デュエル・マスターズOverLord(オーバーロード) 作:シグレサメ
少し時間は遡ってクリスマス・イブ。俺と夕花、婆ちゃんとシイノは、父さんと母さんの送別会をやっていた。
あの事件から2週間。家に戻れる状態になってからも、父さん達は家にいてくれた。海外に戻らなければならない日が近づいていたのは分かっていたけれど、できる限り悟られないようにしてくれているのも察していた。
家で食卓を囲んで、ケーキを母さんが持ってくる。シイノも一緒だ。皆と一緒にいれるって、とても幸せなことだと思う。本当にそう思うんだ。でもその日の俺は何かおかしくて、父さんや母さんの会話を聞いて笑ったり、楽しんでいたりしていたはずだったのに。
「夕哉、どうしたんだ?」
「ご飯もそんなに食べてないわね、夕哉……?」
「いや、なんかおやつ食べすぎちゃったかなぁなんて……」
「夕哉、おやつも食べてなかった」
「………」
俺は言葉に詰まった。間違いない、父さんと母さんが出発する前夜でナーバスになっている。分かってたつもりだったのに、抑えておくつもりだったのに。
「夕哉……」
「夕花、お前も、端が進んでないみたいだな」
「えへへ……。まぁ、ちょっと、ね」
兄妹で言葉に詰まってしまった。久しぶりに話せた。久しぶりに時間を取って、たくさん話したいことを話せた。ワルドバロムを倒してから2週間もあったんだ。言いたいことは全部言ったつもりだし、送り出す準備も十分にしたはず。今日を平和に終わらせて、いってらっしゃいを明日言うだけの……はずだったのに。
「夕哉、夕花。ご飯、もう食べない?」
「……ごめん母さん、ちょっときついや」「うん、私も」
「2人とも、寂しいんだね。だって、私がひとりぼっちになった時と、同じ顔してる。水晶に映った自分の顔を、未だに忘れられないから」
シイノにも感じ取られたみたいだ。俺と夕花は、誤魔化すことをやめた。
「ごめん父さん、母さん。今日は絶対楽しい日にするつもりだったのに……」
「私も一緒、なんか話してるうちに、どんどん悲しくなってきちゃって……」
「暁美さん、後でお庭を借りても良いですか」
「良いけど、何するの?」
父さんが何か確認を取って、俺たちに言う。
「30分後、デッキを持って降りてきてくれ。俺たちとデュエマをするんだ」
「お父さん。何言ってるの……?」
「父さんが、デュエマ…?」
「母さんも一緒だ。俺たちが勝ったら、夕哉達は一つ言うことを聞く。夕哉達が勝ったら、俺たちが言うことを聞く。それで勝ったらこの家に残ることもなんでも、好きな望みを言ってくれ」
「でも、父さん……!?」
「俺たちはそれを取り消したりしないぞ、1回だけの真剣勝負だ」
父さんは普段優しいけど、こう言う時有無を言わさない圧がある。シイノを助けた後の3つの質問の時と同じだ。俺と夕花は、これに正面から向き合わなければいけない。
「じゃあ、30分後だ」
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「デッキ、準備できたか」
「うん、夕花と一緒に考えたんだ」
俺はジャシンのカードをシイノに預けた。
「ジャシンのカード、使わないのか」
「色々あってジャシンは不安定だから。とりあえず今は使わない」
「それで負けないと良いな」
「……まぁね」
父さんのデュエマ遍歴は知らないと言うか、ないと思う。でもわざわざ勝負を挑んでくると言うことは、かなり準備をしてきたんだろうと思う。俺の父さんは、そういう人だ。
「お兄ちゃん、一緒に頑張ろう!」
「うん、絶対に勝とう」
「夕哉や夕花と一緒にゲームなんて何年ぶりかしら……!」
「小夜、そう言って負けたら許さないからね」
母さん、婆ちゃんから圧力かけられてる…。そう思ったら婆ちゃんは縁側でジャシンを持ってるシイノに近づいていって、
「私は皆みたいにでゅえまがわからないから、シイノちゃんの横で見てるわ」
「分かった。でも、きっと。夕哉と夕花、明さんと小夜さんなら、すごい勝負をすると思う」
「「「「デュエマ、スタート!」」」」
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父さん達の先行で始まったデュエマ。恐ろしいことに父さん達が動いてきたのは1ターン目だった。
「1コストで《ベイビーポンの助》を召喚だ」
「ゼロ文明!?ジョーカーズだよお兄ちゃん!」
「流石に予想外のデッキ選択かなぁ……」
ちょっとキモカワな感じの赤ちゃんのクリーチャーが、1ターン目からバトルゾーンに出る。
「おぉ、なんか出たねぇ」
「クリーチャー。シールドという盾を削り合って、相手に直接攻撃をした方が勝つの」
「なるほどねぇ」
「更に場に文明を持たないクリーチャーがいるので、《ゼロの裏技ニヤリー・ゲット》!山札の上から3枚を見て、文明を持たないカードを全て手札に!これで終わりね」
父さん達、だいぶ強いデッキを持ってきてる……!
