デュエル・マスターズOverLord(オーバーロード) 作:シグレサメ
そこに月の民のアジトと言えるようなものはまるでなく、あるのはただの廃墟だった。辛うじて建物が残っている程度で、いつ崩れるか分かったものではない。見れば見るほど、これを起こした真名月とワルドバロムの強さ、行方不明の夕哉と御白のことを思い、気が重くなる。
「……つっても、ここで止まったら話にならんよな」
飛水は周りをカクメイジンとDracheに任せ、辛うじて残っている瓦礫をどかし始めた。どれもこれも焼け焦げており、まともに情報を読み取れるものがない。それでも飛水は懸命に、ものを片付け始めた。
1時間ほど経った。
『飛水さん、そろそろ休憩されてはいかがでしょうか』
「……。休んでも、休める気がしないと思います、そういう気持ちなんですよ」
「分かっています。それでも私にできるのはこういうことだけですから」
作業をする手を止めないながらも、飛水は話し続ける。
「話しながら作業してても良いですか」
「はい、良いですよ」
「俺、デュエマも音楽も大好きなんすよ。大好きなんすけど……」
「はい」
「最近、色々起こりすぎて。かといって戻るには先に進みすぎてる、色々やりすぎている気がして」
「はい」
「知らない方が幸せだったんじゃないかって思う時があります」
「そうかもしれませんね」
「否定しないんすね」
「否定するものでも無いですから。後悔してる人に後悔しない方がいいというのは中々酷じゃないですか」
「……確かにそうっすね」
飛水は久しぶりに笑った。ずっと酷いことばかりだったが、それでもまだ進めると思った。
「……1年前の私に今の私を伝えたら、きっと笑われてしまいます。それくらい今の状況は荒唐無稽ですから」
「まぁ、デュエマも知らなかったくらいでしたからね」
「今となってはツンとした態度もとっていてお恥ずかしいです。あの時は折角警察に入れたのにこんな子供達のお守りなんておかしいだろ、こなくそー!って気持ちだったんですよ?」
「うわぁ突然人に言えないこと押し付けないでくださいよ」
「ふふ、お願いします。でも、クリーチャー世界が実際にあることを自分の目、ドローンでですけど確認して、自分の知ってることがどれだけ狭いのかを学ばされました」
「そうなんすね」
飛水がそうやって物を片付けていると、何か固いものに当たる感覚がした。それを掘り起こしてみると、それはただの建物の床の残骸ように見えた。しかし床にしては硬い。なにより、凄く綺麗な状態で残っていた。
「遥風さん、これどう思いますか」
「どう考えても隠し部屋だと思います。周りより頑丈に作られているから、こんな風に残ったのでしょう」
「……入っていいすか」
「はい、私の眼から離れない所で」
飛水は懐中電灯をつけて、地下室へと入っていく。
『凄く頑丈に作られていますね。こちらの世界にはない材質です、細心の注意を払ってください』
「よっぽど大事なものがしまわれてるんですかね…。さて……」
飛水は中にある様々な物を見ていく。整頓された様々な歴史書や文化史が並んでいる。間違いなく、流狼が編纂した物だった。
「成程……」
『本をできる限り取り出しましょうか?』
「そんなことしたら目立つと思うんで、大事なのを2〜3冊持っていくのが限度かなと。帰りも身軽じゃなきゃなので」
『分かりました』
しかし殆どの字を飛水と遥風は読むことができなかった。月の民が元々使っていた言語しか使われていないため、解読をここでするのは不可能だった。
「……シイノのタブラ=ラーサ、言葉の壁を乗り越えるってめちゃくちゃ強いんすよね……」
『仕方ないです。保護している月の民の方に聞くしかありません』
「分かりました、とりあえず適当なのを2〜3冊……」
そう言って飛水が壁を触って立ち上がった時、突然壁が回転し飛水は壁の奥に弾き飛ばされた。
『飛水さん!?』
「大丈夫です、仕掛け扉に引っかかっただけです」
