デュエル・マスターズOverLord(オーバーロード) 作:シグレサメ
緑は走っていた。神谷神社にヘヴィデスメタルが残したマナがあり、それを元にしてクリーチャー達が儀式のためのマナを集めていると、遥風から連絡が入ったのだった。
神谷神社に到着した緑が見たものは、緑色に縁取られた鏡がたくさん置かれた光景。その奥によく目を凝らしてみると、件の魔法陣を形作る石も置いてあるのだった。ゴルファンタジスタは、
「ファー、手っ取り早く終わりそうだな」
と喜ぶが、緑は何か嫌な予感がしているのを感じていた。
緑がゆっくりと石の方に近づくと、パリンと後ろから鏡の割れる音が聞こえる。
「縁起悪りぃな。進むぞ、緑」
また1枚、また1枚と、鏡が割れていく。何かが近づいてきていると感じた緑は、足早に石の方に進もうとする。そしてその石を目の前にした時、鏡から手が伸びてきて、そのまま緑とゴルファンタジスタは鏡の中に飲み込まれた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ここは、哀しみの間」
暗い闇から、何かが聞こえてくる。ボクは目覚め、目が慣れてくると、だんだんと周りの様子が見えてくる。大量の垂れた葉が周りを覆い隠しているだけで、そこはただただ植物の溢れた場所みたいだった。
「でもこの植物、確か幻覚を見せるんじゃ……」
「よく知っているな。だが、そこにバロム様と真名月様の力が、哀しみの力が加われば」
葉をどかして開けた場所に出ると、クリーチャー達が色んなところで泣いてる。そのクリーチャー達に、ボクは寄ってみたんだけど、
「どうしていなくなったの、あなたぁ!」
「やめろ、俺は後悔してるんだ、あんなことを言って悪かったって!行かないでくれぇ!」
と、まるで話を聞いてくれない。
「ねぇ、これが幻覚を見せてるってことなの?」
「その通り。俺は《魔誕の獅子デスライガー》、この空間の主人だ」
暗い場所から、ヌッと大きな爪を持った獅子のようなクリーチャーが出てきた。それを追いかけようとした瞬間、ボクの周りからクリーチャー達が消え、ボクは赤ちゃんの姿になっていた。
「……なんで、幻覚にしたって、赤ちゃんに戻るなんて……」
「あぁ、これはお前の1番の悲しみ、それを記憶から読み取り、それを最悪の形で再現するためのものだ」
「1番の悲しみ?そんなもの、今のボクにはないよ!ゴルファンタジスタがいて、ゆうや達がいて……!」
「そうだな。だが、傷はそう簡単には癒えない」
そうデスライガーが言った瞬間、ボクは誰かに持ち上げられた。ボクは声を出そうとするけど、体も赤ちゃんに戻らされてるのか、喋れない。
「成程、お前の一番深い悲しみは、それか」
「まさか………!」
ボクは河川敷まで運ばれ、そこに架かる橋の下に置かれた。
「嫌だ、嫌だ……!!」
「すまない、『鄙?悚』」
「私たちにも、どうしようも……ごめんなさい、『鄙?悚』……」
ボクの、本当のお父さんとお母さん……?
(待ってよお父さん、お母さん、行かないでよ!行かないで!!!)
「ニンゲンにおいて家族は人格の形成に強く役立つと聞く。それがないニンゲンが、どれだけ取り繕っても、手に入らないものを追い続けることも」
(待ってよ!お父さん、お母さん!!何でボクを捨てたの!?何でボクは、いらなくなっちゃったの!?お願いだから、教えてよ……!!)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ここは、哀しみの間」
そう聞こえた時、俺様は自然文明にいた。
「なんだ、何が起きて……」
「ゴルファンタジスタ様ぁ!私たちの、私たちのぉ!」
「緑様が攫われました!きゃあ!!近くの森まで燃え始めてる!」
親様達のクラブハウスが燃えている。間違いない、どう考えても過去の俺だ、あの真沢(まざわ)が、俺たちのクラブハウスを燃やして、デュエリストとして適性のある緑を攫ったあの日だ。そして俺様は、あの後封印される。そこまで幻覚が織り込んでいるなら、最悪の事態すら考えられる。
「ファー、最悪だ、緑の安否すらわかんねぇ」
俺様は急いでクラブハウスの消化を始めることにした。しかし火は強くなるばかりで、火が弱まる気配すらない。
「なんでだよ、おい……」
「それはお前の記憶を元に作られた哀しみだからだ、その幻が変わることはない」
「だよな……ハードだぜ……あっつ!」
俺様はそのまま間違って噴き出した火の粉を喰らっちまった。だが、そこで違和感に気づく。
(熱く、ねぇな……?)
