心を探し求める水瓶座 作:リコレクションでも嬉しい
シオナside
「じゃあお昼の騒ぎはジェミニ? ってやつの仕業だったんだ」
「ん、そう……」
夕ご飯を自宅で済ませた私はリビングのソファに腰を下ろし、テレビ通話を繋げたミソラに昼間の騒動について一通り説明していた。
ミソラと不意打ちエンカウントからお友達になって以降、私達はメッセージのやり取りをしたり時間に余裕がある時はこうしてテレビ通話を繋いで他愛のないお喋りをしたり、FM星人の近況について情報交換をしたりしていた。
今日の話題は昼間のジェミニの騒動。特殊な超音波で街中が大パニックになった事件について話していた。
「こっちも大変だったんだよ。スタジオで他の演者さん達が喧嘩を始めたり、スタッフが笑い始めて撮影どころじゃなくなったりして」
「おつかれ……」
いや本当にお疲れ様というか、私の想像以上にジェミニが引き起こした騒ぎの影響は大きかったようだ。
私が直接見た被害だけでも交通網の麻痺に市民による暴動の発生、そして電波ウイルスによる電波障害。どれか一つだけでも事件なのに、そんなものが多重発生すれば大騒ぎになるのも当然だろう。
こんな事件が以降も続くようなら、地球の破壊というFM星人達の使命も冗談ではなく現実味を帯びてきてしまう。
私が今後のFM星人の動向、特にジェミニがいつ動き出すかに思いを馳せていると、ミソラがやや心配そうな表情で口を開く。
「そういえば、ロックマンはどう? 今日は逃げちゃったって話だけど、ジェミニに勝てそう?」
「……今のままじゃ、難しいかも」
ホワイト一人に勝ち切れなかった時点で、二人一組の存在であるジェミニ・スパークにロックマンが勝利することは難しいと言わざるを得ない。やっぱりスターフォースの力がないと厳しいのだろうか。
「じゃあ、私とシオナが手を組んだらどうかな? 相手も二人、こっちも二人なら勝てない?」
「ミソラと、一緒に……?」
確かにそれなら勝負になるかもしれないし、倒すことも不可能ではないかもしれない。問題はジェミニ・スパークの実力に私達が太刀打ちできるかどうか……早々負けるつもりはないけど、アクア・レディは水属性で普通にジェミニ・スパークと相性が悪いからなぁ。一発も被弾できない縛りは中々きつい。
「私達だけで難しくても、ロックマンもいれば三対二。これならきっと勝てるよ!」
「ん。それなら、勝てる……」
流石に数で上回ればジェミニ・スパーク相手でも勝てる。それはもうボッコボコにしてやれる自信がある。これで負けたら流星シリーズを遊んだ一プレイヤーとして一生の恥だ。
「それなら、ジェミニだろうと何だろうと怖いものなしね! 次に出てきたら、私とシオナとロックマンでとっちめちゃいましょう!」
「う、うん……」
ミソラも随分と好戦的というか楽観的というか、随分とアグレッシブになっていらっしゃる。まあ、仕事の邪魔をしたジェミニに対してお怒りゲージが溜まっていることを考えれば、別段おかしな態度でもないのかもしれないけど。
「あ、そうだ。今度のライブなんだけど、よかったら──」
ジェミニの話に区切りを付けてミソラが次のライブの話を切り出したタイミングで、通話越しに何やら慌ただしい物音が聞こえてきた。テレビ画面に映っているミソラがむっとして後ろを振り返る。
「ちょっとマネージャー、今通話中なんだけど?」
「それどころじゃないぞ、ミソラ! また暴動が起きているんだ! 何処の局もてんやわんやでえらいことになってるんだよ!?」
「それって、まさか……」
テレビ画面の中のミソラが画面越しに私を見てくる。私も、間違いないだろうと肯定の意味を込めて頷きを返す。確認は必要だけど、ほぼ確実にジェミニの仕業だ。
『シオナ。たった今、おさな──ではなく、ロックマンが外へ。恐らくは騒動の中心、ジェミニの元へ向かったのでしょう』
「ん、分かった……」
やっぱり、スバルは行くよね。たとえ勝ち目が薄いと分かっていても、困っている人を見過ごせないスバルが大人しく事態を静観していられるはずがない。
「役者は揃った、ってやつだね」
ミソラが愛らしい顔に得意げな笑みを浮かべた。やる気満々ですね、はい。止めるつもりはないし、ジェミニによる度が過ぎた破壊活動を看過できない以上、私もミソラの行動に否を唱えるつもりはない。
それに、今のロックマンが正面からジェミニ・スパークに勝てるとも限らない。ロックマンが敗北してしまった時のことを考えて、一刻も早く私も騒動の中心へと向かわなければならない。
「じゃあ、また後でだね。シオナ」
「ん、後で……」
テレビ通話を切り、私はすぐに立ち上がった。傍らには準備万端整っているアクエリアスが寄り添っている。
「行くよ、アクエリアス……」
『ええ、参りましょうか、シオナ』
「電波変換、海鳴シオナ、オン・エア──」
アクエリアスと呼吸を合わせて、私は電波変換してアクア・レディへと変身した。そして騒動の渦中に突っ込んだであろうロックマンの後を追いかけるのだった。
◆
昼間の敗走から半日も間を置かず、ジェミニは再び動き出した。夕食を終えた後のリビングであかねと共にテレビを見ている時に、スバルはその異常事態を知った。
