デュエル・マスターズOverLord(オーバーロード) 作:シグレサメ
真名月にトドメを刺そうとしていたはずのパシフィック・ヒーローの身体が、突如バラバラに崩れ落ちた。間違いなく自分の勝ちのはずだった。得体の知れない事象への恐怖が流狼を包み込む。そうして冷や汗が頰を伝った瞬間、他の流狼のクリーチャー達も、バラバラと崩れ始めたのであった。
「な……なんで……!?俺は、トドメを刺して……!!」
「あぁ、だが悪夢神の力はその時発動する。《悪夢神バロム・ナイトメア》。この神は俺に最後の攻撃が通る時、山札の下がデーモン・コマンドであればそれを進化元に呼び出すことができる。その登場時効果は、デーモン・コマンドでないクリーチャーの超次元ゾーン行き。いわゆる別次元への追放だ」
「別次元への、追放……!?」
「あぁ、渡るだけではない、飛ばすこともできる。この意味がわかるか?」
「……わかりますよ、ターン、エンド…!!」
真名月 シールド0 マナ11
《悪夢神 バロム・ナイトメア》
流狼 シールド5 マナ5
「俺のターン。《死神の信徒 バーロウ・ビリーバー》2体、《魔令嬢バロメアレディ》、をバトルゾーンに。ビリーバーの効果で墓地とマナを増やし、バロメアレディで墓地2枚をマナに」
真名月はテンポ良くカードを展開していく。その動きとその正確なプレイングに、流狼はついていくので精一杯になっている。
「バロム・ナイトメアはその力の余りに、場に1体しか存在できないという弱点が存在するが……」
バロムが掌に力を集めて、大きな光弾を流狼のシールドに叩きつける。光弾の衝撃は凄まじく、シールドで守られていない2人の横にあった部屋のガラスや物達が、その衝撃で吹っ飛び、ぐちゃぐちゃになる。
流狼 シールド2
「ーーー!!……あれは、月の民達のもの……!!」
「デュエマに集中しろ、シールドトリガーはあるのか、ないのか!!」
流狼が何かを取りに行こうとするのを、真名月は見逃さない。
(今この戦いを終わらせるしかない!)
「シールドトリガー無し…!」
「ターンエンドだ」
自分のターンは今しかない。そう思った流狼はカードを全力で引き抜く。
「俺のターン!《ツイン・シックス》を召喚!それでハイパーエナジーを発動し……!?もう、クリーチャーがタップしている!?」
「バロムナイトメアのもう一つの力だ。バロムナイトメアがタップしている間、相対する者の力を吸い取り、タップ状態にして這いつくばらせることができる」
「そんな無茶苦茶な…!」
「まだ何かできるか?」
「……!パシフィック・チャンピオンを3マナで召喚!ターンエンド!」
「成程、ジャストダイバーしかいない状態にして攻撃先を作らない、リスク無しでタップさせないというわけか。流石だな」
流狼は分かっていた。この状況になった時点で、『シールドトリガーのクリーチャーに頼らざるを得なくなった』時点で、自分の負けである。しかし飛水達が逃げ切るまで、下で戦う民達が逃げ切るまで、ここから一歩も引くわけには行かなかった。
「………」
「流狼。最後通告だ」
「………」
「お前はこの世界の人間たちに惑わされただけだ。魔誕が成立すれば、世界は全て俺たちの元へと戻る。そうすれば終わりになる。分かっているんだろう?」
「……真名月様は、この世界の食べ物をどれだけ食べましたか」
「知らないな。お前に文化の編纂は任せていたからな」
「美味しいんですよ。どれも。文化の中で、限られた環境で、自分達が最大限に生きられるように美味しいものが作られるんです。そして時代が進み、文化が混ざっているんです。こんなにもたくさんの文化が混ざった世界を、俺は他に知りません」
「だからなんだ」
「それを食べれば分かります。そこの文化を持つ人々と触れ合えば分かります。ただただ滅ぼすだけでは分からないことが、簡単に滅ぼしてはいけないということが、この世界にいて分かったんです」
「………」
「音楽は最高でした。人々の考えや気持ちが、旋律に乗って生み出される。作った歌を他の人間が歌ったとしても、それぞれの考える曲の像がある」
「それは他の世界にもあったことだろう」
「はい。でも、彼らと会って思ったんです。今まで滅ぼしてきた世界にも、きっとこのように文化として大成することはできたはずだった。自分のためだけに踏み躙るのは、些か自分勝手がすぎると」
「それがお前の本音か」
「青海飛水だけだからじゃない、月の民だけだからでもない。それが俺の結論です」
真名月は深くため息をついた。そして次の瞬間、流狼のクリーチャー達は、またも吹っ飛ばされていた。
「《悪魔神バロム・クエイク》。デーモン・コマンドでないクリーチャーを全て破壊する。残念だよ、流狼」
「ハァ、ハァ……!!」
