デュエル・マスターズOverLord(オーバーロード)   作:シグレサメ

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御白はワルドバロムを止めるため真名月に立ち向かうが、ワルドバロムの魔誕を止められず、デュエルに敗北してしまう。それを助けに来た夕哉ごとワルドバロムは街を焼き払い、皇龍市は普通の状態ではいられなくなったのだった。


悪魔神、復活編
最悪を逆転せよ・前


 

『現在、皇龍市にて正体不明のモンスターが現れ、街中を徘徊しています、自治体の指示に従い、早急に避難してください。繰り返します、早急に避難してください』

 

飛水とシイノ、緑は皇龍警察署に避難していた。公輝と遥風(はるか)の警察に籍を置く人間が作戦に参加していたことで3人はすんなりと警察署で休息を取ることができたが、その状態でも気が気でなく、まるで休むことができなかった。

 

テレビが物々しく、クリーチャー達がこちらの世界で暴れ回っているのを伝えている。今はまだ食料などを漁っている最中らしく、人的被害は出ていないらしいが、もし人間がクリーチャーを刺激してしまえば?カクメイジンやゴルファンタジスタを相棒にするまでの冒険で飛水と緑の2人は嫌と言うほど知っている。

 

ワルドバロムが魔誕した後の足取りが掴めないのも問題だった。魔誕の跡地にはボロボロになった月の民のアジトがあるだけで、まるで手がかりが見つからないと公輝はため息をついていた。そして何より、夕哉と御白が見つからない。夕哉と御白、シイノのおかげで魔誕の際に一般人の被害者は出なかったものの、夕哉と御白の不在、生死すら不明な状態は3人にとって重くのしかかるものだった。

 

「……ねぇひすい。皆、大丈夫なのかな…」

「……わかんねぇよ。わからないことが多すぎる」

「ごめんなさい2人とも。わたしが2人を守れなかったから…」

「仕方ないよ。多分もしいたとしても……」

「あぁ、行方不明が3人になってたってオチだ。何より今は……」

 

飛水は窓の外を覗く。クリーチャー、デーモン・コマンド達が闊歩しており、まともに外に出られた状態ではない。自発的に動く方法もない。そう思いため息をついた時、扉が開く音がした。

「公輝さんは暫く一般人の避難に回ります。人々を皇龍市の外に出して、真名月を皇龍市でトドメを刺すと言う計画です」

 

遥風がそう言いながらやってきた。

「ふぇ?でも、ゆうやもみしろもいないよ!」

「分かっています。ですがこのまま真名月を野放しにすれば、さらに状況は悪くなります。『今この時間』を最悪な状況にするために、どうか私達にもう一度力を貸してくれないでしょうか」

「……最悪な状況を終わりにする。それは大賛成ですけど、真名月が皇龍市にいるっていう根拠は、ここでもう一度戦えると言う根拠はどこにあるんですか」

「《邪幽 ジャガイスト》、夕哉さんが行方不明になる前に使っていたクリーチャーのカードが、今ここにあります。そしてこのクリーチャーは、今大人しくしています」

 

遥風がそう言ったのを見て緑と飛水は首を傾げる。しかしシイノがすぐに意図を理解して、こう続ける。

「指示を出すジャシンがいるから、大人しくしているということ?」

「その通りです、ですから少なくとも、ジャシンは無事です」

「でも、ジャシンは、アビスロイヤルは街中に溢れ出してない」

「はい、ですからジャシンが自由になったとも考えづらいです」

「じゃあ夕哉は!」

「はい、魔誕の中心にいた人間が生きているなら、御白さんも可能性がまだ残っています。生きている可能性があるというだけで、どんな状況かはわかりませんが」

「ねぇ、ジャシンがいるとなんでここに真名月が戻ってくるの?」

「最初にこの世界に来た時点で真っ先に無力化しようとしたのがジャシンなんだから、まだ息があるならとっとと倒しにくる。遥風さん達の推測が正しければ、考えてるほど状況は良くもないし、最悪ってわけでもないってことですね」

 

そう言って飛水は部屋にあったホワイトボードに、今の状況を書き出していく。

「今何かしら対応しなきゃいけないものは3つ」

 

・夕哉と光屋、ジャシンとゴルドランの安否確認

・街中の人の避難(これは公輝さんが対応中)

・真名月、ワルドバロムの手がかりを探す

 

