気まずい空気の中、シラカミ神社を抜けてふもとまで降りる2人。
――分かっているのに。いつかは旅のためにいなくなることは。
――分かっていたのに。旅の中で分かれを繰り返すことなんて。
たとえ、頭で理解していても、2年という年月をともに過ごした2人にとって、お互いの存在は掛け替えのないものになっていた。
終夜は、その
フブキは、ヤマトに生まれたカミとして、ヤマトを離れることはできない。
止まってはいけないものと、止まらなければいけないものの2人。
ああ、きっと、
ああ。きっと、
それでも、それを2人は口にすることはない。
言えば、互いの枷になると分かっているから。
――言わなければ、伝わらないこともあるというのに。
◇◇◇
「お、来たね、マイフレンド」
シラカミ神社の麓にある村、その食堂であるミゾレ食堂に、アベンチュリンと、不機嫌そうなミオがいた。
なおミオを見つけた瞬間にフブキは「ミオ~」と言いながらすっ飛んで抱きつきに行っている。
フブキに抱き疲れている黒髪の少女は、大神ミオ。オオカミ神社の一族で、虚構歴史学者に属している、『神秘』の運命を歩むもの。
対して、共にいた男は先ほどから話にも出ているアベンチュリン。『存護』の所属である、スターピースカンパニーの戦略投資部の高級幹部をしている。
「ああ。非常に面倒だったが来たぞ。ミオは相変わらずのカンパニー嫌いか?」
そう終夜が尋ねると、ミオはフブキに抱きつかれながら、不機嫌を隠さずにいう。
「そりゃあそうですよ。うちの所属考えれば、カンパニーなんて敵対派閥ですよ?」
「それはそうなんだろうが、お前、本来の意味では所属してないだろ。しかも虚構歴史学者もカンパニーとビジネス的な締結は結んだこともあるんだし」
「それでもウチが『神秘』であることに変わりはないですし、それ以上にカンパニーがそんな好きじゃないですし」
「僕としては神秘ちゃんとは仲良くしたいんだけどね?君に秘訣を聞きたいくらいだよ」
「とりあえずそうやって神秘ちゃんなんて呼ばないことから始めた方がいいと思うぞ」
「神秘ちゃん」と呼ぶたびにイラっとしているのが見てわかる程だし。と続ける。
「それで?なんでまたお前が俺らを呼ぶ?普段ならキュウビ経由で話がくるはずなんだが」
「そうだね、そこからちゃんと説明するよ。とりあえずはキョウノミヤコに向かいながら話そう」
アベンチュリンはそう言いながらキョウノミヤコへ歩みを進めた。
それに伴い、3人も並んで歩く。
「昨日より、キョウノミヤコから子供が10人行方不明になっている。ミヤコの中はオオカミ神社から、外はイナリ一門が捜査をしている」
「子供が行方不明!?……誘拐ですか?それとも、ケガレ?」
「痕跡が少なすぎることからもケガレの可能性が高いというのがイナリ一門の見解だよ」
「なるほど、イナリ一門がそう言っているならその可能性は高いだろうな。それで?」
「ご存じの通り、キョウノミヤコはカンパニーにとっても重要な拠点だ。殆ど『開拓』が進んでいないこのホロアースでは特にね。だからキョウノミヤコの問題には積極的に関与することになっているんだ」
なるほど、と終夜が続ける。しかし、新たに疑問が生じる。
「とはいっても、カンパニーはケガレの問題は一切手を出さないスタンスのはずだろ」
そう、カンパニーは確かにキョウノミヤコでも猛威をふるっている。
各神社とも共同で見回りをしたり、防衛の物資供給などもしている。
しかし、ことケガレ退治には手を出さないようにしている。これは、ケガレの専門家としてカミがいることと、ケガレが人の欲望に強く惹かれる性質があるためだ。
……極端な話、ケガレ退治にカンパニーが出てくると面倒なことになることが多いのだ。
「そう。マイフレンドの言う通り、カンパニーはケガレ関係にはノータッチだ。やるとしてもせいぜい物資の提供くらいかな?……でも、今回の件はカンパニーも協力するように要請があったんだよ」
「カンパニーに要請が?どこからだ。キュウビか?」
そう終夜が尋ねると、アベンチュリンは笑いながら言った。「もっと上だ」と。
それを聞き、終夜も、フブキも驚いた。
「上って、まさか」
「そう、イナリ様だよ。イナリ様から、しかも直接だよ。何を考えているのかは分からないけど、その要望を受けてダイヤモンドは僕を選出したってわけさ」
「イナリが直接、か。……それは確かに、謎だな」
前述の通り、カンパニーがケガレ退治に顔を出すことは殆どない。
そんな中、イナリというキョウノミヤコでも最上位のカミから直接の指示があった。
このことはフブキや終夜も驚きを隠せない。
「イナリ様が何を考えているかは僕には分からないけど、取り合えずの目的は『子供の救出』と『犯人の特定、排除』だよ。……正直、過剰戦力な気がするんだけどね」
「そりゃなあ、カミが2人に十の石心だもんなあ。このメンツじゃ」
「終夜さん?一番の戦力が何言ってるんですか?」
「一番単騎性能高い人がなんか言ってる…ゲームならチートキャラか?ってくらい強いのに」
「きこえないー。そんじゃそこらの魔物ならともかく、ケガレになると俺よりお前らカミコンビの方が火力出るだろ。たぶん」
『ケガレ』は祓うための方法はいくつかあるが、基本は物理的にぶっ飛ばすか、結界などで弱体化させるしかない。
カンパニーが基本的にケガレに手を出さないのは、ここに原因がある。
ケガレには同じ、イワレに力がよく効くのだ。
そのため、イワレを多く溜め、果てた存在であるカミはケガレに強い相性を持つ。
……むしろ、そういった関係をガン無視してケガレをぶっ飛ばせる終夜とアベンチュリンがアレなのだが。
「…さて、とりあえず目的やらは話したけど、何か質問はあるかい?」
「…あるっちゃああるが、お前に言っても仕方がないことだな。とりあえずはミヤコに行って話を聞くってことでいいのか?」
「ああ、それで問題ないよ。先にキュウビ様とイナリ様に面会して、その後にオオカミ神社とイナリ神社の調査報告を聞いてから方針をきめよう」
そう言いながらアベンチュリンはイナリポータルに向かう。
「アレ?イナリポータルはカミさま限定だからアベンチュリンさんは使えないのでは?」
「あぁ、普通は使えないんだけどね。今回は特例という事で僕にも使用許可が出ているんだよ。……マイフレンドはいつでも使えるから羨ましいんだけどね」
「俺の場合はフブキと一緒にオツトメ(バイト)することが多いからな。イナリ一門も何度も許可を出したり下げたりするのも面倒になったんだろ」
「まあ、うちはそのおかげでこの人とフブキと終夜さんのとこまで歩かなくて済んだんですケド」
オオカミ神社の車手配するのも嫌だし。と言いながらミオがポータルに入る。
それに次いで、フブキも苦笑いしながらポータルに入った。
「……ほんと、嫌われたものだね?」
「……仲良くする気もないくせに、よく言うな。わざわざ嫌われるのはいいが、それで機嫌を取るのは俺とフブキなんだから、あんまり変なことするなよ」
そう終夜が言うとアベンチュリンは「分かっているさ。君とは敵対したくないしね」と言いながらポータルに入った。
残った終夜は「なんでこうも素直になれないのかねえ。俺らは」と自嘲しながらポータルに入った。