fate/stay night ~no life king~   作:おかえり伯爵

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主従の語らい

 

ーー俺は罪を犯した。

 

男は兄弟のベレロスを殺した。憎んでいたわけでも、操られてもいない。事故といってしまえばそうなのだろう。誰も彼を責めはしなかった。だが彼はその罪を自分のものとした。生来の名を捨て、彼は人殺しの名を背負った。それは相当に覚悟のいることだっただろう。罪人に優しく微笑む人間などいない。最初は許していた人々も次第に彼を責め始め、彼は村を追放された。

 

罪の重みに押しつぶされそうになった彼はとある王の元で罪を清めるべく善行を積み重ね、王も彼を認め始めていた。

 

ある日、彼は王の妃に好意を寄せられるが罪を自ら背負うほど真面目な彼はそれを拒んだ。王妃は彼を恨み、王に彼が必要に迫ってくると嘘の言葉を囁き、王は激怒。王は手紙を持たせると王妃の父の元へ行かせた。王妃の父もまた王であり、手紙を受け取った王妃の父は彼にキマイラの討伐を命じた。

 

キマイラとは頭がライオン、胴体が山羊、尻尾が蛇の怪物。城の兵士たちが束になっても勝てない恐ろしい化け物。王に渡された手紙の中には彼を殺すようにと書かれていたのだ。

 

直接手をくだすのを嫌った王なりの死刑宣告だったのだが彼はこれを引き受けた。

 

彼は引き受けた後どうすればキマイラを倒せるかを考えたが見当もつかない。そこで藁にも縋る思いで彼は占い師を訪ねると、ペガサスを手に入れれば勝てると教えられた。

 

ペガサスは伝説の存在であって見たことも、どこにいるかも分からない。彼は次に女神アテナの神殿を訪れて祈った。村々を襲う化け物キマイラをどうすれば討伐できるのかと。女神アテナは彼の誠実さと勇気に心打たれ黄金の鞍と轡を与えた。そしてペガサスの居場所を伝えた。

 

彼は女神に導かれるままにペガサスを見つけ、黄金の鞍と轡でペガサスを見事手懐けた。

 

手懐けたペガサスを自由自在に操れるようになった彼は難なく火を吐くキマイラを討伐。次々と武功をあげ、国に勝利をもたらし続けた。次第に彼の力を恐れた王は暗殺を試みるが返り討ちにあい、ついには諦め、和解を申し出た。

 

ここまでが彼の栄華。

 

ここから先は彼の転落の話。

 

誰もが彼をもてはやし、彼は謙虚さを忘れ慢心するようになっていった。

 

これだけの武功をあげたのだから神々の中に加わる資格があると思い始めたのだ。

 

共に苦楽を乗り越えてきたペガサスに跨り彼は神々のいる天へ上ろうとした時、主神ゼウスは彼の驕りに怒り一匹の虻を送りペガサスを一刺しさせた。刺されたペガサスは傷みに暴れ狂い、背に乗る彼を振り落とした。

 

彼は空から放り出され、地に落ち命は助かったものの一生癒えない傷を負って乞食のような惨めな終わりを迎えた。

 

名を捨てた彼は結局罪人の名を背負ったまま生涯を終え後世に語り継がれる。

 

その名はベレロスを殺した者ーーベレロポーン。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうした、そんな顔をして」

 

「起きたばかりの淑女の顔をジロジロと見るものではありませんわよ」

 

不機嫌そうなルヴィアの非難を軽く流してライダーは堂々と来賓用のソファーに寝転がる。いつの時代もこの手のものはゴテゴテしていて彼の好みではなかったが安物よりは寝心地が良い。生前、何度も寝込みを襲われた彼は寝れるときに寝る主義らしく、今もこうして寝転がっている。サーヴァントに睡眠は必要ないはずなのだが英霊にしては人間臭い彼のその行動をルヴィアは咎める事はしない。他の英霊には劣るかもしれないが彼もまた英霊。何かを成し遂げた英雄は誰もが尊敬に値する。実力主義の彼女らしい持論。むしろ余裕をみせるその行動に頼もしさすら感じていた。

 

「淑女を名乗るなら野蛮な趣味はやめるべきだな。たしか・・・レスリングだったか?肉体一つで相手にぶつかる競技は男だけのものだったのだが、これが時代の流れというやつか」

 

「華々しくリングを飾ることに男も女もありはしませんわ。今の時代、女も強くなくては」

 

「むしろ女の方が優遇されているように思えてならないな。死人の俺には関係のないことだが」

 

「その自虐めいた発言はお止めなさい。朝の清々しい気分が台無しですわ」

 