よくよく考えなくても、例えば怪我をした時に怪我をして痛かっただったり、痛みがあるような気がすることがあっても、そこに全く同じ痛みが来ることはそうない。つまり、この火事はただのハッタリだ。なんなら、それを形作れていないのなら、このクリーチャーの幻は大したことない、そう俺様は頭の中で考えた。
「おい緑!とっととここを出るぞ!ファーーー!!」
俺様はゴルフボールを全く出鱈目な方向に叩きつけ、幻の端っこを探す。すぐにボールが反射した場所を見つけた天才の俺様は、そこを思いっきりぶん殴り、幻を破壊した。
「そう何度も見せられて気分いいもんじゃねぇからな、お前をぶっ飛ばしてやるよ。緑、声が聞こえてるか!?早く出るぞ……!!」
「お前のような者には効かないようだが、お前の相棒には強く聞いたようだな」
「な……!?」
「お父さん……。お母さん……」
俺様はすぐに何の幻覚を見ているのかを察する。そして緑を揺すりながら、
「俺様だ、お前の親代わりのゴルファンタジスタ様だ!ほら、ファーだファー!分かるだろ、緑!!!」
「ボクの、本当のお父さんとお母さんは……」
分かってるさ、あくまで代わりでしかない。だが、だが……。
「俺様はお前に沢山の本当の愛を与えたつもりだ!勿論、お前の友達になってくれた奴らだってそうだ!!あいつらはちゃんとお前のことを見てくれてる!行ってる学校の連中だって優しくしてくれてるだろ!?お前は、お前自身の過去にちゃんと向き合って決別したんだ!本当の家族も、真沢との記憶も大事だろうが、最も大事なのは今に決まってるだろうが!!!」
俺様のそう叫んだ声は、ただただこの狭い空間を反響していくだけだった。
「だめ、なのかよ……」
その次の一瞬だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「うぅん、そんなことない」
空からゴルファンタジスタに聞き覚えのある声が聞こえる。
「緑、わたしも1人で寂しかったけど、今はそうじゃない。辛いのは埋まらなくても、哀しいのは変わらなくても、結局泣いてそれで何か変えられるわけじゃない。前を向かなきゃ、変わらない」
「お前、どこから!?」
デスライガーが叫ぶのを尻目に、無視したシイノが、上から必要なことを伝えてくる。
「早めに終わって救援に来た。ゴルファンタジスタがずっと叫んでくれてたおかげで罠の位置もわかって、早めに魔法陣と石を壊すことができた」
「待て、じゃあなぜお前は落ちてこない!?」
「簡単な話。来た場所が荒れきってたから、わたしは近付いていない。鏡の中の世界というより、光の反射を利用して下に掘った植物の群生地に誘導しただけ。植物を早く成長させる能力だけなら、自然文明の力だけで説明がつくから。それで今、タブラ=ラーサの能力を使って、その空間中で光を乱反射させているから」
「やめろ、そんなことをされたら……!」
「ぐっ……!光……!?」
緑は目覚め、体を起こす。その目の前には、少し下に穴を掘っていただけのデスライガーが目の前にいた。あの幻覚は嫌にリアルな体験だったが、体は元に戻っているし、声を出せる。
「あれ、声を出せる……!」
「幻覚作用が強すぎて、いわば金縛りの要領で声が出なくなっちまったんだろうな、外には聞こえてたが。何より、本当に怖かったんだろ?」
「うん……でも、ボク、許せないよ」
「何がだ?」
「ボクとゴルファンタジスタに酷い幻覚を見せて、戦わずに勝とうとするなんて、卑怯すぎる!何より、人の心を利用するのは、悪い人だから…!」
緑は有明や真沢のことを思い出しながら、その卑怯なデスライガーを睨みつける。
「俺は確実に勝てればそれで良かったんだがな。まぁいい、デュエマと行こうか」
「やるよ、ゴルファンタジスタ!」
「「デュエマ、スタート!」」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
緑 シールド5 マナ3
《キャディ・ビートル》、《アシステスト・シネラリア》
デスライガー シールド5 マナ4
