心を探し求める水瓶座 作:リコレクションでも嬉しい
シオナside
翌朝、昨日以上にうきうきとした様子で迎えにきてくれたスバルと共にコダマ科学館へ向かう。ペットボトルとはいえロケットを飛ばすことができるのが余程楽しみなのだろう。隣を歩くスバルの足取りはとても軽かった。
今にもスキップしだしそうなスバルを微笑ましく思いながら見つめていると、私の視線に気が付いたのかスバルが照れ臭そうにはにかんで頬を指で掻いた。
「あははっ、ちょっとはしゃぎ過ぎかな?」
「ん、楽しそう……」
好きなものに夢中になれるのは良いことだと思うし、恥ずかしがる必要なんてない。私も、宇宙や科学について目を輝かせながら話してくれるスバルが好きだから、変に恥ずかしがって遠慮されるのも困る。
「うん、ペットボトルでもロケットを飛ばせるのが楽しみなんだ。育田先生も昨夜、今日の実験のためにペットボトルを集めてくれていたしね」
「……ん? 昨夜、育田先生が?」
いったいいつの話だろう。リブラを追撃した後の話だろうか。
小首を傾げる私にスバルはやらかしたとばかりに顔を引き攣らせた。この反応からして、育田先生と出会したのはロックマンの時かな。そうでなければこんなあからさまな反応はしない。
「えっと……ちょっと散歩に出た時に、近くのコンビニでペットボトルを貰ってる育田先生を見かけたんだよ」
「そう……」
嘘であることは一目瞭然だけど突っ込まないでおく。大方、リブラを追撃した後に見掛けたのだろう。タイミング的に考えて間違いないはず。
それにしても育田先生は原作と変わらず子供思いな良い先生だ。クラスの担任教師でこそないけれど、科学館所属の講師としてのびのびと子供達に科学の楽しさ、不思議さを教える姿は非常に生き生きとしていた。
このままリブラに取り憑かれることなく育田先生が教師を続けられたならいいのだけど、果たしてどうなることやら。
私が育田先生の前途に多難がないことを祈っていると、ふとスバルが怪訝そうに眉を曲げた。
「でも昨夜の育田先生、ちょっと様子がおかしかったんだよね。ボクが話しかけても無愛想だったし、話を続けようとしたら何処か行っちゃうし……」
「それ、は……」
知ってるかな、スバル。そういう発言を世間一般ではフラグというのだよ。
様子がおかしくなった育田先生。この時点でとても嫌な予感がする。今からでも引き返して電波変換した状態で確認したいところだけど、既にコダマ科学館は目と鼻の先だ。流石に、やっぱりやーめたは怪しいしあからさま過ぎる。
せめて、せめてリブラをきちんとデリートできたのかだけでもこの場で確認したい。倒せているのなら育田先生がリブラに乗っ取られている可能性も限りなく低くなる。
でも聞ける訳がない。スバルの中で私はお隣さんで幼馴染の女の子でしかないのだ。「昨夜のリブラはちゃんと倒せた?」なんて尋ねようものなら、今日まで必死に正体を隠してきた努力がぱぁである。
うぬぅ……やっぱりあの後、リブラとロックマンを追いかけるべきだったかな。でもあの場を放置する訳にもいかなかったし……。
昨夜のことを悔やんでも仕方ない。今は目前に迫った科学教室、延いては育田先生の対処が最優先だ。杞憂であればいいけれど、多分ダメなんだろうなぁ……。
「どうかした、シオナ?」
「……なんでも、ない」
内心の憂鬱さが滲み出てしまったのか、スバルが心配そうに顔を覗き込んでくる。ごめんね、スバル。楽しみにしていた科学教室、台無しになってしまうかもしれない。
胸中で小さく溜め息を吐きながら、私は重い足取りで科学教室へと向かうのだった。
♒︎
結論から言おう──OUTです。
一目見た瞬間からもう別人である。愛想は悪いし、実験の手際も悪いし、そもそも乗り移られているせいか話が噛み合わない。恐らく記憶を引き継いでいないのだろう。何をしているのよ、リブラ。
教室に参加している子供達も育田先生のあんまりな変わり様を怪しんでいるし、普段の楽しい科学教室から劣化した退屈な内容に飽き飽きとしていた。あの双葉ツカサですらフォローし切れなくて苦笑い状態であることを思えば、教室の内容がどれだけ酷いものかは推し量れるだろう。
昨日に引き続き参加していた委員長達も、ペットボトルロケットの実験を楽しみにしていたスバルも、みんな揃って肩を落としている。
おのれ、リブラめ。どんな経緯で何の目的で育田先生に取り憑いたかは知らないけど、よくもスバルが楽しみにしていた科学教室を打ち壊しにしてくれたなぁ……この恨み、晴らさでおくべきか!
