デュエル・マスターズOverLord(オーバーロード) 作:シグレサメ
空は曇り、雪が降り始めた。余と夕哉の前には、全ての人間をクリーチャーにしようとする真名月が立っている。
思えば記憶を取り戻した時から異変は起きていた。夕哉が、余と再び契約するリスクを取ってでも、真名月に立ち向かったあの時から。違和感はだんだんと大きくなり、黒井夕哉のみならず、彼奴が大事にしているニンゲンにすらも、余の身体は勝手に動いていた。
昨夜、家臣の連中にこのことについて聞いた。
「わかりません、何が起きているんでしょうね」
「ジャシン様の体調が良いということなのでは?それで青海飛水たちを救っているわけですし」
「ジャシン様、やはりもっと強くなれるんですよ!」
そうかもしれない。実際最近の余は調子がいい。真名月に奪われたアビス達は取り返し、力としては前と同じ、いやそれ以上にある。だがそれ以上に、自分がその行動をとったことの理屈がわからない。いや、分からないふりをしているだけだったのかもしれない。
「人間というのは不思議なものです。ですから、面白いんです。『他人を大事に思える』って、尊いことなんだと思います」
ゴルドランからの言葉が思い出される。そんなもの、勝手に自分を守ればいいではないか。
『もう二度と関係ない人の命を奪おうとしないで!』
夕哉が初めて契約させてきた時の言葉も、頭の中に流れる。普通は、自分がどうこうなりたい、自分の欲しいものを作れなどと言うはずなのだ。しかし奴は、それをただ余に対する願いだけで済ませた。当時の奴が余裕がなかったにしても、突然出る言葉としてはおかしいと思った。
「余が、変えられているのか……?」
もう分かっている、余のとっている行動は、概ね夕哉と同じものであると。夕哉に、何かを変えられているのだと。しかし余には、その言葉がわからない。その行動は、何を意味するのかが。
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夕哉と真名月のデュエマが始まるとともに、漸く通信がつながり、公輝達を通じて塔の破壊、並びに地面を這うマナを止めることを命じていた。
「Drache、カクメイジン、頼んだ!」
「分かった、『脈脈と 受け継ぐものは 失えず』、マナを止める!」
「了解した!」「計算して、次に来る場所を予測します!」
「ゴルファンタジスタ、頑張って!」
「ファー!マナを使うのが得意な自然文明でも、この数は無茶だぞ!」
「片っ端からタブラで水晶マナにして流れないようにしてるけど、間に合わない!」
「……ゴルドランさん!」
「……はい」
御白はインカムを取り、飛水達に提案する。
『皆さん、このままじゃ埒があきません!夕哉くんを助けにいきましょう!』
夕哉と真名月は、仲間達が戦う中でお互いに睨み合っていた。そして真名月がカードを1枚マナゾーンに置いたことで、デュエマの火蓋は切って落とされたのであった。
「マナチャージ、ターンエンド」
「マナチャージ、1コストで《霊淵 アガルーム=プルーフ》を召喚、ターンエンド」
夕哉と真名月の睨み合いは続く。
「マナチャージ、2コストで《「地獄まで我に従え」》。1枚マナ加速をする。まぁ、お前達が従うのは地獄すらも生ぬるい場所だがな。ターンエンド」
「俺のターン、マナチャージ。……聞き忘れていたけど、クリーチャーになった人々は、どうなるの」
「クリーチャーの本能、エネルギーの取得と生物としての本能に飲み込まれる。まぁ、それでもクリーチャーとしては貧弱そのものだから、他の強いクリーチャーに踏み躙られるのがオチだがな」
「……。2コストで《シックル=シーク》を召喚。シックルをタップしてアガルームをハイパー化。タップ時効果で3枚、アガルームのハイパー化効果でターン終了時1枚を墓地へ。そんなことして、心が少しでも傷んだり、辛いと思ったりは、しないよね、もう、分かってる」
「あぁ、『気に入らない』、それは十分にそいつを排除する理由足るからな」
「……ターンエンド」
夕哉は真名月にターンを返す。ピリピリと今にも静寂が砕け散りそうな、張り詰めた空気が場を支配している。
