fate/stay night ~no life king~ 作:おかえり伯爵
「それで、用件は?」
一般家庭にはない華美な客間のイスに座る凛と士郎。凛の傍にはウォルターが控えている。凛はさっさとしろと腕を組んで士郎を睨む。魔術使い衛宮。魔術の神秘を秘匿せず魔術師以外の人の前で躊躇いもなく魔術を行使するイレギュラーにして最悪の敵。全魔術師に嫌われているが同時にその利便性から魔術協会、聖堂教会から便宜を受けている。故に誰も手を出せない。手を出せば協会か教会からペナルティを受ける。なんだかんだ言って自ら率先して封印指定を受けた魔術師、または死徒、吸血鬼相手に挑む貴重な戦力として見なされているのだ。学者気質の強い魔術師達がやらないことを率先してやる汚れ仕事専門。衛宮を知らぬ魔術師はよほどの弱小魔術師くらいなものだ。凛には目の前の男がそうであるとは到底思えない。昔なじみというのもあるがそれ以前に彼は優しすぎる。人を助けるのを至上の喜びとしている彼のあり方を知っては便利屋と割り切って付き合うのは難しい。乾いた唇を紅茶で潤わせて凛は視線を士郎に向けた。士郎は相変わらずだなと苦笑して背筋をのばした。
「この聖杯戦争・・・組まないか?」
「同盟・・・ね」
「俺の目的は聖杯戦争の早期終了と世界平和だ」
「ぶっ!!・・・世界平和ってアンタね。良い?世界平和なんて叶いっこないって昔言ったはずだけど・・・まだ切嗣さんの夢を捨てきれないのかしら。切嗣さんもおっしゃっていたでしょう・・・冬木の聖杯ではそれは叶わないって」
「ああ・・・でも関係ない。例え汚染された聖杯でも汚染を取り除けば良いんだから」
「どういうこと?」
凛は怪訝そうな顔で士郎に問いかける。第4次聖杯戦争を勝ち抜いた衛宮切嗣は聖杯の泥を受けてその本質を見抜いていた。『あれは聖杯なんかじゃない。人の願いを破壊をもって叶える大量破壊兵器だ』と切嗣は苦しげに呟いていたのを凛と士郎は幼い頃に聞いていた。経緯は分からないが本来無色である聖杯が染まってしまったのは嘘ではないだろうと凛は予想を立てていた。
ーー聖杯から汚れを取り除くなんて出来るの?
大聖杯に干渉できるのは今では宝石翁くらいだ。御三家は衰退を続けているし衛宮程度ではどうにも出来ない。なのに目の前の男は簡単にそれを言う。凛には侮辱されたようにしか感じられなかった。ティーカップをソーサー置いてテーブルに音を立てないように置く。
「信じられないだろうから証拠を見せる。これを見てくれ」
士郎は傍らに置いていたバッグからあるものを取り出す。それは特殊な保存をされた文献だった。そうとう古いもので触れるのすらおこがましい神秘。凛はこれが普通のものでないと瞬間で気づいた。魔術師の性なのか目が離せない。
「これって、聖遺物よね」
「ああ・・・コルキスにあったメディア縁(ゆかり)の文献だ」
「--っ!!」
「これでコルキアスの魔女『メディア』を召喚する」
「あ、アンタ分かってんのっ!!私が同盟を断ったらアンタの手の内全部解ったまま敵になるのよ!?」
「分かってる・・・でも仕方ないだろ?メディアだったら十中八九キャスターのクラスで召喚される。キャス
ター単体で聖杯戦争に勝とうだなんて未熟な俺じゃ無理だ。だったら俺がキャスター、遠坂がセイバーを召喚して貰って同盟を組むのが最善だ」
聖杯戦争においてサーヴァントの真名がバレるというのは相手に弱点を教えているに等しい。士郎は敵になるかもしれない凛にそれを教えた。この聖杯戦争にかける想いかそれとも凛への信頼か。凛にはその判別が付かない。
「決定事項みたいに言うけど私がセイバーを呼び出せる保障はないわよ?」
サーヴァントの触媒一つ持っていない凛はランダムでサーヴァントを召喚するしかない。残るクラスが何にせよ確実にセイバーを引けるとは限らない。しかし士郎はそんなことかと胸に手をやる。すると黄金の輝きを放ってそれは現われた。かつてブリテンの王が所持し最後は盗まれた持ち主に不老と不死を与える伝説の鞘。
「え、エクスカリバーの鞘よね・・・これ」
「これを触媒に使えばアーサー王を召喚できる。しかも鞘つきでな」