私が胸中で密かにお怒りゲージを蓄えていると、育田先生ことリブラはペットボトルを取り出した。もしやペットボトルロケットの実験をするのでは、とスバルが一瞬だけ期待に身を乗り出すが、あのリブラがそんな夢のあるような実験をするとは思えない。
案の定、リブラが次に取り出したのは白い煙をもくもくと吐き出すドライアイスで──って、ヤメロォ馬鹿ァ!?
◆
昨日に引き続き参加した育田道徳による科学教室は、期待に胸を膨らませていたスバルの思いを大いに裏切る内容となっていた。
楽しみにしていたペットボトルロケットは実施せず、空気砲やら何やらと準備はしてあったのに教え方が雑で手際も悪い。序でに子供達に対する態度も悪くて横柄。まるで昨日とは別人のようだった。
育田の変貌にスバルは心当たりがあった。FM星人による乗っ取りだ。昨夜取り逃してしまったリブラが、偶々近くにいた育田に取り憑き潜伏しているのだろう。ウォーロックも、育田からFM星人の気配を感じると言っている。
であれば、早急に育田からリブラを引き剥がす必要がある。このままリブラに好き勝手させては科学教室はおろか、育田の今後の進退にも関わりかねない。昨日の優しくて気さくな先生が辛い思いをするのは、スバルとしても看過できなかった。
しかし電波変換しようにもこの場は大勢の子供達がいる科学教室。いくら先生に注目が集まっていたとしても、電波変換などしようものなら誰かしらの目に付く。せめて何かしらの理由を付けてこの場を離れなければいけないのだが……。
スバルは隣に座る眠たげな無表情の幼馴染を見やる。今日も今日とて表情の変化に乏しいシオナは、しかし誰から見ても明らかな程に不機嫌なオーラを纏っていた。
シオナは無表情で口数が少ないのが平常運転であるが、だからといって感情の起伏まで乏しいかと言えばそんなことはない。付き合いが長い人間ならば、機嫌の良し悪しや喜怒哀楽もちゃんと読み取れる。幼馴染で付き合いの長いスバルは、シオナの感情の機微が分かる人間だった。
ゴゴゴゴ……! と擬音が背後に浮かび上がりそうなくらいにシオナの機嫌は悪くなっていた。楽しみにしていた科学教室が期待外れを通り越して台無しなものになってしまったから怒ってしまったのだろう。そこまで楽しみにしてくれていたのを嬉しく思う反面、期待を裏切って申し訳ないとスバルは思った。
出来ることならすぐにでもリブラを倒して元の育田に戻したい。何か手立てはないかとスバルが考えていると、反応の悪い生徒達に対してリブラが徐にペットボトルを取り出し始めた。
もしかして、ペットボトルロケットの実験をするのでは? そんな考えが一瞬過ぎり、敵であることを理解しながら期待しかけるスバル。しかしその期待は即座に裏切られた。
ペットボトルに続いてリブラが取り出したのはドライアイス。科学が大好きなスバルはその組み合わせでリブラが何をしようとしているのかすぐに察し、顔色を悪くした。ペットボトルとドライアイスで行う実験なんて一つしかない。
もう形振り構ってなんていられないとスバルが声を上げようとして──隣に座っていたシオナが大きな音を立てて席を立った。
「急に立ち上がって何かね、君は?」
育田ことリブラが実験の解説を遮るように立ち上がったシオナを睨む。睨まれたシオナは負けじとリブラを見返した。
「……もう、やめて」
「何をだね? 実験が嫌なら君は帰ってもらっても──」
「育田先生の振りをするのは、やめて……!」
「────!」
シオナの発言にリブラが驚いたように目を見開く。よもやこんな子供に偽物であることを見抜かれるとは思いもしていなかったのだろう。出鼻を挫かれたスバルも、シオナが気付いていたことに驚いていた。
細めていた目を見開き、リブラは鋭い眼差しでシオナを見据える。
「……何のことかね? 私は正真正銘、育田道徳だが?」
「嘘つき……育田先生はこんな危険な実験、子供にさせない。あと、あなたの科学教室はセンスないし、詰まらない」
「何だと!? 地球人の子供風情が、私の崇高な授業にケチを付けるだと!?」
「……やっぱり」
普段の育田にはあるまじき発言に教室内が騒めく。リブラの態度はシオナの指摘を肯定するようなもので、子供でも察してしまえる程に致命的なものだった。
