fate/stay night ~no life king~   作:おかえり伯爵

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間桐家の一日

赤い朱い紅い。

 

大地も、人も、空さえもアカイ。

 

ーー皆、死んだぞ。

 

農奴がいた、騎士がいた、信徒がいた、男がいた、女がいた、老人がいた、子どもがいた。共通点は皆一様にアカク染まり、皆等しく死んだということだけ。

 

ーーお前を信じた者たちは皆、死んだぞ。

 

あるものは手足を、あるものは心臓を、あるものは頭を。貫かれ、吊し上げられ、死んだ。

 

襲いくる敵は全て串刺しにした。逆らう臣民も串刺しにした。愛する者も串刺しにした。単(ひとえ)に神への信仰のために。

 

百人の為に一人が死ね。千人の為に十人死ね。万人の為に百人死ね。闘争という祈りと祈りと祈りの果てに神は降りてくる、天上から。

 

ーーそれで降りてきたかね?神は・・・楽園(イェルサレム)は。

 

哀れで惨めな私の元に馬の群れのように神は降りてくる。降りてこなければおかしいのだ。

 

ーー答えろよ王様。狂った王様。

 

何故。

 

ーー皆死んだぞ。

 

楽園は降りてこない。

 

ーーお前の為に、お前の信じるモノの為に、お前の楽園の為に、お前の祈りの為に。

 

神は降りてこない。

 

ーー皆、死んでしまった。

 

広がる視界。一面の荒野。アカク染まった広大な荒野。手足には枷。首に着けられた金属の首輪から伸びる鎖を引かれ、地に倒れこむ。切りそろえられていない長く傷んだ黒髪が砂を被って白く色をつける。

 

大きめの岩を削っただけの簡素な断頭台。そこへ無理やり押さえつけられ痩せ細った体が軋みをあげた。

 

ーーほら、見ろよ。これがお前の最後だ。

 

赤い朱い紅い。血のように鮮やかで美しい。だからこそおぞましく恐怖する。恐怖して、後悔して、神に懺悔をして死ぬ。

 

「あ、ああ・・・」

 

許されて良いはずがない。神によって罰されるならば納得もできる。だが結局は人間によって罰せられる。神はどこにいる、どうすれば会えるのだと男は天を見つめる。すると、彼の脳に直接語り掛ける声がした。

 

『さぁ、血を舐めろ』

 

天使の囁きでも神のお告げでもない。地の底かもっと深いところからの怨嗟にも似た声。男は瞬時にこの声を理解した。これは醜く愚かな人類への悪魔からの誘いの声なのだ。

 

『さぁ、血を飲み干せ』

 

次第に大きくなっていく声。天から地へと視線を落とすと血が男の元へとにじり寄って来ていた。不覚にも男にはこの血がどんな奇跡よりも美しく、儚く感じた。

 

「執行せよ」

 

下される、人間による裁き。神に祈りを捧げ続けた男の一生はあまりにも呆気なく、彼が積み重ねてきた悪行の重みも本来のそれではない。

 

男は死の来訪を伏して願うだけのはずだった。

 

だが、彼には選択肢が与えられてしまった。死ぬ間際彼が何を思ったかは分からない。そして彼の思いなど誰も分からないだろう。この狂おしいほどの感情を理解できる人間などいないから。

 

死を運ぶ断頭の斧が男の首目掛けて風を切る。

 

男は迷わず地を流れる死を飲み干した。

 

 

 

 

 

「夢、ですか」

 

日も上がらないというのに夢より醒めてしまった桜は窓を開けて風を浴びる。桜の汗で濡れたシャツがひんやりとして身体を程よく冷やす。目覚めが悪かったせいで頭が回っていない桜は無意識に寝台の横の水を探す。

 

「・・・あれ?」

 

水がない。寝台の横に水を常備する習慣がある桜だが昨夜に限って用意するのを忘れていたらしい。桜は首を捻ってから何かを思い出したかのようにうなずいた。

 

「そっか、昨日は雁夜さんと別々に寝たんですよね」

 

10年間の二人の生活の中で共に寝ない日など滅多になかったせいで気が動転していたのだろう。水を忘れたのも地獄のような夢もそのせいに違いないと結論付けて着替えを始めた。

 

「・・・また大きくなっちゃった」

 

半年前に買ったばかりの下着が桜の胸部を圧迫する。これ以上大きくなると凝ったデザインのものが選択できず、シンプルなものしか着用できなくなる。雁夜は下着に執着など全くないが、好きな男性に少しでも美しく見てもらいたい、桜の乙女心が妥協を許さない。

 

「むむむ」

 

両手で持ち上げるとずっしりと重い塊。夢がつまったその袋は今や桜の悩みの種でしかない。大は小を兼ねるというが、度が過ぎれば害となる。

 