「っていうことになりますよね」

「人間、訳がわからなすぎると逆に話が通りやすくなるんです。皇龍市内を避難させることは正路さんとその部署でどうにかなりましたが、他はどうしようもないのです。だからまだ戦える貴方達に、お願いしたいのです」

「ボク、ゆうやとみしろを探しにいくよ!シンベロムから教わった蔦を使って飛び回る技術があれば、街を一番早く回れると思う」

「分かりました、お願いいたします」

「……俺は月の民のアジトに戻ってみます、手がかりがあるとしたらそこしかない。手作業でも探していくしかないっすから」

「一番辛いし危ない役回りをさせますが、お願いいたします」

「わ、わたしは……」

「緑さんのサポートに入ってください。私はドローンで飛水さんをサポートします」

「ドローンで……?」

「ボクたちがクリーチャー世界を探検してた時、何度も助けてもらったんだ、信頼していいよ!!」

「……俺も助かります」

 

こう言って3人は準備に取り掛かった。全員クリーチャーの力を借りられるとはいえ、外はクリーチャーだらけである。万全の準備をした上で、いかなければならなかった。

 

「緑、シイノ。夕哉達を頼んだ」

「うん、飛水も気をつけて」

「気をつけて。わたしも、真名月達に世界をこれ以上メチャクチャにされたくない」

 

そう言って出かけていく3人を見送った遥風は、

「本当はもっと人生を楽しんでいい年頃なのに。なんでこんなにも神様は責任を載せるのでしょう……」

とため息をついた。そしてその後頰を両手で叩き、ドローンを久方ぶりに起動するのであった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

火奈にとってそのニュースは、まさに青天の霹靂だった。街に五芒星が現れ、そうなったかと思えば光が爆発。そして大量のクリーチャーが現れ、街には避難勧告が出されている。

 

「………」

 

火奈は持ち出し用のリュックの中身を吟味していた。勿論その中には、愛用していたボルシャックのデッキも。デュエマをすることはできる。必死に練習を続けてきたのだから。しかし実際にクリーチャーと戦うことはできない、真のデュエルのためには相棒がいなければクリーチャーを無力化することも自分の身を守ることもできない。

 

歯痒かった。恐らく飛水達は街のどこかで何か状況を好転させるための事をしているのだろう。自分だけが避難するという事、避難せざるを得ないということに、火奈は無力感に押し潰されそうになっていた。

 

「火奈、家を出るぞ!」

「………」

「火奈?」

「ごめんお父さん、先行ってて。絶対追いつくから」

「追いつくって。外にはモンスターが沢山いるんだぞ、1人じゃ危険だ」

「本当にごめんなさいお父さん。でも、信じて欲しいんだ」

「……火奈…!」

「……火奈に任せましょう。やることがあるんでしょ?それを終わらせてから来なさい。連絡はいつでも待ってるわ」

「ありがとう、お母さん」

 

自分の母が決死の覚悟でこの言葉を言ったのは、火奈には痛いほど伝わってきた。

 

「ねぇカイザー。あたしがカイザーと別れてから、皆ずっと苦しんでる。真名月は強いらしくて、学校とかで見ても御白ちゃん達の笑顔が減ってた」

 

「飛水や緑が一緒にデュエマをしてくれてさ、沢山勉強したけど、今あたしだけあの場所にいない。夢だったら覚めて欲しいよね、こんな最悪な状況も、あたしだけが動けないこんな状況も」

 

火奈はどこへとなく歩き出した。導かれていたのかもしれない。自分がカイザーと会った時、人を助けるため、自分のなりたい自分になるため走り出した時も、自分のやりたいこと、やるべきだと思った直感を信じていた。

 

「ねぇカイザー。あたし、皆を信じてないわけじゃないよ。でも、きっと、それで皆に任せて、何もできなかったら、本当に皆が負けちゃったら、あたし、死ぬまで後悔し続けると思う」

 

「だから本当に……。あたしは、少しでも……」

 

そう彷徨っていた火奈の眼前に、逃げ遅れた小学生くらいの少女が、クリーチャーに爪を立てられている光景が現れる。少女はスカートがフェンスに引っかかって逃げられなかった。その光景を見た火奈は、次の瞬間にはもう走り出していた。

 

「ダメーー!!」

 

自分も少女も助かる保証なんてどこにもない。最悪、共倒れの可能性もある。しかし火奈は躊躇することはなくその足をさらに前へと進めていく。

 

(ごめんお父さん、お母さん……!ごめん御白ちゃん、飛水、夕哉、緑……!カイザー……!!)