「偽物の育田先生なの?」
「確かに、昨日よりもつまんねーよなぁ」
「一理ありますね」
ざわざわと子供達から疑惑の視線が向けられ、リブラは怯んだように顔を歪めた。
「成程、私の正体を暴くための挑発だったか」
「センスがなくて詰まらないのは事実……」
バサリカ顔負けの切り捨てようだった。これにはリブラも我慢の限界に達したらしい。シオナを睨む眼差しに剣呑な光が灯る。
「……いい度胸だ、小娘。ならばその身に私の科学の素晴らしさを刻み付けてやろう──電波変換!」
掛け声と同時、育田の身体が眩い光に包まれる。そしてほんの一瞬の間にリブラは育田と電波変換し、人間大の巨大な天秤を模した姿──リブラ・バランスに様変わりしていた。
『我が名はリブラ・バランス。愚かな地球人共に私の崇高な科学を教えてやろう!』
目の前でよく見知った姿をした育田が見たこともない異形に変身して教室内の子供達は一瞬静まり返る。しかしリブラ・バランスがギロリと睥睨すると一斉に悲鳴を上げて教室から逃げようとする。
『この私の素晴らしい授業から逃げることは許さない──フレイムウェイト!』
リブラ・バランスが天秤の炎から火の玉を飛ばし、教室の出入り口を燃やす。炎の壁によって出入り口を塞がれた子供達は恐怖に涙を浮かべた。
「──バトルカード、ネバーレイン1……!」
『ぬっ……!?』
すかさずシオナがバトルカードを使って炎の壁を消し、序でとばかりにリブラ・バランスにも攻撃を仕掛けた。よもや反撃されるとは思ってもいなかったのか、降り注ぐ雨にリブラ・バランスは動揺して隙を晒す。
「逃げてっ……!」
普段の大人しく口数の少ない様子からは想像すらできない必死の声でシオナが叫べば、足を止めていた子供達は教室の外へと一斉に逃げ始める。パニックになった子供達の勢いは凄まじいもので、委員長達やスバルも流れに呑まれて外へと押し出されてしまう。
「ちょちょちょっと、海鳴さんも逃げなさいって──」
「シオナ! 一緒に逃げ──」
『逃しはしない……!』
降り注ぐ雨を振り払い、リブラ・バランスが巨大な分銅をシオナの頭上に召喚する。潰されようものなら一溜りもない質量の爆弾をシオナは間一髪で回避したが、結果として出入り口からは遠く離れてしまった。
教室内に取り残されたシオナ。子供達は一人残らず外へと逃げられた。委員長達とスバルも、流れに押される形ではあるが避難できた。シオナの目論見は概ね成功したと言える。
安堵したように息を吐くシオナの態度からリブラ・バランスもまたその意図を察した。
『成程、自らを囮にして他の子供を逃したか。勇敢なことだ。ならばその勇気に敬意を表し、貴様に選択の自由を与えよう。A.今すぐ私に謝罪し許しを乞う。B.私の素晴らしい授業をその身で味わい、心から謝罪する。さあ、選べ!』
「どっちも、いやっ……!」
『ふん、愚かなことだ。ならばその身に直接刻み込んでやろう──リブラスイング!』
一瞬でシオナの眼前に移動したリブラ・バランスが両腕に吊り下げられた天秤を振り回す。シオナは即座に後ろに飛び退ってその攻撃範囲から逃れた。ゲームで何度も見た動きだからこそ、対応できたのだ。
問題は、今のシオナが電波変換しておらず生身であること。電波変換している感覚で動いていたシオナは、足を縺れさせその場に素っ転んでしまった。
「あぅ……」
『呆気ない。所詮は子供の浅知恵か──ヘビーウェイト!』
床に転んで蹲るシオナの頭上に再び巨大な分銅。気付いた時にはもう遅く、何十キロもある重りがシオナに襲い掛かった。
落下してくる質量の塊にシオナが身を強張らせた瞬間──青い閃光が間一髪でシオナをその場から掻っ攫った。
『なにっ……貴様は──』
シオナを抱える青い影を見て、リブラ・バランスが怒りと屈辱に表情を歪める。忘れるはずもない。傷を癒すために育田道徳に取り憑かなければならなくなった原因たる男──ロックマンだ。
ロックマンは安堵したように息を吐くと、腕の中で目をぱちくりさせているシオナを見下ろした。
「もう大丈夫。あとはボクに任せて、君もみんなと一緒に逃げるんだ」
「……ん、分かった。助けてくれて、ありがと」
