kenshi 世界征服のその後で   作:PSコン

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今更ですが、本小説は独自解釈を多く含みます。

あと感想、評価くださいな!


5.アークという老人

 アークという人物は、モングレルのリーダー的な存在だ。

 

 的な、というのは。実際のところゲームでも詳細が語られないからだ

 ゲーム内に存在はするが、会話は出来ず、度々別のキャラクターから話題に上がるのみである。

 

 ではそこから推察されるアークはどんな人物かと言うと。

 剣の腕は確かで、シェク族からも一目置かれている。つまりホーリーネーションの信徒ではない。

 そしてモングレルで唯一外交ステータスを持つ存在。

 それはつまり、街の代表者として扱われる人物に与えられる特別な印。

 だが皮肉なことに、彼がいなくてもモングレルは滅びない。誰のものでもない街。そう呼ぶ方が正しいのかもしれない。

 

 そして肝心の人柄はまったくの不明。出たとこ勝負は不安だが、まあ、何とかなるだろう。

 

「一度確認したい」

 

 フーミンが言った。足は止めなかったため、彼は少し早足になり私の隣を歩く。

 

「俺たちはアークに出会い、モングレル奪還の協力を願う、で良いんだよね?」

「そうそう、私の事情で遠回りになっちゃうのは悪いけど、許してね?」

「構わないさ。オクラン教徒として、仲間を説得できなかった俺の責任でもあるし」

 

 シャクとフーミンには既に私が女であるため、先により多くの実勢を積むと説明してある。二人は難色を示さなかった。ありがたい。

 

 背後からシャクの声が響く。

 

「しかしいくら伝説の剣豪っつってもよ。老兵だろ? しかも狙いはフォグマンの本拠地だ」

 

 シャクがぼやいた。私は肩をすくめる。

 

「まあね。でも他に頼れそうな相手もいないでしょ」

「フォグアイランドの奥なんざ、誰も好き好んで近づかねぇよ。生きてるだけでも奇跡みてぇな土地だ」

 

 アークはフォグアイランド、霧の谷の盆地に小屋を構えているという。余談だが、フォグアイランドは霧で覆われた谷地である。高台が霧の中に浮かんでいる様を見て、島のように例えたことから霧の島(フォグアイランド)なのだとか。ちなみにフォグマンの生息地でもある。その名の通り。

 

 そして今私たち四人は、件のアークが住むという、霧の盆地の小屋を目指していた。歩くにつれ霧が濃くなる。

 

「アークがまだ剣を握れるならいいのですが。場合によっては、もう骨だけになっているという線もあります」

「とんだ無駄骨だね。骨だけに」

「くだらねー」

 

 喋りながら歩き続ける。足元はぬかるんでいて、空気はじとじとしている。それでも気分は軽快だった。

 

「フォグマンはあまり居ないね」

「生息域を広げたことで、本拠地から減っているのでしょう。殲滅を考えるのなら、良い兆候と言えるでしょうね」

「殲滅ぅ? おいおいとんでもねえな」

「でも、出来るなら俺たちも助かるね」

「フォグマンの総数ねえ……」

 

 フォグマンはハイブから変異した種だ。

 そのためウェスタンハイブを滅ぼした直後は爆発的に増えたが、それ以降増えることはないのではないだろうか。変異の条件である女王の死亡により、増えることは叶わないと推測できるからだ。

 

(フォグマンの寿命はどうなっているのだろう?)

 

 厳密には、ハイブの寿命か。

 父の拠点にも、ハブにもハイブは居なかった。社会性昆虫である働きアリや働きバチの寿命は短いと云うし、性質の近い一般的なハイブの寿命も短いのかもしれない。同じ起源を持つフォグマンも同様だ。

 

(となると、もうフォグマンは滅びかけなのかもね)

 

 放っておいてもフォグマンは絶滅が近いかもしれないが、それを敢えて言う必要も無いだろう。士気に関わるし、敵はフォグマンだけではないのだから。

 

「と、ここが例の小屋だね」

「ええ、地図通りなら。尤も、霧の中に住む変人など一人しかいないでしょうが」

 

 小屋は岩壁のくぼみに寄り添うように建てられていた。板壁は湿気で黒ずみ、屋根は半ば苔に覆われている。

 私はドアを力強く叩く。鉄板を叩いたような音が辺りに響き渡った。

 

「…………」

 

 もう一度叩く。今度はより強く。

 

「…………………………」

 

