デュエル・マスターズOverLord(オーバーロード) 作:シグレサメ
真名月 シールド0 マナ8
《悪魔世界ワルドバロム》《悪夢神 バロム・ナイトメア》
夕哉 シールド5 マナ6(ワルドバロムで無力化中)
「《魔令嬢バロメアレディ》を召喚し、呪文、《魔誕と光喜と楽識と炎怒と哀樹の決断(パーフェクト・バロム)》。場に5文明、ワルドバロムが場にいるので、5つの選択肢全てを発動する。シールド追加、2枚ドロー、1枚ハンデス、コスト6以下の破壊、そして1ブースト後、マナの回収。手札に加えるのは《Kの反逆 キル・ザ・ボロフ》だ」
「革命チェンジクリーチャー……!!」
夕哉と真名月の勝負は佳境を迎えていた。しかし優勢は真名月のものであり、夕哉はどうにか致命傷を負わないようにしていると言う状態であった。
「《悪夢神 バロム・ナイトメア》でシールドを攻撃、その時革命チェンジ、キル・ザ・ボロフ》。これでバロム・ナイトメアが手札に戻る」
「不味い……!!」
夕哉 シールド3
「シールドトリガー、《暴淵 ボウマ=ダンマ》!登場時効果でバロメアレディを破壊!!」
「ワルドバロムを破壊しないとは分かっているじゃないか。ターンエンド」
「俺のターン!マナチャージして、《霊淵 アガルーム=プルーフ》を1マナで召喚!ボウマでシールドを攻撃!」
真名月 シールド0
「悪あがきを。お前がいくらシールドを削ったところで、バロム・ナイトメアからは逃れられない」
「まだ分からない、ターンエンド!」
(……やはり光屋御白達が、こいつの命綱だったか)
「俺のターン、再度魔誕と光喜と楽識と炎怒と哀樹の決断。同じく5つの効果を使い、アガルームを破壊する。そして増えた手札から2体目のバロメアレディをバトルゾーンに」
夕哉の手は、震えている。かろうじて最善手を打っているだけだった。
真名月 シールド1
「引かれた……!」
「あぁ、引かれたな。だがこんなにも追い詰められ、手札もほぼない状態なら、1〜2ターン早まっただけだろう。バロメアレディでボウマを攻撃、マナゾーンから《悪魔神 バロム・クエイク》をバトルゾーンに。デーモン・コマンド以外を全て破壊する。これで終わりだ、バロム・クエイクでTブレイク」
夕哉 シールド0
「シールド、チェック……!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私は目が覚めた時、建物の陰に放置されていました。周りにはシイノさん達も眠っていて、皆無事なようです。何故なのかはわかりません。ゴルドランさん達が守ってくれたんでしょうか。でも夕哉くんはどうなっているのでしょうか。そう思って体を起こそうとしますが、体が言うことを聞きません。まず何が起きているのでしょうか。まず、私はなんで助かって……。
「………」
私の目の前に立っていたのは、黒い体の、ジャシンのような誰か。頭の角は肥大化し、身体はボロボロになって、内側の体が出てきています。何より、私の顔を見て、少し笑ったような……?
「光屋御白」
「は、はい!」
「ここは危ない。お前の友人達を、ワルドバロムの攻撃の届かぬところに避難させるので限界だった」
「でも、ジャシンはバロムに超次元ゾーンに送られて……」
「余にもわからぬ。ただ、試しただけだ。余の魂だけでも、送る方法はないのかと」
ジャシンは私をお姫様抱っこして、夕哉くんが見えるところに連れて行ってくれました。残ったビルを陰にして観察してみると、夕哉くんと真名月はまだ戦っていて、夕哉くんは押されているようでした。
「光屋御白」
「はい?」
「余は、おそらく後戻りのできない階段を登っている。ワルドバロムの強烈なマナを受け、元の身体では足りないと、身体が進化して行ったのだ。そして何より、今大量の何かが、余の中に雪崩れ込んでくる」
「………」
「わからないのだ。これがなんなのか。先程から降っている雪を、煩わしいとも、美しいとも感じる。真名月が浴びるあの日の光を、美しいとも、汚らわしいとも感じる。そして今黒井夕哉に、負けてほしくないと感じている」
「それは、気持ちだと思います」
「気持ち、だと?」
ジャシンがこちらを向いてきます。
「はい。ジャシンは、今までなかったんですか?」
「余にも感情はある。ただ深淵で世界を埋め尽くすと言う使命と、それによる家臣への怒り、無能や訳のわからぬニンゲンへの嘲り。こんなところだろう」
「でも、それだけじゃなくなってるんですよね」
「それだけではないだと?」