『カメラを見て仕掛けを確認します、指示を出すまで派手に動かないでください』
「分かりました」
飛水はそう言って周りを見渡した。懐中電灯で部屋の全体像を掴もうとしていると、銀色に光る箱が、飛水の目につく。
「これ、金庫か?」
金庫にしては少し大きかった。少なくとも現金でないことは、何となく想像がついた。真名月が管理しているのが想像がつく上、短期間で世界を支配する月の民に現地の金は無用の長物だ。
「まぁ、思ったより長期戦になると思ってへそくりを貯めた可能性があるが……」
そう言って飛水は金庫に近づく。金庫には横線が5本引かれており、そこに大量の丸や線が横線の上や間に夥しく付けられていた。気味悪く感じた飛水だったが、流狼が考えなしにそういうことをする者ではないと気を取り直し観察すると、一つピンとくる考えに辿り着いた。
「……これ、楽譜か?」
飛水はそう言って楽譜を読み始めた。大方それに対応する音符と対応する数字だろうと書き始めると、簡単に金庫が開いたのだった。
「簡単すぎるなこれ…。いや、月の民はこの世界の楽譜を知らないから、いいロックになるのか。でも……」
中身を開くと、1冊の本と、1枚の紙が入っていた。
『飛水。今君がこれを読んでいることを祈ってるよ。そしてこれを君が読んでるということは、僕たちは負けたか、真名月が何かをした後なんだろうね』
「……流狼さんからの…手紙……!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
緑がヒーリスを2人に投与してから1時間が過ぎた。シイノと力を合わせて懸命に処置をしていたものの、流石に2人の顔に疲れが目立ち始めていた頃だった。
「……みど、り…くん……?」
「御白、目を覚ました!」
その声に休んでいた光屋家の人々も飛び起きる。御白は朧げながらも目を開き、手を緑に伸ばした。
「お兄様…、お父様、お母様?」
「御白!」
灰理が御白のベッドに駆け寄った。
「良かった、良かった……!御白の命が、助かってくれて……!」
「私、ワルドバロムに負けて……。あ、ゴルドランさんは!?夕哉くんは!?」
御白はカードの中のゴルドランを見る。カードから絵は消えており力を失っているようであったが、ボルシャックカイザーのカードのように白紙にはなっていない。
「御白さん」
「ゴルドランさん!」
「確かにあれで大きな痛手は負いましたが、死ぬほどのものではありませんでした。何より、夕哉さん諸共誰かが庇ってくれたのです」
「そうなんですね……。もしかして、お父様達が助けてくれたんですか?」
「いや、あのベルさんという人が助けてくれたのだ、私達は彼がいなかったら、御白を失っていた…!」
「そうなん、ですね……。ジャシンさん、そろそろフードを外してもいいんじゃないですか?」
「ぐぬっ!?」
「ジャシン!?」
大男いや、ジャシンは突然御白に正体を言い当てられて驚く。緑も驚いて声を出しそうになっていたのだが、それはシイノが先んじて口を手で塞いで止めた。
「ジャシンって、神話とかにいるような邪神か。そんなものが、御白を助けたと……?」
「お父様が想像するような邪神じゃありませんよ、クリーチャーですから。確かに悪いことはしてますけど、夕哉くんとはいいコンビです」
「夕哉とコンビ扱いされるとはな」
「少なくとも、今この時間はそうです」
ジャシンは観念してフードを取る。灰理は驚いたが、それ以上に聞きたいことがあった。
「ベルさん、貴方は、黒井夕哉の相棒な貴方が、何故御白まで助けてくれたのですか」
「……フン、奴は犠牲を嫌うくせに、自分が苦しむ解決策は第一の選択肢に入れてくる。あの時夕哉は御白の前に出て、また自分が犠牲になろうとしていた。そんな奴に力の一端を預けざるを得ない以上、夕哉の大事な人間も助けなければ奴は再び立ち上がれなくなる」
「ジャシン、私のことも治療したのか」
