デュエル・マスターズOverLord(オーバーロード) 作:シグレサメ
12月31日。俺はこの街が超大企業光屋コーポレーションの本拠地であることを舐めていた。灰理さんが見せてくれたお金の量は目玉が飛び出るような金額で、その恐ろしい量のお金が恐ろしい速度で街に投資され、街が戻っていくのを見て、安心を通り越して少し怖いとすら思った。
街は表面上は元通りになった。けれども一部の人にとってはまだトラウマになっているものがあるし、真名月がタワーを建築して派手にぶっ壊した区域は、まだ直り切っていない。
そんな中俺は、御白を待って皇龍商店街までやってきていた。
「夕哉くーん!」
「おはよ、御白」
「おはようございます!」
「もう怪我は大丈夫なの?」
「前の精神に侵入された時と違い、怪我ですからね。大丈夫でっ……!?ごめんなさいまだちょっと痛みます……」
「気をつけてよ……」
俺と御白は商店街を通って皇龍高校まで向かっていた。商店街は少しずつ活気を取り戻している。物珍しさで市外から来た人によって商店街の売り上げや、お土産としての売り上げが上がっているらしく、ちょっと複雑な気分だ。
「にしても、大晦日まで登校なんて……」
「一番大変なのは先生だからね……。逆に明日から冬休みにできるのが信じられないよ」
「それは確かに。お父様とお母様、すごく忙しそうでしたし……」
俺は意を決して御白に聞いた。
「どうなの?お父さん達とは」
「つかず離れずって感じです。ここでの復興のために家にいる日が増えましたけど、気まずいって日は前よりかなり少ないですし」
「なら良かった。心配だったから」
「それはそうですけど…。夕哉くんもお父様達が帰っちゃって……」
「クリスマスのことだよ?まぁ寂しいけどさ。この事件のせいで寧ろ滞在時間伸ばしちゃってたし、寧ろ優しくしてくれたから」
「でも、やっぱり家族と離れるのは……」
「まぁね。でも夕花もいるし、婆ちゃんもいるし。何より……ほら」
そう言って俺は前を指差す。商店街の奥であんぱんを咥えてもぐもぐと食べているシイノと、飛水、緑、火奈の4人が待ってくれていた。
「おはよう、皆!」
「おはよう、夕哉……夕哉!?」
シイノは急いで頬張っていたあんぱんを口の中に捻じ込もうとする。ただそのまま喉を詰まらせそうになって、5人がかりで止めることになったのだった。
「じゃあしばらく夕哉くん家に住みながら、この世界のお勉強ってことですか?」
「うん、家にいるけど、皆のことは手伝えない。タブラを安定して制御する練習もしなきゃだし」
「無理に手伝わなくても大丈夫だよ、ボクたちなら」
「うん。皆のことは、信頼してる」
シイノはあれ以来俺以外にも緑にも心を大きく開いて、一緒にいるのをよく見るようになった。別の世界にいたっていう経験が、シンパシーを感じさせているのかなと俺は勝手に思ったりしてる。
「逆に火奈達はどうなの?」
「あたしは……デュエマ部に復帰できそうです!」
「「「「おーー!」」」」「凄い」
「帰ってきたカイザーの状態を火文明で見てもらってて、それが大丈夫そうだったらまた一緒にいれるって!お父さんとお母さんもオッケーを出してくれたんだ、まぁたくさん話したんだけどね」
「良かったです、本当に、良゙がっ゙だで゙ずゔぅ゙っ゙!゙」
「光屋感極まるの早っ!」
「まぁ、ひなが大変なことになって一番ダメージ受けてたのみしろだし」
「御白ちゃんとまたいれてあたしも嬉しいよ?」
「私もですぅ!一生の親友ですぅ!!」
「そ、そっかぁ……」
「やべぇ、この絵面超おもしれぇ」
「ひすいー?」
「じゃあ飛水は?」
感極まる御白に照れる火奈、煽る飛水と圧をかける緑という日常に戻ってきたことを感じさせる風景を見ながら、俺は飛水にも話を振る。
「大してねぇけど……。強いて言うなら動画投稿の数を増やした」
「最近の、結構いい歌」
「あぁ、ゆっくりと再生数が増えてる感じだ。まぁ、こう下積みしていくしかねぇからな」
「下積みって、飛水本気で音楽の道目指すってこと?」
「まぁ……流狼さんにあそこまで言われちゃな」
「凄いよひすい!ボクももっと応援する!!」
「おーおー、さんきゅーな」
「緑は、なんかあった?」
「ボクはね、本当のお父さんとお母さんの顔を思い出したよ」