「バロメアレディでシールドを攻撃」
バロメアレディが鞭を持って流狼に走り寄ってくる。
「こいつの攻撃時能力を、まだ使っていなかったな。こいつの攻撃時能力はマナゾーン枚数以下の《バロム》と名のつくカードを、マナから呼び出す力。呼び出すのは……」
「「《悪魔神 ドルバロム》(……!)」」
流狼 シールド0 マナ0
「シールドトリガー……!」
「《終止の時計(ドゥームズデイ) ザ・ミュート》か。出せればまだ、反逆の目はあったかも知れないな」
「真名……月…様……!」
「残念だよ、仕方なかったんだ」
そう言って真名月は倒れる流狼に目もくれず、横で倒れ伏すフミビロムの頭に腕を突っ込んだ。
「この脳と《邪脳の魔法陣》を合わせれば、完成する」
「まさか、魔誕は……!俺たちの犠牲ありきの……!!」
「この世界に来た時点では予期していなかったことだ。運が悪かったということだ。ジャシン、ボルシャック、ゴルドラン。これらを俺たちは乗り越えなければならなかった。しかし安心しろ、この世界の生き残りを使い、新たな四天王を作り、仕事を引き継がせる。そうすればお前らはいつまでも、いつまでも語り継がれる」
「それは……!貴方の……、ただの傀儡だ……!!」
「そうかもしれないな。だが、魔誕したバロム様がいる限り、月の民は安泰となる。いずれ月の民はまた大きく繁栄する。その為の一時的な犠牲は、いずれバロム様も許してくれるだろう」
「狂ってる……!!狂って、どこまでいくつもりですか!!?」
「……残念だよ。バロム・ナイトメアで」
「……!!」
「トドメだ」
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「2人とも、大丈夫だった!?」
その頃夕哉と御白はジャブラッドやカオスマントラに生き残りの月の民達を担がせて、緑とシイノに預けていた。
「うん、流石に10連戦は疲れたけど……」
「さっき、上から大きな音がしたんです、飛水くんとは連絡が取れないですし…。大丈夫なんでしょうか…?」
「ひすいなら自分で解決できなかったら逃げてると思う。でもとりあえず、この人たちを運べばいいんだね。ゴルファンタジスタ、ボクも手伝うよ」
「ファー、頼んだ」
「わたしが続けてナビゲートする、もう1回行けそう?」
「うん、真名月を止めるって言う一番大事なことが、まだ残ってる」
夕哉と御白は緑とその相棒を見送りながら再度屋敷の方に向き直った。そして腕を振りながらこちらに向けて走ってくる誰かの姿を見つけた。
「飛水!?大丈夫だった!?」
「怪我してます、シイノさん、すぐに手当を!」
そこまで2人が言った時、飛水が何かを伝えようとしていることに気づいた。耳を澄ませて飛水の話している言葉を聞き取ろうとした瞬間…
「逃げろ!!!」
突如爆音が耳をつんざき、大量の瓦礫が飛水の後ろから飛んでくる。
(不味い、飛水……!)
それを御白よりほんの少しだけ早く認識した夕哉がジャブラッドに指示を出そうとするが、声を出す前にもう瓦礫が飛水のすぐ後ろまで迫ってきており、自分にも瓦礫が迫ってきていた。
ゴッ……!
シイノが呼び出したベートーベンと、御白が呼び出したゴルドランが瓦礫が吹き飛ばし、視界が晴れた際に夕哉と御白が見た景色は、ジャシンが飛水の背中を、瓦礫を受け止めることで守っていた光景だった。
「夕哉、まずは自分を守って、怪我人が増えたら洒落にならない!」
「ごめん、シイノ……!」
「何が起きてるか分からない、早く撤退すべき!」
「分かった、飛水!ジャシン!!」
「俺は大丈夫だ、少し擦っただけ……!いや、ちょっとキツイかもな。でも、ジャシンは…」
「瓦礫などが崩れて放射状になる前に余が受け止めればいいと思っただけだ、造作もない」
「ありがとう、気づいた時には間に合わなかった!本当に、ありがとう……!」
「すまないジャシン、俺のせいでこんな…」
「チッ……」
ジャシンには分からなかった。デパートが崩れかけた時に身を挺した時に続き、またもなぜこのような行動を取ったのか。自分の意思に反する行動を取った。他の方法で夕哉達を怪我こそさせてしまうが死なさずに助ける方法はあった。何より完全復活のために死んではいけないのは夕哉だけである。考えれば考えるほど自分の損得からかけ離れていくその行動に、ジャシンはまるでもう1人の自分がいるかのような、そんな感覚を味わうのだった。
「夕哉くん、あれ!」
夕哉とジャシンは御白の言葉で元あった建物の方を向く。屋敷は本当に廃墟となり、そこにあったものは残さず壊れてしまったようであった。そして何より、そこには黒のズボンを履き、上裸の状態で心地良さそうに風を受ける真名月の姿があった。
「……真名月…!?」