 

「あたし、やっぱり皆を助けたい!!!」

 

一瞬、ほんの一瞬だけ、火奈のリュックが光った。暖かい、春の木漏れ日のような光。それにクリーチャーが怯んだ時間を使って、火奈は少女のスカートの先端を破く形でフェンスから引き剥がし、少女を背負って避難所に向けて走り出した。

 

気づかなかった訳がない。しかしそれでもそこで少女を守ることを放棄してしまったら、その奇跡も無かったことになってしまう。そう思った火奈は走り続けたのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

緑とシイノの2人はクリーチャーの力を使い、皇龍市中を走り回っていた。避難勧告から3時間ほど経っている。人はまばらに見たがやはり殆どは市外へと向かっていったらしい。

 

「シイノ、少し休憩する?」

「うぅん、まだ動ける」

「分かった、行こう」

 

そう言って次の所へ向かおうとしたところに、緑は中背の男が何かが運んでいるのを見た。まだ市内に人がいるのか、そう思って近寄ると、こちらを発見した途端に逃げ出した。

 

「なんだろう、今こんなところに人が…?」

「多分、ゴルファンタジスタを見たからクリーチャーと仲間なんだと思われたんだと思う」

「そっか、デーモン・コマンドもゴルファンタジスタも、知らない人から見たら変わらないよね」

 

そう言って緑はゴルファンタジスタをしまい、先程の男を尾行していった。

「ねぇ、ここって……」

「わたしも知ってる。夕花と出かけた時に教えてもらった」

 

尾行した先にあったのは夕花も入院していた皇龍病院だった。空は夕暮れを映し出していて、男はそこに箱を運び込んでいた。

「中で何かを蓄えているのかも」

「蓄えてるって?」

「病院は早めにヘリが来て大体避難できたらしいけど、それを知らずに逃げ遅れた人が拠点にしてるんだと思う」

「なるほど…。シイノ頭いいね」

「クリーチャーに入られたら終わりなのには変わりない。早く避難するように言わないと」

 

2人は慎重に病院へ入っていった。本当に避難は終わっているようで、受付などに人はいなかったが、ツカツカと人が慌ただしく移動する音が上の階から聞こえる。それを認めた緑とシイノは、慎重に上の階へと登っていく。いつしか足音は止んでおり、奥の部屋から光が漏れている。

 

「ねぇ、音が止んだよ?」

「警戒されてる。クリーチャーをいつでも出せるようにして」

「うん」

 

そう言って2人はまた慎重に歩を進めていく。そして光が漏れている部屋の前に辿り着いた。そして扉を開けようとしたその時……

 

「貴様ら、何をしている?」

「うわぁぁあ!?」「きゃぁあ!?」

 

2人の後ろから男の低い声が聞こえた。驚いて後ろを振り向くと全身を黒い布で包んだ3mはあろう大男が立っており、緑達はそのまま腰を抜かしてしまった。

 

その声を聞いてやってきた部屋の主が扉を開けて、2人に懐中電灯を当てる。

「物資狙いの人か。今ここは怪我人がいる。物資を分けたらこの場を立ち去ってくれ」

「いや待て、こやつらは役に立つはずだ、部屋の中に入れてやれ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「夕哉、御白……!?」

「嘘、なんで2人が……!?」

「御白の知り合いなのか、君たちは」

「はい、友達です。でも、今はどういう……」

 

男に代わって先程の黒布の大男が説明を代わる。

「こやつらはクリーチャーによって大怪我を負い、ここに運んできた。そこに光屋御白の父親と母親を名乗る人間が様子を見にきたため、経過を見てもらっている」

「あぁ、光屋灰理(かいり)だ、よろしく頼む」

 

やけに詳しい説明をする大男に、緑が持ち前の天然を発動した。

「そっかぁ、ゆうや達を運んできてくれてありがとう!でもニュースではモンスターとしか言ってないはずなのに、なんでクリーチャーだって分かったの?」

「……こやつらが教えてくれた。こやつらはデュエマというカードゲームのクリーチャーに詳しいらしい」

「え、ベルさん、そんなことは全然……」

「ウォッホン!」

「あ、はい、私が教えたんです」

(アビスベルの『ベル』なんだ……)

 

正体に勘づいたシイノがそんな風に考えている中、扉が開き灰理の妻である莉穂が入ってきた。

「駄目だわ、お医者さんは来れないそうよ」

「そうだろうな……。白都、言ったものは取ってきたか」

「はい、お父様。これで治ればいいんですが…」

 

