fate/stay night ~no life king~   作:おかえり伯爵

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横槍

「こんばんわ、遠坂凛さん」

 

「こんばんわ、間桐桜さん」

 

新都と旧都を結ぶ冬木橋。その両端に立つ二人の少女。髪を両端で結ぶツインテールにしている少女はその手に宝石を煌めかせ橋の中央を目指す。もう一方の少女は腰まである黒髪を靡かせ、微笑みながら無手で中央に歩を進める。10年前に架けなおされたこの橋に取り付けられた真新しい明かりが二人を映し出し、彼女たちが中央へ到達すると彼女たちを護るように空から、影からそれらは戦いのステージへと登った。明かりを反射する白銀の鎧を纏った騎士は凛々しい顔で見えない何かを構え、闇を纏う漆黒のモノは紅いコートの内より2丁の拳銃を取り出して構える。髪の色以外、すべてが正反対の少女二人。それを二人は承知の上で敢えてそうしているのかもしれない。深層心理に根づいた二人の決別はもはや修復するのも馬鹿らしいくらいに捻じれ拗れている。

 

「こんな夜中に散歩していると怖い化け物に襲われてしまいますよ」

 

「その言葉、そっくりそのままお返しするわ。貴方みたいに余計な贅肉がついていると走るのも大変でしょうしね」

 

「ふふ、僻みですか?骨と皮だけの遠坂先輩」

 

「ちゃんと胸はあるわよ!?時代はバランスを求めているの!!大きいだけの桜には分からないでしょうけどね、垂乳」

 

「た、垂乳じゃありません!!張りだって十分あります!!」

 

言い合う二人の表情は言質とは異なり旧友と会った時のそれに似ている。この他愛のない罵り合いがスキンシップの一環であり、最後の別れ。姉妹という二人の縁を完全に断ち切るための最後通告なのだ。

 

「・・・私たち、良い姉妹になれたかな?」

 

「きっとなれました」

 

「喧嘩して、仲直りして、奪い合って、譲り合って・・・でも仲が良い姉妹になれたかな?」

 

「きっと、なれました」

 

「そっか・・・なら」

 

「ええ」

 

「今日でお別れね」

 

「はい、お別れです」

 

二人は揃って数歩下がりお互いの瞳を見る。双方に移る瞳の奥には迷いはない。

 

「桜、お前の眼前にはかつての姉がいる。だが今は敵となった。敵となってしまった。ーーならばどうする?どうするんだ?」

 

吸血鬼は嗤う。10年前のあの日のように。試すように。

 

「私は殺せる。微塵の躊躇いもなく。一片の後悔もなく鏖殺できる。何故なら私は化け物だからだ。ではお前はどうだ、桜。銃は私が構えよう。照準も私が定めよう。弾を断層に入れ、スライドを引き、安全装置も私が外そう。だが殺すのはお前の殺意だ。さあどうする?命令(オーダー)を!!」

 

「・・・私は既に命令を下しています。あの日から・・・十年前のあの日から命令は変わりません」

 

「ほう?」

 

「私たちの行く手を拒むものは全て倒しなさい!!踏みつけ、貫き、粉砕しなさい!!」

 

「・・・認証した、マイマスター。・・・ああ、本当に良い夜だ」

 

血まみれの鬼は愉悦を全身に感じながら鋭く尖った犬歯をチラつかせる。化け物としての本能を抑えきれないのか震え、歓喜の雄たけびをあげる。

 

「貴方とは10年ぶりとなるのだろうか?」

 

「その通りだ、ブリテンの騎士王よ。記憶があるということは私と同じく何かを諦めたのだろう?」

 

「諦めてなど・・・いない」

 

「奇跡に頼り果たした願いなど脆く崩れていくものだぞ?」

 

「実体験に基づいた助言なのだろうが、ブリテンは奇跡なくして救うことなどできはしない。それによって私が奇跡に飲み込まれるというなら喜んで奇跡に飲み込まれましょう」

 

「・・・理想の国家、理想の王か」

 

「王ならば国に尽くし、常に正しい選択をしていくことが必要なのです。貴方の言い方には棘がありますが、奇跡により国を護れるのであればそうするのが自然です。もっとも、自ら国を滅ぼした貴方には言ったところで無意味でしょうが」

 

セイバーの周りに風が吹き荒れる。舞い上がった土煙に桜は目を腕で隠した。

 

「はぁあああ!!!」

 

「フンッ!!」

 

土煙の中をものともせず両者の剣と銃が交差する。凛や桜には辛うじて、最優と誉れ高いセイバーの一刀がアーカードの右

 

腕を切り離し、アーカードの銃弾がセイバーの頬をかすめるところが見えた。

 

