fate/stay night ~no life king~ 作:おかえり伯爵
「お嬢様、朝でございます」
「後、五分・・・」
午前6時30分。部活の無い学生でもそろそろ目を覚ます頃、少女はだらしなく布団に包まっていた。その彼女の寝台の側で険しい顔をしている老紳士。このやり取りはかれこれ30分続いている。痺れを切らせた老紳士は指を僅かに動かすと腕を真上へと振り上げた。それだけで少女を包んでいた布団は宙を舞い、包まっていた少女もまた宙を舞い、ベッドから落ちた。顔から落ちた少女は鼻を押さえて、般若のような表情で老紳士を睨む。老紳士は慣れた表情でニコやかに朝の挨拶をする。
「おはようございます。ようやくお目覚めのようですね。朝食の準備が整っておりますのでお早く御越しください」
「・・・貴方はまず謝ることから始めるべきだわ」
学園一の美少女で文武両道の高嶺の花。遠坂凛は低血圧の影響でまるでゾンビのように呻きながらそう呟いた。絹にすら勝る黒く美しい髪を床に横たえ、前髪から覗く蒼い瞳は宝石に例えられても不思議ではないが、この状態では恐怖を煽るものでしかない。凛はゆらりと立ち上がってベッドの横にあるリボンを手に取ると老紳士を無視して部屋を出た。老紳士はその後を追う。
レトロな洋館である遠坂邸は世間から隔絶されていると思われがちだが、凛の母の葵の性格からか近所付き合いは悪くない。また、この広い洋館を一人で管理している老紳士の努力により5年前の近寄りがたい雰囲気から一変して明るくなった。
遠坂邸を生まれ変わらせたこの老紳士は凛が生まれる前に凛の父遠坂時臣の窮地を救った人物らしく、偶然父の書斎にあったメモから葵が連絡を取るとあっさりと遠坂の家で執事として働くことを快諾した。当時の凛もこれには驚いた。が、老紳士は完璧な執事でありながら戦闘もこなす事も分かり、その戦闘力は父をも上回っていたらしい。時臣は純粋な魔術師だったので戦闘に関して言えばそこまで強いわけではないが普通の人間が魔術師に勝つのはやはり難しい。父への尊敬もあって凛は老紳士に弟子入りを申し込んだ。これが凛とウォルター・C・ドルネーズの最初の邂逅だった。以降ウォルターは凛をお嬢様と呼び、凛はウォルターを師と呼んでいる。あくまで訓練中だけではあるが。
「ウォルター、今日の朝食は何かしら?」
「本日はスクランブルエッグとトースト、アッサムのストレートでございます」
「そう、いつもありがとう」
「感謝の極み」
凛は朝食を食べない。5年前まではそうだった。しかしウォルターの必死の説得の末凛は朝食を食べるようになった。もちろんカロリー計算は完璧で、バランスも考えて作られている。その結果、凛の主に胸部は年々大きくなり始め現在はB82W56H78という奇跡のプロポーションを維持している。
「ふぅ、私もそろそろサーヴァントを呼ばないとね」
「まだ5クラスも残っておりますので焦る必要はないかと。もしサーヴァントに襲われても凛お嬢様でしたら逃げるのは容易いでしょうな」
「ええ、伊達に貴方の弟子をしているわけではないわ」
サラリと髪を靡かせてウォルターにウインクをする。が、凛の視界に車椅子の女性が映ると凛の表情は険しくなった。
「あら、やっと起きたのね。遅刻するわよ。・・・ごめんなさいねウォルター、こんな娘で」
「母さん・・・いつも言ってるけどそれ止めてよね」
遠坂葵。凛の母で大和撫子を体現したような柔らかい物腰の女性で10年前の聖杯戦争によって幼馴染の雁夜は吸血種になり、夫は亡くなり、両足を失った。義足をつけているので服の上からではわかりずらいが車椅子に乗っているので足が不自由なのは一目瞭然だ。凛の魔術では無くなった足の再生などできず歯がゆい思いをしている。直すにはそれこそ魔法かそれに近い奇跡が必要になる。
「止めてほしいなら時臣さんみたいに常に余裕をもって優雅たれをもっと意識なさい」
「・・・はぁい」
「まぁまぁ奥様。お嬢様は低血圧なのですから多めに見て頂けませんか」
「ウォルター・・・貴方は凛に甘すぎるのよ。遠坂のーーー」
「行くわよウォルター・・・もう話が長いのよ」
「畏まりました」
いつものお説教のパターンを察知した凛はウォルターを連れてその場を離れた。
「年をとるとどうしてああなっちゃうのかなぁ」
「我々英国人は老いすら楽しむものですが、この国では老いが罪になっているようで若者からそう言われるとやるせ無いですな」
「年よりが段々と増えて子供が減っている影響かもね。人間って数が少ないものを大切にするから」