皆の顔が引き締まる。話自体は聞いていたとはいえ、実際に本人から聞くのではやはり違う。
「ちょっと皆、硬い顔しないでよ!」
「いやそんな……やっぱり、デリケートなことですし……」
「まぁ、そう易々と聞けることじゃねぇよ」
「うぅん。寧ろ勇気が貰えたんだ。今更会ったり、どうこうできるわけじゃないけど、ボクの家族はちゃんといたんだよって、実感できたから。大丈夫」
「緑、心が強いね」
「うん、あたし達も見習わなくちゃ」
そう話しているうちに、俺たちは学校に着いていた。
「じゃ、また帰りね。シイノ、来てくれてありがとう!」
「うぅん、話せて楽しかった」
「また後で!」「じゃあね、しいの!」
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公輝は、事件の顛末を纏めることに追われていた。遥風も一緒に手伝っていたが、クリーチャーを使った犯罪、首謀者達が全員消滅以上のことが起きていること。課題は山積みだった。
「公輝さん、お茶をどうぞ」
「あぁ、助かるよ」
プルルルルルルルル……
「電話です、私が取りますね。はい、須谷です。はい……。我龍竜也さんからです」
「なんだって?」
不安にさせないため夕哉達には軽く言っているが、竜也はドギラゴンを連れてまた旅立っている。いわば辻褄を合わせる作業だ。夕哉やジャシンと合わず無理やり日本に戻された竜也は、今一度クリーチャー界の扉を見に行かなければならなかった。しかし全ての扉は閉まっており、それを確認した後で戻ろうとした頃には、皇龍市に戻れる状態ではなくなっていた。
『公輝。そっちはどうだ?』
「どうだも何もだ。また助けられてしまった」
『夕哉はもう十分強いからね。俺もまたお世話になっちゃったよ』
「でも、子供にそんなことをさせて……。また辛い目に……」
『そろそろ完成するんだろう?それは』
竜也が言ったのは火奈が使ったシールドのことだった。クリーチャーの力を借りれる夕哉達には無用の長物ではあるが、公輝にとっては喉から手が出るほど欲しかったものである。完成まで一気に進んでいるのが、火奈の実証によるものであることに、公輝は引っ掛かっていたが。
『じゃあいいじゃないか。相棒は決めたのかい?』
「あぁ、光文明のクリーチャーだ」
『いいね光文明、公輝らしいよ』
「……竜也。お前は今どこにいるんだ?」
『あぁ、今飛行機を降りて連絡してる』
「飛行機を降りて!?こっちに帰ってきたのか!?」
『まぁね。海外をまた回ってるうちに、とんでもないものを見つけたんだ』
「とんでもないもの……」
公輝の問いに、竜也は軽く答えた。
『早い話、クリーチャー界のお宝だ。剣と勾玉、そして鏡だ』
「なんでそんなものを……」
『大昔、クリーチャー界と人間界が繋がったことがあって、それによって巨大なクリーチャーが災厄をもたらしたことがあったらしい。その時にそいつが力を借りてたのが、その3つだ』
「そいつがまずいのか。だったら……」
『いや、辺境の国の昔の伝承だし、何より昔すぎて言い伝えが歪んでいる可能性すら考えられる。だから俺が単独行動するよ。夕哉には連絡しておく』
「……嫌な予感が当たらないことを願うよ」
『俺もだよ。じゃあ、大人は大人のことをやろうか』
「あぁ、皇龍市で待っている」
そう言って公輝は電話を切った。余りにも突拍子の無い話だが、竜也がやる必要があると思ったものだろうと思うと、任せずにはいられなかった。
「竜也さん、今回のに参加できなかった負い目でしょうか」
「そういうのじゃない、あいつはちゃんと人のために動くよ。俺たちも上手くやらないとね。さて、仕事の続きだ」
「……はい!そういえば、光屋コーポレーションから手紙が……」
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その頃光屋コーポレーションでは、白都が生き残った月の民達を指揮して、仕事に就けるように、教育を受けられるように示していた。
「君たちだけ特別扱いすることはできない。だから子供は教育を、大人は仕事を。それぞれの責務を全うしなきゃならない」
「仕事なんて……。ずっとバロム様の恵みを受けてただけの俺たちには……」
「元の世界に帰せよ!」
「せめて、楽にさせて……」
