fate/stay night ~no life king~ 作:おかえり伯爵
「サーヴァント・セイバー。召喚に従い参上した」
工房に嵐が吹き荒れる。嵐の起点には青いドレスに銀の甲冑の少女。15歳ほどの外見に目を引く金色の髪。幼くも凛々しい碧眼に赤い少女が写る。
「問おう。貴女が私のマスターか?」
「ーー」
凛は少女の姿に唖然としていた。
ーー予想外にもほどがある。
セイバーを召喚するつもりであったし外見も美しく名乗りも堂々としているので凛の理想に近い。ここで問題なのはアヴァロンを使用して召喚したサーヴァントが少女だということだ。アヴァロンを触媒に召喚できるのはアーサー王くらいなものでアーサー王と言えば男のはず。であればこの少女は一体なんなのだろうか。凛は思考に忙しく少女の問いに答えられないでいた。無視された少女は出鼻を挫かれたせいかムッとして凛を睨む。
「他に魔術師もいないようですし、貴女がマスターであるのは間違いないようだ。ですが、短い期間であっても名前の交換くらいはさせてほしい。会話が不要だとしてもそれぐらいは構わないでしょう?」
「・・・あはは、つい考え事をしちゃったわ。私は遠坂凛。貴女のマスターよ。・・・貴女って、アーサー王であってるのよね?」
「はい。・・・もしや私の性別が女だからといって期待できないと思っていませんか?」
「期待はしているわ。ステータスも完璧だしスキル、宝具も伝承通りなら負け知らずだろうし。ただ、アーサー王が女だったことに驚いただけよ」
エクスカリバーで日本でも馴染み深い人物なだけに凛も興奮していたのだが少女であれば話が違ってくる。あれだけの悲劇を迎えた王が15歳の少女であったなど笑い話にもならない。あの時代においてこの少女が王を選定する剣を抜くときどのような気持ちだったのか。計りしれない葛藤と後悔が彼女を押しつぶそうとしたはずだ。それでも彼女は最後までやり遂げた。王として民の希望であり続けた。凛とて魔術師の家系に生まれ常人とは隔絶した世界で生きてきた。苦しいことも悲しいことも必死に乗り越えてきた。しかし、セイバーと比較すればどれほど小さなものか。己のために探求してきたことを恥じるわけではない。凛は生粋の魔術師であり同時に人間としての甘さも持ってしまった。それ故にセイバーを羨ましくも哀れに感じてしまう。
「確かに私は性別を偽ってきましたが選定の剣を抜いたその日から私は人ではなく王になりました。性別など些末なものです」
「・・・そうね。気分を害してしまったなら謝るわ。改めてよろしくねセイバー。私のことは好きに呼んで頂戴」
「では、凛と」
凛に差し出された手を固く握ってセイバーは頷いた。
「自己紹介も済んだしお茶にしましょう。作戦も伝えておかないといけないから」
「いえ、今日はもう休みましょう。召喚したばかりで凛も疲れが溜まっているはずです」
「・・・ありがと」
ふらりと凛の身体が傾く。セイバーは凛を抱きとめて持ち上げる。曰く、お姫様抱っこの格好で工房を出る。
凛はすやすやと眠っている。起きていればこの少女の男らしさに顔を真っ赤にしていたに違いない。
「今回のマスターは遠坂ですか。会話が出来るとこんなにも嬉しいものなのですね。暗殺をする心配もないでしょうから良きマスターに出会えました。・・・今度こそ聖杯を手に入れます」
独白するセイバー。凛の部屋が分からずウロウロしていると近くの部屋から車椅子の女性が見ていた。灯りを落とした屋敷内で車椅子の女性がいるのは一種のホラーだ。セイバーでなかったら悲鳴を上げていてもおかしくは無い。女性はセイバーの手の中の凛を見て察したらしく手招きをして車椅子を走らせた。
「凛のご家族の方でしょうか?」
「はい、母の遠坂葵と申します。貴女がサーヴァントなのね。もっと怖いイメージがあったわ」
「セイバーとおよびください。凛にも申し上げましたがサーヴァントは外見では測れません。奥方も出来るだけサーヴァントとは関わらない方が良い」
「・・・そうね、私もそう思うわ。夫もサーヴァントを呼んで戦いに身を投げて亡くなったわ。聖杯戦争なんてもうこりごりなのにこの娘は夫を目指して殺し合いに参加したいんですって。・・・残される私はどうすれば良いのよ、まったく」
「ご安心を。私が必ず凛を勝者にしてみせます。ーー騎士の誇りにかけて」
「娘を・・・お願いします」
車椅子に乗ったまま頭だけ下げる葵。震える身体がセイバーに想いの強さを感じさせた。
「ここが娘の部屋です」
