デュエル・マスターズOverLord(オーバーロード) 作:シグレサメ
周りの大人達の足音や話し声が、うるさくなっていっている。その声で火奈は目を覚ます。何かあったのかと外を見ようとするとすぐカーテンがかけられ、外が見れなくなってしまう。
「何かあったんですか?」
「ごめんなさい、詳しくは言えないの。皆の安全を守るためなんだけど……」
「……そうですか」
火奈はそのまま離れるフリをして、周りの窓や扉で閉められていないところがあるか探し始めた。そして今まさに閉めようとしていた窓に向けて、火奈は助走をつけ始める。
「そこ危ないから退いてください!」
「な、何!?」
係の女性が離れたのを見て火奈は空いた窓から飛び出し、体をぐるんと180°捻って窓枠にしがみつく。
「危ないって、あなたの方が危ないですよ!!」
「あたし、運動部なんで大丈夫です!」
「理論がめちゃくちゃですよ!?」
「直ぐに戻ります!」
火奈はそう言って窓枠から手を離し、近くの排気口に捕まり、そのまま下に降りた。自分が役に立たないことは分かっている。自分の友人達に何が起きたかはわからないが、とにかくじっとしていれなかった。そして体育館の正面に出た時、火奈の足元を何かが這っているのを認識する。
「ーーー!!?」
火奈は青ざめる。その足元にいたのは、少し大きな蛇のようなクリーチャー。クリーチャーとは分かっていたものの、火奈の思考の大半は『蛇』に支配された。
「蛇は……。蛇は話が違うってぇ!!」
「火奈さん!こっち!!」
どうにか振り切ろうと走り出したところに、遥風が手を伸ばし火奈はそれに捕まり引き上げられる。火奈が逃げついたところは、市民体育館の入り口の部屋であり、それでいて公輝達の前線拠点だった。
「へ、へ、へびぃ……」
「蛇苦手なんですね、火奈さん……」
「自然文明とかで会わなかったから、いないと思ってたのに…。動きが、本当にダメでぇ……」
「火奈さん、それでも来てくれたんですね」
「……身体が動いたのは、本当です」
そんな火奈と遥風の元に、公輝が走ってやってきた。どうやら扉の外、体育館の正面は中々のものとなっているようで、大人数の物音が聞こえてきている。
「赤坂くん、端的に今の状況を説明するよ」
「お、お願いします」
「今、外は大量の蛇のクリーチャーが現れている」
「大量の蛇……」
「デーモン・コマンドの身体的特徴と一致しないし、僕達が気づく前に通信系をやられた。統率が取れすぎている、おそらく真名月の味方ではあるが、真名月達と同じ勢力ではないっていうものだ」
「じゃあ、いまどうしてるんですか!?」
「拳銃だったりの武器で威嚇しているけど、1発でもクリーチャーがそれを受けて、それが自分たちには意味がないものだと分かった瞬間、オレ達は負けだ」
「そんな……」
「正路さん!一際大型のクリーチャーと、その周りを飛び回る鳥のようなクリーチャーまで……!」
「分かった。直ぐに対策を準備する」
ドカンと、大きな音がする。
「威嚇が始まった。つまり時間がないってことだね……」
火奈は、不安そうに公輝に目線を送る。
「対策、あるんですか……?」
「『安全なものはない』。それが答えかな」
「安全じゃないものはあるんですか?」
「……ありますけど、使うんですか、公輝さん」
「他に手はないだろう?」
遥風が車から降ろしていた荷物の中から中身を取り出す。中に入っていたのは10枚ほどの、警察が危険な場所に突入する際に使われるような防護盾のようなもの。
「これは……」
「虹村や須谷風音(かぜね)の事件、黒井くん達の戦いだったりで、クリーチャーと一緒に戦うということの記録はかなり集まっていたんだ」
「それで作られたのがこれです。クリーチャーの力をシールドに宿らせることで、相棒がいなくても戦えるシステムを作っていたんです」
「いずれは君たちに頼らなくてもよくなるようにね」