「『人を想う気持ち』です。本当にそれができるようになるのは大変ですし、その余り人とぶつかってしまうこともあります。お父様達も、私のことを考えてああ言って行ったので。でも、その心があるから、人はどこまでも強くなれるし、前に進んでいけるんですよ。そして、手を繋ぐことも」
本音が出ていました。言い終わった後、夕哉くんのことを何度も嵌めようとしたジャシンに、こんな素直に答えても良いのかと戸惑いました。でも、彼の方を見たら。
「そうか。『人を想う気持ち』か。面白い」
「え……?」
「貴様と話せて良かった。ゴルドランのオマケだと思っていたが、奴より余程話が分かりやすい」
そう言ってジャシンは、夕哉くんの方にゆっくりと飛んで行ったんです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
大量の蔦が、バロム・クエイクに絡みついた。
「シールドトリガー、《フェアリー・ファンタジア》!1枚マナを加速して、シールドトリガープラス効果で相手1体をマナゾーンに!」
「もうトリガーは無いのか」
「あぁ」
後の2枚は、《コミック=コロック》と、《深淵の逆転撃》。コロックはバロム・クエイクによって封じられ、深淵の逆転撃は、黒ずんで使えなくなっていた。ジャシンがいないからだ。
「ジャシンの力が入ったカードか?その様子だと、使えないのだな」
「……まぁね」
「大好きなものを守ると言っておいて、緩い幕引きだな」
「あぁ」
「ジャシンの力を使えなくなった気分はどうだ」
「元々、無いものだから」
「そうか。俺と同じだな。俺も知らないところからバロムの力を預けられ、月の民のリーダーになった。お前も知らないところからジャシンの力を預けられ、あの少年少女達のリーダーになった」
「お前には、ならないよ」
「あぁ、俺もお前にはなれない。そんな風にしていたら、心が幾つあっても足りない」
真名月はフッと笑って、そう言った。それは嘲笑のようにも、ただ自分の無くしたものを懐かしむようにも見える、そんな笑いだった。
「何か言い残したことはあるか」
「ごめん皆、守れなかった」
「淘汰する側と、される側の宿命だ、何もかも」
次の瞬間、俺の景色は暗転した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「余と契約しろ」
誰かの声がする。いや、聞き慣れているけど、目の前の光景がそれを否定する。ジャシンのような、誰かだった。
「余は、魂だけになった」
「魂だけ!?それってどういう……」
「魂だけでは、簡単に倒されてしまう。心は最も大事なところであるからな」
「ジャシン、何があったの!?」
ジャシンが俺の慌てぶりを見て、笑った。
「願ったのだ。この世界で生き延びることを」
「この世界で生き延びる?あんなに世界を支配したがっていたジャシンが?」
「いや、貴様も一緒だ」
ジャシンはそう言って手を伸ばしてきた。
「どうやら本当に不愉快なことに、お前の心や行動によって、余は少しずつ変わらざるを得なかったらしい。こんな姿でしか、超次元ゾーンを抜け出すことができなかったのだからな」
「変わるって……」
「これは、元からあったものなのかもしれない。別の世界の余がいるとして、同じ結論に至ったのかもしれない。だが今余は、『自分の意思で貴様を守りたい』と思っている」
「……そっか」
俺が笑うと、ジャシンは顔をあちら側に向けた。恐らく、ワルドバロムと真名月がいる方向だ。
「光屋御白達は無事だ、今はな」
「負けるわけには行かないってことだね」
「あぁ、そして最後に言わせてもらう。魂が表出した余は、もはや前とは別のクリーチャーだ。再契約を要求する」
「分かった」
『俺の大好きな世界を、全身で楽しむんだ。今度は、一緒に』
「相変わらずお前1人での願いはないのだな」
「最近考え始めてるよ?でも、俺は人と一緒にいる方が楽しいんだ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ワルドバロムの砲撃が夕哉を貫くその刹那、大量のジャシンの触手が、砲撃を打ち消しながら前に突き進み始めた。
「何……!?」
「《深淵の逆転撃》!ワルドバロムのパワーをマイナス∞する!」
大量の触手がより集まり、一つのドリルとしてワルドバロムの魔力を打ち破り、進み続ける。焦ったワルドバロムが急いで出力を上げるが、その触手は止まらない。ワルドバロムが上に浮き上がろうとした瞬間、「グインッ」と触手は上に曲がり、ワルドバロムを貫いた。