そっと床に下ろしてもらったシオナはロックマンにお礼を言い、邪魔にならないよう教室の外へと出ていった。その後ろ姿を見送り、ロックマンは改めてリブラ・バランスと対峙する。
「ここから先はボクが相手だ、リブラ・バランス!」
『いいだろう。昨夜の雪辱を、今この場で果たさせてもらおう!』
ロックマンとリブラ・バランスが雌雄を決するべく激突した。
♒︎
シオナside
ロックマンの介入で教室から逃れた私は、ある程度離れたところで足を止めた。あんまり離れすぎるとロックマンの身に何か起きた時、すぐに援護できなくなってしまう。この騒ぎで科学館内に居た人達も避難してしまったみたいだし、この場に留まっても咎められる心配はないかな。
『随分と無茶をしましたね、シオナ』
一人でに開いたトランサーからアクエリアスが苦言を呈してくる。すぐ側にスバルとウォーロックが居たために出ようにも出られず、トランサー内でハラハラしながら様子を見守ってくれていたのだ。
「ん、ごめんなさい……でも、こうするしかなかった」
他の子供達を逃すため、そして育田先生の今後の教師人生を守るためにも。あの場でリブラの正体を暴き、育田先生が操られているないし成り代わられていることを証明する必要があった。
もしあの場で私が動かなければ、リブラはあのまま実験を敢行していた。誰でも簡単に危険物を作成できることを理解してしまう、あの実験を続けさせる訳にはいかなかったのだ。
その後の囮になる立ち回りは迂闊であったものの、無謀ではないと思っていた。何故ならスバルが、ロックマンが必ず駆け付けてくれると信じていたから。
現実にロックマンは私の危機に駆け付けてくれたのだから、結果オーライと言えるだろう。素っ転んで潰されそうになった時は流石に肝を冷やしたけど。
やっぱり生身だともやしだね、私は。電波変換している状態ならアクロバットだろうと何だろうとできるけど、生身のままだと何処にでもいる小学生女子でしかない。アクエリアスにも余計な心労を掛けてしまったし、今後はもう少し自重しよう。
そんなことをつらつら考えながら一休みしていると、正面の廊下から走ってくる三つの人影を見つけた。見覚えがあり過ぎるシルエットですぐに誰なのかは分かった。
「海鳴さん! 無事だったのね!?」
「委員長……」
息を切らせながら駆け寄ってきたのは委員長だった。ゴン太とキザマロもぜぇはぁ言いながらも着いてきている。
委員長はぼんやりと突っ立っている私に駆け寄ると、何やら確認するようにぺたぺたとあちらこちらを触り始める。いやちょっと、擽ったいよ委員長。何のつもりだろうか。
一方的に私のあちらこちらを触り終えた委員長はほっとしたように息を吐くと、腕を組んで何やらぷりぷりと怒り始めた。
「もう、海鳴さんだけ残るなんて危ないじゃない。とても心配したのよ?」
「……ごめんなさい」
どうやら取り残された私の身を案じて戻ってきたらしい。ゲームの委員長と色々違うと思っていたけど、そういう所はやっぱり変わらないみたいだ。
でもできれば戻ってくるのは遠慮してほしい。その行動が、後のちりぢり委員長に繋がってしまうのだから。現実であんなことになったらショックで寝込むし、一生のトラウマになる自信がある。
「でもすげぇよな、海鳴。あんな怪物に一人で立ち向かうなんて、ちょっと見直したぜ」
「バトルカードの扱いも手慣れていましたし、将来は優秀なサテラポリスになれそうですね」
ゴン太とキザマロの私を見る目が大分変わった気がする。教室での私の行動が二人の認識に影響したみたいだ。今までよりも親しみを感じる。
二人の褒め言葉に内心で照れながら小さくお礼を返すと、ふと気付いたとばかりに委員長が教室の方に目を向けた。
「そう言えば、さっきの怪物はどうなったのかしら。まだ教室にいるの?」
「ん、ロックマンと戦ってる……」
「ぬぁんですって!? ロックマン様が来ているだなんて、こうしちゃいられないわ! 今すぐお側でその勇姿を拝まないと!」
「ダメ、絶対ダメ……」
凄まじい勢いで走り出そうとした委員長の腰にしがみついて止める。戦闘の最中に委員長達が近付いたりしたらロックマンの気が散って、最悪窮地に陥りかねない。ロックマンに恋する乙女の気持ちは汲むけど、その暴走を許す訳にいかない……って、ちょっと力強すぎぃ委員長!
