fate/stay night ~no life king~   作:おかえり伯爵

12 / 15
理想を継ぐもの達

「子供のころ・・・僕は正義の味方に憧れていた」

 

虫の鳴き声がやけに煩い夜だった。縁側に腰かける男は年齢よりも遥かに年老いていて、何かに疲れているようだった。士郎は正義の味方であるこの男のそんな姿は見たくなかった。一人分開けて座る男と士郎。大きく逞しい男の背中はいつの間にか小さく寂しくなり、小さいながらも士郎はこの男がどこか遠くへ行ってしまうのだろうと思った。

 

「・・・何だよそれ。憧れてたって・・・諦めたのかよ?」

 

少年は不満そうに呟く。男は少年の言葉に混じる失望に胸を痛めながらも受けとめた。

 

「うん・・・残念ながらね。ヒーローは期間限定で、大人になると名乗るのが難しくなるんだ。そんなこと・・・もっと早くに気付けばよかった」

 

男は自分を許せない。口にする全てが贖罪であり、士郎を助けたこともせめての償いをしようという自己満足でしかない。初恋の少女との約束も守れず、妻も犠牲にして男には何も残らなかった。男は振り返ることだけはできなかった。途中でやめていれば妻だけでも救えたかもしれない。だが、振り返ることができなかった。あの時、こうしていれば、こんなふうだったら。考えるだけでも震えてしまう己の弱い心を知るのが怖くて逃げ続けた。そうして犠牲にしてきた全てが無駄であり、歩んできた道が間違いだと思い知った。そして廃人同然の隠居生活が板についてきた男はついに諦めた。

 

「そっか・・・それじゃあしょうがないな」

 

「そうだね・・・本当にしょうがない」

 

男が呟くたび生気が失われていく。溜めに溜めた自らに課した呪いが言葉に乗って吐き出される。空に輝く月。それを眺めて男は感嘆する。

 

「ああ・・・本当に良い月だ」

 

綺麗なものを素直に綺麗だと感じられなくなったのはいつからだったろうか。男は月を眺めて思いに耽る。

 

ーーケリィはどんな大人になりたいの?

 

男の耳に今も残るあの声。

 

ーーああ、そうだったね。

 

約束の夜。あの日が最後だった。

 

不意に、士郎の口が開く。それは男にとって予想外のものだった。

 

「うん、しょうがないから俺が代わりになってやるよ」

 

「ん?」

 

「じいさんは大人だからもう無理だけど俺なら大丈夫だろ」

 

ーー継ぐ?

 

「任せろって。じいさんの夢は俺が叶えてやるよ」

 

ーー切って嗣いだだけのバラバラの僕の夢をつないでくれると言うのか。

 

子どものころから同じ夢を見続けてきた。争いのない世界。誰も涙しない世界。それを、その夢を継いでくれる。偶然助けた小さな子供が、代わってくれるというその一言に男から漏れ出していた呪いが止めどなく溢れ流れる。欠けていたパズルがハマっていく。

 

「ああ」

 

子を育て、夢を継いでもらう喜び。

 

ーーこんなところに・・・僕の求めていた幸せが転がっていたんだね。僕はいつもいつも・・・気付くのが遅すぎる。

 

男を戦士として育てた女がいた。あの時、地獄から態々自分を救ってくれた女の気持ちが今の切嗣には分かった。

 

「・・・安心した」

 

ゆっくりと閉じられる瞳。こんな幸せの中で死んでいける罪をどうか許してほしいと亡き妻に微笑み、男は長い悪夢から解放された。

 

衛宮切嗣。享年34歳。早すぎる死だった。

 

「おい、じいさん?」

 

士郎は養父を呼ぶ。呼んでも動かない養父に触ろうとしたとき間に女性が割って入る。士郎の養母になった舞弥だった。普段から感情の起伏のない養母が泣いている。士郎にはそれが意外で目を丸くした。

 

「士郎・・・切嗣はとても傷ついて、とても苦しんだの。だから休ませてあげて」

 

「義母さん」

 

二人を強く抱きしめる優しく細い腕。初めて抱きしめられた養母の女性特有の柔らかな香り。士郎はごちゃごちゃになった感情を持て余し、養母につられて涙を流した。

 

「よかったね切嗣。やっとあの人の元に行けるね。・・・行ってらっしゃい。士郎は私に任せて」

 

眠ってしまった切嗣の顔は子供のように安らかな笑顔だった。

 

 

 

 

 

あの夜から約5年が過ぎようとしていた。衛宮切嗣なき衛宮の武家屋敷は変わらぬ状態を維持し今日にいたる。士郎は久しぶりの我が家の玄関のチャイムを鳴らす。しばらくして玄関の戸が開けられ、

妙齢の女性が無表情で出迎えた。肩まで切りそろえられた黒髪に感情の読み取れない切れ目。士郎の養母、衛宮舞弥である。

 