「黒井夕哉、久しぶりだな。俺は今とてもいい気分だ。後は魔誕を完成させ、ワルドバロムを呼び出すだけだからな」
そう言って真名月は近くにあったボロボロの黒い布を取り、マントのように自分の背中にかけた。風に揺れ不気味に揺らぐ真名月の姿に、その場にいた4人とクリーチャー達はジャシンを除いて固まってしまう。
「……おい、流狼はどこに行ったんだよ!」
「ここだ。残りの3人もここにいる」
そう言って真名月は腹をさする。その意図を理解した飛水は絶句する。
「お前!仲間をどう思ってー」
「この身体とバロム・ナイトメアを魔誕に使うのが一番早い。ワルドバロムが魔誕するまでの犠牲は仕方がなかったものだ。俺は諦めた。流狼達のことを忘れず、流狼達のような理想の四天王をまた作り上げる」
「お前、本当に……!!」
「黒井夕哉、お前もデッキを組み替えながら、使える仲間だけを残す。それと何が違う?」
「違う!使わなくなったとしても、それと戦った思い出や気持ちは消えない!」
「あぁ、俺も消えたことはないさ。だから恨んでいるんだよ。仲間を奪い、ワルドバロム、魔誕に手を出さなければならなくした……」
「人間どもに!!!」
後ろからバロム・ナイトメアが現れ、強い闇のオーラで夕哉達は吹っ飛ばされそうになる、必死で踏ん張ろうとするが、ジャシンが横で血を吐き、手をつく。
「ジャシン!?ハイパーモードも無しに無茶をしたから!!」
「チィ、こんなもの、無茶にも入らな……」
「駄目だジャシン、手負いの状態じゃ真名月に勝てない!」
「貴様、余が勝てないというのか!」
「違う、今は……」
「ワルドバロム如き、余1人の力で……!!」
そう言い合う夕哉とジャシンに、御白が声をかける。
「夕哉くん、私達が行ってきます」
「ワルドバロムは、魔誕は、僕達が止めます」
そう言って御白は真名月に向かい合う。
「さぁ勝負です、真名月さん!!」
「デュエマ、スタート!」
「……魔誕のいい贄になりそうだ」
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御白はこの日、兄の白都にだけ少し出かけるといって家を出て行った。父の灰理(かいり)と、母の莉穂がいる家は居心地が悪かった。
かぐらの事件は公輝達が必死に表沙汰にならないように立ち回ったし、それで何か特別扱いされるのも良くないと御白が行ったのもあっただった。しかし夕哉が白都の前でクリーチャーの力を使わざるを得なかったのもあり、彼だけは少しだけ秘密を知っていたのだ。
「白都、御白はどこ行った」
「出かけました」
「外出?どこにだ」
「…図書館に、勉強しにいくと言っていました」
「嘘をつくな、こんな朝早くに図書館が開いているわけないだろう」
台所で料理をしていた莉穂も、異変を察知して白都の方にやってくる。
「嘘をついているな、何故だ」
「……御白は、御白にしかできないことをやっています」
「どういうことだ」
「お金にはなりません。きっとこれからも。ですがあいつはそれをやる必要が絶対にあると思っているはずです。そうでなければ、早起きの苦手な御白が、こんな早く起きませんから」
「……あの奇妙なことが起きた日、お前は何を知った?」
「それは……」
『臨時ニュースをお伝えします。皇龍駅で、高さ10m程の大きな光の柱が立ち上っています』
光屋家の朝のルーティンである地域のニュース、そのキャスターが突然物々しい言い回しで喋り始めた。
『この光の柱は触っても無害ということですが、念のため皆様、できる限り近づかないようにお願いいたします。…!続報が入ってきました。ヘリコプターで取材をしている記者によると、その他にも皇龍市の様々なところで光の柱が立ち上り始めており、一つの大きな星形を模っていると言われています」
「なんだ、何が起きている!」
灰理はすぐに電話を繋ぎ、部下に状態を確認させる。
「はい、ニュースで言っている通りです、規模は小さいですが、光が星を模っています、五芒星です、それが……!」
「御白がいない時に限ってこんなことが起きるか…!」
「灰理さん。社屋に向かう準備を」
「あぁ、白都も急いで……」
「大変です社長!五芒星の中にいた人間が、中で御白様を見たと報告しています!!」
「何だと……!?」
御白の、今日のカード紹介!
今日のカードは…《悪夢神 バロム・ナイトメア》!
相手にトドメを刺される時に手札から発動し、山札下が進化でないデーモン・コマンドなら効果成立。相手を全て超次元ゾーンに吹っ飛ばすとんでもない効果を持ちます!しかも自身がタップしていれば相手クリーチャーはタップして出る効果もあります。こんなバロムが、まだ強くなるっていうんですか……!?
次回、『金の天使と虹の悪魔』
いえ、負けるわけにはいきません!