凛をベッドに寝かせて布団をかける。横から葵が凛の髪を撫でて微笑む。慈愛に満ちた母の顔。娘に愛を与え守ろうとする強い意志。娘に何もしてやれなかったセイバーは心を締め付けられる思いだった。自分で産んだ子供でも望まれて生まれた子供でもなかった。だが、たとえ王の器でない娘であっても愛される権利はあった。それを与えてやれなかった。
ーー円卓の崩壊を招いたのは愛するのを止めてしまった私のせいだ。
『王には人の心が分からない』
誰よりも完璧な忠臣はそう言った。
『無欲な王など飾り物にも劣るわい』
大陸を征服し続け民を魅せ続けた漢はそう言った。
「・・・私は」
「悩むのは大切なこと。逃げちゃ駄目よ。一回でも逃げちゃえばもう先には進めないの」
葵はセイバーの手を握った。伝わってくる母の温もり。
「すみません、まだ迷いがあったようです」
「良いのよ。サーヴァントだって人間だったんだから。・・・ごめんなさい、偉そうなことを言っちゃって」
「謝らないでください。奥方のお陰で少し楽になりました」
セイバーは空いた手を凛の頬に優しく当てる。
「奥様、そろそろお部屋にお戻りください」
部屋の外から声が聴こえる。セイバーは警戒を強めた。直感スキルを持つセイバーが声をかけられるまで気配を感じなかった。只者ではない。葵は知っている人物なのか声を返す。
「入ってきてウォルター」
「失礼致します」
「紹介するわ。ウォルター・c・ドルネーズよ。家の執事をしてもらってるの」
「ウォルター・c・ドルネーズと申します。貴女様がサーヴァントですね。なるほど、私では大変そうですな」
「セイバーとお呼びくださいウォルター。貴方も相当な実力者のようだ。動きに無駄がない。卓越した技能と経験をお持ちらしい。これなら奥方を安心してお任せ出来る」
「英霊に褒められるとは光栄ですな」
セイバーが見る限りウォルターには一部の隙もない。今斬りかかれば確実に止められるだろう。無論、そんなことはしないが。
「--おや、こんな時間にお客様ですか。丁重におもてなしをしなければなりませんな」
ウォルターが呟いた直後遠坂邸に張られた結界が侵入者を知らせた。信じている直感が鈍っているのかセイバーは悔しそうな表情をしている。
「屋敷内まで侵入を許すとは・・・。暗殺に特化した方のようだ」
「おそらくアサシンでしょう。凛が疲弊している今であれば私を討ち取れる可能性がありますから」
セイバーの召喚で魔力をほとんど持っていかれた凛。魔力供給の少ない今ならセイバーも宝具を使えまいと判断したらしい。もっともセイバーが最初から内包する魔力量であれば宝具を一回撃つくらいはできる。撃った後は動けなくなるのでそれが狙いなのかもしれない。どの道ここまで侵入されては撃退するか逃げるかの二択。セイバーに逃走の選択肢はない。敵が来たなら迎え撃つ。
「私が撃退しますのでウォルターは奥方を」
「いやいや、ここは私にお任せを。屋敷に侵入したお客人は執事がおもてなしするのが自然でございます」
ポケットからグローブを取り出してウォルターはドアを開ける。
「ま、待ってください。人間がサーヴァントに挑むなど無謀ですっ!!」
「無茶も無謀も昔はよくやったものです。お美しい女性に引き止められるシチュエーションも悪くありませんな。年甲斐も無く燃え上がってしまう」
ウォルターの眼鏡が月明かりを反射する。セイバーには彼の眼が嗤っているように思えた。
「奥様、行って参ります」
人間とは思えぬ速さで駆け出す。飛来する短刀を躱し指をクイッっと曲げる。ウォルターを襲った短刀はベクトルを変え逆に投擲された方向へと投げ返される。投げたらしい黒装束の侵入者はそれを難なく受け止めてウォルターと正面から向き合う。その間5メートル。侵入者からすれば一足で懐に入り込める。
「ほう、流石はサーヴァント。視えているようだ」
張り巡らされた糸。下手に動けば絡めとられ息の根を止められる。アサシンにはそれが容易に理解できた。暗殺を得意とするアサシン。様々なトラップ、暗器に通じている彼だからこそこの糸の危険性を看破できたといえる。そしてタネが明かされればアサシンの脅威ではない。軟体動物のように糸をかいくぐりウォルターに短刀ダークを投げつける。ウォルターは糸を密集させてそれを弾くもアサシンはウォルターの後ろに周ってもう一本の短刀をウォルター目掛けて突き出していた。幸い身体を前に投げ出して躱すことに成功したウォルター。完全に躱せなかった為腹部を僅かに血で濡らす。
「他愛なし」
アサシンは得意気に仮面の奥で口を歪ませる。もはや負ける要素がない。一気に終わらせるーーはずだった。