「失礼」

 

心にもない謝罪など不要とばかりにルヴィアは軽く髪を撫でて太々しい態度の下僕を見下ろす。ライダーは契約時に名前を名乗らなかった。英霊にとって自分の名は自分の人生、功績を表している。言いたくないということはそれなりに意味があってのことだろうと深く聞くことはしなかった。しかし昨晩、ルヴィアはこの下僕の過去を観た。観てしまった。

 

ーーなるほど、言いたくないのもわかりますわね。

 

成し遂げた功績によって得られたものは、兄弟殺しの忌み名のみ。誰がそんなものを誇れるだろうか。会ったばかりの人間に語るにはあまりにも陳腐で馬鹿馬鹿しい。彼が劣等感から真名を明かせなかったのも頷ける。

 

「昨夜の衝突で各サーヴァントは確認できた。もちろん、8人目のサーヴァントもな」

 

「それで、勝てるのですか?」

 

「勝てない」

 

「・・・はぁ。貴方も英霊ならば任せておけくらいは言ってほしいものですわね」

 

「無茶を言うな。ヘラクレスにアーサー王、スカサハにヴラド三世。知名度でも、自力でも成した偉業でも負けているんだ。冷静に考えれば勝てないのは明白だろうに」

 

議論にすらならんとばかりにライダーはルヴィアに背を向けるように大勢を変えた。

 

「私が言っているのは気持ちの問題のことです。始めから負けるつもりで戦いに挑むなどあってはならないことですわ」

 

「根性論で覆せる戦力差ではないのだがな。マスターの命令には従うさ。突撃しろと命令されれば突撃しよう。ただし、9割負けるがね」

 

ルヴィアの嫌いな根性の曲がった物言いに彼女は頭を押さえる。彼女の怒りの沸点に今にも届きそうになりながらもギリギリのところで超えないような言い方がライダーのやり方と理解していてもいつか一度は怒鳴ってやろうとルヴィアは心に決める。

 

「・・・もういいですわ。もっと生産的な話をしましょう」

 

「うむ、そうだな。まず、勝ちたいのであれば正面からではなく共闘による強敵の撃破が望ましいな。より強いほうを倒し、弱いほうを残す。そうしていけば楽ができる」

 

「却下ですわ。美しくありません」

 

「ならどうするんだ?」

 

「簡単なことです。貴方がサーヴァントを抑え、私がマスターを倒します。時間稼ぎくらいはできるのでしょう?」

 

「逃げ回るのは得意だ」

 

「そこだけ自信満々に仰られても困りますわ・・・」

 

機動力においてライダークラスの右に出るものなどいない。人間も英霊も乗り物にはどうあっても早さで追いつけないからだ。そしてライダーが保有する乗り物は一級品。例え現代最速の乗り物であっても引けはとらない。とはいえ、ライダーはその一級品の乗り物に乗ろうとはしない。過去の経緯を鑑みれば信頼できないと考えてもおかしくはないが、この戦いは出し惜しみをした人間から死んでいく。いざとなれば令呪でもって強制するしかない。ルヴィアはそう考えて、ライダーを見る。叱られて拗ねている子供のようにも、疲れ果て今にも消えてしまいそうな老人にも見える男の背は驚くほど小さい。とても神話に刻まれた英霊には見えない。

 

「ライダー」

 

「・・・どうした?」

 

「貴方の真名、いつか教えてくださると信じていますから」

 

「・・・ああ、いつか、な」

 

 

 

 

 

 

 

「凛、その話は本当ですか?」

 

「なによ、セイバーは不服なわけ?」

 

「当然です。聖杯は一組の主従にのみ願いを叶えます。最後には必ず裏切るとわかっていて何故手を組もうなどと。貴方は年齢こそ若いが才能に溢れる優秀なマスターです。今からでも遅くはありません。どうか再考を」

 

厳しい顔で凜を見つめるセイバーに余裕は感じられない。騎士王とまで呼ばれた彼女がこうも反対するとは思っていなかった凜はどうしようかと思案を巡らせていた。

 

アーサー王の最後は有名だ。故に彼女が聖杯に求めていることもわかる。王の選定のやり直し、あるいは過去へ遡り未来を変えること。凜はセイバーを召喚してから聖杯への望みを聴いたことも、聴かれたこともない。ビジネスライクというか、割り切った関係をセイバーは望んでいるようで、凜もあえて聴こうとはしない。セイバーにもし聴かれたとしても答えられないからだ。凜の願いは衛宮士郎を幸せにすること。それは聖杯を使って成し遂げるものではなく凜が自身でやらなければならない。つまり、凜は聖杯など必要としていない。セイバーはそんな凜を見限ることだろう。夢を見る者は夢を見ない者と

