fate/stay night ~no life king~ 作:おかえり伯爵
ーータッタッタッ。
閑静な住宅街を必死に走る少年。時刻は朝の1時過ぎ。終電も終わり帰宅する人影も見られない。少年の息は途絶え途絶えでなりふり構わず逃げ回っていることが容易に理解できる。実際、アスファルトの上を走っている自身の足音すら煩いと感じてしまうくらいに少年は追い詰められていた。
「クソッ!!」
少年は横の茂みに飛び込む。その直後彼がいた場所に大きなクレーターができ、そこには一本の矢が刺さっていた。通常の矢ではコンクリートを砕くことなど不可能に近い。出来たとしても機械を使用してようやくといったところだ。しかし、日本の住宅街にそんな物騒なものは存在しない。ならば答えは一つ。
ーーサーヴァントだ。
少年の名を間桐慎二と言う。魔術師の家系であった彼だが魔術回路と呼ばれる魔術を使用する上で必要最低限のものすら開花できず一般人同然に育ってきた。彼は一般人の中では優秀な部類に入る。学校でも先生方の信頼も厚く、クラスメートだけでなく学校中から愛されている。だが、それだけでは足りないと思うようになってしまった。彼の高いプライドがそれを許さなかった。あの日、間桐家から追い出される時の桜の顔が脳裏から離れなかったのだ。興味の無い人間に向ける凍えるような表情。以来彼は人を助ける行動を続けた。あの日の桜から逃れるために。己の無聊を慰めるために。
「ちくしょうっ!!僕は・・・天才なんだ!!」
外面を外した彼の内面は自己賛美と虚栄に満ちている。そうでなければ正気など保てなかった。祖父や父を奪われ、叔父に哀れみの目を桜に間桐家を奪われた。残ったのは才能ある自分のみ。そうやって彼は自分を高め、結果を出し続けた。
「おかしいじゃないか!!こんなの間違ってる!!」
頑張ったのに報われない。スタートラインにすら立てない。
ーーお爺様の遺産でマスターの資格を手に入れたのに。
「案外脚が早いのね。サーヴァント相手にここまで逃げられるなんて凄いわ」
それは隕石の落下を彷彿させる轟音と烈風と共に慎二を見下ろす。彼を殺すであろう脅威は驚くほど可憐で美しい。見た目は10歳にしか見えないがきっともっと上に違いない。少女の後ろに佇む巨漢は巌の如き肉体を晒し、その手には岩を削った斧を持っている。
ーーああ・・・死ぬのか。
慎二は死神を前にした罪人はきっとこんな気持ちなんだろうと目を閉じた。これでチェックメイト。
ーーせっかく令呪を手に入れたのにホント・・・僕って運がないな。
「でも鬼ごっこはおしまい。貴方を殺さないと士郎のところにいけないもの。だから・・・さようなら」
巨漢の盛り上がった筋肉で振り下ろされる石斧は間桐慎二を崩れた豆腐のようにグチャグチャに破壊する。それが彼の運命。覆せるモノなど存在しない。たとえ分厚い金属の盾でもこの一撃は耐えられまい。
ーーどうすれば。
彼の人生が走馬灯となって脳裏を駆け巡る。
ーー知っている。
間桐慎二は過去に対処法を聴いた。
ーー無いものは他から持ってくる。
『魔術師になりたいなら覚えておけ』
慎二の父はそう言って慎二を海外に送り出し、失踪した。
ーー方法は分かった。後は実行するだけっ!!
「誰でも良い、僕を助けろっ!!ばかやろぉぉぉぉぉおおおおおお!!」
慎二に刻まれた令呪が輝き次の瞬間、目前まで迫った死が跳ね除けられた。
「へっ?」
巨漢が少女を抱きかかえ後方へと距離をとった。慎二と巨漢の間に立つのは一人の女性。その手には石斧を跳ね除けた紅槍。慎二は一瞬で心を奪われた。その女性の外見にではない、その在り様にだ。
「全く、いきなりとは無粋な奴だ。女性のエスコートがなってないな」
女性の第一声は冗談混じりの非難だった。口元が笑っていることから彼女はこの状況を楽しんでいると推測できる。巨漢に抱えられた銀髪の少女は面白いものを見つけたと嫌な笑みを浮かべた。
「まさか貴方がマスターだったなんてね。てっきり一般人かと思ったわ。貴方のサーヴァントは槍を持ってるからランサー?」
「そっちは・・・セイバー?って柄でもなさそうだ。バーサーカーにしては理性がある。ってことはアーチャーか?」
「アサシンかもしれんぞ」
「腕力だけじゃなくユーモアのセンスもあるのか。でも残念、筋肉の付き方が違う。これでもワタシはいろんな戦士を見てきたからそのくらい分かるさ」
槍をクルクルと回して動きを確認しながらランサーはキリッとした表情を緩ませ、アーチャーもつられて頬を緩ませる。マスターの少女はそれを咎めアーチャーは苦笑して謝った。先程までの出来事が嘘のようだ。慎二も立ち上がって緊張で固まった身体をほぐす。ランサーは振り向き様慎二の額を軽く小突いた。ランサーの槍の石突は尖っており僅かだが額から血が流れてきた。
