あと感想、評価くださいな!
アークという人物は、モングレルのリーダー的な存在だ。
的な、というのは。実際のところゲームでも詳細が語られないからだ
ゲーム内に存在はするが、会話は出来ず、度々別のキャラクターから話題に上がるのみである。
ではそこから推察されるアークはどんな人物かと言うと。
剣の腕は確かで、シェク族からも一目置かれている。つまりホーリーネーションの信徒ではない。
そしてモングレルで唯一外交ステータスを持つ存在。
それはつまり、街の代表者として扱われる人物に与えられる特別な印。
だが皮肉なことに、彼がいなくてもモングレルは滅びない。誰のものでもない街。そう呼ぶ方が正しいのかもしれない。
そして肝心の人柄はまったくの不明。出たとこ勝負は不安だが、まあ、何とかなるだろう。
「一度確認したい」
フーミンが言った。足は止めなかったため、彼は少し早足になり私の隣を歩く。
「俺たちはアークに出会い、モングレル奪還の協力を願う、で良いんだよね?」
「そうそう、私の事情で遠回りになっちゃうのは悪いけど、許してね?」
「構わないさ。オクラン教徒として、仲間を説得できなかった俺の責任でもあるし」
シャクとフーミンには既に私が女であるため、先により多くの実勢を積むと説明してある。二人は難色を示さなかった。ありがたい。
背後からシャクの声が響く。
「しかしいくら伝説の剣豪っつってもよ。老兵だろ? しかも狙いはフォグマンの本拠地だ」
シャクがぼやいた。私は肩をすくめる。
「まあね。でも他に頼れそうな相手もいないでしょ」
「フォグアイランドの奥なんざ、誰も好き好んで近づかねぇよ。生きてるだけでも奇跡みてぇな土地だ」
アークはフォグアイランド、霧の谷の盆地に小屋を構えているという。余談だが、フォグアイランドは霧で覆われた谷地である。高台が霧の中に浮かんでいる様を見て、島のように例えたことから
そして今私たち四人は、件のアークが住むという、霧の盆地の小屋を目指していた。歩くにつれ霧が濃くなる。
「アークがまだ剣を握れるならいいのですが。場合によっては、もう骨だけになっているという線もあります」
「とんだ無駄骨だね。骨だけに」
「くだらねー」
喋りながら歩き続ける。足元はぬかるんでいて、空気はじとじとしている。それでも気分は軽快だった。
「フォグマンはあまり居ないね」
「生息域を広げたことで、本拠地から減っているのでしょう。殲滅を考えるのなら、良い兆候と言えるでしょうね」
「殲滅ぅ? おいおいとんでもねえな」
「でも、出来るなら俺たちも助かるね」
「フォグマンの総数ねえ……」
フォグマンはハイブから変異した種だ。
そのためウェスタンハイブを滅ぼした直後は爆発的に増えたが、それ以降増えることはないのではないだろうか。変異の条件である女王の死亡により、増えることは叶わないと推測できるからだ。
(フォグマンの寿命はどうなっているのだろう?)
