fate/stay night ~no life king~ 作:おかえり伯爵
「起きろワカメ」
バケツ一杯の水をバケツごと投げつける美女。投げられた慎二は踏みつぶされたカエルのごとく伸びており受け取ることなどできはしない。狙ってやったのかは分からないが、バケツは慎二の頭に丁度ハマり、中の水が慎二を濡らした。水も滴る良い男とはいかないが少なくとも意識を取り戻すことには一躍かったようで、慎二は呻き声を洩らして重たい瞼を開いた。青いバケツの内側は当然青い小さな空間となっており、慎二はバケツを外して息を吸う。そして、慎二の眼球は美女に焦点を合わせ、脳内にその映像を送る。
人間には危険から身を護るために『反射』という自己防衛機能が備わっている。咄嗟に起こる身体の動きなどがそのよい例でこれを克服するのは困難だといわれている。慎二にとっての危険はまさにこの美しい女性の挙動一つ一つ。いくら無手で美しく立っているだけだと認識しても彼の体は否応なしに危険だと判断したらしい。
慎二はコロコロと転がり、美女の射程圏外だと思うところまで離れた。
「ほぉ、戦士としての自覚が芽生えたようで何よりだ。意識が戻ったところでさっそく続きと行こうか」
「お、お前、僕を殺す気かッ!!魔術回路を造ってくれるって言うから早起きしたのにーーこれじゃ詐欺だ!!」
「戯け。お前のような屑に魔術回路など与えたところで碌なことにならん。まずはその腐った根性を叩きのめし、矯正する。その後、擬似魔術帰路をお前に植え付ける」
「植え付けるたって・・・どうやって?」
「お前が知る必要はない。ただ私に従い私の糧に成れ。そうすれば聖杯のお零れくらいはくれてやる」
「ふざけんなーーああああ!!」
「何か言ったか、ワカメ?」
「はひほひっへはへふ」
顔面蒼白で両手をあげる慎二を鼻で笑って、慎二に向けた槍を収めたスカサハはコンビニの袋からソーダ味の棒つきアイスの包みを開けて口に含む。シャリっとした口当たりが好感触だったのかあっという間に平らげ、慎二の分のアイスの包みを開けて口に咥えた。食べ終わったアイスの棒は捨てずに親指と人差し指でつまんで慎二の額を突く。
「・・・?外れの棒で僕を突かないでくれない?べたべたするんだけど」
「今の一撃でお前は死んでいた。常に気を緩めるな。お前の知っている安全なものが凶器になるとイメージしろ。これから私はお前をこの棒一本で叩きのめす」
「僕を馬鹿にしすぎじゃない?そのくらい楽勝ーーひぃぃぃぃ!!」
ランサーは最速のサーヴァントが選ばれるクラス。数グラムの質量しかないどこにでもありそうなものでもそこに速さが加わればどんなものでも凶器になりうる。今の一撃は慎二の右眼を狙っていた。慎二がもし平凡な男子高校生であれば眼球を貫き脳にまで達していたかもしれない。幸い彼は人間の中では優秀な部類にはいるので身体を反らせて回避に成功した。
「殺す気かぁああ!!」
「同じことを言わせるな。そら、次だ」
「うぇえええ!!」
単なる木の棒。それもアイスの棒に命の危機を感じる異常事態。慎二にとってそれは未知との遭遇であり、嬉しくない出会いだった。人間知らないほうが良いことなどたくさんあれどアイスの棒が危険だと実際に体感したのは彼くらいなものだろう。
やがて体力的にも限界が訪れた慎二はバランスを崩して尻餅をついた。砂利の硬く鋭い痛み。
アイスの棒は慎二の隙を見逃さず眉間に吸い込まれていく。奇跡と呼ぶにはチープなものだが慎二の諦めの悪さが幸いしたらしく咄嗟に両手でアイスの棒を白羽どりすることに成功した。
「よし、合格だ」
「・・・合格?」
「戦士に大事なことは強さだ。お前は生き残る強さのなんたるかを感じ取った。無様でも最後まで生き残ればそれは勝ちに等しい。それを忘れるな」
「・・・」
スカサハに師事された戦士は皆神話に名を残したとされる。スカサハの教え方が上手かったという単純なものだと思っていた慎二はスカサハのあまりにも優しい笑みを見てこれを改めた。彼女の教え方が上手いだけではなく彼女のこの笑みを見るためにかつての戦士たちは死にもの狂いになったのではないか。そして自分もまたこの笑みのためなら厳しい特訓にもついていけそうな予感があった。
