fate/stay night ~no life king~   作:おかえり伯爵

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教会との因縁

「珍しいですね、貴方がついてくるなんて」

 

「フッ、今回の聖杯戦争の監視役を確認しておきたいだけだ」

 

第五次聖杯戦争からの新ルールでサーヴァントを召喚した場合中立の立場にある教会に報告しなければならないことになっている。言峰綺礼、言峰璃正の両名がなくなったことから聖堂教会も参加者の情報を出来るだけ収集しておきたいということだろう。外様の魔術師ならともかく御三家である間桐がそれを破ると余計なペナルティを課される場合がある。例えば間桐家だけが報告しなかった場合、残る6人のマスター達が一斉に襲い掛かってくるなどだ。教会で間桐雁夜と遠坂葵との間に一悶着あった桜としてはこんな胡散臭い場所には近寄りたくなかった。教会は中立を謳ってはいるものの戦争そのものに介入することもあり迷惑な存在であるのは周知の事実である。今回も既に衛宮家を贔屓にしているとかで文句の一つも言いたいと桜は憤りを隠せない。だが、教会を取り仕切っていた言峰家は前回の聖杯戦争で二人とも亡くなっているため、問題を追及できない。名前も『言峰教会』から正式名称の『冬木教会』へと名称が変わった。だからといって何が変わるわけでもない。相変わらずどんよりとした異様な佇まい。

 

「確認するのは構いませんが中まで入ってくるつもりですか?」

 

「ああ、無論だ」

 

「教会に吸血鬼とはふざけてますね。教会の意味って実はないんじゃないんですか?」

 

「教会の建物自体に大した効力は求められないが教会は化け物の情報を集め、信者の信仰を集めるのに最適な場所だ。この聖杯戦争の監督役にも適している・・・グルでなければな」

 

「グルなのが一番不味いんですけどね」

 

「それだけではない。冬木に建てれば魔術協会への牽制にもなる。そして霊脈の流れている場所に建てたのはもしものときに参加するためだろう」

 

「こんなところに霊脈が流れているんですか。もったいないですね・・・私には関係ありませんけど」

 

冬木市には霊脈があり、第一位が柳洞寺と呼ばれる円蔵山中腹に立つ寺院で開山以来住職は代々柳洞家の人間が勤めてきている。現在は多くの修行僧が生活しているらしい。第二位が遠坂邸。第三位がここ冬木教会である。元は間桐家の居があった場所だが一族と霊脈の相性が悪かった為教会に譲り渡したというエピソードを持つ曰くつきの教会なので妖しげな地下が存在する。語るまでもないが地下は蟲蔵だったのだろう。間桐の魔術は蟲の使役だったのだから。

 

「約束の時間を30分も過ぎてるのに連絡もしないなんて酷い方ですね」

 

「いや、時間丁度にいたさ。そうだろう?」

 

アーカードが視線をやった先に男はいた。褐色の肌、刈り上げられた金髪、丸い眼鏡の奥で嗤う碧眼。貌は獲物を見つけた獣のようで手には聖書と思わしき本を持っている。桜は呼吸を忘れその男から眼を離せない。離せばあの男は殺しに来る。初対面でここまで危機感を感じる相手は久々だった。それ故男の背後から差し込む月明かりに一瞬眼を閉じてしまった。桜の全身から汗が噴出す。いや、それは現実ではなくそう思い込んだだけかもしれない。

 

 

 

なぜなら、男は目を開けた瞬間桜の咽元に銃剣を当てていたのだから。

 

 

 

「ほう、唯のお嬢ちゃんかと思えば中々に気丈だ。操られているわけでも自分を失っているわけでもないようだ」

 

「いきなり命を狙ったのを謝罪するべきではありませんか?」

 

「化け物と異教徒に謝罪など不要。むしろいくら死のうとも構わない・・・そうは思わないか?」

 

「意見の相違ですね。私は化け物であろうと謝罪しますし、愛しますが」

 

アンデルセンの持つ銃剣の冷たい感触。咽元が動くたびに咽を切り裂いてしまいそうな恐怖。普通の高校生なら声を上げて助けてと叫ぶか逆に動けずに震えるのだろう。しかし桜はその素振りすらなく毅然と立っている。何故なら彼女には力があるのだから。

 

「そこまでだ神父ーーアンデルセン」

 

アンデルセンの米神に当てられる冷たい感触。奇しくも桜と同じ状況。

 

「・・・名乗った覚えはないが?」

 

尚も銃剣を放さないアンデルセン。使っていない手を懐に入れて機を待つ。

 