「なるほど、そうかもしれませんな」
凛はこの朝も普段と変わらず朝食をとって化粧台の前で唸ってからお気に入りの赤いコートを学園指定の服の上に羽織って家を出たーーリボンも忘れずに髪の両端につけて。外気は冬の訪れを告げるように肌を冷たく乾燥させる。凛は思わず「寒っ」と呟いて左右を確認。
「誰もいないわね」
万が一にもだらしない格好を見せるわけにはいかない。頬を軽く叩いて凛は澄ました顔で門を開け通学路を歩き始めた。
凛の通う穂群原学園は地元ではそこそこ名前の知られている私立高校で偏差値は大体57程度の学園である。部活は全国レベルのものはほとんど無いが毎日学生たちが練習している姿が見られる。頭髪や服装に関しても緩いところがあり、多少髪を染めても注意されることは無い。
凛が道行く生徒たちに紛れていると前方に見知った少女。かつて妹だった凛の半身が可憐なオーラを漂わせながら空を見つめていた。凛もつられて見上げると曇天の空が気分を沈ませるだけだった。
「何を見てるんですか、遠坂先輩?」
「--ッ!?」
先ほどまで前方にいたはずの桜が隣にならんでいたのに驚いた凛は持っていた鞄を落としてしまった。留め金がしっかりとはまっていなかったらしくその中身が周辺に散らばって他の生徒たちの視線を集める。
「大丈夫ですか、遠坂先輩。すみません突然声をかけてしまって」
「・・・いいえ、私の不注意ですから気にしないで間桐さん」
さっと教科書を拾って服の汚れを払う。
「あの、よろしければ一緒に登校しませんか?」
「・・・喜んで」
遠坂から間桐へ養子にだされた桜に負い目がある凛は桜の頼みを断ることなどできない。彼女が間桐でどんな仕打ちを受けていたかも知っているし前回の聖杯戦争に参加し最後まで生き残ったことも知っているからだ。父時臣を殺したのも桜だと葵は凛に伝えていたが実は違うと検討をつけている。なぜなら桜は凛があげたリボンをまだつけているからだ。
「寒くなってきたわね」
「はい、朝起きるのが大変で・・・」
「・・・同意するわ。それで、最近旦那さんの様子はどう?」
「調子が良いので夜はそれはもう激しくて」
「あー、もう良いわ」
凛はこの冬木市の管理者(セカンドオーナー)であるのでこの地の魔術師をもぐりや許可なしを除いて全て把握している。桜の結婚や雁夜の吸血鬼化に度肝を抜かれた凛を待っていたのは桜の惚気。今では会うたびに生々しい話をする桜に辟易している。
「んでーー参加するのかしら?」
「はい」
それっきり会話も無く校門前で別れた姉妹。凛はため息を吐いて額を手で押さえる。
「・・・何やってんのよ私」
靴を履き替えて校舎内へと入る。目指すのは二年A組。階段を一段一段あがって3階に到着すると廊下に海鮮物がユラユラと漂っている。
「あれ、遠坂じゃないか」
「・・・おはようございます、間桐くん」
海鮮物ーーの髪型をした間桐慎二は陽気に凛に話しかけた。
「今日は早いんですね」
「うん、まぁね。早起きは三文の得って言うけど本当だったみたいだ。だって、こうして遠坂と逢えたんだから」
「・・・」
彼の父は10年前にどこかへ蒸発してしまった。間桐の家にいながら魔術には一切関わっていない彼が間桐の家に残れるはずもないので市内のアパートに一人暮らしをしている。父に捨てられたのを気にしている彼は人一倍努力を重ねて現在では学校中から「困ったときは慎二に」と言われるほど頼られる存在になった。最近では同じ弓道部の主将との仲を噂されているが本人たちは断固として否定的だ。何故なら慎二が好きなのは遠坂凛なのだから。
「あ、ごめん。遠坂はこういうの嫌いだったね。それじゃあ僕はこれで失礼するよ。・・・また話しかけても良いかな?」
「ええ」
凛がそう答えると慎二は嬉しそうな顔でクラスへと戻っていった。凛はそれを見送って思案する。彼は悪い人間でもダメな人間でもない。だが魔術師でもないのだ。魔術師の家系に生まれはしたが魔術の才能も知識もない彼の好意を受けるのは心が痛む。いっその事はっきりと言えれば楽なのだがそれが出来ればこうして悩むはずもない。
「・・・心の贅肉が溜まる一方ね。ダイエットしないと駄目かな」
「それ以上痩せてどうするつもりなのさ?」
「痛ッ!!」
凛の呟きを聴いた彼女の親友美綴綾子は冗談交じりにわき腹を抓って挨拶をした。ボーイッシュな彼女の雰囲気に合った茶色のショートヘアが活発に揺れる。
