fate/stay night ~no life king~   作:おかえり伯爵

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雪の国のお姫様

雪がーー雪が降っている。

 

雪に覆われたとある森の中の城。その城の窓から少女は憂鬱気に外の世界を観察していた。自身の髪の色と同じ白銀の雪が降り続いている光景は何とも表現しにくい気分にさせていた。室内は暖が取られているがこの雪の中では不足しているのか少女の小さな唇から漏れる吐息が白く煙となって吐き出される。

 

「あーあ、早くやまないかなぁ」

 

小さな体をベッドに預けて目を閉じる。この城に居を移してから数日経ったが予定よりも早く冬木市に到着してしまったのでやることがない。連れてきたのも2人のメイドだけなので外で遊ぶくらいしかやることがない。しかし少女が待てども待てども雪は止まない。到着した日はやんでいたのに翌日からこの調子。お陰で少女は暇を持て余していた。

 

ーーこれも全部、アーチャーのせいよ。

 

 

 

 

冬木に居を移す前少女は海外のとある場所でサーヴァントの召喚を行った。アインツベルンという御三家に生まれ魔術的に改造されてきた少女は最強の魔術師であると自負していたし周りもそうなるようにと手を尽くしてきた。結果、思惑通りに稀有な魔術回路の質、数を持ち、魔力のタンクとも呼べる最高のマスターとして仕上げられた。今回こそ必ず聖杯を。彼女の祖父は妄執に取り付かれもはや最初の目的など覚えてなどいないだろう。妄執の塊である祖父は最強のマスターには最強のサーヴァントをと言ってとある触媒を取り寄せた。かつてギリシャにおいて数々の試練を乗り越え最後は神の座にまで上り詰めた最強の戦士。その彼を奉る神殿の支柱となっていた斧剣を取り寄せた。だが、彼をそのまま召喚すると一つ問題が発生する。彼の逸話に自分の子供を呪いのせいで殺してしまったというものがある。つまり、理性のある状態ではアインツベルンを裏切る可能性がある。第四次聖杯戦争で衛宮切嗣に裏切られたアインツベルンとしては僅かでも可能性が残ってはならない。そこで理性を奪えるクラス、バーサーカーで召喚するようにと少女に伝えた。

 

召喚当日。祖父立会いの下少女ーーイリヤスフィール・フォン・アインツベルンは召喚の儀を行った。紡ぎ出される詩(うた)。出だしは完璧だった。異変は中盤で起こった。本来バーサーカーの召喚に挟むはずの一句が詠まれず省略されたのだ。慌てて止めようとしたが既に遅く、陣からは目当てのサーヴァント、最強の戦士ヘラクレスがその姿を現した。2mを容易に越す浅黒い巨体に盛り上がる筋肉。瞳は鋭くどれだけの苦境を乗り越えてきたのかを想像させる。上半身はヘソを隠すように衣を巻きつけている。彼は恭しく一礼して眼前の少女を見る。か弱い、小さき者。イリヤは巨大で強大なサーヴァントを前に怯まず礼には礼をとスカートを僅かに両手で持ち上げて一礼。

 

「貴方が私を呼んだマスターですね、πριγκιπισσα(プリンキピサ)」

 

「ええ、そうですわ。ギリシャの大英雄ヘラクレス様」

 

「ふふ、こんな可憐な方がマスターとは私も運が良い。ですが、私に畏まる必要はありません。どうぞいつもの貴方のまま接してください、姫」

 

ヘラクレスは思わず微笑んで雪のように儚いイリヤを片手でそっと肩に乗せる。ここでヘラクレスはイリヤの体重が異常に軽いのに疑問を感じた。イリヤの表情もどこか憂いを感じさせまるで人形を抱いているようだった。

 

「残念ですがそれはできません。祖父様に怒られてしまいますもの。現にこの後お叱りを受けるでしょう」

 

「それは何故でしょう?」

 

「本来、私たちアインツベルンは貴方様をバーサーカーのクラスでお呼びするつもりでした。ですが私の間違いで他のクラスで召喚してしまいました」

 