「・・・なにを呆けている?戦場で立ち止まるとは死を意味する。立ち止まるな、走り続けろ。休むのは敵を倒してからだ」
「分かった。やってやるよーーひあぁあああ!!」
「その意気だ!!私についてこれるか!?」
特訓は日が沈むまで続いた。慎二はボロボロになりながらも生き残った。途中からアイスの棒二刀流になり慎二はアイスの棒で突かれた跡が痣となりいたるところに浮かんでいた。
「だらしない。私に師事を申し出た輩は最初から自分の持ち味を発揮して楽しませてくれたというのに・・・。」
「いつの時代だ!!今時お前とまともにやりあえる奴なんているかよ!!」
封印指定の魔術師や代行者といった特殊な者たちでもなければサーヴァントとまともにやりあうなど自殺行為でしかない。ましてや彼女は神話でも上位に位置する影の国の女王。劣化コピーだとしてもその能力は現代の人間とは比べものにならない。彼女を前に裸足で逃げ出しても恥ではない。
「時代など関係あるものか。魔法がほとんど失われてしまった現代でも魔法がまだ残っているように探せばいるものだ。お前が弱すぎるだけだ」
「・・・僕だって、強くなりたいさ。強くなりたかったんだ」
「で、お前は強くなる手段を探したのか?どうせ魔術が出来ないと嘆いて悲観して諦めたのだろう?」
「魔術師の家系に生まれたのに魔術回路がないんだ。・・・諦めるしかないだろう?」
「魔術なんぞなくてもどうにでもなるさ。お前が馬鹿なだけだ」
「武術でも習えってか。魔術師は魔術でオリンピック選手以上の力が出せるんだぜ?」
スカサハは少し悩むような様子を見せる。理解できないと言われているようで慎二は苛立ちを隠せなくなっていた。
「最初からなんでも持ってる奴が持ってない奴の気持ちがわかってたまるか」
「ふむ。ならば問おう。何故お前は人間に拘る?」
「えっ?」
慎二の頭の中が真っ白になった。現代社会において人間とは支配者である。他の動植物を支配し、気に入らなければ消す。そして知らんふりできるのだ。人間以上の生き物などない。現に吸血鬼もドラゴンも神ですら人間から逃げ出した。事実上この地球を支配しているのは人間。拘って何がいけないのか。慎二には想像もできない。
「・・・はぁ、駄目だなお前は。人間はこの地球を支配しているがそれは物を作り操ることができたからだ。肉体的にはどうやっても勝てない化け物に向かっていくのは無謀。武器も効かないとなれば別の手段を考えるしかない。そこで人間は魔術という道具を使い始めた。では魔術が使えない人間はどうやって化け物に向かっていく?」
「罠とか弱点を探すとか?」
「それも正解だが、確実ではない」
「じゃあなんだって言うんだよ」
「簡単だ。--同じ化け物になるんだ」
「・・・はぁ?それじゃあ本末転倒だろ。化け物倒すために化け物になったって今度はそいつが狙われるだけだ」
「だから化け物は人間と違って増えないし、無暗に殺さないのさ。化け物ってのは心が優しい奴がなるものだからな」
何も持たないからこそ代償を払って力を手にする。優しすぎるがゆえに。そもそも人間を一番殺しているのは人間だ。人間はそんなことすら知らず生きている。
「お前にはその覚悟すらないわけだ。人間に拘って、周りの言葉に右往左往して周りのせいにして自己弁護ばかり。だからお前はワカメなんだ」
「なんだよそれ」
「案ずるな、私がお前をワカメから人間にしてやる」
「僕は最初からワカメじゃなくて人間だ!!・・・こんなサーヴァント召喚するんじゃなかった」
「召喚当時から気になっていたんだがお前どうやって私を召喚した?魔法陣もなく、魔術回路すらない。聖杯に選ばれる要素がゼロだ」
「お爺様の遺産だよ。僕が間桐の家から追い出される直前に確保しておいた。人間やめてる爺さんだったけどコネとか伝手は結構あったみたいなんだ。で、聖遺物なんかも大量に持ってたからそれを使って少しづつ魔力を溜めていったんだよ。令呪は僕が間桐だからとしか言えないね。桜も間桐だけど頭首ではないし、僕が間桐の血を継いでいるから聖杯は僕を選んだのさ」
「ワカメ、その聖遺物は今どこにある?」