始まった緑とデスライガーのデュエマは、緑はクリーチャーを出しながらの水自然火のマナを揃え、デスライガーはひたすらにマナを伸ばす水闇自然の立ち回り、《豊潤フォージュン》などを使って手札を減らさずマナを増やすのを見て、それによってお互いに睨み合いを続けていく。
「ボクのターン、4コストで《ヨビニオン・マルル》を召喚!出た時に山札をめくって、山札から《爆転の妖精(ベーゴマ・フェアリー)》をバトルゾーンに!」
緑が呼び出すヨビニオン・マルルは、とにかく仲間と協力するのが得意な妖精。スノーフェアリー使いの妖那(あやな)に、使い方を教えてもらっていたのだった。
「爆転の妖精はタップしてバトルゾーンに出て、攻撃するならこのクリーチャーに攻撃しないといけない。更にマルルの効果で2枚目のクリーチャーが出たので山札を捲り、マナゾーンへ置く。これでそのままシネラリアで攻撃!」
デスライガー シールド4
「トリガーは無い」
「さらにキャディで追撃!」
デスライガー シールド3
「トリガーは無しだ」
「ターンエンド!」
「ターン終了時、お前がマナをタップせずにクリーチャーを出したので、《流星のガイアッシュ・カイザー》をバトルゾーンに、カードを2枚引く」
「これくらいはあるよね……」
「私のターン、《終末王秘伝オリジナルフィナーレ》を5マナで詠唱。山上3枚からカードを2枚マナゾーンに置き、残りの1枚を手札に。そしてマナ枚数×1000のパワーマイナス(7000)を相手1体にかける。キャディを破壊。さらにガイアッシュで爆転の妖精を攻撃」
(マッハファイターで撮られるって分かってるから攻撃してきたんだ。多分、手札には多分2枚目がある。かと言って革命チェンジやメクレイドを使わずにガイアッシュカイザーを倒す方法もない)
緑はカードを引いて少し考えた末に、《超重龍(ブラックホール・イン・ワン) ゴルファンタジスタ》をマナに置いた。
「な、緑、何をしてるんだ!?」
「大丈夫、勝てるから!まずはシネラリアで1軽減!4マナで《チアスカーレットアカネ》を召喚!1マナで《同期の妖精(シンクロ・フェアリー)》も召喚!更にマルルの効果でマナを増やす!そのままチアスカーレットアカネでガイアッシュを攻撃!その時革命チェンジ、《スペースインワン・ヘラクレス》!」
「ジャストダイバーのTブレイカー……」
「そう、そっちのデッキじゃほぼ取れないよね!更にアカネの効果で同期をマナに戻して、ジャイアント・メクレイド8!来て、《爆翠竜 ゴルファンタジスタ》!!」
「ファーーー!!!」
シンベロムの蔦を体に纏い、新たな力を得ることに成功したゴルファンタジスタがバトルゾーンに現れる。
「さて、色々とこっちは借りがあるんだ、覚悟はできてるよな?」
「孤独な夢の方が、未来の不安もある種では存在しない。お前が勝手に苦しみ出しただけだろう」
「話が通じねぇな。そんなことしたらこの先の幸せをぶん投げちまうじゃねぇか。行くぞ緑!」
「うん、スペースインワンで、ガイアッシュを破壊!そのままターンエンド!」
「そうか、ガイアッシュ・カイザーを宣言し、再び2枚ドローする」
緑からターンを受けたデスライガーの目が変わる。それはまさに捕食者の目であった。
「来い、《魔誕の獅子デスライガー》、ガイアッシュで4軽減して6マナで召喚する!」
大きな仮面を被った獅子が、一気にバトルゾーンの空気を制圧する。しかし緑はそれに気圧されず、ゴルファンタジスタに至っては軽口を叩く余裕まであった。
「つってもお前のパワーは11000、止められないんじゃねぇか?」
「そんなことはない、Wヨビニオンを発動」
「「Wヨビニオン!?」」
「その通り、俺のコスト、10未満のクリーチャーを、2体まで呼び出すことができる。1枚目、2枚目、共に《混沌紳士 トリックスタァ》だ」
華やかなシルクハットから目を見せたその魚のクリーチャーたちは、マジックのトランプを広げるかのように呪文を展開する。
「そんな……」
「出た時と攻撃時にシャッフルし、山札上5枚から合計コストが10になるように呪文を唱えられる。1枚目のトリックスタァは《地龍神の魔陣》とオリジナルフィナーレを唱える。地龍神でマナを増やし、オリジナルフィナーレでマルルを撃破。ちなみにマナの枚数はこれで11、これがあればゴルファンタジスタも倒せる」