「名乗らずとも分かるさ我が宿敵よ。生憎だがお前はマスターを殺す前に倒れる」

 

アーカードが言い終わると同時に乾いた銃声音が教会内に響き渡る。首元の銃剣は桜の咽元を離れ後部で人が倒れる音が響く。椅子から立ち上がって後ろを見ると桜を狙った男ーーアンデルセンが米神に銃を撃ち込まれて倒れていた。宝具で撃たれたこの神父はもう動くことなどないだろう。せめて十字を切ってやろうと桜が手を持ち上げたその時アーカードによって桜は投げ飛ばされた。宙を舞う桜を影から現われたセラスが受け止める。

 

「な、なにが・・・」

 

「まだ死んでいません。あの神父があの程度で死ぬわけがないんです」

 

セラスは嬉しそうにそう言った。

 

「宝具で撃たれてまだ生きてるんですか?」

 

「ええ、あのとおり」

 

「・・・人間ですか、ほんとうに?」

 

再生者(リジェネレーター)。人類が化け物を倒すにはどうしても種としてのポテンシャルが低すぎる。直ぐに傷つき直ぐに死んでしまう。この常識を覆すため教会はとある被験者を実験台に生み出したのがこの技術だ。被験者のモノとは違い完全に死んでしまえば蘇ることはできないが一瞬でも意識が残っていれば魔力によって再生する。加えてアンデルセンは魔術によって膜を作り銃弾の勢いを落としていた。

 

故に。

 

ゆらりと立ち上がるカトリックの男。アーカードも銃を構えて狙いを定める。お互いに同種の笑みを浮かべて睨みあうこと数秒。アーカードが引き金を引いた。アンデルセンは疾走しながら両手をクロスさせ、それを弾いた。服に特殊な細工がされているのか銃弾によってもたらされるはずの痕がない。血も出ていないことから服の機能だけで宝具を防いだらしい。アンデルセンは勢いのままアーカードに接近し銃剣を振り下ろす。アーカードの両腕は血飛沫をあげてポトリと落ちた。その隙を逃さずアンデルセンは何処からか取り出した銃剣を十数本投げつけた。壁に縫い付けられたアーカード。アーカードの全身から力が抜けたところに止めと言わんばかりにアーカードの首を刈り取る。

 

「ククククッ・・・こんなものが吸血鬼だとっ?まるでお話にならない。とんだ茶番だ。だから魔術師どものやることはーー」

 

「ク、クククククッ・・・どうしたアンデルセン。どうしたんだ?あの日のお前はーーあの夜のお前はこんなものでなかったぞ?」

 

切り離された首、両腕、胴体が溶けて交じり合い形を成していく。やがてそれはアーカードとなり銃を再びアンデルセンへと向けた。

 

「・・・なるほど、これでは殺しきれん。用件を早く言え」

 

殺しきれないとみるやアンデルセンは殺気を沈め桜に向き直る。桜に敵意がないのを察したらしい。桜も面倒なのはこりごりだったので用件をさっさと伝える。

 

「バーサーカーのマスターとして登録をお願いします。用件はこれだけです。・・・教会側から呼び出しておいてとんだ目に会いました」

 

「マスター?・・・教会側からだと?」

 

アンデルセンは教会の奥に向かって銃剣を投げつけた。すると奥から銀色の髪の少女が無表情のまま出てきた。

 

「アンデルセン神父、問題ですか?」

 

「これはどういうことだカレン・オルテンシア。吸血鬼を連れた敵対者だと聞いていたが?」

 

「いえ、間違ってなどいません。彼は吸血鬼でそれを従える彼女は私達の敵対する魔術師ではありませんか。現にほら、私の体を魔が食い殺そうとしています」

 

カレン・オルテンシアは被虐霊媒体質と呼ばれる異能を持っている。被虐霊媒体質は悪魔などに反応し悪魔が近くに存在すると身体に傷を負う。アーカードは吸血鬼。悪魔ではなくとも身体に僅かながら傷を負っているようだ。この体質のせいで常に生傷が絶えず右目の視力は既にない。走ることも味覚すら曖昧。純潔も悪魔祓いのために散らせている。

 

「ふんっ、お前の体質は知っているがサーヴァントと戦わせるのであればそう言え。準備不足で仕留め切れん」

 

「ふふ、申し訳ありません」

 

「盛り上がってるとこすいませんが私達はこれで失礼しますね」

 

「待ってください。今、お茶をご用意します」

 

「結構です」

 