「痛っ!!」
「う~ん、まぁまぁか。おい、喜べ。お前をマスターとして認めてやる。その代わり後で血を寄こせ」
「うぇ?僕の血なんて何に使うんだよ?」
「魔術回路を創る道具を作る。お前魔術を使えないだろ。お陰でこっちに魔力が送られてこない。この戦闘くらいは耐えられるがそれ以降は難しいからな。早めに処置させてもらう」
「ぼ、僕に魔術回路が・・・」
「分かったら黙って待て。追い払うから」
黒い肩まである髪をうっとうし気に手で払う。紅槍の穂先がアーチャーを指す。アーチャーも律儀に待っていたらしく少女を下がらせて己が武器を強く握る。両者の表情に緊張はない。あるのは自信と信頼。こいつなら全てを受け止めてくれる。互いにそれを感じ始めていた。
「ーーはっ」
ランサーは肉食獣の構えに似た低い体勢で槍を構え一瞬で槍の届く距離まで踏み込むと槍をアーチャーの脚へと突き出す。アーチャーはまるで知っていたかのように狙われていない脚を軸にして狙われた脚を槍の魔の手から逃した。脚はそのまま軸を中心に円を描きランサーの顔の側面を狙う。恐ろしい速度で繰り出される回し蹴り。ランサーはその一撃にタイミングを合わせて高跳びの要領でかわすと空中で槍を一息で十二回繰り出した。アーチャーもこれには驚いたのか石斧を盾にして防ぐ。十二の内の一突きがアーチャーに刺さったと思われたが槍はアーチャーの肉体を貫けず、変わらずアーチャーは無傷だ。
「驚いた・・・貴方の身体は岩で出来ているらしい」
「我が肉体は槍程度では貫けぬ」
「ほう・・・この槍を侮辱するとはな。ーー死んでおくか?」
アーチャーの挑発にランサーの眼の鋭さが増す。ランサーの持つ槍は愛弟子との絆であり誇りでもある。それを貶されて黙っていられるランサーではない。より早く鋭く何度も何度も攻め立てる。アーチャーも致命傷になりそうな場所を護りつつカウンターを狙う。
ーー相手はアーチャーだというのに攻めきれない。
アーチャーとは中距離から遠距離で弓などの狙撃武器を使用して攻撃するクラスのことで近距離ではどうしてもセイバーやランサーに劣ってしまう。ランサーの敏捷はA。アーチャーがついてこれる速さではないはず。しかし、このアーチャーはランサーの速さに十分に渡り合う。この時点でこのアーチャーの候補が絞り込める。弓を使用した伝承を持ち、且つ近接戦闘や武器を使わず体術を修めている英雄。ここまでくれば数えるほどしかいない。ランサーにはおおよそ検討がついていた。
「伝承通り化け物じみた力と肉体だ」
「ほう、我が真名に至ったと?」
「強靭な肉体、弓兵でありながら近接戦闘を好み、腰に巻いた獅子の毛皮。これだけ揃えば十分だ。有名すぎるのも考え物だな・・・ギリシャの大英雄ヘラクレスよ。貴方ほどの大英雄であれば私の槍を馬鹿にされても文句は言えないな」
「謙遜しても意味はない。紅い槍、女性、そして私の力に匹敵できる腕力を齎すルーン魔術。この地では知らぬ者も多いが、私は貴女を尊敬している。影の国の女王ーースカサハ殿。貴女の育てた戦士は皆大成し、神話に名を残した。偉大なる指導者である貴女は我が師ケイローンを思い出させる」
「かの賢者を引き合いに出されるとは嬉しい限りだ」
会話の最中も手を止めることはない。刺し、薙ぎ、砕く。傷こそどちらもないがその差は徐々に現われ始めた。
「どうした、動きが鈍っているぞ?」
ランサーの速さにアーチャーが反応しきれなくなってきたのだ。ルーンの全てを極めたランサーの魔術はキャスタークラスに相当する。ランサークラスの速度にキャスタークラスの魔術が合わさればセイバークラスのステータスを優に越え、アーチャーでも反応しきれないものとなっていた。
「スピードでは叶わぬか・・・。だが、ルーン魔術の常時使用は消滅を早めるぞ」
「大きなお世話だ」
一進一退。当てられないアーチャー、貫けないランサー。一発当てれば良いアーチャーと攻撃が通用しないランサー。この差は大きい。
「このままではジリ貧か・・・止む終えまい」
ランサーの槍から禍々しい呪詛が漏れ出す。素人の慎二でも感じ取れる呪いの塊がアーチャーに伸びていく。アーチャーは保有スキルの心眼(偽)からかその気配を読み取り連続で斧を奮う。ランサーは軽いステップでアーチャーの猛攻を躱し槍に力を集中させていく。
「さあ、防げるものなら防いでみろ!!」
ランサーの紅槍の先に呪いが集まる。