「この身はアーチャーで現界致しましたが出来るだけ方針には従うつもりです。バーサーカーでなくとも必ずや聖杯を姫に献上致しますのでご心配には及びません」

 

「御身は最強の戦士。元より心配などしておりませんわ。・・・と、言っても既に聖杯を肩に乗せておりますが」

 

イリヤは軽い冗談のつもりでヘラクレスにそういった。彼女なりの軽いジョークだったので笑ってくれるとそう思っていた。ーーヘラクレスの恐ろしい形相を見るまでは。

 

「姫、それはどういう意味でしょうか?」

 

「あの・・・えっと、今回の聖杯の器は私なのです。聖杯戦争を勝ち抜けば私は聖杯となり奇跡を起こす装置となるでしょう」

 

ヘラクレスの顔は更に怒りの、鬼の形相へと変わっていく。イリヤを遠巻きに見ていた関係者達が恐怖のあまり腰を抜かした。その中イリヤの祖父だけは毅然とした態度で立っている。

 

「貴様らに問う。何のために聖杯を望む?」

 

ヘラクレスの問いに失笑を交えて答える。

 

「魔術師の目的など唯一つ。根源へのーー」

 

彼は最後まで言うことが出来なかった。何故なら既に首と胴が繋がっていなかったのだから。飛び散る鮮血と鉄の匂い。誰もが理解するのに数秒掛かった。そして理解した頃にはイリヤを除くその場の生命は息絶えた。たった一日。たった一日で500年以上の歴史を誇るアインツベルンは党首を失った。

 

 

 

 

 

「で、暇な私をどうやって楽しませてくれるのかしらアーチャー?」

 

「ううむ・・・昨日はネメアの獅子についてでしたから今日はヒュドラについてお話しましょう」

 

「うーん、それも良いけど今日は竪琴(ハープ)が聴きたいわ」

 

「お任せを」

 

ヘラクレスが手を出すと、竪琴が出現する。角の部分が赤色に染まっているのは師であるリノスを撲殺した跡なのだろう。ゴツゴツした指が滑らかに踊り音を奏で、イリヤも足をばたばたと動かす。神代の歌は現代では神秘の塊であるため特別な効果をもたらすものが多い。ヘラクレスの演奏する歌にも本来であれば癒しの効果があるのだがヘラクレスの技量では効果が発揮されることなどない。

 

「これだけ上手に弾けるのにどうして貴方の師匠は貴方をしかったのかしら」

 

「あの頃の私は愛など信じていませんでした。父の浮気で生まれ、ヘラ様の嫉妬に晒された私は自分しか信じられなかった。強く、誰よりも強くと望んだ私をリノスは叱ってくれましたが押さえつけられるのを嫌った私は彼を・・・。子を持ち、試練を越えて初めて愛の大切さに気づきました」

 

「ふーん。やっぱりアーチャーは強いね。体も心も」

 

「そんなことはありません。未練と後悔しか残っていない私など・・・。聖杯に望む願いも犠牲になってしまった全ての者に謝罪したい。それが私の望みです」

 

「きっと叶うわ。だってヘラクレスは最強のサーヴァントだもの」

 

「ははは、照れますな。ところで気になっているのですが・・・何故召喚の詠唱を間違えたのですか?イリヤであればあの程度の詠唱を間違えるなどありえないと思いますが」

 

「うーん、最初はそのまま詠唱しようと思ったんだけど・・・きっと切嗣のせいね」

 

「イリヤの父君がどう関係してくるのですか?」

 

イリヤは悪戯っ子な笑みで部屋に飾った写真立てを見る。イリヤの右側に切嗣、左側に母アイリスフィールが楽しそうにピースをして写っている。ずるばかりしていたどうしようもない父だったがその愛だけは紛れもないものだったとイリヤは今でも感じている。祖父は切嗣が裏切ったと常々言っていたがそんなものは極秘に届けられた手紙の前では無意味に等しかった。

 