「不味いぞ緑、俺のパワーが役にたたねぇ!」
「2枚目を発動、《繁栄の鏡》と《オリジナルフィナーレ》。繁栄の鏡で《水上第九院 シャコガイル》を手札に加え、それぞれ2枚マナ加速を行い、オリジナルフィナーレでパワーをマイナス14000」
「不味いぞ緑!シャコガイルは山札が切れる代わりに勝つカード!シールドを触る気は毛頭ねぇみたいだ!ぐうっ!」
オリジナルフィナーレによって、ゴルファンタジスタが一気に弱らされる。まともに場に立っているクリーチャーはスペースインワン・ヘラクレスのみ。緑はかなりの苦境に立たされていた。
「デスライガーの効果で俺のクリーチャーは全てマッハファイター。トリックスタァでゴルファンタジスタを攻撃する時、効果で《地龍神の魔神》と《蓄命呪文「ガッツシル・チャージャー」》×2枚。これでマナと手札を増やせば、シャコガイルの特殊勝利は確定だ、これでゴルファンタジスタとバトルだ」
トリックスタァが袖から出したカードで、ゴルファンタジスタを切り刻む。そしてゴルファンタジスタは土煙を出して、地面に倒れ伏した。
「さて、この1ターンは格別だ、お前が敗北の恐怖に怯える姿を見れるんだからなぁ!」
「……そうだね、その言葉、そのまま返すよ!」
「なんだと?」
「爆翠竜 ゴルファンタジスタは、相手ターン中に離れた時、マナからコスト7以下のクリーチャーをバトルゾーンに出すことができるんだ。もちろんボクが出すのは、《超重龍 ゴルファンタジスタ》!」
「何……!?」
「ゴルファンタジスタの効果でマナから《蒼神龍 トライクラブ・トライショット》をバトルゾーンに!これでデスライガーとガイアッシュを手札に戻すよ!」
「ちぃっ、ターンエンド」
「ボクのターン!ここまで散々人のことを悲しませて、人に押し付けて!ボクの、お母さんとお父さんの記憶まで利用して!!絶対に許さない!終極宣言で手札とマナを倍に!シネラリア2体、同期の妖精、チアスカーレットアカネ、マナゾーンから《完璧(アイドル)妖精 マリニャンX》をバトルゾーンに!スノーフェアリーが5体あるから、登場時効果は使えない!スペースインワン・ヘラクレスで、シールドをTブレイク!」
デスライガー シールド0
「シールドトリガー、《逆転の剣(カウンターアタック) スカイソード》、相手クリーチャーをマナに……」
「マリニャンで効果は発動しない!ゴルファンタジスタで、ダイレクトアタック!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
緑が倒したデスライガーは、公輝たちが元の世界に送り返すため、ゴルファンタジスタやシイノと協力して縛りつけた。しかしまだ動いていたため、手足を水晶で固めるのを余儀なくされたのだった。
「はぁ、これで終わり」
「ありがとう、しいの。なんとか助かったよ」
「助かったのは貴方の力。わたしは少し助けただけ」
「そっか。全部ボクの力って言われると思ってたから、よかった」
「………。それはそれで、夕哉たちに失礼だから」
「……そうだね」
緑は周りのクリーチャーを片付け終わったゴルファンタジスタに声をかける。
「ねぇゴルファンタジスタ、お父さんとお母さんの顔、幻覚から覚めた後も覚えてるんだ」
「あくまで幻覚だろ?そんな都合よくお前の家族だって断言できるわけ……」
「そうなんだけどね。でも、やっぱり覚えておきたいんだ。会いたいんだ。本当の家族に」
「……そうか、十分にお前は大きくなってきた、お前の判断に任せる時が来たのかもな」
ゴルファンタジスタは緑の肩を軽く叩き、シイノの方へ押し出した。
「緑、まだワルドバロムとの戦いは終わってない」
「うん、まだ戦わないとね!」
そう言って緑とシイノは、真名月と夕哉のいる皇龍市の中心部へと、足を進めていくのだった。
緑の!今日のカード紹介!
今日のカードは…《爆翠龍 ゴルファンタジスタ》!
ハイパーエナジーで軽く着地するゴルファンタジスタで、攻撃される時にバトルで守れたり、さらに相手のターン中に離れた時に7以下のクリーチャーを踏み倒す効果まである、守りのゴルファンタジスタなんだ。
次回、『楽しみを捨てた者たちへ』
お父さんとお母さんの顔、思い出せた。