「Dun Scaith Nathair(影に潜む勇者殺しの蛇)!!」
そして、呪いの塊が蛇のようにうねりアーチャー目掛けて放たれる。アーチャーは石斧で払おうとしたがすり抜けアーチャーの心臓に喰らいついた。
「ぐあぁぁぁああああああああ!!」
アーチャーの心臓に直接喰らいつき呪いという毒を注入する対人宝具。かつて多くの勇者達を死に貶めた影の国の蛇の毒はヒュドラの毒ほどではないが英雄を死に至らしめるには十分な毒だ。
「苦しかろう、その毒は死ぬまでお前を呪い続ける」
「アーチャーっ!!」
イリヤスフィールが焦りながらアーチャーに駆け寄る。胸を押さえ蹲るアーチャー。勝負あったかと慎二もランサーに駆け寄る。
「さ、さすが僕のサーヴァントだ。褒めてやっても良いんだぜ?」
「はぁ、お前は後で矯正してやるから覚悟しておけ」
ランサーも多少力を抜いて慎二の言動に獰猛にそう答えた。一人脱落。残り6人。そうなるーーはずだった。
「・・・ん?」
静かだ。静か過ぎる。アーチャーの苦悶の声もない。死んだように固まっているアーチャー。
「・・・まさか」
ランサーの嫌な予感は当たった。アーチャーは立ち上がったのだ。何事もなかったかのように。平然と立ち上がった。ランサーは慎二を茂みに投げ捨てて槍を構えた。
ーーこれほどとは。
十二の試練。十二の功業を成し遂げたヘラクレスを象徴する宝具。肉体そのものが宝具であり、Bランク以下の攻撃を無効化し死亡しても自動的に蘇生魔術がかかる。さらに一度受けた攻撃は二度とヘラクレスには効かず、蘇生のストックは11個。ギリシャ神話を代表する大英雄にふさわしい反則級の宝具の前に呪いはその効力を発揮できない。
「蛇では私は殺せん」
「・・・不死身の英雄。初戦で当たるとは運が無い」
「私も本調子の貴女と戦いたかったがこれも運命(さだめ)」
「戦争をやっているんだ。本調子なんて求めてはいない。ただ最高の闘いを楽しむだけだ」
二人の英霊は呼吸を整え構える。一触即発。その大事な場面でアーチャーの腰の毛皮が引っ張られた。アーチャーのマスター、イリヤスフィールだ。
「・・・貴方には申し訳ないけどこれでおしまいよアーチャー。時間も遅いし今日はお城に帰りましょう」
「チャンスを棒にふるのか?」
「見逃してあげるって言ってるのよ。さ、いきましょうアーチャー」
「了解した。スカサハ殿、次は本調子の貴女と戦いたいものだ」
「・・・そちらに弓を抜かせられるよう頑張るとしよう」
アーチャーの撤退を確認してランサーは慎二を投げ捨てた茂みに入る。案の定慎二は意識を失っていた。ランサーは慎二を槍に引っ掛けて住宅の屋根から屋根へと飛び移る。その顔は獰猛に笑っていた。
name スカサハ
クラス ランサー
マスター 間桐慎二
筋力C+魔力A耐久C+敏捷A幸運B宝具B~A+
宝具
必殺す女王の槍(ゲイ・ボルク)ランクA 対人 レンジ1人
スカサハ・オリジナルのゲイボルク。一度放てば必ず相手の心臓を貫きその後無数に枝分かれして心臓を串刺しにする。因果の逆転の呪いを利用して当たったという結果を先に生じさせるため余程の運や防壁が必要となる。
死散する三十の棘(ゲイ・ボルク)ランクB+ 対軍 レンジ1~30
ゲイ・ボルクを投擲することで敵を追尾する三十本の鏃となって襲い掛かる。この鏃は一本一本がランクB相当であり、この攻撃で傷ついた相手は敏捷が1ランク低下する。
影の国(アルバ)ランクA+ 対国宝具 レンジ1~99
影の国の女王スカサハの世界。固有結界でありその中には底なし沼、蛇や魔物が生息しており侵入者達を苦しめる。魔物や蛇はそれぞれサーヴァント扱いでありスカサハはそれらから魔力を吸い取ることが出来る。吸い取りすぎると固有結界そのものが使用できなくなる。また、この中では他者によって齎されたスキルは使用できない。キャスターのクラスで呼び出されていれば他者から受け取った宝具の使用も禁止される。
スキル
ルーンA+
軍略D
英雄教育EX 英雄に育てる能力。彼女に教えを受けたものは神話に名を残す。
心眼(真)A 幾多の人、神、亡霊を屠ってきたことで培われた戦闘理論。
説明
影の国の女王で女神。今回は女神ではなく英雄としての側面から召喚された。彼女はケルトのヘラクレスーークーフーリンを育て、ゲイ・ボルクを与えた。ルーン魔術や呪術を使用でき、オイフェというライバルがいた。獰猛だが理性的で弟子には優しい(厳しい)。イメージとしては空の境界の眼鏡を外した橙子とエクストラのライダーを足して二で割った性格。一人称はワタシ。ランサーなのに幸運がBと高め。