「アンタと話してるとおかしくなりそうだわ。・・・あぁああああああ、もうっ!!」
髪を掻き毟ってウォルターを見る。ウォルターは愉しそうに目を伏せるだけで助言を与えることはしない。凛にしては珍しく貧乏ゆすりをして忙しなく人差し指で米神をトントンと叩く。幾通りの仮定推定を脳内で構築して判別、決定を繰り返して一本の正解を導き出す。凛の導き出した答えは是。断る理由がない。アーサー王なら最高ランクの知名度、宝具、ステータスが見込める。また伝説通りなら性格も騎士らしい厳格なものであるしセカンドオーナーが忌避するような行為は行わないだろう。しかし、解せないことがある。その最優のサーヴァントを提供する目的である。
「アンタがその二つを持ってる理由は聞かないけど一つ質問。アンタがセイバーで私がキャスターじゃ駄目な理由は?」
そう、最優ならば自分で使うのがセオリー。敵対するかもしれない奴に渡す意味が判明しない限り同盟は承諾できない。
「親父のサーヴァントだったのがアーサー王だったって言えば分かるか?」
「なるほどね。最後に裏切った相手の子供じゃ指示に従うか微妙ね。アーサー王とメディアか・・・その組み合わせだと二人とも裏切りそうで怖いわ」
「そのための令呪だろ?それにアーサー王は俺ーー衛宮が嫌いなだけで騎士の鏡みたいな奴らしいし大丈夫だ。義母さんも言ってたしな。むしろメディアが怖いな。なまじ優秀過ぎる魔術師だから寝首をかかれそうだ。だからいざとなったら一人でも戦える俺をキャスター担当にした」
「おっけー、おっけー。私は聖杯に託す願いなんてないから譲ってあげるわよ。・・・昔、約束したしね」
満天の月の下、直ったばかりの橋から河を眺めて誓った約束。『私がアンタを幸せにしてあげるだから私も幸せにしなさい』と指切りをした初めての契約。これを子供の遊びととらないところが凛らしい。
「助かるよ。一応これで俺の話は終わりかな」
「そう、なんだか疲れちゃったわ。ウォルター、おかわり」
「畏まりました」
「んで、今までなにやってたの?連絡もろくに入れないし」
凛の鋭い眼光にたじろぐ士郎。頬を掻いて刺激しないように話し始めた。
「えーと、実は教会のイスカリオテってとこにいたんだけどーー」
「ーーっあああああんた、馬鹿じゃないのっ!!!」
士郎は持ち前の反射神経で耳を塞いで鼓膜を護った。もし遅れていればどうなっていたことか。
「銃剣(バヨネット)、殺し屋、聖堂騎士(パラディン)、再生者(リジェネーター)、首切り判事、天使の塵(エンジェルダスト)。これだけ物騒な名前を持ってる絶滅主義者のいるイスカリオテに居たって正気とは思えないわ!!」
「・・・手っ取り早く力を手に入れるにはそれしか方法がなかったんだよ」
拗ねる士郎に凛は容赦なく責める。
「力を手にしたって死んだら終わりなの!!誰かを助けたいって思うのは良いけどもっと自分を大切にしなさい!!」
「誰かを助けるために自分を犠牲にするのが間違ってるなんて思えない。だけど、ありがとう遠坂」
「・・・絶対に幸せにしてやるんだから覚悟なさいっ」
あの月の夜。切嗣と士郎の最後の語らいを凛は片隅から見ていた。凛の父はこの男に破れ死んだのかもしれない。だがこの瞬間だけは憎めなかった。亡き凛の父時臣の財産の管理と重症の母の入院手続き、更に凛の魔術の講師を紹介し、その様子を常に見守っていた切嗣はいつも後悔していますという顔をしていた。凛はそれが堪らなく嫌いだったのに士郎に微笑む顔があまりにも眩しすぎて。凛も父を亡くしてから初めて泣いた。その時誓ったのだ。切嗣が正義の味方を託していくなら、私が正義の味方を助けるのだと。無鉄砲で笑わないこの幼馴染を助けてあげるのだと。小さな胸に刻んで。
「そりゃ怖いな」
いつものぎこちない表情。凛はこれを見るたび心が締め付けられる。両親が亡くなり、義父も亡くなり残るは義母のみ。義母はお世辞にも感情豊かとは言えない。故に誰も彼の心に光を与えられない。
「そっちは何してたんだ?」
「私はウォルターと訓練したり魔術の訓練をしたり学校に通ってたわよ。アンタ留年でしょう?桜も怒ってたわよ」
