デュエル・マスターズOverLord(オーバーロード) 作:シグレサメ
「お前が、俺を目覚めさせたのか」
火奈の目の前に現れたドラゴンの第一声は、今の環境に戸惑うものであった。
「ここはどこだ、お前は、クリーチャーなのか?」
「え……。違うよ、人間!赤坂火奈だよ!」
「どうやらそいつはお前のことを覚えていないようだぞ?」
イミッシュの煽りを火奈は聞き流しながら、カイザーの身体をゆする。
「ねぇ、思い出せない?あたしのこと、この世界のこと!」
「……わからない、何故俺はここにいるのか。何故、この世界はこんなにもニンゲン、とやらで溢れているのか」
「ここは人間の世界なの、でも、カイザーは人間にもクリーチャーにも優しくて、あたしたちのために助けてくれて…」
そう言っても、カイザーの目には火奈は映らない。火奈の目から、涙が流れ出していた。
「………ごめんね、急に呼び出して」
「分からない、何故こんなにも涙を流す。すまない、何も思い出せないんだ。俺は、君と会ったことがあるのか」
「ごめんなさい、あたし……」
「おい、火奈!!」
突如イミッシュの後ろにいたラマト・カーン達を、ある2頭のドラゴンが吹っ飛ばす。《芸魔王将 カクメイジン》に乗って、飛水がここまで戻ってきていたのだった。
「散々ぱら俺に諦めるなつって自分は諦めるのかよ!」
「だって、カイザーはあたしのことを覚えてない、前と別人なんだよ…」
「そんなことねぇ!生まれ変わりで少し変わっていたとしても、カイザーはカイザーだろ!何より、また巡り合うことを信じて頑張っていたのはお前自身じゃねぇか!お前が一番最初に諦めるんじゃねぇよ!!」
「飛水……」
火奈は、カイザーを見てこう言った。
「思い出せないなら、1歩ずつ。クリーチャーとその相棒の繋がりが大事なんだよね。カイザー」
「………」
「デュエルを、続けるよ」
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火奈 シールド0 マナ9
《ボルシャック・ドリームドラゴン》×2、《ボルシャック・栄光・ルピア》、《ボルシャック・大河・ルピア》、《轟炎の竜皇 ボルシャック・カイザー》
イミッシュ シールド5 マナ9
《イミッシュ・イツァヤナ》、《エツナブ・ナワル》
「ドリーム・ドラゴンでのシールドへの攻撃は続行してる!ここは意地でも通す!」
イミッシュ シールド3
「トリガーなしだと…」
「よっし!これで火のクリーチャーが5枚、あれがいけるぞ、火奈!」
「うん、ボルシャックカイザーのシビルカウント3、スピードアタッカー、バトル中パワーをプラス50000!更にシビルカウント5、攻撃時にアンタップ、無限攻撃だよ!」
「なんだと……!?」
イミッシュは戦慄する。土壇場で復活したドラゴンが、ここまで強力であることに焦っていた。
「ニンゲン、俺のことをどこまで知っている?何より俺はその力の呼び出し方を知らない。お前の期待には添えない」
「大丈夫、あたしとあたしのクリーチャー達がサポートする。カイザーのことなら、誰よりも知ってるよ。カッコいいところ、カッコ悪いところ、面白いところ、素敵なところ、全部ね」
「………。昔の俺は、なんだったんだ」
「ゆっくり思い出して行こうよ、それがきっとあなたの力になる。ボルシャック・カイザーでエツナブに攻撃!アンタップ!」
ボルシャック・カイザーがエツナブに火でできた槍を投げつける。それは一撃でエツナブを仕留め、一瞬にして焼き尽くす。
「そう、そんな風にロマノグリラやVolVal8を倒してくれたの!あたしあの時契約とかでいっぱいいっぱいだったけど、すごくカッコよかったの、ずっと覚えてる!続いてイミッシュに攻撃!」
「そのまま記憶を戻させてたまるか!『お前だけ、元に戻してたまるか』!!」
「そんな風に人の足引っ張っているうちは、そんな都合のいいことなんて起きやしねぇよ」
「……知ったような口をぉ!」
飛水の言葉に集中を欠いたイミッシュを見計らい、カイザーはイミッシュに飛びかかる。イミッシュは自然のマナから作られたビームを放つが、それをカイザーは素手で払いのける。
(身体から力が湧き続ける、これは一体……)