「離して、海鳴さん! 私にはロックマン様にお側で声援を送るという使命があるのよ!」
「そんな、使命は、捨てていい……!」
くそぅ、生身の小学五年生であることは同じなのに体格差のせいで止め切れない。誰か! この恋する暴走列車を止めて!?
そもそも委員長ってこんな愉快な性格だったっけ……いやでも、スバルとミソラのデートを尾行するとかアグレッシブなことしていたような気もする。もしかして大して変わりない?
「……! ゴン太、キザマロ。委員長を止めて……!」
そこでやれやれみたいな顔してる男子二人! 見てないで止めてよ、ほんともう!
「でもよぉ、委員長のロックマン好きは今に始まったことじゃねぇし」
「言っても聞きませんから」
「……委員長がロックマンに夢中になったら、二人との時間が短くなるかも」
「やっぱりロックマンの邪魔をするのはよくねぇよ、委員長!」
「ゴン太君の言う通りです! 危ないことは大人に任せて、ボクたちも早く避難しましょう!」
「あなた達、ちょっとチョロ過ぎやしないかしら!?」
私の甘言にあっさりと掌を返すゴン太とキザマロ。まさかの裏切りに驚く委員長をゴン太は軽々と抱え上げ、序でとばかりに私も小脇に抱えてくれる。火事場の馬鹿力か知らないけど、生身で女の子二人を持ち上げられるゴン太の膂力は流石と言わざるを得ない。
「あーん、ダメよ! 折角ロックマン様にお会いできるチャンスなのにぃ──!!」
残念だけど今回は涙を飲んで我慢してもらおう。ごめんね、委員長?
恋する乙女の無念の絶叫が廊下に虚しく響き渡るのだった。
その後の事だが、リブラ・バランスはロックマンに敗れて再び逃走。育田先生はリブラの魔の手から解放された。子供達の証言とその後の捜査によって育田先生は謎の電波生命体に操られていただけの被害者と断定され、今後の教師人生に影が差すようなこともなく事件は終結した。
◆
リブラ・バランスによってあわや大惨事となり掛けた科学教室を無事に終え、スバルとシオナは肩を並べて家路に就いていた。
「大丈夫だった、シオナ? 怪我とかしてない?」
「ん、無傷。問題なし……」
心配するスバルにいつもの眠たげな無表情のまま、何故かVサインをしてみせるシオナ。表情に乏しい分、仕草で大丈夫だと伝えようとしているらしかった。
少しシュールなシオナの返しにスバルは思わず苦笑する。
「でも、あんな無茶はもうしちゃダメだよ。一歩間違えたら、大怪我していたかもしれないんだから」
シオナがリブラ・バランスに立ち向かった時、スバルは気が気でなかった。シオナが潰されそうになっていた時など、比喩抜きで心臓が止まるかとも思ったのだ。
間一髪で間に合ったから良かったものの、もしもシオナの身に何かあったりしたらとてもではないがやり切れない。スバルにとってシオナはそれくらい大切な幼馴染なのだ。
「……ん、善処する」
スバルの注意にシオナは目を逸らしながら返事をした。無茶をしないと約束しないあたり、今回の一件を反省している様子はあまり見受けられなかった。
頑固な所のある幼馴染にスバルは困ったように眉尻を下げる。叶うならばシオナには事件や危険な事から離れていて欲しいのだが、どうやらその願いは叶いそうにない。
スバルもそうだが、シオナも目の前で困っている人や苦しんでいる人を放っておけるような
良くも悪くもお人好しで似た者同士。それがスバルとシオナだった。
安全圏にいてもらえないなら、その分自分が頑張ろう。地球の破壊を目論むFM星人と戦うロックマンことスバルは、心の中で静かに決意を強くするのだった。
そんな幼馴染の横顔をシオナはいつになく優しい眼差しで見つめていた。