価値観を共有できない。そのすれ違いが誤解を生み、間違いが起これば前回の聖杯戦争の二の舞になる。セイバーはそれを恐れている。

 

「悪いけど拒否はさせないわ。・・・わかったわよ、説明するわ。座って」

 

促されたセイバーは客間の椅子に腰かけて凜を見つめた。

 

「私がなんで衛宮くん・・・キャスターと組むのかっていうと、現在聖杯が汚染されているからなの」

 

「汚染、ですか?」

 

「そうよ。なんでも第三次聖杯戦争でトラブルが起きたみたいでね。セイバーも前回の聖杯戦争で気が付かなかった?本来召喚されるべきでない反英雄が召喚されていることに」

 

「・・・前回のキャスター、バーサーカーのことですね。彼らが呼び出されるならば全盛期、精神が反転する前でないとおかしい」

 

「ええ、でも反英雄の姿で現界した。聖杯が正常であればそんなミスは起こらない」

 

「辻褄は会います。では何故手を組むのですか?」

 

「キャスターなら汚染された聖杯を浄化できるかもしれないからよ」

 

セイバーは苦虫を潰したような顔で頷いた。事の深刻さも理解できたようで、セイバーは再び凜に問いかけた。

 

「私は浄化できるキャスターを守りながら戦う必要があるわけですね。しかし、守り抜いた後はどうするのです?キャスターがもし私を排除すれば願いを叶えてやると言ってきた場合どうするのです?」

 

「断るわよ。セイバーが消えた後私も殺されちゃうかもしれないしね。いざとなったら衛宮君の腕を切り落として令呪を奪っちゃえば良いわけだし」

 

「凜は聡明ですね。貴方を試したこと、謝罪します」

 

「謝ってもらうようなことじゃないわ。セイバーの信用が得られるならいくらでも試してちょうだい」

 

「感謝します」

 

はにかむセイバーは破壊的なまでの可憐さで、凜はウッっとよろける。天然なのかはわからないがセイバーがたまに見せるこうした仕草は普段の凛々しい姿とは打って変わって容姿相応の少女のように見える。凜の心に良心という名の棘が突き刺さる。

 

ーーなんで私ばっかりこんな苦労しなきゃならないのよ!!

 

ここで心の内を晒してしまってはいけない。夢のためにセイバーを利用する。凜はそう決めていたというのにセイバーへの罪悪感で押しつぶされそうになっている。心労で倒れてしまいたいのを堪えて凜はセイバーに微笑みかける。自分に嘘をつくように。

 

「それじゃ、さっそく衛宮くんの家に行きましょうか」

 

「わかりました」

 

「そんな顔しないで、まるで敵の陣地に攻め込む前みたいよ」

 

「一時的な協力関係である以上気を抜いてはいけません。裏切りなどどのタイミングでも起こりうるのですから」

 

「オッケー、注意するわ」

 

凜は立ち上がって客間の扉を開ける。セイバーはそれに続いた。

 

「頼りにしてるわよ、私の騎士(ナイト)様」

 

「お任せください我が(マスター)

 

今宵が最後の語らいの日。

 

これより先は地獄の始まり。

 

それを知るモノは化け物どものみ。

 

 

 

 

 

 

 

name ベレロポーン

クラス ライダー

筋力C 耐久B 敏捷B 魔力C 幸運B 宝具A~A++

 

保有スキル

 

対魔力:D

 魔術に対する守り。無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。

 

騎乗:A+

 騎乗の才能。獣であるのならば幻獣・神獣のものまで乗りこなせる。ただし、竜種は該当しない。

 

神性:B

 神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。

 海神ポセイドンが父であるとされる。

 

仕切り直し:C

 戦闘から離脱する能力。

 

宝具

 

『黄金の手綱(ポリュエイドス)』

ランク:A 種別:騎乗宝具 レンジ:1 最大捕捉:1騎

 アテナ神から授かった手綱。

 騎乗したものに幻想種(魔獣)としての属性を与え、強化する。

 幻想種に対し使用した場合、そのランクを一つ引き上げる。

 この宝具は、生物以外を対象にすることもできる。

 更にライダーと対象をレイラインで繋げることができる

 

 

『------------------』

ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:2~50 最大捕捉:300人

ライダーのかつての友。条件が満たされていないため現状は使用できない。

 




誤字、脱字は時間があるときに編集します。

皆様のカルデアに沖田(オルタ)が召喚されますように。

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