「まあまあ落ち着いてください」

 

桜の腕に赤い布が巻きついた。マグダラの聖骸布。「男性を拘束する」という特性を持った聖遺物だ。男性でない桜を拘束することはできない。桜は布を解いて溜息を吐く。

 

「・・・少しだけですよ?」

 

「感謝致します」

 

「私は帰って寝る」

 

闇に紛れるアーカード。

 

「・・・街へ行く。後は好きにしろ」

 

アンデルセンは我関せずと教会から出て行った。その後姿を恍惚の笑みを浮かべて見送るシスター。聖職者のやることとは思えない。しかし、病的なほど線の細い体つきをしているせいかどこか憎めない。また、紺色を基調とした修道服が少女を虚弱な聖女へと昇華させているようだった。銀色の髪も神聖さを醸し出している。

 

「どうぞ御掛けください」

 

「失礼します」

 

応接室は燭台に立てられた蝋燭の明かりのみで照らされており桜からもカレンからも相手の顔は見えない。これは一種の心理戦なのかもしれないと桜は身構える。

 

「そう固くならないでください。本日は前監督役の言峰綺礼についてお聞きしたかっただけですので」

 

「言峰神父・・・ですか。私がお話できることはあまりありませんよ」

 

「普段の行動などは関係者から教えていただきました。私がお聞きしたかったのは言峰綺礼の最後です」

 

カレンのこの言葉に桜は息を呑む。前回の最終戦。桜は言峰綺礼を殺した。正確にはアーカードと言峰綺礼の戦闘の末アーカードが勝利した。その情報を持っているのは当事者と衛宮切嗣だけのはず。

 

ーー先制攻撃のつもりですか。

 

言峰綺礼は参加者ではあったが、表向きでは序盤に敗退し教会に保護されていた。その彼をサーヴァントを使って殺害したとなれば教会への宣戦布告にも取られかねない。情報源は衛宮士郎以外ありえない。サーヴァントを使わずに先制攻撃する手腕。さすがは衛宮家を嗣ぐ者。使えるものはなんでも使う。手段は選ばない。魔術師殺しの名は伊達ではない。

 

「残念ですが私は言峰神父の最後を知りませんのでお答えはできません」

 

「そんなはずはありません。貴女は聖杯戦争の生き残りで勝者ではありませんか」

 

「前提から間違えていますよ。言峰神父は序盤でサーヴァントを失って教会に保護されていたはずです。どなたからの情報かは知りませんが他の方・・・衛宮先輩にお聞きするのが良いと思います。先輩のお父様は前回の聖杯戦争の聖杯の器の旦那様だったんですから何でも知っているはずですよ」

 

桜が言い終えると同時に影からセラスがヌルリと現われて桜に耳打ちをする。

 

「やはり盗聴器が仕掛けられていました。喋っていたら危なかったですね」

 

セラス・ヴィクトリアは吸血鬼である。その能力は多岐にわたるがその中の同化を使用すれば家丸ごとをセラスの領域として支配できる。当然発信機など直ぐに感知、破壊できてしまう。担当しているベルナドットの口笛が聴こえる。彼には簡単すぎる仕事だったらしい。

 

ーーやはり教会と衛宮家はグルになっているみたいですね。

 

「衛宮士郎が貴方なら知っていると言っていたのですが・・・。まぁ良いでしょう。真実は闇の中。あの男らしい最後だったのでしょう」

 

「言峰神父と親交があったんですか?」

 

「いえ。ですが何故か気になってしまったものですから」

 

声色こそ変わっていないがカレンの纏う雰囲気が揺るいだ。桜には判らないがセラスには感じ取れる、それほど判りづらいものだが。

 

「・・・ではこれ以上お話することもありませんね。最後に一つだけ言っておきます。興味半分に介入するのはやめてくださいね。でないと・・・死んじゃいますよ?」

 

そう言い残して桜は教会を出て行った。見送るカレンは無表情だった。

 

 

 

 

name カレン・オルテンシア

聖堂教会・イスカリオテ臨時隊員

 

ヨーロッパ南部の共和国で生を受けるが、生後一年で両親を失う。母親は自殺で、父親は愉悦神父。「他人の幸福を潰したい」という迷惑なサディスト。毒舌で人遣いも荒い。また「被虐霊媒体質」と呼ばれる異能の持ち主で、「悪魔」に反応し、その被憑依者と同じ霊障を体現する。今作では途中、アンデルセンに拾われたので原作ほど教会に使い倒されていない。士郎とは少し話す程度でお互いに親交はほぼない。

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