「桜・・・か。まだ先輩って呼んでくれるのかな」
「桜も聖杯戦争に参加するみたいよ。あの娘があんなに歪んだのも遠坂のせい。だから私が引導を渡すわ」
気丈に振舞う凛の唇は震えている。実の妹を手にかけるところを想像して、ぎゅっと下唇を噛む。
「桜にはアーカードの他にもう一体サーヴァントがつく可能性が高い。積極的に行動すると思うからその隙に桜を倒すしかないぞ」
「アーカードの能力がもっとしょぼかったらサーヴァント撃破で終わったのに・・・ままならないわね」
「数十から数百まで命のストックが減ったとは言え吸血鬼は危険だ。今は義母さんが用意した輸血パックで凌いでいるけどこれからは分からない。この戦争で桜、雁夜、アーカードは確実に葬らないとな」
「幼馴染に手をかけるのに不安とか葛藤とかないわけ?」
「正義を為すのにそれはあっちゃいけないものだよ。桜に料理を教えていたのだってアーカードの情報を聞き出すためだ。それ以上でも以下でもない」
士郎は辛辣な言葉で淡々と語るが表情は苦しげだ。非情になりきれていない。凛の突き刺さる視線もかわすのが精一杯だ。
「・・・はぁ、駄目ね。楽しい話をしようとしても結局暗いジメジメした話になっちゃう。聖杯戦争って幸せを投げ出してまでやらなきゃいけないのかしら」
「遠坂家党首の言うことじゃないな」
「ふふっ、そうね。でも考えちゃうのよ。この世界にファンタジー小説みたいなものがなかったら今頃どうな
ってるんだろうって。お父様も士郎の両親も生きてて、桜とも一緒に幸せに暮らしてるんじゃないかって」
「・・・悪い、俺帰るよ」
「・・・ええ」
士郎に用意された紅茶は一度も口にされていない。凛はウォルターからミルクを貰いゆっくりと紅茶に混ぜていく。渦巻き状に広がっていくミルク。
「ほんと・・・なにやってんだか、私」
テーブルに置かれたエクスカリバーの鞘。その輝きに曇りなどない。
「案外似たもの同士なのかもね私達」
夜は明ける。この日より始まる戦争。勝ち残るのは果たして誰か。
ーーー答えはまだ誰も知らない。
某所。
「戦争の準備は整ったぞ。幾千幾万の人が死にこの地域は焼土と化すだろう。狂えっ、踊れっ、ここが戦場だっ!!ここが終着点だ!!聖杯の導きに誘われて集ったハイエナどもよ!!楽しもうではないか!!」
「興奮してるね少佐」
「こら、少佐の邪魔をするんじゃありません」
「あ、危ないよ、少佐っ。銃の扱いは下手なんだから引き金から手を離してっ」
「それは出来ない相談だっ!!・・・当たらん」
「・・・」
某所終了。
name 衛宮士郎
マスター(仮)(キャスター)
原作とは若干性格が異なったIFの士郎。衛宮切嗣だけでなく久宇舞弥も彼の養母として存在するため切嗣の願いに対する考え方が変化している。具体的には原作では『可能な限り善人を救い、悪人でも改善の余地があるなら救いたい』と思っているが本作では『可能な限り救いたいが多少の犠牲は仕方ないし、悪人は全て裁かれるべきだ』と切嗣よりの考え方になっています。舞弥の教育の甲斐あって暗殺術や銃の使い方、その他兵器の使用方法などを学んでいる。イスカリオテとの親交によって投影魔術を既に習得しており結界なども行使できる。アヴァロンについては舞弥から聴いていたのでイメージも容易かった。切嗣死後は彼の魔術刻印を受け継いで固有時制御を手にした。拒絶反応は当然起こったがアヴァロンのお陰で事なきを得て現在はリジェネレイトによって使用時のみ激痛を感じる程度まで落ち着いた。そして何よりも依頼をこなす代わりに協会(イスカリオテではない)の幾人の女性と関係を結んで一方通行のラインを通してあるので原作の彼よりも行使できる魔術量が格段に上がっている。
name アレクサンド・アンデルセン
イスカリオテ
「エ゛ェェイ゛ィメン゛ッッ!」
でお馴染みの神父様。「暴力を振るって良い相手は悪魔共 (バケモノドモ)と異教徒共だけ」という教育理念を掲げ恐ろしい人間ではあるが孤児院の子供達には優しい。またリジェネレイトという技術を自身に使っているので銃で眉間を撃たれても再生する。また聖書を使った移動も可能。アーカードからは宿敵と呼ばれている。