「切嗣がアインツベルンから離れた後に誰だか知らないけど手紙を届けてくれた人がいてね。それで聖杯のこととかお母様のこととか書いてあって、最後に書いてあったんだーーこの身が無くなろうとも心は永遠にイリヤの傍にいるよって。お母様も同じことを言ってたからそのとき思ったんだ。私の両親はいつでも傍にいて私を見守ってくれてるんだって。だからかな。アインツベルンじゃなく私として家族の義弟を護らなきゃって。それでサーヴァントであってもちゃんと心のある家族としていたいなんて欲が出ちゃったのかもね」

 

「さぞご立派なご両親だったのでしょうね。・・・ではこうしましょう。私が義父として貴方を護ります。ですから貴方は義弟をお護りください」

 

「ヘラクレスが私のお義父さん?・・・うん良いかも。なら切嗣が嫉妬するくらいの親子になろうね」

 

甘えるようにイリヤはバーサーカーの足に抱きつく。純粋で純白なイリヤを見ているだけでヘラクレスは心が清められるようだった。

 

「あ、そうだ。ヘラクレスが私のお義父さんならセラとリズにとってもお義父さんね。ちょっと待ってて今呼ぶわ」

 

テーブルに置かれた2本のベルを同時に鳴らすと少しして扉がノックされた。

 

「入って良いわ二人とも」

 

「失礼致します」

 

「・・・失礼致します」

 

ガチャリとノブを回して入ってきたのはイリヤの侍女と護衛役のセラとリーゼリットだった。並んでいると分かるが二人は足りない部分を補っているように対照的でそれは雰囲気や性格だけでなく役割も当てはまる。口うるさく慇懃無礼なセラが家庭教師をしているのに対してリーゼリットは寡黙で護衛を主に請け負い、類似しているのは白い髪と赤い瞳くらいだろう。二人は呼ばれた理由が分からず黙って主の指示を待っている。それを確認してイリヤは無い胸を張って自慢気に言った。

 

「今日から貴方たちのお義父さんになるヘラクレスよ。何かあればお義父さんに頼ると良いわ」

 

「・・・」

 

「・・・お義父さん?」

 

セラは口を半開きのまま硬直しリーゼリットは首を傾げてヘラクレスを見た。反応が無いのが悔しかったイリヤは面白くなさそうだ。ヘラクレスにいたっては目を閉じて嘆息していた。

 

「なによ、何か反応してくれないと困るんだけど」

 

イリヤは硬直したセラの顔の前で手のひらを左右に動かす。はっ!っと意識を取り戻したセラは今度は烈火の如く怒り始めた。

 

「お嬢様!!お言葉ではありますが我々の父は鋳造主たるユーブスタクハイト・フォン・アインツベルン様御一人のみです!!」

 

「セラ、お爺様はお亡くなりになったのよ。お爺様のいないアインツベルンなどもはや意味を成さないわ。いい加減その古い考えを捨ててほしいわ」

 

「・・・しかし。・・・分かりました、お嬢様の命に従います。ですがそれは表面上だけであるとお思いくださいませ」

 

「・・・私はイリヤに従うだけだから。お父さん、よろしく」

 

「う、うむ」

 

「まぁ、良いわ。無理強いするものでもないし」

 

一気に3人も娘が出来てしまったヘラクレスは戸惑いを隠せない。だがそこは英雄としての器量か、話している内に慣れてしまった。セラやリーズリットとしても主人を護るサーヴァントの機嫌を損ねる訳にもいかないため会話だけであれば不満はない。むしろヘラクレスのあり方を考えれば好ましい部類に入る。共にイリヤを護るという親近感もそれを後押ししていた。

 

「さて、今日はこのくらいにしましょう。セラ、食事の準備はできているの?」

 

「・・・あっ」

 

「・・・もしかして出来てないの。呼んだのは私だし今から作ってくれる?」

 

セラの視線が彷徨う。全く準備をしていなくても今から作れば良いと言っているのに動こうともしない。重大なことを忘れていたという表情だ。不審に思ったイリヤはセラの頬を両手で固定して視線を無理矢理合わせる。

 

「セラ?」

 

「・・・申し訳ございません。実は・・・食材がないのです」

 

「・・・えっ」

 

「何分逃げるようにアインツベルンを出てきましたのでお金も食材もないのです」

 