「・・・」
腕も脚も何かに固定されている。アサシンは逃れようと必死だが更に絡まっていく。
「危なかった。もう数年遅ければやられていました。やはり昔のようにはいかないものだ」
ウォルターは自嘲して糸を引く。
「last(レスト)」
通常の糸ではサーヴァントを倒せない。そこでウォルターと凛が研究の末開発したのがこの糸。遠坂の魔術を使い糸にあらかじめ魔力を持たせる。攻撃の瞬間だけ呪文を用いることで破格の威力を実現できる。ランクにしてB+。数秒間しか効果をもたらさないので実践で外すと後が無い。その為予備を何本も用意しなければならなかった。執事としての給金が全てその代金に当てられているのは言うまでもない。
アサシンに絡む糸が肉を裂く。13分割されたアサシンの成れの果てをウォルターは見下ろす。アサシンはこんなにも弱いものなのだろうか。老いたウォルターですら倒せるサーヴァントなどを生贄にして奇跡を起こすなど信じられない。
「なんらかの方法で弱体化していたのか」
アサシンの肉片が消滅していく。英霊の消滅の瞬間とはあっけないものだとウォルターが踵を返そうとしたときありえないものを見た。肉片の心臓部から紙が巻きつけられた短刀が現われたのだ。読めない文字で書かれているが魔術的なものだろう。これを使ってこのサーヴァントもどきを操っていたらしい。
「キャスターのサーヴァントの仕業か?いや、衛宮と遠坂は同盟を結んだ。裏切るなら聖杯戦争の終盤のはず。つまりこれは他の5つのクラスのサーヴァントの宝具かスキル」
遠隔操作してこの精度。隠密スキルまでついているとは恐れ入ったとウォルターは眼鏡をくいっと定位置に戻す。これがサーヴァント。これが聖杯戦争。まさに人類を越えた者達が集う究極のバトルロワイアル。
ウォルターはグローブをポケットにしまって腹部を摩る。服に穴が開いてしまったとウォルターは肩を落とす。ハンカチで出血箇所を抑えてセイバー達が待つ部屋を開ける。
「怪我をしたのですか!?」
「お恥ずかしい限りです。奥様、申し訳ございませんがお部屋へはセイバー様に押してもらってください。私はここで止血を致します」
「大丈夫なの!?」
「かすり傷でございます。ご心配には及びません」
「良かった。ゆっくり休んでね」
これだけの騒ぎでも目を覚まさない凛。心なしか顔色は良くなっている。ウォルターも安堵して処置を始めた。
「老いすら愉しむはずだったのですがね」
疲れた様子のウォルターの声に眠る凛の瞼がピクリと反応した気がした。
name遠坂葵
母
賛否両論ある女性で貞淑なのか責任放棄なのか分からない人。魔術師だから仕方ない、夫の言うことだから仕
方ないと実に時臣の妻らしい一面を見せる。今作では脚に後遺症が残り車椅子生活ではあるものの精神状態は
良好。雁夜との確執は未だ残るものの桜との一軒以来考えないようにしている。桜に負い目があるせいで間桐
と聴くだけで怯える。
name アルトリア・ペンドラゴン
クラス セイバー
筋力A 魔力A 耐久B 幸運A+ 敏捷B 宝具C、A++~EX
宝具
風王結界(インビジブル・エア) ランクC 対人 レンジ1~2
約束された勝利の剣(エクスカリバー) ランクA++ 対軍 レンジ1~99
全て遠き理想郷(アヴァロン) ランクEX 結界 対象一人
スキル
直感A 戦闘時、未来予知に近い形で危険を察知する能力。
魔力放出A 身体や武器に魔力を纏わせて強化して戦う技能。
カリスマB 戦闘における統率・士気を司る天性の能力。一国の王としては充分すぎるカリスマ。
対魔力A A以下の魔術は無効化。事実上、現代の魔術で彼女を傷つけることは不可能。
騎乗B 大抵の動物を乗りこなしてしまう技能。幻想種(魔獣・聖獣)を乗りこなすことはできない。
説明
ブリテンの伝説的君主・アーサー王その人である。15歳で選定の剣を引き抜き、不老の王となった。
王となった彼女は騎士達が望むような「完璧な王」として振る舞うが、彼女の合理主義的な決断(一つの村を
干上がらせ、物資を調達し軍備を整えるなど)は理想論的な騎士道精神を掲げる騎士達と相容れることはなく
やがて円卓の中で孤立していくこととなる。 (wiki参照)
第四次聖杯戦争にランスロットが参加していないせいでほぼ4次の性格のままである。騎士道を重んじ悪しき
を憎む善人。今度こそ清々堂々と戦いたいと思っている。聖杯に願う望みは変わらないがセラスを犠牲にして
しまったせいで妄執には取り付かれていない。
腹ペコ王万歳。