「俺の、思った通りに進んで行った……!」
「そう何度もできることではない。早く終わらせるぞ」
「お前は……ジャシンか!」
「あぁ、生まれ変わったような気分だ。まぁ、悪くない」
ワルドバロムを貫いた触手が一気にパワーをワルドバロムから吸い出す。ワルドバロムは必死に触手を自分から取り出そうとするが、その取り出すために掴んだ手すらも媒介にして、一気にパワーを吸い取っていく。
「ワルドバロム!」
「散々人のマナを奪って与えてを繰り返した罰だ。妥当なものだろう」
「キリャガァァァアアア!!!」
ワルドバロムはついに自分の存在を維持しきれなくなり、5色の光となって消えていった。
「夕哉よ、やるぞ」
「うん、《深淵の逆転撃》で使った3マナを支払って、俺のターン!」
夕哉が山札から引いたカードは、全ての始まりのカード、《邪侵入(ジャスト・イン・ユー)》。
「懐かしいカードを入れているな」
「まあね、入れたくなって」
「好都合だ。これがあれば、奴の防御をすり抜けられるやもしれぬ。……山札で待っている」
「山札で……。なんだか、初めてデュエマした時みたいだね」
勢いづく夕哉とジャシンを見て、真名月は何かを悟っていた。ただの執念だけではない。シイノが自分を追い詰めたあの日のような、『世界から見捨てられる感覚』。それを肌に嫌というほど感じていたのだった。
「まずは1マナでコミック=コロックを召喚、そして3マナで呪文、邪侵入!山札の上から4枚を墓地に置いて、コスト4以下のアビスをバトルゾーンに出すことができる!」
墓地から現れたのは、ジャシンのようであってジャシンではない、まさに新しいジャシンであった。
「どうやら余が目覚めたものは、『人を想う気持ち』というらしい。今までのどれとも違う力だ、これでどこまでいけるか、試させてもらう」
「行くよ、《淵魂 グレート=ジャシン帝》!!コミック=コロックの上にG-NEO進化!!」
コロックの力を借りて、ジャシンは走り出した。そしてあの姿になったジャシンは、大きな剣を深淵から取り出し、真名月のタワーに向かって猛進していく。
「NEO進化、そんな古い効果が……!」
「グレート=ジャシン帝の登場時効果!相手のシールドを1枚ブレイクする!!」
「なんだと!?」
次の瞬間ジャシンは剣を放り投げる。その剣は速度を増して真名月のシールドに突き刺さり、そのままシールドを破壊して、真名月の背後にあるタワーに突き刺さった。
真名月 シールド0
「1体で決着をつけにきたというわけか…この土壇場で、文字通り進化してくるとはな……」
「グレート=ジャシン帝で!真名月にダイレクトアタック!!」
ジャシンが自身の体を使い、腕から出る闇のマナを真名月にぶつけにいく。しかしその直前、バロム・ナイトメアがジャシンと真名月の間に割って入る。
「残念だったな、山札の下は《混沌の獅子デスライガー》、効果はないに等しいが、バロム・ナイトメアをバトルゾーンに出すことはできる!」
バロム・ナイトメアが再びブラックホールを出して、ジャシンを吸い込み始める。ジャシンは抗おうとするが、付け焼き刃の新たな力では抗いきれない。
「ジャシン!!」
「クソ、またこやつに負けるなど……!!」
ジャシンですらブラックホールに飲み込まれると思った次の瞬間、進化元となっていたはずのコミック=コロックが、ジャシンの背中を押した。
「ジャシン様、行ってください!!」
「なに……!?」
「他の家臣も同じ気持ちです、最後くらい俺が体を張れなくてどうするんですか!その代わり、終わったら皆も助けてください!」
「……フン、かっこつけよって!」
コミック=コロックがブラックホールに吸い込まれるのを後ろ目に、ジャシンは真名月へ、走り近づいていく。
「バロム・ナイトメアが効かない……!?何故だ、進化元が身代わりになるなど!」
「余の新たな力、G-NEO進化。これは一度まで進化元にした家臣に身代わりになってもらう能力。昔の余では、思いつきもしなかっただろうな」
そう言ってジャシンは夕哉の方をちらりと見る。その意図を感じ取った夕哉もこう返す。
「ジャシンだから、皆信頼してるんだよ!アビスの皆は!!だから、だから今!真名月と決着をつけよう!!」
「フン、買い被りよって!お前のことだ、もちろん峰打ちなんだろうな!」
「うん、よろしく相棒!」
ジャシンは真名月を切り裂き、後ろのタワーを攻撃する。タワーはバラバラと砕け散り、大きな音を立てて崩壊していった。