厳密には、ハイブの寿命か。
父の拠点にも、ハブにもハイブは居なかった。社会性昆虫である働きアリや働きバチの寿命は短いと云うし、性質の近い一般的なハイブの寿命も短いのかもしれない。同じ起源を持つフォグマンも同様だ。
(となると、もうフォグマンは滅びかけなのかもね)
放っておいてもフォグマンは絶滅が近いかもしれないが、それを敢えて言う必要も無いだろう。士気に関わるし、敵はフォグマンだけではないのだから。
「と、ここが例の小屋だね」
「ええ、地図通りなら。尤も、霧の中に住む変人など一人しかいないでしょうが」
小屋は岩壁のくぼみに寄り添うように建てられていた。板壁は湿気で黒ずみ、屋根は半ば苔に覆われている。
私はドアを力強く叩く。鉄板を叩いたような音が辺りに響き渡った。
「…………」
もう一度叩く。今度はより強く。
「…………………………」
しかし返事は返ってこなかった。
「留守かな?」
「かもなあ。どうするよ」
私は扉を開け、中に踏み入った。背後からシャクの制止する声が響くが、意に介さず歩を進める。床板は無く地面が剥き出しだったが、砂利や埃の類は無く綺麗なモノだった。炉には灰の中に炭が混じっており、ほのかに温かい。生活の跡が伺えた。
「とりあえず、生きてはいるみたいだ。中で待っていよう」
「流石に失礼じゃないかなぁ」
「でも霧の中で待つのは嫌でしょ?」
「そりゃあ、そうだけどさぁ」
フーミンがぼやく。しかし誰もが霧の中の滞在を嫌がっているようで、結局は全員家の中で過ごすことになった。
私は安楽椅子に座り、戸棚から拝借した本に目を通す。
内容はオクランの歴史書――というより聖書だった。表紙には『光の聖書』と書かれている。アークもオクラン教の信徒なのだろうか。できればホーリーネーション程偏っていないと良いのだが。
「………………?」
ふと、匂いに血の香りが混ざっている事に気がついた。周りを見渡す。三人の中で、異変に気がついたのはリフだけだったようだ。
「お帰りかな」
「どうでしょう。私が様子を見てきます」
「いや、みんなで行こう。出迎えは大勢の方が良い」
私は立ち上がり、扉を開ける。
霧の向こうで何かが地を踏む音がした。重い、しかし迷いのない歩調。一歩、また一歩。霧が流れ気配が近づく。
カツン。
硬い音が響く。金属と石が擦れるような音。
やがて霧の中に、黒いシルエットが浮かび上がった。
その男は予想よりも大柄だった。
肩幅が広く、背には一本のサ-ベル。鞘ではなく布に巻かれただけの無骨な代物だ。
装甲付きのボロ布はところどころ破れ、修繕した跡がいくつもある。
霧と煤にまみれたその姿は、戦士というよりも亡霊のようだった。
男――アークという老人は、何も言わずに立っていた。
その目は鋭くも冷たい。まるでこちらの意図を言葉よりも早く見抜いているかのようだ。
「……人の住まいに断りもなく足を踏み入れるか。世も末よな」
低い声。穏やかだが、底に棘がある。その声音だけで、背筋がわずかに冷たくなった。
「すみません。待たせてしまうのも悪いかと思って」
そう返すと、アークはしばし沈黙した後、小さく鼻を鳴らした。
「……フォグマンの匂いがする。少しは出来るか」
その言葉に、フーミンが反射的に口を開いた。
「モングレルを奪還したい。あんたの力を借りたい」
アークは反応しなかった。
霧のような沈黙が流れる。彼の視線が私の顔に移った。
「……女か」
その一言に、空気がわずかに凍る。
だが彼の目に侮蔑はなかった。ただ、ただ淡々と現実を確認しただけのように。
「……面白き世になったものだな」
そう呟くと、彼は背中の剣を壁際に立てかけ、炉の灰を掻き混ぜた。
再び火が上がる。赤い光が、男の顔を照らした。
「聞こう。だが、命を懸ける理があるか。それを示せ」
「……」
さて、何て言おうか――等とこの場に及んで言いはしない。
私は唇を湿らせ口を開く。
「世界を救うつもりなんてない。
ただ、壊れたまま放っておくのが嫌なだけ――それが私の理です」
父がどうとか。罪悪感だとか。そんなのは所詮は後付けの理由なのだろう。
私は、この世界――kenshiという世界が好きだった。
だから、壊れたままにしたくない。この世界が歩む、本当の続きが見たい。
昨日――かがり火に集まる人々を見て、そう思ったのだ。
「ふむ――」
アークは、どこか私の回答に満足しているようだった。灰を弄び、しばらく沈黙した後、わずかに頷く。
それは良かった。であるのなら、言いたいことも言えるだろう。
即ち――
「ていうか、フォグマンの首が欲しくないの? モングレルの住民でしょ、貴方」
――アークというキャラクターについて、私は文句を垂れた。
「――――」
アークは目を大きく見開き、そして口角を上げて「ハッ」と、一言笑い声を上げた。