「お兄ちゃん、私たちのターン」
「……うん、俺たちのターン、ドロー!」
「1マナで《オンサ=マンサー》を召喚!登場時効果で山札をめくって、それを墓地に!ターンエンド!」
「じゃあ私達のターンね」
「ドローして、2コストで《ヤッタレマン》を召喚。ベイビーポンの助で……」
「明くん、ベイビーポンの助は攻撃できないわ」
「あ、……そうか、すまない夕哉、夕花。ターンエンドだ」
多分、突貫で覚えてくれたんだと思う。俺たちに合わせてくれたんだと思う。俺たちに、合わせて……。
「2人とも、相手のミスにはつけこんでいくんだぞ」
「え、……はい!」
思わず答えてしまった。やっぱり父さん達は本気なんだ。ちょっと躊躇していた俺の代わりに、夕花がプレイを進めてくれていた。
「私のターン!マナチャージして、《オペラグラス=ドグラス》を召喚!山札の上から2枚を見て、1枚だけを墓地へ!ターンエンド!」
「ありがと夕花」「うん」
「じゃあ俺たちも準備を進めなきゃな」
「そうね、私達のターン、ヤッタレマンはジョーカーズを1コスト下げてくれるから、2コストで《パーリ騎士(ナイッ)》を召喚、墓地からニヤリーゲットをマナに置くわ。更に1コストで《ネフェルカーネン》を召喚。山札をめくって、ジョーカーズの《ヘルトッQ》だから手札に加えるわ。更にネフェルカーネンを出して、山札のヤッタレマンを手札に加えてターンエンドよ」
「俺のターン、ドロー」
「お兄ちゃん、ベイビーポンの助の効果でマナゾーンの枚数より大きいクリーチャーは出せない、ハイパーエナジーは使えないよ!折角ハイパーエナジークリーチャー山札に置いたのに!」
「いや、クリーチャーを出さなければ良いだけ!オンサをタップしてハイパーエナジー!《影邪盗霊(エナジー・ドレイン)》!墓地を5枚増やして墓地にあるカードの枚数(7枚)×1000、マイナスする!ベイビーポンの助のパワーをマイナス7000して破壊!」
「ぐおっ!やるな夕哉!」
「おぉ、クリーチャーがやられちゃったねぇ」
「クリーチャーの駆け引きがデュエマの醍醐味。これからもっとダイナミックになる」
「一旦ターンを返すよ、ターンエンド」
「じゃあ次は俺のターンか、ドロー!」
「俺のターン、1コストでヤッタレマン、3コストでヘルトッQを召喚!出た時場のジョーカーズの数(5体)分カードを引く!」
「5、5枚!?」
「さらにパーリ騎士を召喚して、攻撃できるパーリ騎士でオンサ=マンサーを撃破!ターンエンド!」
「私のターン!お兄ちゃん、手札一気に増えちゃったけど…!」
「まずはエンジンのヤッタレマンを倒すしかないと思う」
「オッケー!まず1コストで《コミック=コロック》を召喚!更に2体をタップしてハイパーモード!《暴淵 ボウマ=ダンマ》をバトルゾーンに!出た時効果でヤッタレマンを破壊!ターンエンド!」
「私達のターンね」
「切り札が出せるよ、一気に決めるんだ」
「そうね、マナチャージして、まずは1マナでベイビーポンの助、4マナでヘルトッQをだして、場とマナにあるジョーカーズの数だけ軽減、10コスト減らして《王道の弾丸 ジョリー・ザ・ジョニー》をバトルゾーンに!」
「11コストのクリーチャーが1マナで!?」
「王道の弾丸ジョニーは出た時に文明を一つ選び、呪文を無効化できるわ!これで止めるのはもちろん闇文明!更に味方のジョーカーズ全体のパワーをプラス4000!」
「お兄ちゃん、やばいよ!!」
「更に場には1,2,3,5,11コスト!これでG・0達成よ!行くわよ明さん!」
「「《夢の弾丸 ジョリー・ザ・ジョニー》!!」」
大きなローブを纏った機械のガンマンが、夕哉達の前に現れる。そのガンマンは皆から力を受け取ると、その力を一発の弾丸に込めた。
「ここからは俺が説明する。夢の弾丸ジョニーは場にあるクリーチャーの力を借り、ブレイク中に場にあるクリーチャーと同じコストの召喚、つまり1,2,3,5,7,11コストの召喚を封じるんだ」