「ただいま、義母さん」

 

「おかえりなさい、士郎」

 

簡素に挨拶を済ませて居間まで無言で並び歩く。開けっぱなしの居間の中央に置かれたコタツのテーブルを挟んで二人は座った。座布団の一つもない簡素な部屋。もちろんこの部屋だけではなく、すべての部屋にまともな家具などない。趣味も生きがいもない舞弥はただこの家で寝ているだけ。無駄を完全に排除した彼女らしさが前面に押し出されている。

 

「調子はどう?」

 

「まぁまぁかな」

 

「そう。薬で抑えられる範疇を超えているから異常があったら言いなさい。貴方の体はもう貴方だけのものじゃないんだから」

 

「了解。義母さんは心配症だなぁ」

 

「息子を心配するのは養母親として当然でしょう?」

 

「真顔で言われても説得力ないぞ」

 

「これならどう?」

 

指で口の端を持ち上げて士郎に問う。お世辞にも笑顔にはほど遠いが士郎には伝わったらしい。昔からの付き合いのためか士郎には養母の喜怒哀楽が分かる。現に士郎の前でだけ舞弥は人間らしさを表に出すのだ。切嗣に残されたもの同士、理解し合える部分があるのだろうと凛や桜は納得していたが、士郎からすれば勘違いも甚だしい。養母が感情を見せるのはいつだって養父の前だけなのだ。

 

「腕を」

 

「ほら」

 

「--おかえりなさい、切嗣」

 

士郎の右腕を愛おしそうに撫でる舞弥。長袖を捲り露わにすると士郎の肌の色とは微かに違う肌の色が晒された。

 

5年前、衛宮切嗣の亡骸は一部を除き処分された。封印指定級の魔術を行使できた切嗣の遺体を狙う魔術師たちに墓を荒らされるのを嫌った二人は切嗣の体を火葬し、柳洞寺へ納めた。では、亡骸の一部はどうなったか。その答えが士郎の右腕。衛宮切嗣の起源は切って嗣ぐというもの。士郎はその起源を活かして己の腕の皮膚と取り換えたのだ。しかし、いかに取り換えたとはいっても人体はそうやすやすと異物を認めるはずはない。生死を彷徨い薬漬けの毎日。切嗣が士郎にエクスカリバーの鞘を渡していたとはいえ苦痛からは逃れられない。教会からリジェネレイトの技術を提供されるまで続いた苦痛は士郎の精神を鍛え、本来血族以外には意味のない魔術刻印は切嗣の起源もあって一種の礼装に変化した。切嗣の起源、士郎の中にあったアーサー王の鞘、リジェネレイトがなければ実現しなかった偶然。否、もはや運命だろうか。

 

「そろそろいいだろう。ご飯にしよう」

 

「・・・そう、ね。配膳の手伝いをしてくれるかしら」

 

名残惜しそうに手を放して舞弥はいつもの無感情な目に戻る。

 

「今日は特別にケーキも作ってみたのよ」

 

「義母さん、ケーキはご飯の後にしてくれよ。ご飯が食べられなくなっちゃうだろ」

 

「レンジで温めたご飯とスーパーで買ったお惣菜がそんなに食べたいの?」

 

「・・・聴きたくなかった」

 

舞弥は甘味以外のものはファストフードで済ませてしまうほど料理に興味がない。美味い、不味いは理解できてもそれが必要だと思えない。

 

「ケーキは私が焼いたのよ」

 

甘味になると話は別で、ケーキバイキングや有名店の甘味などは余すことなくチェックし、材料、料理法などを模倣して自分で改良してしまう。女性らしい一面ではあるが、甘いものは別腹ではなく甘いものが主食となってしまい、食バランスは言うまでもなく最悪だ。これで体系も美貌も5年前と変わらぬままというのだから恐ろしいと彼女を知る女性たちは言う。

 

「普通、逆だよ」

 

賑やかな食卓には程遠い衛宮家の食卓。テレビを点けることもなく質問しては二、三返事をして会話が途切れると、黙々と食べる二人。腹を痛めて産んだ子供ではないし、見た目も似ていない。同性でもないし、友達でもない。それでも二人のちょっとした仕草は似ていた。

 

「勝機はどれくらいかしら?」

 

「正直、三割ってとこかな。アインツベルンのヘラクレスと間桐のアーカードが厄介だ。なにせ命を複数持ってるくせに基礎能力も高い。筋書はできているけど多少のズレは覚悟しないと」

 

当初はアーカード打倒の計画だけだったものがアインツベルンのおかげで練り直しになった。切嗣をだましたアインツベルンを嫌う舞弥は毒を吐く。

 

「アインツベルンはいつまでたっても邪魔ね。・・・まぁ、頭首を失って没落寸前だからもうじきなくなるけどね」

 

「なあ義母さん。イリヤは・・・親父の娘は聖杯の器なんだよな」

 

「そうね」

 