「流石は騎士王。剣技においても最優のようだ」

 

「十年前もそうでしたが貴方の存在は到底認められるものではないな、バーサーカー」

 

アーカードの腕が再生していきその手には落としたはずの銃が握られている。セイバーはその再生が終わった刹那にできる隙を見逃さず踏み込んでアーカードの首を斬り落とした。だが、セイバーに油断はない。首を落としただけでなく両腕、両足を立て続けに斬りつけ凛の近くに後退する。透明の剣は血で塗られ刀身の長さが露わになるが、すぐさま風で吹き飛ばし剣を隠す。

 

見るも無残な姿のアーカードを桜は微笑みを浮かべて見つめる。彼女は知っているのだ。化け物である彼を倒せるのはいつだってーー。

 

「・・・化け物を倒すのはいつだって人間だ。--人間でなければいけないのだ」

 

「やっぱり、死なないか」

 

「狗では私は倒せない」

 

アーカードのその言葉に反応したのはセイバーでも凛でもなく、空から飛来した一本の槍だった。槍はまっすぐアーカードを捉え、心臓に吸い込まれていく。アーカードはその文字通りの横槍を受けて大量の血を流す。

 

轟音に紛れて着地をしたのは形容の仕様がないほど美しい女神。ランサーことスカサハだった。顔中に青筋を浮かべ歯ぎしりをさせている。

 

「--狗、といったか貴様」

 

「ちっ、新手のサーヴァント!?」

 

「アレを狗と呼んで良いのはワタシだけだ。他の誰にも呼ばせはしない!!」

 

「ランサー!!別にお前のお気に入りのやつのことを言ってるんじゃないんだから態々出て行かなくてもよかったじゃない

 

か!!放っておけば一騎脱落したかもしれないってのに!!」

 

「駄目だ。狗と言った奴は例外なくぶち殺さなければ気が済まない」

 

「無茶苦茶だ!!」

 

慎二も観戦していたらしく、橋から少し離れた物陰から叫び声をあげた。

 

「セイバーだな?このムカつく奴をぶちのめすまでは協力しよう」

 

「ま、待ちなさい。誰がそんな許可したのよ!!」

 

「ワタシだ」

 

「・・・凛、ここは提案を受け入れましょう。バーサーカー相手では貴方を護りながらの戦闘は厳しい」

 

バーサーカーの得物は銃。セイバーだけに向けられるのであればセイバーは容易く銃弾を掻い潜ることができる。しかし、凛を護りながらではそれも難しい。ランサーであれば実力は申し分ないし、マスターらしき間桐慎二の人となりは知っているつもりという冷静な判断から凛は渋々頷いた。バーサーカーを倒すには独りでも多く仲間がいたほうが良い。なにせ相手は首を落としても再生する吸血鬼なのだから。

 

「それにどうやら覗き見している輩がまだいるようです」

 

「ーー覗き見ではありませんわ。私は最初からここにいるんですもの」

 

「アンタ、ルヴィア!!」

 

「ええ、お久しぶりですわね、ミス遠坂」

 

橋の鉄骨の上で仁王立ちするルヴィア。傍らのライダーは額を押さえている。

 

「ーーじゃあ私もご挨拶をしないとね」

 

巨人に乗ったイリヤスフィールが橋の下からコンクリートを突き破って登場した。大英雄ヘラクレスの登場に全員の視線がそちらへ向く。

 

「・・・素晴らしいリングインですわ」

 

「・・・」

 

サーヴァントが5体も集まる摩訶不思議な拮抗状態。けれども十年前の記憶を持つセイバーはつい苦笑する。

 

ーーこれでは、十年前のやり直しのようではありませんか。

 

「大体揃いましたねー」

 

セイバーの気が緩んだその刹那。背後からの声にセイバーは剣をもって応対した。手ごたえを感じ視線をやるとそこには何もない。セイバーの手にはたしかに人を斬ったときの鈍い感触があった。マスターである凛も困惑気味のようだった。

 

「いきなり斬りつけるなんて酷いなぁ~。僕じゃなかったら訴訟ものだね、きっと」

 

その声の主はいつの間にかそこにいた。誰一人として気を抜いていたわけではない。だというのに高ランクの直感スキルをもつセイバーですら気づけなかった。アーカードを除くすべてのサーヴァントはマスターの近くで警戒する。

 

「あれれ~、驚かしちゃいました?ごめんなさい」

 

猫耳をつけた少年はにこやかに笑って頭を下げた。

 

「・・・アサシン?」

 

「いくら気配遮断のスキルを持っていてもこれだけ近づかれれば気付くだろう。稀有なスキルか宝具持ちなのか?」

 