女性らしい身体的特徴とはなにかと男性に聞けば大半が胸と答えるだろうが身長に比例していなければ着る服によって太って見える。かといって体のラインがはっきりとわかる服装にすれば視線が集まり男性からは劣情を、女性からは嫉妬を集めてしまう。

 

「・・・困ったなぁ」

 

桜は次の休みの日に下着を見に行こうと心に決めて学校指定の制服をクローゼットから取り出す。こちらは着ているうちに少し大きくなる生地なのでまだ少しだけ余裕がある。そのことに安堵して袖を通していく。

 

「リボンをつけて・・・うん、大丈夫です」

 

「おはようございます。今日は早起きですけど、どうしたんですか?」

 

「あ、婦警さん」

 

壁から顔だけを出してセラスは桜に軽く挨拶をした。朝の何気ない挨拶のようだが生首に挨拶される経験などあるのは桜くらいなものだ。

 

「・・・嫌な夢を見ちゃいまして、目が覚めちゃいました」

 

「あー・・・マスターの夢。どんな夢かは大体分かります。朝から災難でしたね」

 

たははっと苦笑するセラス。壁から顔だけが出ているのでシュールな絵面でしかない。

 

「嬢ちゃん、設置終わったぜ」

 

「お疲れ様です、ベルナドットさん。起動スイッチはベルナドットさんが持っててください」

 

「了解。でも桜ちゃんに内緒で設置して良かったのか?」

 

「・・・マスターの指示には逆らえません」

 

「・・・旦那だもんなぁ」

 

「聞こえているんですけど」

 

「あー・・・事後で申し訳ないのですが、間桐の結界が弱いので勝手に強化させて貰いました」

 

間桐の結界は元頭首臓硯死後、侵入者を感知し警報を鳴らす程度のものとなり下がり自衛できる機能がなかった。雁夜は魔術を本格的に習ったわけでもなく、桜も習いはしたが結界などは教えてもらえなかった。アーカードが戻ってきてからは結界のことなどすっかり忘れていたので今の今まで結界はノータッチだったのだ。改めて考えれば聖杯戦争前には結界の見直しをすべきだったと桜は己の危機感の無さに内心自嘲した。

 

「すみません、本来なら私がやるべきだったのに」

 

「いえ、お気になさらず。ベルナドットさんはこういうの得意ですから」

 

「得意っつーか、覚えていかなきゃ生き残れなかっただけだ」

 

「へぇ、ベルナドットさんは魔術が使えたんですね」

 

「いや、魔術なんて使えないぜ」

 

「・・・結界を強化してくれたんですよね?」

 

「結界を強化したんじゃなくて、結界が弱いから結界代わりに別のもんで強化したってのが正直なとこだ」

 

魔術が使えなくても結界を張れなくても自衛の方法はいくらでもある。自立型の使い魔だったり、自動迎撃できる宝具だったり多種多様ある内のいづれかをベルナドットは所持しているらしい。ならば下手な結界を魔術師が張るよりも強力で効果のあるものなのだろうと桜は思案する。

 

「・・・期待させといて悪いんだけどよ、設置したのはボールベアリングのクレイモア地雷60個だ」

 

「・・・えっ?」

 

兵器には疎い桜でも地雷くらいは知ってる。それは戦争などで使われる踏んだら爆発する爆発物だったはず。それを敷地内に設置したと言ったベルナドット。万が一、敵ではなく家族が誤って作動させてしまえばその命は例外なく散ることだろう。地雷の威力を過大評価しているかもしれないが、手練れの傭兵が態々設置するくらいだ。中途半端な威力ではないと桜は身震いする。

 

ーー自分のテリトリーに自爆覚悟で設置するなんて。

 

「もちろん屋敷には飛んでこないから安心しな」

 

それなら安心だ・・・とは言えない。敵マスターが直接乗り込んでくる馬鹿ならそれでも効果はあるだろう。しかし、サーヴァント相手では地雷など路傍の石に等しい。神秘の宿らない武器ではサーヴァントを倒せないからだ。むしろ、誤って桜や雁夜が踏んでしまうリスクのほうが高い。

 

「地雷でサーヴァントが倒せるんですか?」

 

「倒せます」

 

セラスの自信満々の言葉に桜は耳を疑った。初参加のベルナドットはともかくセラスはサーヴァントについての知識はあるはず。つまり普通の地雷ではないということ。

 

「簡単なことだ。地雷に俺らーー吸血鬼の血をかけてやれば良い。そうすりゃあ神秘?とやらが宿ってサーヴァントにも有効だって寸法さ」

 

「神秘はより強い神秘にかき消されるはずですよね?」

 

「まぁ、サーヴァント相手に地雷ってのはイメージ湧かないかもな。桜ちゃんの言う通り吸血鬼の血を吸った地雷じゃサーヴァントを木端微塵にはできねぇ。でもな、ボールベアリングのクレイモア地雷は自動、手動の両方で操作できるし、無数の金属球が面で飛び散るから避けられねぇ。いくらサーヴァントでも吸血鬼をぶっ殺せる兵器が60個もありゃくたばるだろ・・・旦那じゃなければな」