「なら、俺は切嗣に怒られるかな。だって、切嗣の娘を犠牲にして切嗣の夢を叶えるんだ。あの世で切嗣に撃ち殺されても仕方ない」

 

「切嗣なら喜ぶはずよ。あの人は家族よりも夢を優先させる強い人だもの。士郎を褒めてくれるはずだわ」

 

「・・・」

 

舞弥が語る衛宮切嗣は人を区別なく救い、少数の救えないモノを無感情に切り捨てる機械のような男。感情に左右されない屈強な精神と冷静さを兼ね揃えた人類にとっての正義の味方だったらしい。しかし、アインツベルンとの出会いで変わってしまった。屈強だった精神は家族を持つことで失い、冷静さは長きにわたる活動の休止によって忘れてしまっていた。切嗣は堕落したのだ。舞弥が久しぶりにあった彼を見たときヒシヒシとそれを感じた。元に戻そうとしたこともあったが、最後の最後で切嗣は堕落した彼に戻ってしまった。舞弥は切嗣という装置の部品として育てられたというのに切嗣は最後まで彼女を受け入れはしなかった。故に彼女は壊れ、過去に縋って過去の切嗣のことしか覚えていない。弱くなった彼の記憶がごっそり抜け落ちている。その結果、彼女は切嗣を交えたものしか考えられず、日常会話にも多少の支障をきたしている。士郎が彼女と会話が成立するのは切嗣の腕のおかげともいえる。ここまでおかしくなっても仕事などはミスなくこなすあたり切嗣の教育は常軌を逸していたらしい。

 

「士郎、貴方は何も心配しなくても良いの。その罪悪感も全部義母さんが背負ってあげる」

 

舞弥は士郎を胸に抱き、頭を撫でる。5年ぶりとなる義母の抱擁に士郎の緊張が解けていく。

 

「切嗣をーー切嗣の夢を救ってあげて。貴方は正義の味方なんだから」

 

「・・・じいさんの夢は俺が叶えてやるよ。ほんと、駄目オヤジだったから。俺が頑張らないといけないよな」

 

コタツを挟んで抱擁を交わす二人。けれども、二人は家族のような信頼を確かめ合っているようだった。

 

 

 

 

 

 

とあるビルの屋上。ビルの明かりが街を彩る時間帯に赤い外装の男が街を見下ろしていた。

 

「変わらないなここも」

 

鷹のような眼には悲哀が込められ、拳は硬く握られている。

 

「・・・感傷か。私らしくもない、か」

 

皮肉気に口元を歪め、やれやれと肩の力を抜く。

 

「運命とやらは私に味方をしてくれているようだ。これまで散々働いた私を労おうとでもいうのか。・・・ふっ、馬鹿馬鹿しい。守護者の私がやることなど決まっている。だが、今回だけは真面目に取り組んでやろう。その過程で誰が死のうとお前には関係ないのだろうからな」

 

ーーI am the bone of my sword.(我が骨子は捻じれ狂う)

 

彼には才能がなかった。剣の才能があれば愛した彼女の役に立てたかもしれない。魔術の才能があれば師だった彼女の役に立てたかもしれない。勝てない相手にどうやったら勝てるか。出来ないことをどうやったらできるようになるか。そうして凡人でしかなかった彼は想像を重ねた。積み重なる想像はやがて創造へと変わり、凡人は辿り着いた。彼が強敵に勝てる世界に。

 

紡がれる男だけの世界の詩(うた)。理想と現実の狭間でもがき苦しんだ男に残された最後の詩。

 

男の手には存在しなかったはずの弓と特殊な形状の矢。矢は剣を連想させる形状をしており、男はそれを弓に番える。ギリギリと弓を引き、鋭い眼がさらに細められる。

 

「さて、何人残るのやら」

 

そして、男は矢を持つ手を離した。

 

 

 

 

 

 

name ???

クラス ガーディアン

筋力C 魔力B+ 耐久C 幸運E 敏捷C+ 宝具E~A++

 

宝具

 

固有結界“無限の剣製”(アンリミテッド・ブレイド・ワークス)

ランクE~A++

 

一度見た刀剣などを複製し貯蔵する彼だけの世界。

 

 

 

保有スキル

 

千里眼:C

純粋な視力の良さ。遠距離視や動体視力の向上。

高いランクの同技能は透視・未来視すら可能にするという。

 

魔術:C-

得意な魔術は不明だがオーソドックスな術を取得している。

 

心眼(真):B

修行・鍛錬において養われた戦闘を有利に進めるための洞察力。

わずかな勝率が存在すればそれを生かすための機会を手繰り寄せる事ができる。

 

 

説明

 

かつて正義の味方を目指した男の成れの果て。死後を売り渡し世界と契約。守護者という人類の護り手となるも想像からかけ離れたものであり、彼は絶望した。

今作では人類を護るために抑止力によって召喚された。憑代は大聖杯。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。