「残念でした。僕はアサシンじゃないよ。僕はどこにでもいるし、どこにもいない。あと、僕は連絡係であって戦いにきたんじゃないんだ」

 

「連絡係?」

 

「うん、我らが指揮官、少佐からでーす。でもその前にーーそこのお兄さん、いい加減降りてきてくれないかな?2度も説明するのは面倒だからね」

 

空に浮かぶ二つの影。衛宮士郎とキャスターはやれやれと空から地表へと舞い降りた。キャスターは物珍しい生き物に好奇心を揺り動かされたのかローブの奥で目を見開き、士郎はなんでさとつぶやいた。

 

「珍しい生き物が出てきたわね」

 

「厄介ごとばっかりだ」

 

サーヴァントが揃ったのを確認した少年は小型の無線機を路面に置きスイッチを入れた。無線機からノイズが聞こえ、やがて声が聞こえてきた。歓喜を抑えきれない子どものような、しかし狂気に満ちた声。

 

「英霊、魔術師諸君。直接の対談とはいかないが今回は声だけで失礼する」

 

「あんた、誰よ」

 

「おお、貴女は御三家の一角である遠坂家の現当主ではありませんか、お初にお目にかかる」

 

「誰かって聞いてるのよ。わざわざ集まったところにご登場したんだから目的があるんでしょう?」

 

「せっかちなフロイラインだ。亡きお父上は悲しんでおられるだろうな」

 

「っ!!」

 

「凛、抑えてください」

 

「ほぉ、流石は騎士王。大変理性的でいらっしゃる。あなたのような方と戦争ができるとはとても光栄なことだ」

 

馬鹿にされているのを我慢ならない凛は手に持った宝石を投げつけようとして手が止まった。無線機の向こう側で叫び声が聞こえてくる。助けを乞い、咽び泣く人間の声だ。

 

「おい、そっちで人の声がするぞ」

 

「ん?ああ、これかね。面倒ごとになる前に片付けているだけだ。諸君ら魔術師が日ごろからやっていることの一つを我々が代わりにおこなっているのだよ」

 

「頼む、誰にも言わない!!助けてくれ!!助けてくれ!!」

 

「やれ」

 

銃声とともに声は途切れそれっきり聞こえてこない。映像が無い分、想像力をかき立てられ集まった魔術師たち全員が凍りつく。

 

「すっきりした、実に良い気分だ」

 

「ふざけてんじゃねーぞ、てめぇ!!」

 

「我々の目的の話だったか。極論しまうならばフロイライン。我々には目的など存在しないのだよ」

 

「目的がないのにわたくし達を煽ろうというのですか?」

 

「知っておくといい。この世には手段のためなら目的を選ばないどうしようもない連中も存在するのだと」

 

「狂ってる!!」

 

「君が狂気を口にするとはね、衛宮士郎。十人のために一人を殺す君と、千人のために百人を殺す我々の一体どこが違うと

 

いうのかね?」

 

「ーーっ!?」

 

衛宮士郎のやっていることは自体の早期収拾にすぎない。十人のために一人を犠牲にしていった先は千人の喜びのために百人を殺すことと変わりはしない。

 

「私たちの狂気は君の正義が保証してくれるわけだ。だが、君の正義はどこの誰が保障してくれるというのかね?」

 

「私が保証するわ」

 

「なら、私も」

 

「私も」

 

「僕も」

 

「・・・クククッ、よろしい結構だ。ならば私を止めてみせろ自称健常者諸君。君らが最後の一人となるまで私は殺し続ける。早くしなければこの島国だけでなく世界から人間が消えてしまうぞ」

 

その言葉を最後に無線機も少年も跡形もなく消滅した。だからといってこの状況は変わらない。計六騎のサーヴァントが集まる中、不穏な動きを見せればやられる。そういった空気が立ち込めている。

 

「・・・闘争の空気ではないな」

 

「そのようだな」

 

アーカードの言葉に、ヘラクレスも同意する。セイバーだけは剣を収めず睨む。そして、凛に耳打ちをした。

 

「先ほどから嫌な予感がします。合図をしたら令呪で離脱してください」

 

「・・・了解」

 

セイバーの様子から感づいた士郎はいち早くキャスターと離脱。ヘラクレスもありえない距離を跳躍して路肩に駐車していた車を横に倒してイリヤスフィールを後ろに隠す。

 

「・・・なんか飛んでくるぞ!?」

 

「死にたくなければしがみ付けワカメ!!」

 

「うあぁああああ」

 

「ライダー」

 

「・・・やれやれ」

 

そうして各サーヴァントが橋から離れた後、橋は轟音を撒き散らすドーム状の爆発によって跡形もなく消えた。

 

 

 

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