「成程……」
「仕事終わりに公輝さんと練習もしています、ですから、私たちがこれを使って……」
そう言って公輝と遥風が盾を持とうとすると、それに火奈が割って入り、盾を取り上げた。
「これ、防御が上手くいかなかったらどうなるんですか」
「……安全な方法ではないと言っただろう」
「違います、二人がいなくなったらどうするんですか」
「そんなのは承知の上です!」
「あぁ、二人がかりで、どうにかあの蛇のクリーチャーたちを…」
「止められなかったら、誰も頼れる人がいなくなっちゃいます!」
「それはこちらの台詞だ、デュエマはずっと練習している、オレ達が子供に頼らないと行けない状態が、守られるべき存在に守られている状態が、どれだけ異常か……」
「信じてないんですか。夕哉達のことを……!」
「違う!そうではない……!」
「あたしの、誰かのヒーローになりたいって夢は、公輝さん達が助けてくれたから出来たものです。それが出来たのは、見守ってくれる人がいたからです!」
「でも、今の君には……!」
「相棒がいなくても戦うための物なら、一番戦い慣れてるあたしが使うのが一番です!!」
火奈はそう言って盾を持ち、体育館の外に向けて走り出した。
「公輝さん」
「……きっと、これを見て一番喜ぶのは、赤坂さんだというのは分かっていた。きっと、一番役立ててくれるのも。だが、普通の子供でいて欲しいという気持ちも、分かって欲しい……」
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「やはり、エネルギーが足りぬ、人のもっといる場所に向かっていくべきか」
火奈が盾を持って外に出ると、巨大な顔面のようなクリーチャーがエネルギーを発していた。それによってそこにいた人々のエネルギーが吸い取られていくのを見て、火奈は見たことのある感覚を感じる。
「レントといい、なんで直ぐ人を踏みつけにする人が出るんだろうね」
盾を地面に突き刺しながら、火奈はそう言った。その声を聞いた大きな顔のクリーチャーが、ぎょろりとこちらを凝視する。
「なんだ、私のことを言ったのか?」
「そうだよ、あたし」
「私のことを愚弄するのか、この神、《イミッシュ・イツァヤナ》を!」
「ワルドバロムの眷属の間違いじゃないの?」
火奈はそう言いながら、後ろ手を振って他の人々を後ろに導く。公輝が出てきたのを見てその動きの意味を察した残った人々が、ゆっくりと離れていく。
「……私の食物(ニンゲン)をどこに持っていく、お前達が私に献上した物ではないのか?」
「あー……。なるほどね、蛇の神様は人から人間を貰わなきゃ生きられなくて、その上でワルドバロムの眷属なんですねぇ?」
「………」
イミッシュはギョロリとこちらを見て、地面が揺れるような大声を出した。
「私は!イミッシュ・イツァヤナ!!世界を統べる神だ!!誰かの眷属ではないし、下僕ではない!!!」
イミッシュの幾つもある目が、全て火奈を睨みつける。その間に他の人々は全て体育館内に避難していた。
(凄いプライドが肥大しているタイプのクリーチャー。やりやすいかも)
「ねぇ、ゲームしよう?あたしとデュエルして、そっちが勝ったらこの言葉を取り消して、中にいる人たちのエネルギーを吸ってもいいよ」
「成程、お前はエネルギーを吸うだけでなく、刺し貫いて直接血を吸ってやるとしよう」
「デュエマ、スタート!!」
「全てを、吸い尽くしてやる!!」
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イミッシュの先手で始まったデュエマは、お互いにマナチャージのみの2ターンで始まる。イミッシュは自然のみのデッキで戦う中、火奈は火と光に続いて自然を入れた3色のデッキで対抗する。
(飛水や緑と一緒に組んだデッキ、これで負けるわけにはいかない!)