「俺のターン、3マナで《死神信徒バーロウ・ビリーバー》を召喚、山上3枚をマナ、墓地、山札下に振り分ける」
「バロム・ナイトメアの準備に抜かりはないか……」
「これで俺はターンエンドだが…。逆に聞こう。お前は気に入らない人間がいなかったのか?ジャシンを使えば、消すこともできたのだろう?それと同じだ」
「そんな人はいない、なんてのは嘘だけど。それを思うのと、実行に移すのは天と地ほどの差があると思う。いくら危ないことを考えてても、それで実際に苦しむ人を出したりしたら、それは話が変わると思う」
「面白くないぞ黒井夕哉、人を殺すのは気持ちがいいぞ?人を嬲るのは気持ちがいいぞ?俺たち意思を持つニンゲンは、それから逃れることはできないんだ。だったらこんな風に、最後は華々しく散らせてやるだけマジだと思って欲しいね」
「……そうか、そうやって、全部捨てていくんだ」
「なんだと?」
「そうやって全部捨てるから、本当の友達や仲間ができないって言ったんだ!!」
夕哉はカードを引き抜き、アガルームのためにシックルをタップする。墓地に落ちたカード達には、夕哉の今までが詰まっている。
「次に3マナで《テブル=ザザーム》をアビスラッシュ、こいつは本来6コストだけど、手札からカードを1枚捨てることで3コストで呼び出すことができる!《邪幽 ジャガイスト》を手札から捨てる!そしてテブルで攻撃する時!」
ジャシンが久方ぶりにあのバイクの音を鳴らし、真名月のシールドに向かうテブルに近づいていく。
「《アビスベル=覇(デス)=ロード》に!」
「革命!」「チェンジだ!」
「自然文明の力、復活させていたのか」
真名月 シールド3
「Gストライク、《邪脳の魔法陣》。アガルームを止める」
「ターン終了時、覇ロードの効果で墓地またはマナからコスト6以下のアビスを呼べる!来い、邪幽 ジャガイスト!」
覇=ロードがバイクから取り出した剣を地面に突き立てると、ジャガイストが夕哉のバトルゾーンへと現れる。更にジャガイストは地面に爪を突き立て、更にアビスを呼び出していく。
「ジャガイストの登場時能力で手札を2枚捨ててアビスメクレイド5!《ア:エヌ:マクア》をバトルゾーンに!更にジャガイストの効果で、今山札から出たマクア以下のコストの《深淵の怪炉 マーダン=ロウ》をバトルゾーンに!」
「結局ここまでされてしまっては意味がないか」
「マクアの登場時効果で2マナ加速し1枚を手札に、更にマーダンロウの登場時効果で相手の手札を見て、《魔令嬢バロメアレディ》を墓地に!」
夕哉が怒涛の展開をするが、真名月は一切動じない。
「お前達はいつもこんな風にバロムを出させないようにと足掻くが、結局のところ俺との力の差は埋まらない。どの道バロムが現れ、蹂躙し、俺が勝つ。この世界に来てから、一切変わらない事だ」
「まだわからない、まだ決まってない!ターンエンド!」
真名月はカードを引き、淡々とカードをプレイする。
「まずは2マナで《フェアリー・Re:ライフ》でマナを加速。そして余った5マナで邪脳の魔法陣を使用。3枚墓地を肥やし、墓地から《邪尾の魔法陣》。1枚ドローし、手札からコスト3以下の《邪心臓の魔法陣》をバトルゾーンに。手札交換を行い、ターンエンドとしよう」
真名月は一気に3枚の進化元を用意して、夕哉にターンを渡す。
「このターンで、決め切る……!」
「やってみろ、少しでも俺に勝てると思った証拠を見せてみろ」
「俺のターン!3マナで《オ:ンータイ》を召喚!他にアビスがいるから1枚ドロー!そしてこのクリーチャーはウルトラ・セイバー:アビスだ!更に《「倒したいか?」》を1マナで唱えてマナを加速!最後に《「開けるか?」》を唱えてバーロウビリーバーを破壊!」
ジャシンがバイクにエンジンをかけ、ハンドルから剣を取り出しシールドに向かって突っ込んでいく。
「覇=ロードでシールドをWブレイク!」
真名月 シールド1
「シールドトリガーはない」
「マーダンロウで最後のシールドを攻撃!シビルカウント3は使わない!」
(墓地にデーモン・コマンド以外があったら、バロム・ナイトメアの出目をずらして勝ててたけど…!)