白都から受け取った物資を使い、灰理がテンポ良く2人の処置をしていく中で、緑が先程からの質問を投げかける。

「灰理さん、凄く処置が丁寧」

「大学の頃、ボランティアに参加していた。昔取った杵柄だ」

「ねぇ、ゆうや達、今どんな感じなの?」

「……正直、2人とも良いとは言えない。あの大爆発をまともに喰らう場所にいたらしい。なんでそんな場所に2人でいたのかはともかくとして…。2人を外に運び出すのも厳しいだろう……」

 

そこまで言って、灰理の眼から涙が流れ出した。

「神よ、何故御白なのだ。何故御白を奪っていくのだ。このままでは会社も得体の知れない化け物に乗っ取られるかも知れない」

(この人、あれらがクリーチャーだって知らないの?)

(だってあれ、マシンに実装されてないクリーチャー達だし)

 

「デュエマなんて許さなければ良かった。自由にさせなければ良かった。そうすれば少なくとも、こんな絶望を味わわなくて済んだというのに……」

 

そこまで言ったところで、大男がバンと机を叩いて突然立ち上がった。

「絶望だと?貴様のような者が軽々しく絶望と口にするな。絶望を味合わせるのは世界でただ1人、余が支配する世の中だ。まだ立ち向かえる、立ち向かって打ち倒すことができる相手に屈服するなど、片腹痛いわ!!」

「……ベル…さん……!?」

 

「緑」

「ゴルファンタジスタ?」

「これ、あの後自然文明中を回って1つだけ見つけてきた。使うか?」

 

「貴様らが絶望と言っているものは本当に絶望なのか考えたことはあるのか?余は何度も絶望と呼ばれるものを打ち崩し、余が絶望そのものとなってきた。貴様らが諦めるだけで終わるほど、こやつらの命は軽くないわ!!」

「ねぇベルさん。ヒーリスっていう植物は知ってる?」

「ふん、黒井夕花の病気を治すため、貴様らと一緒に取りに行っただろう、どんな怪我や病気も治す強力な薬草だ……ゴホンゴホン、そんなものは知らぬ!!」

(ジャシン、もうボロが出まくってる)

 

大男のその魅力的な説明に、灰理は食いついた。話の流れを、これから起こることを理解した白都は、一足先に席を外していた。

「なんだその植物は?どんな怪我でも治す?」

「うん。でもお薬の形じゃないから、ゆうやとみしろ次第だと思う。しかも1つしかないから、2つに分けて使うしかないんだ」

「そんな、御白にだけ使えないのか」

「駄目!」

「な……」

「灰理さんにとっては特別じゃなくても、ボク達にとってゆうやもみしろも大事な人なんだ。どっちを失うか決めるなんて、僕にはできない」

「だが、効き目が薄くなるんじゃないか!?1/2にしたら、どちらにも効かない可能性が……」

「灰理さん。任せましょう。お願いできるかしら?緑くん」

「……ありがとうございます!」

「わたしがこの後の作業を引き継ぐ。お姉ちゃん達とやったことがあるから」

 

緑がヒーリスの準備をしている間、シイノは夕哉達の処置の準備をしていた。そうしている最中に、灰理がシイノに問いかけた。

「私は、御白のことしか知らなかった。いや、御白のことも知らなかったのかも知れない」

「夕哉も御白も、凄く家族のことが大好きだから。友達のことも大好きだし、そうじゃなくても手を差し出すと思う。だからすぐ無茶をしていくんだと思う」

「まさか、あの爆発は……」

「2人が止めようとしてた。でも止められなかった」

「………」

「……私も同罪です、灰理さん」

「……莉穂、慰めはいい」

 

「準備できたよ、シイノ!」

そう言って緑は夕哉達の患部にヒーリスを当てていった。ゴルファンタジスタに影で教えてもらいながら緑とシイノが懸命に処置をしていく中、灰理は目を伏せることしかできなかった。




飛水の!今日のカード紹介!
今日のカードは…《悪魔世界ワルドバロム》。進化元の数だけ強化される進化クリーチャーで、1枚、3枚、5枚と増えるほど、全手札破壊、攻撃時選んだ文明のクリーチャーを全て破壊、相手のマナゾーンからマナが使えなくなる、の3つの攻撃を行うことができる。あんな無茶苦茶なクリーチャー、どう止めれば良いんだよ……。
次回、『最悪を逆転せよ・後』
……弱音吐いてる場合じゃねぇよな。
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