「ジャブラッド、超次元に行った皆を助けて!ジャガイストと協力して両側からこじ開けるんだ!スパトー、シス、少し遠いから安全ではあるだろうけど御白達をお願い!真名月!生きて、罪を償うんだ!」
夕哉はテキパキと指示を出し、クリーチャー達が同じ身体を使うかのようにそれを行い、夕哉本人はジャシンと共に真名月の元に近寄る。しかし真名月は立ち上がり、倒壊するタワーに向かって歩き出した。
「待てって!お前にはまだ償うことが……!」
「それは、お前の世界の話だろう?」
「余も夕哉と同じ気持ちだ、死んで楽になどさせん」
ジャシンが真名月の前に立ち塞がり手を出すが、真名月の身体をすり抜ける。真名月は消え始めていたのだった。
「バロムに長期間魂を売った代償だ。マナを制御していたタワーは破壊され、ワルドバロムもお前達の手によって破壊された。何より俺の身体は、初めて記憶を改変して世界から追い出された時から、弱っていた」
「……元々、長くなかったということか」
「じゃあなんで……!!」
「月の民の皆に、安寧の地を渡したかった。だが、俺は手段を選べなくなった。少しでも残った月の民達の為に歩んでいたつもりだったが、あいつらを少しでも切り捨てた時点で、いやもっと前から……」
真名月はどんどんタワーの方に向かっていく。瓦礫をジャシンに弾き飛ばしてもらいながら、夕哉も追いかける。
「じゃあ余計だめだ!せめて言葉を!真名月のことを信頼してる月の民だって、少数だけど残ってる!だから……!!」
「俺が戻ったら、あいつらは元に戻ってしまう。俺が残すほど気概のあった連中は、俺がいない方が強くなれる。この世界に不要なのは、俺だけだ」
「夕哉、これ以上は危険だ、戻るぞ!!」
「そんな……!真名月!!」
夕哉はジャシンに抱き抱えられ、真名月から離される。ジャシンが離れた瞬間、タワーは遅くなっていた時間を一気に取り戻すように、バラバラと大きく、一瞬にして崩れたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺たちが避難所に戻る途中、街中を壊していたクリーチャー達が、塔が崩れたことによってこの世界で生きられなくなっていた。マナが足りなくなっていたんだ。ゴルドラン達はクリーチャーを元の世界に返した後、俺たちのところに戻ってくるらしい。
ジャブラッドやジャガイスト、シスに御白や飛水、緑やシイノを抱えて先に行ってもらいながら、俺はジャシンと街を歩いていた。ところどころ壊れているけど、公輝さん達大人が、できることをやると言ってくれた。俺たちも当然手伝うけど、驚かせちゃうからクリーチャーの力は借りない。まぁ何より、壊したクリーチャー達に対してクリーチャーの力で直すって、何も知らない人からの心象は悪いからね。
「貴様、よくもまぁ耐え抜いたな」
「アビスの皆がずっと力を貸してくれてたからね。皆ジャシンが戻ってくることを疑ってなかったよ」
「そうか」
「後でお礼でも言っておいた方がいいんじゃない?」
「誰が言うか」
「……ジャシン、ありがとうね」
「……貴様が言うのか」
「そりゃそうでしょ?ジャシンが頑張ってくれてたから、真名月を倒せたし、御白達は殺されずに済んだんだから。だから、ありがとね」
ジャシンは少しの間俺から目線を外して後ろを向いた。照れてる……のかな?
「これからどうするのだ?」
「まぁ、しばらくは勉強漬けかなぁ……」
「貴様らガクセイは勉強の奴隷だな」
「ふふ、まぁね。でも漸く、目標が見つかったかも」
「目標だと?」
「うん、夕花の為ってずっとその為だけに勉強してたけど、俺自身がやりたいことができたというか」
「……ほう?」
「まだ秘密だけどね。完全に決まったら、ジャシンに言うよ」
「ふむ、そうか」
「気にならないの?」
「気にならん」
ジャシンがそう軽く言ったのを見て俺は思わず笑ってしまった。
「改めて、ありがとうね」
「フン、言われて悪い気は、しないな」
「……よし、もうすぐ皆のところだ!」
俺とジャシンは、避難所の方に向けて走り出した。
夕哉の、今日のカード紹介!
今日は、《淵魂 グレート=ジャシン帝》。
新しいカード、G-NEOクリーチャーで、出た時に2ドローか1ブレイクをすることが可能、そのまま進化クリーチャーだから攻撃する時も、G-NEO進化の能力で一度だけ進化元に除去を肩代わりしてもらうことができるんだ。ジャシンが感情に目覚めた結果起きた、奇跡のカードだよ。
次回、『Re:スタート』