真名月 シールド0
「シールドトリガー、《魔誕の前兆》。コスト合計が7になるようにデーモン・コマンドを出す。《邪爪の魔法陣》、《邪眼の魔法陣》をバトルゾーンに。邪爪はオ:ンータイを山札に送り、1枚マナ加速させる。そして邪眼ではシールドを1枚追加する。さて、どうする、黒井夕哉?」
真名月 シールド1
「……シックルで最後のシールドをブレイク!墓地を3枚増やす!」
「あぁ、そうせざるを得ないよな」
真名月 シールド0
「シールドトリガー、無しだ。だが、次のターンの俺のマナは8枚。分かっているんだろう?」
(どの道ワルドバロムが場に出てくる……。オ:ンータイをすぐに使えない今、早めにバロム・ナイトメアを使わせないと!」
夕哉は苦渋の決断を迫られ、クリーチャーをタップするしかなかった。
「……ジャガイストで、ダイレクトアタック!!あの塔を破壊して!」
「……それで終わる。そんな都合のいい夢はない」
真名月はそう言いながら、手札から《悪夢神 バロム・ナイトメア》を手札から呼び出した。
「来る……!!」
「バロム・ナイトメアで呼び出す山札下のクリーチャーは、バーロウビリーバーによって決められている。《修羅の死神フミシュナ》。まずはフミシュナの効果で手札を1枚墓地に送り、バロム・ナイトメアの効果でお前のクリーチャー全てを超次元ゾーンに送る」
「ジャシン!!」
ジャガイストが前に立ち、バロム・ナイトメアに向かっていくが、バロム・ナイトメアはすぐにブラックホールを作り出しあらゆる攻撃をそこに封じ込める。そして吸い込む力はさらに増し、ジャガイスト達を吸い込んでいく。
「貴様、何故このように月の民に与する」
「………」
「もはや言葉も喋れぬのだったな。真名月に好き勝手利用されるだけの傀儡が」
バロム・ナイトメアのブラックホールに、ジャシンのバイクがバラバラにされて吸い込まれていく。
「夕哉よ、どうせ貴様はまだ諦めないのだろう」
「まぁね、まだジャシンがやられただけだから!」
「フン、その能天気よ。奴を倒せば超次元に幽閉されたクリーチャーを救える、上手くやれよ」
そう言ってジャシンは、バロム・ナイトメアのブラックホールに吸い込まれていった。後に残ったのはブラックホールを閉じた時の、グワンと残った重低音の残響。
「……ターンエンド」
「黒井夕哉。お前は何度も、何度も俺の前に立ち塞がってきた。だが結局、俺を倒すには足りえなかった。そして全ての生物がクリーチャーになるという最悪の結果をもたらす」
「何度も逃げといて何言ってるの?自分のやったことぐらいちゃんと覚えときなよ?お前がやったのは、人質を作ったり、シイノを攫ったり、仲間を利用したり。そんな酷いことばかりだ」
「そうだな。だが、それがどうした?」
「……え?」
「俺は今まで沢山のことをしてきた。ただ月の民に言っていないだけで、記憶を消す以外にもやったことは沢山あった。だが後年残るのは、支配した側の都合のいい記憶。それ以外は塵芥となって消えていく」
「……何を言って……?」
「俺の手は血みどろなんだよ。今更こんなところで止まるわけにはいかない」
真名月は自分の手を見る。一瞬、手が、足が、自分の身体全てに、返り血がついているように錯覚した。いや、錯覚と言うには、余りにも手を汚し過ぎていたのかもしれない。
「俺が、バロムの奪うだけの力を手に入れた時、苦慮しなかったと思うか?他の方法を調べなかったと思うか?」
「……。……でも、今は」
「あぁ、とっくのとうに諦めたよ。どれだけやっても、自分が死ぬか、相手を殺すかの2択になる。なんだかんだまだ周りを守るだけ言ってられたお前のことを、羨ましいとすら思った」
真名月は、山札を1枚引く。
「だが、どれだけ進んでも答えは変わらなかった。自分のために、周りを淘汰する。それが月の民の、俺の全てだ」
「そんなことない!今からでも辞めるしかないんだ!どんな理由でも、理不尽に人を傷つけていいわけがない!それを正当化したら、歯止めが効かなくなるから!」
夕哉はジャシンに乗っ取られた時のことを思い出していた。ジャシンに乗っ取られ、自分の意図しない、人を傷つける行動を始めた時の恐怖は未だに鮮明に残っている。だが、それ以上に。
「これ以上は平行線という奴だな。マナチャージ。8マナを使用し、《悪魔世界ワルドバロム》を5つの魔法陣の上に進化させる!」