党首が殺害されたアインツベルンはイリヤを包囲するべく行動を始めた。逃げるには包囲が完了してしまうまでに逃げなければならなかった。お金を持ち出す時間も余裕もなかったのである。こればっかりはセラを攻められない。イリヤが気まぐれを起こさなければ済んだ話なのだから。

 

「・・・セラは悪くない。悪いのは私。・・・でもどうしようかな。聖杯戦争中もその後も絶食してたら死んじゃうしなぁ」

 

「でしたら私が獲物を獲ってきましょう。これだけの森であれば猪の一頭くらいいましょう」

 

「・・・頑張って、お義父さん」

 

 

 

その日、歴史ある名門アインツベルンの食卓に猪と熊が並べられた。

ヘラクレスは調理せず丸かじりだったのは言うまでもない。

余談ではあるがセラは翌日から日雇いのバイトを始めるのだった。

 

 

 

 

 

サーヴァント紹介

 

 

 

name ヘラクレス

クラス アーチャー

筋力A 魔力B 耐久A 幸運C 敏捷A 宝具B~A++

 

宝具

 

『射殺す百頭(ナインライブス)』

ランク:A++

流派ナインライブス。ヘラクレスの持つ万能攻撃宝具。

生前の偉業ヒュドラの討伐で使った弓を元に、彼の持つ武技を宝具の域にまで昇華させたもの。

状況・対象に応じて攻撃方法が変化する上、様々な武器はおろか防具である盾でさえも使用可能。

弓であれば対幻想種用の九連撃ドラゴンホーミングレーザーを放つ宝具となる。

とりあえず強い。

 

 

『金色の獅子皮(ネメア)』

ランク:A

刃や鏃など武器に対して効果が高く、武具ならばAランクの宝具を用いてもこの護りを突破することは不可能である。但しあくまで獅子皮が硬いだけでありそれ以外のところには普通にダメージが通る。また身に着けている場所がへそから下である(移動可能)。

 

『十二の試練(ゴッド・ハンド)』

ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1人

Bランク以下の攻撃を無効化するとともに、死亡しても自動的に蘇生(レイズ)がかかる。

蘇生と攻撃の無効。このふたつの効果を持つ十二の試練は、さらに3番目として一度受けた攻撃が二度と効かないようにする。蘇生のストック数は11個。つまりヘラクレスは12回倒されなければ消滅しない。一応命のストックは魔力供給で回復できる。また、Bランク以上の攻撃であれば一瞬でストックが複数溶けてしまうことがある。原作でも士郎の投影したカリバーンで7個?の命が一瞬で失われた。

 

保有スキル

 

神性:A

神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。

主神ゼウスの息子であり、死後神に迎えられたヘラクレスの神霊適性は最高クラスと言えるだろう。

 

戦闘続行:A

生還能力。

瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

ただしヒュドラの猛毒は該当しない。

 

心眼(偽):B

直感・第六感による危険回避。

12の試練で培った経験により、幻獣・魔獣属性を持つ相手と戦闘を行う場合、このスキルはランクアップする。

 

勇猛:A+

威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化し、格闘ダメージを向上させる。

さらにヘラクレスが生前幾度も戦ったような幻獣・魔獣属性を持つ相手と戦闘を行う場合、

筋力・耐久・敏捷のパラメーターをランクアップさせる。

ヘラクレスの強大な精神力は、時としてマスターの絶対的切り札である令呪すらレジストしてしまう。

 

単独行動A+

マスター無しでも聖杯戦争中は現界可能。

 

説明

 

ギリシャ神話最大の英雄。ゼウスとアルクメネの子。腕力だけで山脈や大陸を破壊したり銀河が散りばめられた天空を持ち上げるなど無茶苦茶な怪力を誇る。ゼウスの妻ヘラから恨みを一方的にかったため常に不幸な人生を歩んだが最終的にオリュンポスの神々の一員になった。

 

fateでは中ボス程度に描かれている。クーフーリンを含めて大英雄なのに不遇なのはやはり男性キャラだからなのだろうか。それとも聖杯戦争の仕組みが悪いのだろうか。謎は深まるばかりである。

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