fate/stay night ~no life king~   作:おかえり伯爵

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密会

 

「・・・外したか。流石は英霊。私のような例外とは違って誰もかれもが化け物のようだ」

 

構えた弓を下して口角を皮肉気に上げる。男の鷹のような眼には先の攻撃によってもたらされた橋のクレーターと塵々に撤退していく魔術師たちの姿が見えていた。

 

「直にこの場所も特定されてしまう、か。やれやれ、元より誇りなどに興味はないが、ヒット&アウェイせざるを得ない状況とは情けない限りだ。・・・悪いがその提案には乗れないな。私は私の目的のために君たちと手を組んでいるだけだ。馴れ合いは他所でやってもらおうか」

 

男はビルからビルへと飛び移りながらもそこにはいない誰かと話を続ける。だがそれも長くは続かない。

 

「つけられているな、いや・・・回り込まれたか」

 

飛び移ったビルに魔力を感じ男は咄嗟にその位置から少し後退する。すると、その位置から黒い影がぬるりと人の形を成して現れた。サーヴァントではないがサーヴァントによるものだろう。サーヴァント同士であればそれを感知できるはず。出来なかったということはこの影は宝具または魔術的に作られたものであると予測できる。しかし、考えるべきは影のことではない。影を送ってきた敵サーヴァントの目的だ。暗殺であれば警戒している今ではなく時間を置いてからが基本。功を焦ったとしても大した脅威にもならない影一体でサーヴァントを相手取るなど魔力の無駄でしかない。

 

よってここから導き出される答えはーつきり。

 

「ごきげんよう、招かれざるサーヴァントさん」

 

影からの声は甘い女の声。耳を蕩けさせる誘惑に満ちた声。男はそれを鼻で嗤って腕を組む。警戒は決して解かない。その証拠に男の視線はまっすぐ影を見据えている。

 

「あら、話を聞いてくれるのね」

 

先の妖艶な声とは打って変わって意外そうな声色で呟く。

 

「どのみち、どこまでも追いかけてくるのだろう。微かすぎて気が付かなかったがこの一帯に魔力を感じる。よくもまあここまでやったものだ。これだけあれば不意をついて敵マスターをねらっていけるだろうに、なぜ私に晒した?お前のマスターも許しはしないはずだが」

 

サーヴァントの移動距離を把握しきった間隔に転移陣を配置し、いつどこからでも奇襲をかけられるというのはこの聖杯戦争においてかなりのアドバンテージになる。例えばサーヴァント同士が戦いに夢中になっている隙に漁夫の利をを狙って敵マスターを狙ったり、もし攻撃の的になった時に一瞬で距離をあけられる。キャスターでありながらアサシンのようなマネも、ライダーのような機動力も疑似的に行えるこのサーヴァントの戦術的利点は大きい。だが、相手はそれを晒した。

 

「ええ、私はマスターから命令は受けていないわ。だからこれは私の独断ということになるわね」

 

影は、さも可笑しいと言わんばかりに口元を手で隠した。マスターに従わないサーヴァントなど星の数ほどいるが裏切り行為を平然とやってのける英霊は案外少ない。男は相手を反英雄かもしれないと目星をつけて会話を進める。

 

「命令もなしに勝手なことをして大丈夫なのかね?もし令呪で絶対服従などど命令されれば厄介なことになるぞ」

 

「令呪は命令の範囲が狭ければ狭いほど効力を発揮するもの。遠く離れていても来いと令呪で呼べば空間を跳躍して一瞬で呼ぶことも可能とするけれど、絶対服従なんて範囲が広すぎてサーヴァントを律するどころか反感を招くだけ。聖杯戦争で生き残るならこれくらいは知っていなければお話にならないわ。令呪でそんな馬鹿げた命令をする愚鈍なマスターならいっそ殺してあげるわ」

 

「・・・フッ、いやまったくその通りだ」

 

令呪とはサーヴァントを律する三つの命令権。サーヴァントがマスターに逆らわないようにと作られた令呪はどんな理不尽な命令でも実行させられる。しかし、何ものも万能ではない。効果範囲が広ければ広いほど効力が薄まる。私の命令にすべて従えなどといったものは基本的にサーヴァントには効果がないのだ。もちろん、令呪を扱うマスターの資質にも左右されるためそれも絶対ではないが効果があるかどうかも怪しいものに大事な令呪を使用する愚かなマスターは生き残れない。