「おはよう、遠坂。部活もやってないのに今日は早いねぇ。普通だったらあと20分は寝られるのに」
「そういう美綴さんも今日は部活もないのに早いんですね・・・もしかして間桐くん目当てだったりして?」
「な、なにいってんだよ!?」
仕返しの一発が綾子の余裕を奪った。分かりやすすぎる彼女のリアクションに凛は思わず噴出す。本人の前だと更に分かりやすいはずなのだが慎二は全く気づいていない。恋する乙女と男は盲目なのだろうか。
「はいはい」
「いつか絶対にアンタを泣かせてやるっ」
「期待しないで待っていますね」
綾子は授業が始まるまで弁解を続けたがそれが却って周囲の注目を集める結果になり、泣き寝入りするしかなかった。
始業のチャイムが鳴り、教師が出席を確認する。凛にとって学業とは無駄にならないがなくてもそこまで困らない程度のものだ。だからと言って疎かにすることはあってはならない。普通の学業も魔術も両立してこその遠坂凛であり、その在り方を彼女も気に入っていた。同じことを繰り返し行うのも大事ではあるが違う観点からアプローチをすると同じものも違って見えてくる。昔の考えと現代の考えを併せ持つ器量。魔術師でありながら実戦を想定した技術を学ぶのもその辺りが一因している。
平和な学園生活も終わり慣れた家路を辿る。凛の表情は魔術師のそれに変わっていた。消えかけの太陽が名残惜しそうにアスファルトを照らす。
「さてと、学生は堪能したし今夜にでも召喚しないとね」
午前の時点ではアーチャーとバーサーカーが召喚されていた。残るクラスは五つ。狙うクラスは最良と名高いセイバー。本来であれば凛が一番実力を発揮できる日、時間に召喚するのが好ましいがそれでは万が一セイバーが召喚されてしまった場合取り返しがつかない。父から譲り受けた宝石を売り払ってまで手に入れた聖遺物がガラクタになってしまう。
「失敗できないのよ」
意識せず小石を蹴飛ばしていた凛は小石を軌跡をぼんやりと眺める。石は結構な勢いで転がり続け、やがて石に影が覆いかぶさる。凛が目線をあげると一人の男性が紺色のロングコートのポケットに両手を入れて転がってきた小石を足で止める。そして彼は人懐っこい笑みを浮かべて片手を挙げた。
「久しぶりだな遠坂」
赤色と茶色の混じった短髪の少年。身長は170センチにも満たないが服の上からでも彼が一般人からかけ離れた強者であると感じられる。少年の手の甲には赤いタトゥ。凛はそれを視認して理解してしまった。彼もまた自身の敵であるとーー。
「ええ、久しぶりね。衛宮家当主ーー衛宮士郎君」
嘗て友達だった二人はこうして望まぬ邂逅を遂げる。サーヴァント召喚の前にこのイレギュラー。頭が痛くなってくるのを必死に顔に出さぬようにして凛は静かに溜息を吐いた。
マスター紹介
name 間桐桜
マスター(バーサーカー)
原作と異なり髪の色は黒でストレートのロング。イメージカラーは藍色。悲劇のヒロインで病んデレで後輩で巨乳で虫で聖杯で黒くて可愛い。作者が二次小説を書く原因にもなった少女。多くの著者様が救いの手を差し伸べてくださるお陰でいろいろな桜ちゃんが見れるので嬉しい限りです。本作では魔術は一切使えません。また、雁夜一筋なので士郎に興味がありません。はやく映画化してくださいお願いします。
name 遠坂凛
マスター(現在は権利のみ)
黒いツインテール。イメージカラーは赤。赤い悪魔などとよばれることがある。聖杯戦争を骨子を組み上げた御三家の一角の後継者で先祖には魔法使いの弟子がいたらしい。かつての栄光を取り戻すべく聖杯戦争に挑む家系の生まれだが本人は「そんなものに頼らず自分の力で」という性格なので参戦の理由は家系として求めていたし、どうせなら貰っとく程度である。スレンダーな体系ではあったが本作ではウォルターの完璧な栄養管理によって胸囲が増した。また、原作と異なり言峰綺礼が死亡しているため体術ではなく糸を用いた殺人術を習得。原作士郎(初期状態)なら瞬殺が可能。ウォルターと違い魔術によって糸を強化できるので技術では劣るが破壊力では勝る。糸の製造にかなりのコストがかかっているので宝石魔術は相対的に弱くなっている。
name イリヤスフィール・フォン・アインツベルン
マスター(アーチャー)
永遠の合法ロリ。たまにブルマになって道場に現れる。原作桜トゥルーエンドの彼女が眩しすぎて泣いた。本作ではバーサーカーではなくアーチャーを召喚。最強のマスターに最強のサーヴァント・・・勝てる気がしない。ギルガメッシュも退場しているので勝つのは極めて困難。