「神谷祈雨ちゃんに会って、初めて負けて。負けるもんかーって2人で頑張って、ボルシャック・ライダーになって。その時さ、一緒に走ってくれる人がいるって、こんなに素敵なことなんだって思えたんだよ」
イミッシュが必死に抵抗するが、カイザーは意に介さず拳の連打をイミッシュに叩きつける。1発ずつ打ち込む中で、何か温かく、無くしてはいけなかったようなものが、少しずつ戻ってくる。ついにイミッシュの体力が切れ、カイザーは最後の一撃を叩きつけ、イミッシュを破壊する。
「これでターンエンド」
「ニンゲンよ、いや、赤坂火奈よ。攻撃しないのか?」
「カイザーを使い込んできてるからね、弱点も、強みも、全部知ってるから。色んなクリーチャーのいる文明を回って、いっぱい勉強したんだから」
「………そうか」
「舐めるな、私のターン!《熱愛妖精 バニタス》、《ラマト・カーン》を召喚!ターンエンド!」
「場にクリーチャーを並べられたか」
「大丈夫だよ!あたしのターン、7マナで《ボルシャック・ヴォルジャアク》!クリーチャーが出た時にシールドを追加!ドリームドラゴンの効果で2体のクリーチャーをタップ!そのクリーチャー達にドリームドラゴン2体で攻撃!」
「火奈さん、予備の防護盾を!」
「ありがとうございます!」
火奈 シールド1
火奈は遥風から防護盾を受け取り、地面に突き刺す。
「赤坂火奈。その後は、どうだったんだ」
「うん。荒れ果てた火文明を助けるために太陽の力、《ボルシャック・バクテラス》を手に入れたんだ。でも、リスクのある力だった」
「……そうか」
「ドリームドラゴンで呼び出すのは《輝く革命 ボルシャック・フレア》と、《ボルシャック・栄光・ルピア》!そのままバトルに勝利だよ!」
「そんな、馬鹿な……!」
「ボルシャック・カイザーでシールドを攻撃!」
イミッシュ シールド2
「シールドトリガーが……!来ないだと……!!」
「カイザーでもう1回攻撃。それをどうにかする方法もあったんだけど、月の民に台無しにされて。カイザーはそれがきっかけで記憶を失ったの、でも、また会えるって言ってくれた」
イミッシュ シールド1
「シールドトリガー、《コウバシポルチーニダケ》!攻撃誘導があるが……」
「意味ないよ!カイザーでコウバシポルチーニダケに攻撃!しっかり焼き上げてあげるから!」
カイザーがそのクリーチャーに火の槍を投げつけて香ばしく焼かれた時、カイザーは頭を抑える。
「カイザー、大丈夫!?」
「大丈夫、だ……。記憶が、流れ込んでくるんだ。もう少しで、何かが……」
「カイザー、苦しいの?」
「あぁ、だが、続けてくれ。俺にとって必要であることは、もう分かっている」
「うぅん。これで話は終わりだから。あとはカイザーがどうするかだよ」
「………。どういうことだ」
「カイザーの名前があっても、生まれ変わる前と後じゃ、厳密には別の存在になるって言ってた。だからその先は、『今のカイザー』が決めるの。でも、自分が元々何者かだけは、知っておいて欲しかったんだ」
「赤坂火奈。いや、火奈。思い出したよ。俺は火文明の守護者であり、お前の相棒だった」
「カイザー……」
「だが、それはあくまで記憶だ。だからこれから、体験として俺はお前と進んでいくとしよう」
「ーーー!!うん!ボルシャック・カイザーで、シールドを攻撃!」
イミッシュ シールド0
「シールドトリガー、《死滅の大地 ヴァイストン》!こいつは攻撃誘導とスレイヤーを持っている!これがあれば、お前は誰かの犠牲を払わなければならなくなる!」
「そんな……」
「大丈夫だ、火奈。そのまま攻撃してくれ」
「え……?うん、分かった!カイザーでヴァイストンに攻撃!」
ヴァイストンが4本の腕をカイザーに巻き付け爆発する。それによって起きた土煙が近くにいた人々は目を瞑る。ただし火奈は、ずっと前を見据えていた。
「カイザーが破壊された時、カードを1枚引いて、名前に《ボルシャック》とあるクリーチャーをバトルゾーンに出せる。1枚、ドロー!」
火奈の手元にやってきたのは、火奈とまた出会い、新たな生を歩み始めた、新たなボルシャックの姿であった。
「召喚酔いしている栄光ルピアを、進化!!」
「進化だと!?カイザーは……!」