 

ーーもっとも、例外は存在するのだが。

 

「情報収集はここまででよろしいかしら。私も隠れて行動している以上あまり時間がないの」

 

心なしか影の声に焦りが混じる。マスターに隠れて行動するということは謀反を起こしますというのと同意。マスターに知られるようなことがあればその時点で良くて行動制限、最悪自害を命じられてもおかしくはない。

 

「それには賛成だな。私もむやみに姿を曝してはいけない身でね。要件を聴こうか」

 

「要件は簡単よ。貴方ーー私のモノにならない?」

 

「魔術師のサーヴァントがマスターの真似事でもしようというのかね。戦力を集めたいのは分かるが今の君では不十分だ」

 

キャスターのサーヴァント一騎だけでは籠城戦が精一杯。相手にもよるが三騎士のような対魔力を持つサーヴァントの前では猛獣除けの鈴程度にしかならない。さらに、サーヴァントがマスターの真似事などすれば他のマスターが結託して討伐に乗り出すことだろう。

 

「どう足掻いても私と君ではアーチャーやバーサーカーには勝てまい。せめてもう一人手にしてから誘ってくれ」

 

「見立て通り冷静な判断をくだせるようね。ここで考えもなしに仲間になると言っていれば即座に消そうと思っていたけれど杞憂でよかったわ」

 

クスクスと笑う影の主。言葉から察するにこの主は姿も見えぬ遠距離からかなり高等な魔術を使用できるらしい。男はそう考察して相手の真名にあたりをつける。

 

ーー厄介なものに気に入られてしまったものだ。

 

裏切りの魔女メディア。その所業は恐ろしいの一言に尽きる。だが彼女ほどの魔術師は他にいないだろう。勝つためには手段を選んではいけない。それは男が生前から今に至るまでに学んだ戦場での真理。今日の味方は明日の敵。そんな状況など何度も経験してきたからこそ彼女の誘いを断らずに保留とする。勝ち目がでるそのギリギリのラインで味方になればリスクを最小限に抑えられる。メディアが途中敗退したところで損はなく、その他の戦力、宝具を計ることもできるだろう。

 

「それで、ほかにあてはあるのかね?セイバーは騎士道を重んじるタイプで己がマスターを裏切りはしないし、アーチャー、バーサーカーは論外。ランサーはマスターに不満の一つはあるだろうがそれもどこか微笑ましく見ているようだ。となるとライダーか姿を見せないアサシンになるが」

 

「視野が狭いわ。その鋭い目つきは見た目だけなのかしら?」

 

「・・・そこまで明かして良いのかね?」

 

「その程度構わないわ。手段までは分からないでしょうしね」

 

彼女が言っているのはこの聖杯戦争をひっくり返しかねない反則級の技。説得による同盟ではなく強制的にマスター権を奪うという荒業。彼女はできるのだ。いかなる方法かはわからないが彼女はできる。彼女は焦りでもなく、怒りでもなく、全て計算した上で男の前に姿を見せ、技の一つを晒した。大英雄でも、女王でも、騎士王でもなくイレギュラーに。

 

「なるほど、私に余計なことをするなと釘を刺したいわけか」

 

「ええ。だって貴方の目的が分からないんですもの。ルーラーでもなさそうですし、先ほどの弓も矢も本来貴方のものではないでしょう?イレギュラーな貴方には極力場を乱してほしくないの」

 

「そう言っておきながら私を排除しようとしないのは何故かな?先ほどの一撃の中に君もいたはずだが」

 

「そうね、あの渦中にいたからこそ貴方が欲しいのよ。あの一撃はBランク相当のものだった。貴方の切り札がその程度であれば私も誘ったりはしないわ。・・・あるんでしょう?あれを上回る第二の矢が」

 

「買いかぶりではないかね?」

 

「私はそうは思わないわ。貴方は常に最善を尽くそうと努力するタイプ。その貴方がこんな序盤で切り札を切っていくはずがない。さしずめあれは戦線布告。さっさと始めろと伝えたかったんでしょう?」