「ニンゲンは分からぬが、クリーチャーならわかる。闇のマナを少しずつ注入し、貴様を自壊させない程度にエネルギーという形で与えた」
「……恩に切る、ジャシン」
ジャシンはそのように言ったし、実際そのように思い込んでいた。しかしワルドバロムの攻撃に2人が巻き込まれたその時、ジャシンは何より、何かに突き動かされるように、2人を抱えて走り出し、ゴルドランを治療していた。理屈で説明できない以上、ジャシンはこういうしかなかったのだった。
「御白、黒井夕哉とはどんな人間だ。ジャシンとは何だ。俺はこのまま知らないと引き下がれないぞ」
「はい、お父様。夕哉くんは……優しくて、危なっかしい人です。凄く勉強をわかりやすく教えてくれて、それ以外にもずっと気遣ってくれて。あとご飯も美味しいんです。たまに作ってくれる料理が……」
「いや御白、そういう話もいいが……その……」
「御白、話を纏めてくれ。俺たちに、何が起きてるか」
白都が無自覚な惚気話を聞かされる灰理を少しだけ可哀想だと思いながらも、御白に本題に戻させる。
「は、はい!えっと……。今、真名月という悪い人が、世界を奪い取ろうとしています。私が負けたワルドバロムは、最悪の場合世界を作り替えて、皆を奴隷みたいにするはずです」
「……デュエマはゲームの中だけの存在だと思っていたが」
「ジャシンによると、クリーチャー達がいてほしいという気持ちが集まって、クリーチャーの世界ができたらしいです」
「そしてその力を徒に振り回すのが真名月という男というわけか」
「私は訳あってゴルドランさん、ドランさんと出会って、一緒に内緒で暮らしていました。それで時々クリーチャーの騒ぎがあった時に警察の方に教えてもらって戦っていたんですけど、負けてしまったんです」
「……そうか。黒井夕哉は、その上での仲間でもあった訳だな」
「はい、私の一番信頼できる友達です」
「お前の意思か、それは」
「……は、はい!」
「……なら良い」
そんな騒ぎを聞いて目が覚めたのか、いつも通りの御白の声を聞いたからなのか、もう1人の怪我人がむくりと体を起こした。
「夕哉!」
「……ジャシン?俺、確かワルドバロムの爆発に巻き込まれて…!」
「夕哉くん!!」「ゆうや!」「夕哉」
御白、緑、シイノの3人が夕哉のベッドに集まる。御白は流石にまだ起き上がれなかったが、顔を夕哉の方に向けてきらきらとした笑顔を向けていた。
「夢を見てたんだ、ジャシンに助けてもらう夢。本当に助かってるとは思わなかったけど…」
「その夢自体は正しかった」
「おいシイノ!余計なことを言うな!!」
「良かった、ゆうやもみしろも、無事だった……!」
「ごめん緑、心配かけて」
「夕哉くん!」
「御白」
「良かったです、本当に……!!」
「俺も、皆が無事で良かったよ」
「御白、そして少年少女達よ、話がある」
そんな風景を見ながら、灰理が夕哉達に声をかけた。特に御白は目を瞑った。怒られるのを覚悟していた。こんなに沢山の秘密を抱えて、今この時までしまっていたのだ。怒られないはずがないと思っていた。しかし灰理の言葉は意外なものだった。
「なら、もう一度戦い、勝って来い。光屋家は負けても勝つまで戦い続ける。そして最後は必ず、欲しいものを手に入れる。欲張ってこい」
「え……?」
「御白、そしてすまない。お前の負担も鑑みず、何も知らないで沢山の言葉を浴びせた。この言葉達の、私の罪は重い」
「そ、そんな、顔をあげてください、お父様!!」
「……だが、御白を育てるためのことは勿論やる。その為にはまず、御白達に世界を元に戻してもらわなければならない」
「………」
「頼めるか」
「……私はやります、元の楽しい世界で、また皆とデュエマをしたいです」
「君たちにも、申し訳ない」
「俺は、守りたい人が沢山いる。その上で、守りたい生活が沢山ある。俺は御白と違ってそんな小さなことしかできないけど、でも、絶対やり切ります」
「ボクは、この世界に引き戻してくれた皆に恩返しする。その為だったら、どこまでだって頑張れるよ」