「俺はここだ。目の前の敵に正々堂々勝たず、人への嫌がらせのみに傾倒していくようなクリーチャー如きに、俺がもう負けるわけにはいかない。……行け、火奈!!」
「ボルシャックで、ダイレクトアタック!!」
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イミッシュには今目の前の少女の存在を許すことはできなかった。何故ならこのクリーチャーも、自分の世界を失ったのだから。
イミッシュの世界は鬱蒼とした森に包まれた世界であり、そこに住んでいた人々は採集社会を形成していた。イミッシュはそこにいたいわば土着神であり、彼は元々かなりの善神であった。人々の前に現れては人々に自然の恵みを与え、人々の生活を少しだけ豊かにしていた。
その頃、バロムがやってきた。記憶が奪われ、誰も自分の祠を訪れず、祠を離れ村に向かえば、化け物だなんだと言われて自分は追い出された。いわば夕哉やシイノと同じであった。自分だけが全てを覚えている世界に、突然投げ出されたのだから。
イミッシュは怒り狂った。『自分の手で滅ぼした』。人々に裏切られた怒り、やるせなさ、悲しみ、恨み。それらをぶつけているうちに、その森は全て焼き尽くされてしまった。
バロムが現れたのはその後であった。
「お前のおかげでこの世界の支配は円滑に進んだ。だが、人々にとっての善神であったと言う記憶は、これからこの世界を月の民のものにするために不要なものだ。『お前は、人々に嫌われた悪神だ』」
忘れないようにしていた。イミッシュはなまじクリーチャーとしての力は強く、忘れないようにすることはできた。しかしそれを長い間繰り返していくうちに、「守る相手もいないのに、自分は何を覚えているのだろう」という気持ちが芽生えてしまった。
『私が神になれる場所があれば、またあの楽しい世が戻ってくる』
イミッシュはこれを歪んだ形で考えた。その頃には精神が擦り切れ、善神だったころの記憶は、本当に消えてしまった。それでも彼は考え続けるのだろう。朧げに残る自分の大好きな世界が戻ってくる『奇跡』を。
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火奈がイミッシュを倒した時、後ろから大歓声が起きた。その大声に後ろを振り向こうとする火奈を、飛水が止める。
「後ろを向くな。顔が撮られるだろうから」
「……あたしは、大丈夫だよ。撮られ慣れてるし、皆も安心したいだろうし」
「じゃあ、光屋達の安心のためだ、関係を掘られるのも困るだろ」
「…わかった、そうする」
気づけばカメラはボルシャック・カイザーの背中が塞いでいた。気づいて気を遣ってくれたのだろうと、火奈は思った。
「ねぇ、イミッシュ」
「………」
「私は、悪神だ。ここでも、拒絶された」
「あたし、似たような人を見たことがある。考えることはあったはずなのに、人を無碍にする方法をとられたら、それを聞いてくれる人もいなくなっちゃう」
「………なるほど。私は、忘れていたのだな。自分が手段を選ばなくなった時、相対する者も手段を選ばなくなる」
飛水がそれに付け足す。
「でも、落ち着いた手段が取れない環境にいたら、そうなっちまうのも無理はない。それも見たことあるからな」
「まぁね。それが本当は不可能なのもわかってるけど……」
火奈はレントのことを思い出していた。今考えてみれば、あのようにすることしか、彼の存在証明はなかったのだろう。結果的にカイザーは戻ってきたとはいえ、彼のしたことは許せない。その気持ちも変わらない。
「イミッシュ、あたしたちは覚え続ける。だから、せめて……」
「……あぁ、助かる」
イミッシュはそう言って消えていった。それと一緒に、避難所を取り囲んでいたラマト・カーンたちも消えていくのだった。
「カイザーと同じなのかな。イミッシュは」
「だが、お前はここにいる人々を守った、1人残らずだ」
カイザーにそう肯定してもらい、火奈は久しぶりに安堵したような表情をした後、ボルシャック・カイザーに抱きついた。
「カイザー!!」
「おい落ち着け、そこは炎だ、お前の赤い髪が燃えてしまうぞ」
「大丈夫、今はカイザーとまた会えた喜びで……」