 

確信めいた言い様だが、あながち外れてもいない。彼の目的はあくまで聖杯戦争による被害を最小限にとどめるということ。そのためであればどんな手段もとる。

 

「・・・っち、まずいわね。残念だけれどお話はこれでおしまいね。有意義な話になってよかったわ。だけど覚えておきなさい。私は欲しいものを手にするためなら手段を選ばないわ、覚えておきなさい。・・・また会いましょう」

 

一方的に告げて影は消えた。男は周囲を観察したがサーヴァントらしき気配を感じなかった。

 

「遠見の魔術でこの街を俯瞰しているのか。まったく、息をつく暇もないな」

 

今も監視されている可能性を否定できない以上、彼女が不信に思うような行動はとりずらい。それに、男の監視に熱中するあまり他の勢力が疎かになってもらっては困る。男の背後には巧妙に隠れたこの世界の大悪が爪を研ぎながら歓喜しているのだから。

 

「戦争狂め」

 

男は知っている。戦争の恐ろしさを、無意味さを。だが、終わらない。ここは平和でもあそこは戦争をしている。それが当たり前の世界。戦争の引き金など些細なものだ。アイツが嫌い、アイツより優れていると証明したい、アイツが言うことを聞かない。そんな個人の感情が周りに伝染し、広まる。一種の伝染病。広まったら最後、どちらかが負けを認めるまで続ける。愚かしい、腹ただしい。

 

「終わらない連鎖を終わらせるか・・・」

 

無論、人では不可能。国でも無理だ。ならば人外のモノで達成する。理屈はわかる。奇跡に縋りたくなるのもわかる。しかし、考えてもみてほしい。人が戦争をやめるとき、それは果たして人間なのだろうかと。衝突を避け、笑みを消して動く様はプログラムされた機械ではないだろうかと。それらにについて男の心中に答えはない。

 

ーーそれでも、私は答えを得た。

 

後悔があっても、やり直しなど認めない。そう言った自分があったのだから。

 

「何を求めようと貴様の勝手だがその果てに私が立ちはだかるだろう。衛宮士郎、この世界のお前は何を思い描いている?」

 

独白はまだ見通せぬ暗闇のなかへ。

 

 

 

 

 

 

穢れている。どうしようもなく醜く、恐ろしい。それに目も鼻も無く耳も口も無く、それはそこにあるだけだった。生まれた瞬間から悪だったそれは生まれた瞬間に全てを奪われた。故に全てを奪えるものになった。渦巻く人の悪を象ったそれは死後も悪の象徴として崇められる。

 

この世全ての悪。

 

それは再び産まれようとしている。この冬木で。一般感覚ならば生まれる前に処理してしまうのだろうがそれを眺める男にその意思はない。ドロドロと漏れ出す泥で大地を犯すそれを愛おしいとさえ感じている。

 

「素晴らしいと思わないか、ドク。我々はこの半世紀世界最悪と呼ばれてきた。だが、あれは3世紀初頭からこれまでこの世界全ての悪と呼ばれてきた。いや、下手をすればもっと前からかもしれん。であれば我々の先達というわけだ。それが鼓動を始めた。産まれようとしている。産まれればきっと素敵なことが起こる。きっと楽しいぞ」

 

「はい、あれは素晴らしい。劣化コピーとはいえ過去の人間を甦らせます。完全に解明できれば死なない兵士すらも造れるでしょう。聖杯、まさしく神の奇跡ですな」

 

「その奇跡は我々を選んだ。ならば手助けしてやらねばいかんな」

 

「私にお任せください、少佐」

 

「頼むぞドク。ところで、今日のディナーの準備は終わっているのか?」

 

「もちろんですとも。今日は私が作ったサワークラウトを使用しております」

 

「ほぅ!ドク自家製のものは私の好みに合っているから楽しみだ!さっそく用意してくれたまえ」

 

「こちらでお召し上がりですか?」

 

「当然だろう?絶望を眺めながらの食事は良いものだ」

 

「了解しました」

 

聖杯は鼓動を続ける己が産まれるその時を夢みて。

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