白都はそれを認可することはできない。クリーチャー達の力を小さくも扱える、数があったとは言え夕哉と御白が手こずった相手。そんな人間を何も無しにこの社会に解き放つわけにはいかない。
「確かに、何も考えずにいい暮らしができるなんてことはない。だが、働ければ働いた分だけ、お父様の会社は賞与を出す」
(一般的に、暮らしのグレードを後から落とすのは難しいと聞くが……。今まで信じていたものが崩れて無理矢理ここにいなきゃいけない。それ以上の苦しみだろう。ここにいる月の民の皆も、不憫だな)
「真名月様、なんで亡くなったんですか?」
20人ほどの月の民の中から、ある1人の女性が、白都にそう聞いた。
「私たちの当たり前を否定して、貴方達の当たり前を押し付ける。それはどうなんですか?」
「……厳しいことを言うが、君たちは敗北しなかっただけだ。世界は基本奪い合いの歴史。奪って、奪われて。そうならないために俺たちの社会はこうなった。まだ完璧とは言い難いが、できる限りの知恵を絞ってつくられたシステムのはずだ。君たちは、負けた。バロムはなんでも叶える魔法の存在じゃなかったんだ」
「でも私たちはまだあいつらに負けていないです!せめてあいつらと戦って……!」
「それは楽になる選択だろ、こうやって喋れているのも、タブラの力をシイノという人から一時的に借りているだけだ。クリーチャーの後ろ盾がなければ、それだけ脆いものなんだ、君たちは」
(何より、御白に罪悪感を覚えるようなことを、これ以上してほしく無い)
白都はさらにこう続ける。
「死ねなかったと見るか、生き残れたとみるかは君たちの勝手だ。それでも世界は回って、日は移り変わっていく。酷な話だが、君たちの気持ちが後者になるように、できる限りのことはしていくつもりだ」
白都はそう言った。見えていないものが余りにも多かったと感じていた。御白達がいなければ、立場が逆になっていたことは想像に難く無い。だからせめて、御白達にできないことをしようと、光屋家は決めていたのだった。
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17時ごろ。俺が家に帰ると、夕花とシイノは今でテレビを見ていて、婆ちゃんは新しい趣味の英会話をやっていた。もう1つの趣味のヨガといいかなり元気だよな、婆ちゃん。
「婆ちゃんただいま。学校終わったよ」
「そうかい。一緒に紅白見れそうだねぇ」
紅白か。そういえば全然年末って感じはしてなかったけど、そういう日か。
「お兄ちゃん、単独のグルメ、面白いよ!」
「夕哉、あんこはいつ出るの……!?」
「街の定食屋さんを紹介する番組だから、少し厳しいんじゃないかなぁ」
俺はそう言いながら、2階に荷物を置きに行った。部屋に着いてデッキを置くと、ジャシンが喋り出した。
「夕哉よ、余を下の階に連れて行け」
「えぇ?また?ぐちぐち言うじゃん」
「今日は興味深いのをやっているかもしれん」
「やー……大晦日だし、ジャシンが見たい番組はそんなに無いんじゃない?」
あの決戦以来、ジャシンが積極的に外を覗くようになっていた。多分手に入れた感情によるものだと思う。《淵霊 グレート=ジャシン帝》の姿になって、なんというか、積極的になったと思う。
「シイノ、夕花、ジャシンもテレビ見たいって」
「はーい、いいよ!」「あんこ、出るかな」
「この番組では出んだろ。まぁ、余もウィンナーを期待するとするか」
俺も夕花やシイノを見ながら勉強をしばらくしていると、唐揚げの回が流れ始めた。
「唐揚げ!」
「やっぱり美味しそうに食べるね、この俳優さん!」
「それは同意する。こんなものを見せられたら、食べたくなるではないか」
「皆婆ちゃんの唐揚げ好きなんだね」
「お兄ちゃんのも好きだよ、優しい味で」
「同意。でもわたしは味付けが濃い方が嬉しい」
「余はもっと量を所望する」
「もー……」
「できたよぉ、ちょっと早めに夕飯にしよっか」
いつの間にかキッチンに立っていた婆ちゃんが持ってきたのは、たくさんの唐揚げだった。
「何、貴様、心を読んだのか!?」
「いや、黒井家って年末は好物パーティするから。夕花と俺の好物が出てきた感じかな」
「そう、だから今年はウィンナーとあんぱんもあるわよ!」
「なんだと!?」「嘘、夢……!?」
「シイノちゃんは明日からあんこ餅もあるからねぇ」