 

「核兵器でも死にそうにありませんからね・・・」

 

「だな。あと、幸いサーヴァントの血は魔力の塊だから人間の血みたいにべたべたしねぇ。血で地雷が動かねぇなんてこともねぇしサーヴァント様様だぜ。なんで誰もやらねぇんだろうな」

 

「魔術師ですからね」

 

魔術師は思考が制限されている。現代科学を否定しあくまで魔術に拘る。だから殺し合いになってもそのプライドを捨てられない。サーヴァントに翻弄され魔術の使える魔力タンクとなってしまう。サーヴァントと同じ土俵に上がって勝てないのは当たり前。聖杯戦争でマスターがやることはサーヴァントにできないこと。そもそもサーヴァントよりも魔術師が優れているなら聖杯戦争は成り立たない。単純に考えれば誰でも行き着く答えなのに魔術師はなんであれ曲解して難しく考えようとする。典型的な学者肌な彼らは自分こそが選ばれた者だと勘違いしているのだ。

 

「ま、戦場を知らねぇ引きこもりどもじゃ思いつかねぇか。頭が硬いっつーか一周廻って阿保だな」

 

「学者や求道者なんて全部そんなものです。考え過ぎなんですよね」

 

「嬢ちゃんが言うと説得力あるわ」

 

「・・・どういう意味ですか?」

 

セラスとベルナドットは追いかけっこをするように桜の部屋の壁を動き回りそのまま出て行った。

 

「桜ー!!もう時間だぞー!!」

 

「いけない、もうこんな時間!!」

 

桜は鞄を持って一階へと降りて行った。

 

 

 

 

 

 

 

「アインツベルンのホムンクルス、監視に気付いたか?」

 

「気配遮断のスキルをもつ人形でも午前中は目立つ。貴方の宝具は便利ですが弱すぎる」

 

「人形でも見習い魔術師くらいは殺せる。サーヴァント相手では監視くらいにしか使えないがね」

 

「貴方のステータスも一部を除いてCかDくらいしかない。もっと早く連絡があればランサーとして大英雄が呼び出せたものをーー」

 

「アサシンは暗殺者のクラスだ。漁夫の利を狙うに徹するさ」

 

「・・・好きにしてください。こっちはこっちで勝手にやらせてもらいます」

 

「理解あるマスターで良かった」

 

「ふん、気に入らないサーヴァントだ」

 

「おや、人形が破壊されたか。10キロは距離があったはずなんだが、かの大英雄には関係がないらしい」

 

「新しい人形で監視をさせてください。・・・今度は20キロで」

 

「・・・善処はする」

 

「結構。予定通りここは引き払い、例のホテルに居を移します。何かあれば連絡を」

 

「忙しいマスターだ」

 

「貴方はだらけ過ぎです」

 

「気を張っていても疲れる」

 

「・・・では」

 

「ああ、忘れていた」

 

「ん?」

 

「ここは監視されている。誰だか知らないが相当離れた場所からのようだ」

 

「忘れていたではありません!!さっさと人形で監視して私の護衛に就きなさい!!」

 

「そう怒るな。人形が尽く壊されてしまってな。相手の素性が分かるまで報告を控えていただけだ」

 

「壊されたというなら攻撃手段は分かっているのですよね?」

 

「遠距離の狙撃なのはわかっている」

 

「狙撃?アーチャーは判明していますから・・・キャスターでしょうか」

 

「キャスターでもないな。あれは純粋な魔術師だ。狙撃なんて器用なマネできんよ」

 

「セイバー、ランサー、ライダーも狙撃タイプには見えませんでした。なら、バーサーカーでしょうか。資料にも銃を使うとありますから」

 

「串刺し公は正面から堂々と攻めてくるさ。姿を隠す必要がない。狙撃してきた奴は姿を確認できない位置から武器の隠ぺいまで徹底している」

 

「なら一体誰が・・・」

 

「第八のサーヴァント」

 

「なっ!!」

 

「今回、バーサーカーの召喚がイレギュラーだった。サーヴァントではなく中身だけ召喚された。結果、本来7体必要なサーヴァントが実質6体半になってしまった。これでは聖杯が完成しない。ヘラクレスは2体分の霊格があると考えてもヘラクレスが残ってしまえば完成しないからな。そこで聖杯は足りない分を補うために第八のサーヴァントを用意した。・・・どうだ、筋は通っているだろう?」

 

「・・・確かに。ですが、マスターは急造になるでしょうし、脅威ではありませんね。サーヴァントによってはマスターを必要としない場合もありますから一概には言えませんけど」

 

「いずれにしろ敵なら倒すさ」

 

「ええ。頼りにしてますよ、アサシン」

 

「壁としてだろう?」

 

「当然です」

 

「・・・了解だ」

 

 

 

 

 

 

 

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