真名月はついにワルドバロムを呼び出し、ワルドバロムから出たマナが天をつき、雪が降ってきた雲を突き破り、一筋の光が真名月に当たる。塔のマナも刺激され、より活発にマナを放出し始める。
「時間がない……!」
「第一の厄災、手札を全て捨てる」
「ぐあぁぁっっ!!」
「ターンエンド」
「な、なんで……」
「お前の悪運の強さを俺はよく知っている。最後まで諦めない、その苛立つ目の輝きも。すんでのところで仲間に救われる、その異常な人を誑かす力も!」
真名月はそう言って夕哉を見据え、ワルドバロムに攻撃を命じる。しかしワルドバロムが攻撃した先は夕哉ではなく、後ろの塔を破壊しにきていた御白達であった。
「夕哉……くん……!!」
「夕哉……」「ゆうや……!」
ワルドバロムのめちゃくちゃな攻撃に、御白達はなすすべなく吹っ飛ばされる。最後まで立っていたシイノが、夕哉に言葉を伝えて気を失い、後に何も残らなくなるまで、真名月は、ワルドバロムは、一切力を緩めなかった。
「夕哉、諦めちゃ、ダメ……!」
後に残ったのは、ワルドバロムが吹っ飛ばした街の残骸。そう言っても彼は少ししか破壊しておらず、『御白達だけ』を倒すためにこの攻撃を選んだのだった。
「嘘、だろ……!?」
「だからこその弱点も知っている。お前は仲間がいる限り何度でも立ち上がるなら、仲間がいなければ立ち上がることすらままならない。ただワルドバロムは力が強すぎるが故、死体が残らず、確認できないのは残念だがな」
「お前とのデュエマも陽動だったんだろう?自分が必死こいて作った時間を、何よりお前を信頼してくれた仲間を。全員傷つけるオチになったわけだ」」
「やめろ……!!」
「今、怒っているだろう?それが俺たちの悲しみだ。俺たちの怒りだ。そんな風にお前に色々潰されてきたんだからな。だがそれもここまでだ。今俺は最高に楽しい、喜んでいる!体中が、この世界を自分のものにしろと叫んでいる!!お前はどうだ黒井夕哉、せっかく記憶を無理やり取り戻してでも、行き着く先はこれだ」
「………」
「俺の、ターン……」
夕哉はカードを引く。引いたカードをマナに置き、ターンを返す。
「俺のターン!黒井夕哉、お前の悪運も、仲間も、お前とそれに与するジャシンも!全部ここで絶ってやる!」
「……。御白達は、助かってる」
「……何を言っているんだ?俺はワルドバロムで、光屋御白達だけを殺した。その事実は変わらない。それとも現実が受け止められなくて……」
「御白達は、同じ攻撃を何度も喰らう奴じゃない。だってそこに、やられたって証拠がないんだから」
「……お前の強がりだ!希望的観測だ!良い加減希望を捨てろ!!」
「そう、希望的観測。でも、人はそうやって生きていくんだ。最後の瞬間まで、たとえ失ったものがあっても、希望を持って進んでいく。訳がわからなかった筈なのに、父さんや母さんは、『俺がいる』っていう一点だけで俺をあそこまで助けてくれた。俺が答えないでどうするんだ。御白達を助けないでどうするんだ」
夕哉はパチンと自分の両手で頰を叩いた。
「そうか、ならお前の大事なもの、全部壊していく。そうすれば、お前の希望というお前を繋ぐ命綱も……」
「……唐揚げ、あんぱん、デュエマ」
「なんだ?」
「俺の好きなものだよ。シイノに買っていくうちに、あんぱんも好きなものに加わったよ。皇龍市の雰囲気、学校の勉強、家族。御白達、御白達の大事な人。……ジャシン達アビスの皆。俺はそれを全部守りたい。全部、これ以上手を出させるわけにはいかない」
夕哉の目が一瞬暗くなった。だがそれはジャシンに乗っ取られたわけではない。ジャシンがいなくとも、仲間がそこにいなくとも、目の前の真名月を倒して勝つ、泥水を啜ってでも前に出る。いわば執念だった。
「ーーー!?」
真名月は一瞬震えた。真名月は夕哉のことを舐めていたというわけではなかった。本当に、ジャシンという力、御白達という支えを失えば、勝手に瓦解する人間であったはずなのだ。少なくとも、初めて戦った時には。だが目の前の執念そのものには、そんなものは感じられない。少なくとも自分を倒すまで、一切止まることはないだろうと断言できた。
「……終わらせなければならない、この戦いを」
「同じ気持ちだよ、真名月」
真名月のターンが、始まる。
次回、「人はそれを愛と呼ぶ・後」