イミッシュ シールド5 マナ2
火奈 シールド5 マナ2
「私のターン、3マナで《ラマト・カーン》を召喚」
「へ、蛇!!」
先程から体育館を取り囲んでいる蛇のクリーチャーが火奈の前に現れる。シュルシュルととぐろを巻き、火奈を威嚇するその姿に腰を抜かしそうになるが、火奈はすんでの所で踏みとどまる。
「あたしのターン、呪文、《決闘者(デュエリスト)・チャージャー》!山札の上から3枚を見て、名前にボルシャックとある《ボルシャック・ドラゴン》、《輝く革命 ボルシャック・フレア》を手札に!」
「成程、遅いな」
「遅い?」
「私のターン!ラマト・カーンを、私、《イミッシュ・イツァヤナ》に進化!」
ラマト・カーンに自然のマナが注ぎ込まれ、大きな顔の化け物へと姿を変えていく。そして場に現れたイミッシュは、山札に向かって呪文のようなものを唱え始めた。
「な、なに……?」
「私の能力は、未知なる可能性を呼び出すこと!デッキをシャッフルし、一番上にあるカードがクリーチャーなら、バトルゾーンに出す。小当たりと言ったところか、ラマト・カーンをバトルゾーンへ」
「蛇は嫌だけど、マナ加速だけなら…」
「しかし、私は攻撃する時、場にあるミステリー・トーテムの効果を全て使うことができる!ラマト・カーンでマナを増やし、もう一度捲る!来い、《エツナブ・ナワル》!」
イミッシュのそばを飛んでいた古代の壁画からそのまま飛び出してきたかのような鳥のクリーチャーが、バトルゾーンに現れる。
「エツナブ・ナワルは、出た時にシールドを1つマナに送る」
火奈 シールド4
「ぐっ!」
火奈のシールドがマナに送られ、それと同時に火奈を守っていた防護盾もエツナブに捕まれ、地面の中に沈み込まされていく。
「さらにマナに送られたカードのコストを見る」
「《ボルシャック・大河・ルピア》、7コストだよ」
「そのコストより小さいクリーチャーをマナから出す、ラマト・カーンを2体目の私へと進化」
「嘘!?」
「登場時効果でさらに呼び出しを行う、《森翠月 ブロンズアーム》をバトルゾーンに。これでお待ちかねのシールドブレイクだ」
火奈 シールド1
「きゃぁぁぁああ!!」
防護盾が3枚吹き飛び、ベコベコに折れて使い物にならなくなる。しかし火奈に飛んできた攻撃は、間違いなく守って見せたのであった。
(ここで止めないと、次はイミッシュの効果が2回飛んでくる!なんとか止めないと!)
「Gストライク!《ヴァルキリアス・武者・ムサシ「弍天」》!イミッシュの動きを止める!」
「ターンエンド」
「あたしのターン!」
火奈はカードを引き、手札と睨めっこをする。間違いなく状況は良くないが、諦めるという選択肢も無い。何より、自分の気持ちに反することであった。
「このカード、使ってみよう!ドラゴンがマナに4枚以上あるので3軽減!《ボルシャック・ドリーム・ドラゴン》をバトルゾーンに召喚!ドラゴンが出た時、相手1体、アンタップしているエツナブをタップ!そしてボルシャック・ドリーム・ドラゴンでエツナブに攻撃する時、革命チェンジ!輝く革命 ボルシャック・フレア!」
「こいつは、一度だけバトルで無敵になれるカード…!」
「そしてボルシャック・ドリーム・ドラゴンの効果発動!デッキをめくって、2体目のドリームドラゴンをバトルゾーンに!出た時効果でラマト・カーンをタップ!」
「ぐっ…!エツナブがやられたごときで!」
火奈の攻勢は、まだ終わらない。
「ドリームドラゴンでラマト・カーンに攻撃!その時デッキをめくって、ボルシャック・大河・ルピアをバトルゾーンに!登場時効果でイミッシュをマナ送り!」
「だが、場に私は残っている!」
「うん、あたしの攻撃はここまで、ターンエンドだけど、ボルシャック・フレアはターン終了時にアンタップできるの。これで一度はバトルに勝つブロッカーが立った、迂闊には動けないでしょ?」
「なるほど…。啖呵を切っただけのことはあると。気に入った、お前を最初にエネルギーにしてやるとしよう」
「余計なお世話だよ!」
「私のターン、マナは、9だな」
「手札は渡してない、ほとんど息切れじゃ無いの?」
「そんなことはない、第一、ここまで来ればこの呼び方ができる、ブロンズアームをタップしハイパーエナジー!エツナブ・ナワルをバトルゾーンに!」
「嘘、ハイパーエナジーできるくらいマナが…!エツナブはフレアの効果でタップインだよ!」
「お前にマナに送ってもらったお陰だ、効果でシールドを1枚マナヘ」
火奈 シールド0
「さぁ、マナに送られたカードを見せろ!」
(マナに送られたカードが6より大きかったら、イミッシュがマナから出て負ける…!)