「いや、コミック=コロックがいる!攻撃をそれでいなせば良いだけ…」
「もちろんブロッカー対策もばっちりしてるさ」
コミック=コロックとオペラグラス=ドグラスが山札に吹き飛ばされる。
「そして呪文、《勝熱と弾丸と自由の決断(パーフェクト・ジョーカーズ)》。これで夕哉達の3コスト以下のクリーチャーを山札の下に戻せる」
「父さん達、めちゃくちゃに強い……!!」
「当たり前だろ、夕哉達がしっかりやってることに追いつくためには、これくらいしなきゃいけないからな」
「お父さん達がそんなに頑張る理由って……」
「もちろん勝ちたい気持ちもあるけど…。やっぱりそれよりも、夕哉や夕花の見てる世界がどんなのか知りたくなったのよ」
「じゃあ小夜さん、やろうか!」
「漫画のあの子、カッコ良かったもの。やってみたくて仕方なかったわ!!」
「父さん達、もうただのファンじゃん……」
そうは言いつつも俺は笑ってた。父さんと母さんは離れていても、ずっと俺たちのことを気にしてくれてる。そう確信したからだ。
「「引き金は二度引かねぇ!一発が全てだ!!」」
夕哉&夕花 シールド0
「夕花!まだ終わらせちゃいけないよね!」
「うん!やるよ!お兄ちゃん!!」
「シールドトリガー!《暴淵 ボウマ=ダンマ》×2!」
「シールドトリガー!《忍蛇の聖沌 c0br4(コブラ)》!」
「嘘!?3枚トリガー!?」
「6コストのジョーカーズ、引けるのを待つべきだったみたいだな…!」
「まずはボウマで王道弾丸ジョニーとヘルトッQを破壊!」
「続いてコブラの効果!墓地を2枚増やして《アーテル・ゴルギーニ》を蘇生!アーテルの効果!墓地からオンサ=マンサーと《ド:コータ》をバトルゾーンに!ド:コータでパーリ騎士をパワーマイナス3000!」
「どうするの、ギリギリトドメは刺せなくなった…!」
「小夜さん!一旦止まるしかない!ターンエンド!」
「私たちのターン!呪文、《九番目の旧王》!相手全体のパワーをマイナス3000!これで一旦ターンエンド!」
「俺たちのターン!ヘルトッQを出せるけど、カードも3枚しか引けないか…。夢の弾丸でダイレクトアタック!」
「アーテルでブロック!アーテルは離れる代わりにボウマを身代わりにする!」
「だったらターンエンドだ」
「俺たちのターン!このターンで決め切る!まずは2コストでオペラグラス=ドグラス、更に4コストで《邪魂龍 ジャビビルブラッド》をバトルゾーンに!ドグラスをタップしてジャビビルをハイパー化!ボウマでシールドを攻撃!」
「クリーチャーの数はギリギリか…!」
「ギリギリじゃないよ、ボウマが攻撃した時2枚墓地を増やして、墓地からコスト3以下のアビス、ド:コータをバトルゾーンに、しかもジャビビルの効果で攻撃できるよ!」
明&小夜 シールド4
「トリガーなしか…!」
「ド:コータでシールドを攻撃!」
明&小夜 シールド3
「まだ引けない……!」
「2体目のド:コータでシールドを攻撃!」
明&小夜 シールド2
「シールドトリガー!《タイム・ストップン》!コブラを山札に送る!」
「止まらざるを得ない……!ターンエンド!」
「俺たちのターン!だがクリーチャーの数を足りさせるには…!よし、パーリ騎士とヤッタレマンを召喚!」
ジャシンは怪訝そうな顔でその様子を見る。
「なんだ?今更召喚酔いするクリーチャーだと?」
「いいや、呪文、パーフェクトジョーカーズ!これの効果にはすぐにプレイヤーを攻撃できる効果がつく!」
「嘘!?」「いきなり2打点増えた……!」
「ヘルトッQでダイレクトアタック!」
「アーテルでブロック!バトルに勝利!」
「夢の弾丸でダイレクトアタック!」
「オンサでブロック!今度は負けるよ…!」
「パーリ騎士でダイレクトアタック!」
「ジャビビルでブロック!」
夕哉と夕花のところには、もう1体もブロッカーが立っていない。
「夕哉、夕花。もう終わりみたいだな?」