「あんこ餅……!!」
「シイノ、貴様あんこだけで騙されたりするなよ…?」
シイノの目がキラキラに光って興奮しているのと、それを諌めるジャシンを笑って見ながら、俺たちは夕飯を堪能した。
俺は紅白が始まって一旦上の階に上がり、勉強用の荷物を取りに来ていた。そうしたら下の階からとっとっと、と階段を上がる音が聞こえてきた。夕花の音だ。
「お兄ちゃん、また勉強?大晦日くらい良くない?」
「いや、そうもいかないよ。騒ぎのせいで授業がいくつか潰れてるし。冬休み明けに楽できるようにしないと」
「ふーん、そっかぁ」
「……どうしたの夕花?」
「いや、肩の力抜けてるなぁって」
「まぁ夕花も帰ってきたし、ワルドバロムと真名月も倒したからね」
「それもあるけど、お兄ちゃんが自分のやりたい事のために勉強かって」
「うん、まあ、そうだね」
正直ちょっと意外だった。夕花からこんな風に言われるなんて。
「お兄ちゃんさ、ずっと私優先だったから。こんな風に自分のためにって。何のためなの?」
「いや、大きいと言うか、大それてるというか…。って感じかなぁ」
「分かった、私だけに言ってよ」
「……分かったよ」
俺は夕花にだけ耳打ちした。まだ遠い夢だけど、まだ御白達に言えるような目標じゃないけれど。色々落ち着いたら、言わなきゃ行けないと思う。
「お兄ちゃんらしい夢じゃん」
「そうかな」
「絶対叶えられるよ」
「そっか、ありがとう。よし、紅白観に行こっか」
「うん!」
そう言って俺たち2人は1階に降りていくのだった。シイノやジャシン、婆ちゃんの声が聞こえるあの場所に。
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俺は、どこにいる?身体を起こして見回すと、そこはどこまでも白い空間だった。
「いわば、生と死の狭間ってやつか」
俺は立ち上がり前に進み出した。かぐらがいるかもしれない、有明がいるかもしれない。レントが、流狼がいて、許してくれるかもしれない。……嘘だ、そんなことはありえない。俺は手をかけ続けてきた。そんな奴らが行くところは、一つしかないだろう。
この世界で言う天国や地獄ではない。それは満足に死ねたあいつらが行く場所だろう。月の民の死生観だと、悪魔神に魂を選別してもらい、良い魂であったら生まれ変わり、そうでなかったら修行して清める、というものであるが…。
「そうもいかないよな」
俺は、前と同じ場所にいた。
「ねぇ、『黒井夕哉』はどうだった、真名月?」
「………誰だ、お前」
「やだなぁ、オレだよ、オレ」
そいつの顔に見覚えがない。いや、こいつの顔を今見ているはずなのに、脳が認識できない。そんな感覚が昔あったように感じているうちに、ある記憶に辿り着いた。
「お前、俺たちの最初の世界にいた人間か?」
「よく分かったね、まぁニンゲンというにはちょっと……だけど。でさ、質問の答えは?」
「強かった。奴は何倍も、心も頭も身体も強くなっていた。俺では、月の民を守れなかった」
「それは大変だったね。でも君は頑張ったじゃない。『守るべき人まで殺してまで』。そうなったからには君は勝っても負けても、行き着く先は変わらなかったんだろうね」
「……お前……何者だ?」
「オレは今から本番なんだよ。ワルドバロムが残してくれたもの、君たちが奪ってくれたジャシンの身体そのもの。それがあれば、オレのやりたいことができる。それまで、ここで待っててよ」
「………」
俺はそいつを見送ることしかできなかった。バロムの力を失った今、こいつと戦っても万に一つも勝ち目はないと、確信したからだった。
「あ、そうだ。生と死の狭間っていうのは不正解。ここは世界の狭間で、マナが溜まっている場所。だからワルドバロムと融合、そして負けてもクリーチャーになった君は、死ぬこともできないし、ここから出ることもできない。天然の牢獄だね」
「……そうか」
「世界を旅して色んなところを踏み躙った君にはお似合いの最後だね、じゃあ、また何処かで!!」
「……貴様も、いずれこうなる。あいつは、そう簡単には折れない」
「そうはならないよ。だって俺は、黒井夕哉のことをよく知ってる」
そいつは不敵に笑い、どこかへと消えていった。
デュエル・マスターズOverLord 完
デュエル・マスターズOverLordWへ続く