火奈は祈るようにカードを捲る。そこにあったカードは、《メンデルスゾーン》。
「2コストだ……」
「ふん、不発か。だが私で攻撃、これでボルシャック・フレアを退かせばいいだけ!来い、《魔誕哀樹 シンバーロ》、バラバラエティ3でパワーが10000となり、大河ルピアとバトルさせてもらう!」
「フレアの効果は『はじめての』バトル、大河ルピアが勝つよ!」
「イミッシュでダイレクトアタック!」
「フレアでブロック!」
イミッシュとボルシャック・フレアが力強くぶつかり合う。暫く押しも押されもせぬ互角の戦いが続いたが、イミッシュは仲間から更に自然のマナを受け取りボルシャック・フレアを押し出し、最後には体育館の近くの地面にまで吹っ飛ばした。
「ボルシャック・フレア!!」
「ターンエンド。さぁ、これでお前を守る盾は正真正銘いなくなった、どうする?」
火奈はカードを引き、考え込む。先程よりも状況は悪化している。自分が負ければ避難所の人々は助からないというプレッシャーに、心が押し潰されそうになる。
「………」
「どうした、投了か?」
「ボルシャック・ドリーム・ドラゴンを、召喚。まだ、終わっていない。デッキをめくってない。まだ、終わりは来ていない!」
「何を言うかと思えば」
「ドリーム。夢。言い換えれば、なりたい可能性。ここにいる人達は、少なくても大きくても、それを持った人達だよ。その人たちを養分にして踏みつけにするなんて、あたしにとって黙ってみていられるものじゃない。あたしのなりたい人は、そんな時皆を守れる人」
火奈は自分の原点を思い出し、深呼吸をする。
「ドリーム・ドラゴンでブロンズアームを攻撃!効果で捲り、《ボルシャック・栄光・ルピア》をバトルゾーンに。残念だけど、この子じゃない……!」
「そうだ、そんな全てをひっくり返すような奇跡は起きない!そんな奇跡が、『お前にだけ』起きるはずがない!!」
「栄光ルピアで、山札から1枚をマナゾーンに。そしてそれがドラゴンのフレアだから、もう1枚マナゾーンに。ブロンズアームとバトル」
何かは、少しずつ近づいてきているように感じる。
何かは、山札にいる。
火奈の第六感だった。デッキを組んだのは自分だし、それをどうにかできるカードが入っていないことも知っている。しかし、火奈はプレイを止めなかった。何故なら、たった1枚だけ、自分が夢を諦めなかった為に入れたカードが、そこにある。
(イミッシュに向かえばシールドトリガーのリスクなく捲れるけど、それじゃ勝ちきれない。シールドに、向かうしかない!!)
「ボルシャック・ドリーム・ドラゴンでシールドを攻撃!その時山札をめくって……!」
その時、山札が光り出した。暖かい光が、火奈たちを包んでいく。火奈の頭の中には、ありし日の彼の優しい声がこだましていた。
火奈の手元に戻ってきたのは、黒ずみが剥がれた1枚の、《轟炎の竜皇 ボルシャック・カイザー》。
飛水の、今日のカード紹介!
今日のカードは…《ボルシャック・ドリームドラゴン》。
ドラゴンでマナが埋まれば4コストになり、ドラゴンが出た時に相手1体をタップ。そして攻撃時にデッキを捲りドラゴンだったら出すというドラゴンの力を極限まで引き出すカードになっているな。
次回、『涙すらも武装に変えて・後』