「いや、まだ終わってない」「うん、私達には切り札がある!」
「なら、それを見る前に終わらせましょう!」
「「ヤッタレマンで、ダイレクトアタック!」」
トドメを刺そうとするヤッタレマンの前に現れたのは、大きな眼をギョロリと覗かせた巨大な龍。
「「革命0トリガー!《デス・ザ・チョイス》!山札をめくって闇のクリーチャーなら、場に出せる!」
「めくったカードは《オンサ・マンサー》!デス・ザ・チョイスの登場時効果でタップしているヤッタレマンを破壊!」
「ぐうっ……!ターンエンドだ」
「俺たちのターン!!」
俺は全力でカードを引き抜く。もうそこに、家族だからどうとか、明日別れるからどうとか、そんなものはなかった。ただ、楽しかった。
「2コストで《ド:コータ》を召喚!パーリ騎士を破壊して、ジャビビルをハイパー化!」
「行くよお兄ちゃん!」
「ボウマでシールドを攻撃!」
明&小夜 シールド1
「スーパーシールドトリガーを対策しているのか…!」
「夕花も夕哉も、大きくなって……」
「デス・ザ・チョイスで最後のシールドを攻撃!」
明&小夜 シールド0
「シールドトリガー無し。お疲れ様だ、夕哉、夕花」
「うん、ありがとうございました」
「ありがとうお父さんお母さん」
「「……ジャビビルで、ダイレクトアタック!!」」
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決着がつくと婆ちゃんとシイノの拍手が聞こえてきた。だいぶアツくなってたな…。と周りを見ると、ジャシンも手を叩いているのを見て、少し嬉しかった。
「夕哉、夕花。俺たちの負けだ。なんでも願い事を言ってくれ」
「そうね。真剣勝負で負けたんだもの、何も言えないわ」
「……夕花」
「うん、お兄ちゃんと同じこと考えてると思う」
俺と夕花は同時に同じことを言った。
「「別れても大丈夫、また帰ってきてくれたら」」
「そうなのか…?俺、全然戻るのを蹴ることだって…」
「でもそれ、父さん達のためにならないんでしょ、だったら我慢するよ」
「でも夕哉達、あんなに寂しがってたじゃない」
「大丈夫だよお母さん!デュエマして気づいたんだ、こんなに楽しい気持ちを一緒にできるんだから、少し離れてたって大丈夫だって!」
「そうか……」
父さんはしばらく黙ったあと、俺たち二人の頭を撫でた。
「本当に大きくなったな。特に夕哉は肩の力が抜けた。いいことだと思うぞ。……夕哉、夕花。俺から一つ謝らせてくれ」
「え……?」
「夕哉と夕花に負担をかけているという負い目があって、なんとなく連絡とか取りづらかったんだ。お前が親ヅラするなって、自分で思ってしまってな」
「そんなこと……」
「でも、そんなことをしている間に夕哉はジャシンと契約して、自分の一歩を踏み出した。夕花もカオスマントラを貸しているとは言え、自分で決め始めたんだ」
「……うん」
夕花がそう答える。
「俺たちは甘えてたんだ、だからできる限りのサポートは続けさせてくれ」
「父さん……!」
「そうね、父親と母親は1人ずつしかいないものね。それでも折を見て帰れるようにするわ、何より、私達の方が寂しくなっちゃいそうだもの」
母さんの台詞に皆が笑う。大丈夫だ、離れていても、この先何があっても、父さんと母さんは俺の味方でいてくれる。ここにいる皆が俺の味方でいてくれる。俺はそう確信した。
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翌朝、俺たちは早起きして、父さんと母さんを見送りに行った。
「じゃあ、またすぐ帰って来れるよう頑張るからな!」
「寂しかったらもっと連絡していいのよ!私からもするから!」
「お気をつけて」「気をつけるんだよ」
シイノと婆ちゃんがそういう中、俺と夕花は声を揃えてこう言った。
「「いってらっしゃい!!」」
辛いことがあったとしても、まだ先に良いことがある、誰かと繋がれると信じて。俺達は一歩ずつ進んでいく。