 しかし返事は返ってこなかった。

 

「留守かな?」

「かもなあ。どうするよ」

 

 私は扉を開け、中に踏み入った。背後からシャクの制止する声が響くが、意に介さず歩を進める。床板は無く地面が剥き出しだったが、砂利や埃の類は無く綺麗なモノだった。炉には灰の中に炭が混じっており、ほのかに温かい。生活の跡が伺えた。

 

「とりあえず、生きてはいるみたいだ。中で待っていよう」

「流石に失礼じゃないかなぁ」

「でも霧の中で待つのは嫌でしょ?」

「そりゃあ、そうだけどさぁ」

 

 フーミンがぼやく。しかし誰もが霧の中の滞在を嫌がっているようで、結局は全員家の中で過ごすことになった。

 私は安楽椅子に座り、戸棚から拝借した本に目を通す。

 

 内容はオクランの歴史書――というより聖書だった。表紙には『光の聖書』と書かれている。アークもオクラン教の信徒なのだろうか。できればホーリーネーション程偏っていないと良いのだが。

 

「………………?」

 

 ふと、匂いに血の香りが混ざっている事に気がついた。周りを見渡す。三人の中で、異変に気がついたのはリフだけだったようだ。

 

「お帰りかな」

「どうでしょう。私が様子を見てきます」

「いや、みんなで行こう。出迎えは大勢の方が良い」

 

 私は立ち上がり、扉を開ける。

 霧の向こうで何かが地を踏む音がした。重い、しかし迷いのない歩調。一歩、また一歩。霧が流れ気配が近づく。

 

 カツン。

 

 硬い音が響く。金属と石が擦れるような音。

 やがて霧の中に、黒いシルエットが浮かび上がった。

 

 その男は予想よりも大柄だった。

 肩幅が広く、背には一本のサ-ベル。鞘ではなく布に巻かれただけの無骨な代物だ。

 装甲付きのボロ布はところどころ破れ、修繕した跡がいくつもある。

 霧と煤にまみれたその姿は、戦士というよりも亡霊のようだった。

 

 男――アークという老人は、何も言わずに立っていた。

 その目は鋭くも冷たい。まるでこちらの意図を言葉よりも早く見抜いているかのようだ。

 

「……人の住まいに断りもなく足を踏み入れるか。世も末よな」

 

 低い声。穏やかだが、底に棘がある。その声音だけで、背筋がわずかに冷たくなった。

 

「すみません。待たせてしまうのも悪いかと思って」

 

 そう返すと、アークはしばし沈黙した後、小さく鼻を鳴らした。

 

「……フォグマンの匂いがする。少しは出来るか」

 

 その言葉に、フーミンが反射的に口を開いた。

 

「モングレルを奪還したい。あんたの力を借りたい」

 

 アークは反応しなかった。

 

 霧のような沈黙が流れる。彼の視線が私の顔に移った。

 

「……女か」

 

 その一言に、空気がわずかに凍る。

 だが彼の目に侮蔑はなかった。ただ、ただ淡々と現実を確認しただけのように。

 

「……面白き世になったものだな」

 

 そう呟くと、彼は背中の剣を壁際に立てかけ、炉の灰を掻き混ぜた。

 再び火が上がる。赤い光が、男の顔を照らした。

 

「聞こう。だが、命を懸ける理があるか。それを示せ」

「……」

 

 さて、何て言おうか――等とこの場に及んで言いはしない。

 私は唇を湿らせ口を開く。

 

「世界を救うつもりなんてない。

 ただ、壊れたまま放っておくのが嫌なだけ――それが私の理です」

 

 父がどうとか。罪悪感だとか。そんなのは所詮は後付けの理由なのだろう。

 

 私は、この世界――kenshiという世界が好きだった。

 だから、壊れたままにしたくない。この世界が歩む、本当の続きが見たい。

 

 昨日――かがり火に集まる人々を見て、そう思ったのだ。

 

「ふむ――」

 

 アークは、どこか私の回答に満足しているようだった。灰を弄び、しばらく沈黙した後、わずかに頷く。

 それは良かった。であるのなら、言いたいことも言えるだろう。

 

 即ち――

 

「ていうか、フォグマンの首が欲しくないの? モングレルの住民でしょ、貴方」

 

 ――アークというキャラクターについて、私は文句を垂れた。

 

「――――」

 

 アークは目を大きく見開き、そして口角を上げて「ハッ」と、一言笑い声を上げた。

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