フラッと火奈がふらつく。カイザーが来るまで1人で戦い続けていたのだ、体力の限界が来てもおかしくなかった。その時遥風と公輝の声が聞こえてきて、遥風が「とりあえず館内に戻って休息を取って欲しい」と伝える。
「とりあえず、俺は夕哉達を助けにいく」
「うん。……来てくれて、ありがとね」
「俺も安心したわ。戻ってきてくれて良かったな」
「……うん!」
飛水はそう言ってカクメイジンに乗って、再び皇龍市内へと向かっていくのだった。
「ねぇ、お父さん達に見られちゃってるかな」
「あそこまで派手にやったならそうだろうな」
「謝らなきゃね」
「俺も一緒に出るとしよう」
「余計驚かせちゃうんじゃ……」
「……そうかもしれないな」
「ねぇカイザー、最後にやったの、あれなんだったの?」
「分からない。だが力が湧き、これを使えると思ったんだ。そうしたら気づけばという感じだ」
デッキの中にそのカードはもう入っていない。火奈は不思議そうにデッキを見た後、
「じゃあ、安定してできるようにしないとね」
と笑顔で語るのだった。
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夕哉とジャシンは、ついに皇龍市の中心にある住宅街へと辿り着いた。道中に大量のクリーチャーがいたため全て倒し、どうにか短い休息を取っていたのだった。
「ようやく落ち着けるけど、真名月にこんなところでやられたら……」
「あぁ、ここにある家は愚か、どこまで吹き飛ぶだろうな?」
「もう……」
その時、ジャシンが急に体を震わせた。驚く顔をするジャシンに、夕哉も質問をする。
「え、大丈夫?このタイミングで風邪?」
「そんなわけがないだろう!……何かが、生まれたようだ」
「何か?真名月みたいな悪い奴がまた!?」
「そうではない」
「じゃあ何を……」
「そうではないと言っている」
「……よくわかってないんだね」
夕哉はそう言って歩みを進める。その時、目の前に小さな塔があった。その塔はガシャンガシャンと動いており、何かを地面に打ち込んでいる。鉄塔の下には円形の地面が敷かれており、間違いなくここ数日で作られた者であるとわかった。
「え、え、何……!?」
「ダイダロス達が残っていれば、もう少し早く終わったのだがな。
「バロムの魔力によって地面の一部が抉り取られ、地面が掘られている」
「そんな!?」
夕哉とジャシンが驚くのを目にした真名月は満足そうに語り出す。真名月は上下を黒く、儀式を始めるようなローブで着ており、その出立ちから上機嫌であることが伺える。
「過剰なマナを与えれば、クリーチャーを滅ぼすことができる。いわば俺はマナを操る資格を手に入れたわけだが。まぁまずは俺のクリーチャー化記念だ、褒めてくれ」
「クリーチャー化?何をするつもりだよ」
「単刀直入に言おう、この塔から放つマナは、人間をクリーチャーにする」
「人間を、クリーチャーに……!?」
「そんなことをして何の意味がある!」
「マナがなければクリーチャーは生きられない。マナがありすぎてもクリーチャーは生きられない。答えはもう簡単だろう?」
「資源を競合せずに奪い取るための……」
「そして、マナを抜くことができるなら、クリーチャーとなった人間達を滅ぼすために手っ取り早い方法だな」
「あぁ、ワルドバロムになって手に入れた、『俺だけが住める大地』だ」
「……ふざけるな…!」
「この塔は地面中に穴を掘り、そこからマナを打ち込む。それによってまずは日本列島をクリーチャー化させるとしよう。クリーチャーにした人間を兵士として使うのも悪くないな!」
「……真名月、どこまでも自分勝手に、人を傷つけるお前を!俺は絶対許さない!」
「やってみろ、俺は俺だけの大地を作る!!」
ついに正反対の2人が、お互い決して相入れることのない2人が、ぶつかり合い始めたのだった。
火奈の!今日のカード紹介!
今日のカードは…《轟炎の竜皇 ボルシャック・カイザー》!
火の5コストのクリーチャーで、シビルカウント3でスピードアタッカーとパワーアップ、シビルカウント5で無限攻撃!そしてこのクリーチャーが破壊された時、1枚引いてボルシャックを呼び出すことができるよ!
次回、『人はそれを愛と呼ぶ・前』
おかえり、あたしの相棒!