魔力を溜めておける聖遺物は未熟な慎二を補助する強力なアイテムだ。スカサハとしては是非ともそれを使って戦力の補強をしたいと考えていた。問われた慎二は視線を泳がせ目を合わせない。
「まさか・・・無くしたのか?」
「お前に投げられた拍子に落ちたんだろうな」
「とことん使えん奴だ。なら他の聖遺物は?」
「・・・桜に取り上げられた。たぶん、もう売り払われたんじゃないかな」
「フナムシが」
「向こうにはサーヴァントがいたんだぜ!?勝てっこないだろ!!」
「ほう、初耳だ。前回の勝者か。どんなサーヴァントだ?」
「アーカードとかいう吸血鬼。そのくせ拳銃もってるとか卑怯だろ。壁とかすり抜けるし離れられて清々したね」
大袈裟に腕を広げる慎二。スカサハはアーカードという名に相手のヒントがあると地面にスペルを書き記す。
「書くまでもなかったか。アーカード・・・安直すぎて笑えてくる。隠す気がないのだろうな、あの狂った男は。カニバリズムを好み、戦場では串刺しをするさまからオスマン帝国に恐れられた人間。・・・人間だった、か。真祖の吸血鬼が相手とは英雄冥利に尽きるな。ちっぽけな戦争だとばかり思っていたが下手をすればそこいらの戦争より感じさせてくれそうだ」
「盛るのは結構だけどあのさぁ、僕の魔術回路の話はどうなったわけ?」
「・・・ああ、そうだったな。お前に与えるのはもったいないんだが仕方ない」
スカサハの手に紅槍が握られる。
「えっ」
慎二は自分の身体に違和感を覚え、次いで口から血を吐き出した。
「え、えっ?」
「死ぬぎりぎりまで血を抜くから我慢しろ。死なせはせん」
「か、かはっ」
血が止まらない。死にゆく己が身を慎二は必死に繋ぎ止めようと奥歯を噛み締める。
「このくらいだな。ほら、これを飲め」
口内に硬い感触。慎二は朦朧としながらそれを飲み込んだ。すると、胸に開いた穴がみるみる塞がり、傷一つない状態まで回復していった。
「第二段階はクリア。第三段階はもっときついから特別に眠らせてやる」
スカサハの手が光り慎二の額にかざす。それだけで糸の切れた人形のように慎二は倒れた。
「寝ている間にこいつを埋め込むか」
翡翠色の宝石にびっしりと刻まれたルーン文字。現代のルーン使いでは解読できないであろうそれをスカサハは慎二の胸に当てる。すると抵抗もなくするりと体内に吸収され心臓の中に溶けていく。
「これでお前の心臓は体力を魔力につくりかえる器官になった。お前の血はその魔力を運ぶ回路となる」
血を琥珀の宝石に垂らす。宝石は血を零すことなく吸収し、スカサハはそれを翡翠の宝石と同じように胸に当てる。慎二に血の気が戻り、呼吸も安定を見せたのを確認してスカサハは結界を解いて慎二をベンチに寝かせる。
「安らかに眠れ、ワカメ。お前の心臓、貰い受ける」
スカサハは紅槍を胸に抱いて瞳を閉じた。
某所。
「脱落者0、戦死者0、街への損害0・・・平和ですな、少佐」
「ドク、戦争とは徐々に激化していくもの。とはいえ、きっかけがなければ小競り合いの繰り返しになってしまう。ならば、我々が石を投げ込むしかあるまい」
「もう動かれるのですか?」
「遅すぎたくらいだ。シュレディンガー准尉ーー」
「了解であります、少佐殿」
「シュレディンガー准尉、少佐殿のお言葉を遮るなど!!」
「よい、准尉は役目をわかっているのだ」
「はぁ・・・」
「諸君、戦争をしよう。この平和ボケした国の連中に我々の軍靴の音を思い出させてやろう。目につくものは片端から壊し、喰らえ。この冬木市は諸君らの晩飯となるのだ」
「「「「うおおおおおおぉおおおお!!」」」」
「さぁ、地獄を創るぞ」
name 少佐
クラス ???
筋力ー 魔力- 耐久ー 幸運ー 敏捷ー 宝具ー~EX
宝具
最後の大隊(ラスト・バタリオン)
ランクEX
1000人の武装吸血鬼大隊を召喚する。それぞれは少佐の魔力によって限界しており単独行動スキルは持たない。いわば少佐ののサーヴァント。それぞれはEランク程度のステータス。ゾーリン、アルハンブラ、リップヴァーン、大尉などは含まれない。ただし、ドクは含まれる。
ルガー P08
ランクー
ただの拳銃。神秘を持たない。少佐の手で打つと9割9分外れる。