モングレルは取り戻された。
瓦礫は片付けられ、血は砂に吸われ、城壁には旗が立った。
立てられたのは、モングレルを示す新しい旗と、新生シェク王国の旗だ。
未だシェク王国は再建されていない。奇妙な事に、初めて立てられたのがここモングレルとなる。
「未だはぐれのシェク族は多い。この功績を基にアドマグへ人を集めるつもりだ」
ゴーストはそう言い残し、足早に旅立っていった。焦り気味なのは、オクラン教徒の動きに備えて、だろう。
そう、オクラン教徒だ。
彼らは驚くべき事に、モングレルの奪還とほぼ同時に、ブリスターヒルをフォグマンから奪還。新生ホーリーネーションを樹立したのである。
これは私たちには寝耳に水の情報で、ゴーストにとっては看過できないものだった。なにせオクラン教徒はシェク族全体にとっての宿敵。宿敵の復活を見て居ても立っても居られなくなったのだろう。祝賀会もせずに去っていった。
まあ、顔には獰猛な笑顔が張り付いていたから、彼にとってはやりがいのある仕事ができた、という事だろう。
それは勿論戦争の再開を意味するのだが。
(人は過ちを繰り返す、てのは別のゲームの言葉だったか)
だが、それが正しい姿なのかもしれないとも思う。
生きていれば壁が生じる。生きていれば争いが生まれる。これを止めることはできない。
そして、この流れは何者にも止められない。
(kenshi風に言うのなら……)
『あなたは選ばれし者ではない。偉大で力強くもない。世界の中心にいるわけではない、ごく平凡な存在なのだ』
そう思うと、肩の荷が下りた気がした。私は自分を特別だと思っていたが、それはとんでもない思い上がりだったのだ。
世界が再び動き始めた。
それぞれがそれぞれのやり方で、選択をした結果として。
疑わずに剣を振るう者。
疑うことを許さない信仰に身を委ねる者。
疑い続け、それでも歩き出す者。
どれが正しいかを決める者はいない。
ただ、止まっていた歯車が再び噛み合い始めただけだ。
私はモングレルの城壁の上から、その様子を眺めていた。
修繕の音が聞こえる。瓦礫を動かす掛け声。争いではない、人の声だ。完全な復興には程遠い。
アークは街に残るという。彼なりの責任の取り方らしい。ゴーストは前述の通りアドマグへ向かい、バーサーカーたちも追従していった。
私は荷をまとめた。
世界はもう動いている。以前のようには死んでいない。
だから――ここでやるべきことは、もうない。
小さな船を用意した。
この世界で何年ぶりかになる船は、一人用なのを差し引いても何とも頼りないものだった。
荷を積み、帆を張る。
行き先は決めていない。私も、誰も、この世界――大陸の外を知らないのだから、決めようがない。
風が吹いた。
帆が膨らみ、船は静かに岸を離れる。
「本当に行ってしまうのですね」
唯一の見送り人である侍女のリフが呟く。
「うん、悪いね、一人で決めちゃって」
リフはため息をついた。
「いいえ、いいえ。お嬢様の気まぐれはいつも通りですから、もう慣れました」
「わはは」
私は笑ってごまかす。本当に、よくもまあついてきてくれたものだ。
「でも一つだけ約束してください」
リフが言う。
「必ず――何年掛かっても良いので、帰ってきてくださいね」
「――もちろん」
再生する世界の中で、私はただ、旅に出る。
それでいい。
それで、十分だった。
――――この世界の名前はkenshi。自由で、何者にも成れる世界。
荒野を抜け、大海原を駆ける。
きっとそんな終わりも悪くなく。エンディングの流れない世界を、ただただ漂い続ける。
完
最後短いですがこれで完結です。
ご愛読ありがとうございました。