。わたし、休みすぎたら甘えちゃうから」
シイノが予想外の返しをしてきたため、夕哉は思わず笑ってしまった。
「そっか。甘えちゃうんだ」
「うん」
「……ねぇ、真名月達を倒したらどうするつもり?」
「元の世界に帰る、と思ってた」
「実際、最初会った時そんな感じだったもんね」
「うん。夕哉以外とは話さないようにして、関係も作らないようにしようとしてたから」
「今のシイノ見せたらびっくりしそう」
「わたしもそう思う。……異世界の人間が、まだいても良いのかな」
「色々と越えなきゃいけないものはあると思う。言葉も、タブラがカバーしてくれなかったら自力でやんなきゃいけないし、箸もまだ完璧じゃないし。太陽の光もまだちょっと辛いんでしょ?」
「うん。洞窟だけの世界だったから、太陽はやっぱり見るとびっくりする」
夕哉は少し笑ってこう続ける。
「シイノも真名月も、異世界から来たことには違いないけどさ」
「……?」
「こんなに俺たちの世界のことを気に入ってくれて、まだいたいって思ってくれるなら、俺たちだって助けたいなって思うよ」
「………」
故郷のことを思うと、シイノは即答できない。あの世界には姉達との思い出が溢れているのだから。
「世界に、環境に馴染めないからって行動を攻撃に変えたら、本来味方になってくれた人も敵に回らざるを得ないと思う。月の民の話とかを聞いてると、たまにね。全部郷に入って郷に従えっていう極論にするつもりは無いんだけど」
「うん。そういうことを言う人じゃ無いよね、夕哉は」
「できることをやるよ、初めてジャシンを手に入れた時から、それは変わらない。…シイノ、3日後、よろしくね」
「うん。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
シイノがガラガラと夕哉の部屋から出ていく。
「おやすみなさい。心が落ち着く言葉」
初めてこの家に来た時にも言われたあの言葉を反芻しながら。今すぐタブラを制御できずとも、出来ることをやろうと心に誓ったのだった。
夕哉の!今日のカード紹介!
今日のカードは…《ベル=ゲルエール》!
墓地を2枚増やす2コストのカード。パワーは低いけどアビスラッシュですが帰って来れるから、ハイパーエナジーと相性がいいし、ダイレクトアタック役としても便利なんだ。このカードがなかったら、俺はシイノを止められなかったと思う。
次回、『真名月包囲戦・前』
真名月の企み、絶対止めてみせる!