「わたしは、元からそのつもりで来た。でも、そんな使命とかどうでも良いくらいに、私は夕哉達を助けたい」
「……ありがとう。子供に全てを押し付けて、本当にすまない」
4人が決意を新たにすると、ブロロロと車の音が聞こえてきた。玄関まで向かうと、夕哉達のよく知る男の顔が見えた。
「「公輝さん!」」
「遅れてすまない!クリーチャーたちを避けていたらこんな時間だ。緑くん達からの連絡でようやくヘリコプターを飛ばせた!市街の病院や避難所で君たちは一度休もう!御白さんのご家族も、早く!!」
「そうか、お前が御白を巻き込んだのか」
「え………」
「2人で話すのを楽しみにしている」
「違います、公輝さんはむしろ責任を取ってくれてて…!」
「それでも話したいことが山ほどある、来てくれるか?」
「は、はい……」
(こんなに弱腰な公輝さん初めて見た……)
そうは言いながらも夕哉達は、久方ぶりの安心感に身を委ねながら、ゆっくりと休んでいった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『まず、君には礼を言わなくちゃいけない。必死にデュエマをして、大好きな音楽をやって。それを見ていつしか俺は、君を応援したくなってしまったんだ』
流狼の手紙はこう書き出されていた。
『君のチャンネルをよく見てるよ。最近更新が止まっているのは俺たちのせいで、もし月の民が世界を手に入れたら、君の曲、EDMも二度と聞けない。そう思うと、ずっと今やっているのは正しいことかと迷っていたんだ』
「………」
『凄くそれが依怙贔屓であることにも気づいた。他に世界は沢山あって、飛水のような人もいたはずなのに、俺たちはそれを踏み躙った。だからもし俺が生き残って君たちが勝ったとしても、俺はその場には留まれないと思う』
「……折角仲良くなったじゃないすか。それを自分から断ち切るのも自分勝手ですよ……!」
『真名月を止める方法は、今となってはもうわからない。だから俺から君たちに送れるのは、少しの知恵と少しの勇気だけだ』
「少しの勇気?」
『まずは知恵。この金庫の中に月の民の歴程がある。それはバロムがどのように世界を渡ってきたかの変遷だ。月の民の生き残りがいるなら、読んでもらえると思う。そして勇気。金庫の奥に、もう一つ扉がある。そこを裏に書かれた順番で叩くと、それは入っている』
飛水は言われた通りの順番に叩く。そうすると扉はキイッと軋む音を立てて開いた。
「嘘、だろ……!あれ、受け取ってたのか……」
飛水が目にしたのは、トビウオと独楽として出会った時に、流狼が買っていたギターだった。しかもそれだけではなく、ギターは元の白色から青い海の色に塗られ、手入れは隅々までされている。つい最近まで使われていて、最高の状態で置かれていた形跡がある。更にピックやチューナーなどのギターを弾くのに欠かせない道具も揃い、まるで新たな主人を待つかのようにそこに鎮座していたのだった。
「おい……!いや、本当に……!」
飛水はそう言って流狼の手紙に目を落とした。
『これが君の夢への一助になることを祈る。そして、君が真名月達に立ち向かう為の勇気となることも。これで罪滅ぼしになるとは思っていない。ただ、君の音楽が聞こえた時、かぐらたちと一緒に聴きにいくつもりだ』
飛水の目から大粒の涙がポロポロと溢れ始めた。手紙はこれで終わっていた。直前になって、自分のやっていることは愚かだと手を引いてくれた。それだけでなく、自分と大好きなものを共有し、夢の後押しをしてくれた。
「……これで、負けちゃいけないよな!」
その時手紙の隙間から、ある1枚のカードが落ちる。それを拾い上げた飛水から、思わず笑顔が漏れたのであった。
『飛水さん、扉開きますよ!』
「……はい、お願いします!」
飛水はギターと本と、ある1枚のカードを持ち、皇龍市の外へと歩いて行った。
次回、『夜は共にあり』