生放送のニュースではキャスターが一人でに笑い出して放送事故、野球の生中継は観客を巻き込むレベルの乱闘が発生して中止。テレビに映っていないものも含めれば、今回の異変は昼間のものとは比べ物にならない規模になっている。
一刻も早く止めなければ甚大な被害が出てしまう。居ても立っても居られなくなったスバルは、勝ち目がないと制止するウォーロックを押し切り、電波変換して騒動の元凶たるジェミニ・スパークの元へと向かった。
騒動に巻き込まれている市民や五陽田を助けつつ突き進んでいると、やがてロックマンは諸悪の根源たるジェミニ・スパークと邂逅した。
目の前に現れたロックマンを見るやジェミニ・スパークはニヤリと愉快そうに笑みを浮かべた。
「待っていたよ、ロックマン」
「ジェミニ・スパーク! これ以上、無関係な人達を傷付けるのはやめるんだ!」
「それはできない相談だね」
『そうだ。俺達の目的は地球人の抹殺、そしてお前が持ち去ったアンドロメダの鍵の回収だ、ウォーロック』
ブラックが仄暗い喜悦を滲ませながら言う。剥き出しの悪意にロックマンことスバルは一瞬怯みかけるも、すぐに己を奮い立たせて真正面からジェミニ・スパークを睨み返した。
「……アンドロメダの鍵が何かは知らないけど、これ以上好きにはさせない!」
「なら力尽くで止めてみるんだね」
『止められるものなら、だがな!』
ジェミニ・スパークが腕から電気属性のソード、エレキソードを伸ばしてロックマンに斬りかかる。対するロックマンはソードを二枚プレデーション、両手にソードを装備して迎え撃った。
「へえ、やるね。何処までやれるか、見ものだ」
感心したように呟いたホワイトが瞬時に姿を消し、ロックマンの背後からエレキソードを振り下ろす。正面からはブラックが再び斬りかかる。
ロックマンは慣れないソード二刀流を駆使してジェミニ・スパークの猛攻を凌ぐ。二対一という数的不利を強いられながら、どうにか勝負の体は保つことができていた。しかし猛攻を凌ぐので手一杯で反撃に移れず、じりじりと追い詰められていた。
『スバル! このままじゃジリ貧だぞ!』
「わか、ってるよ……!」
周波数を巧みに変えて消えては現れ、四方八方から襲ってくるジェミニ・スパークの攻撃を凌ぎながら、ロックマンは必死に打開策を考える。しかし現状を自力で打ち破る手段が思いつかない。
せめて二人を分断して戦うことができれば、と考えたロックマンの視界の端にあるものが映る。それは電波ウイルスを閉じ込め、護送するトラックだった。サテラポリスが捕獲した電波ウイルスを処理するために護送している最中なのだろう。証拠に護送車の護衛に付いているパトカーの一台に五陽田が乗っている。
「あれを使えば……!」
妙案を閃いたロックマンは一瞬の隙を突いて護送車へと飛び移る。そして電波ウイルスを閉じ込める分厚い車体をソードで斬り付け、大穴を開けた。
「なっ、何をしているんだロックマン!?」
側を並走するパトカーの中でロックマンの凶行に五陽田が絶叫する。護送車の中に閉じ込められた大量の電波ウイルスが解放されようものならとんでもない被害が広がる。立派な電波テロ行為だ。
五陽田の怒りの声に内心で謝罪しながら、ロックマンは護送車から凄まじい勢いで飛び出してきた電波ウイルスを引き連れて再びジェミニ・スパークと対峙する。
「下らないね。そんなものでボク達を倒せるとでも?」
「思ってないよ。こいつらは、こうするんだ!」
「────っ!?」
ロックマンが引き連れてきた大量の電波ウイルスがジェミニ・スパークに襲い掛かる。電波ウイルス達はFM星人の命令で動いている訳ではないので、時に襲われることだってある。
だからといってたかが電波ウイルスの十や百程度に倒される程、ジェミニ・スパークは弱くない。数だけ揃えた電波ウイルスの大群を一掃しようとして、その機先を制するようにロックマンがブラックに斬りかかった。
『ぐっ……!?』
「こっちだ!」
一転して果敢に攻めるロックマンにブラックはその場から離れざるを得なくなる。必然的に相方であるホワイトとの距離は離れていく。
「なるほど、狙いは分断か」
電波ウイルスの大群に囲まれながら、ホワイトは感心したように呟く。大量の電波ウイルスを片方にぶつけ、その隙にもう一方を撃破する。戦法として悪くない部類だ。
「でも、それは君が勝てたらの話だよ、ロックマン」
嘲笑うように笑ってジェミニは眩い雷光を解き放ち、周囲を取り巻く電波ウイルスの大群を一掃するのだった。
一方のロックマンとブラック。目論見通りジェミニ・スパークの分断に成功したロックマンは、この勝機を逃すまいと必死に攻めかかっていた。
「くっ、この……!」
『相手が一人なら、勝てるとでも思ったか?』
対等の一対一に持ち込んでなお、ロックマンは勝ち切れない。純粋にブラックの実力がロックマンよりも上なのだ。地力で劣っている以上、分断したところで勝機は最初からなかった。
ブラックを倒し切れず、逆にじりじりと追い詰められていくロックマン。そうこうしている内に電波ウイルスを片付けたのか、ホワイトが合流してしまう。
「狙いは悪くなかったけど、残念だったね。ここまでだよ」
『一思いに楽にしてやるよ』
ホワイトとブラックが背中合わせに構えて手を突き出す。突き出した手に眩い雷光が集い、そして──
「『──ジェミニサンダー!』」
解き放たれた電撃がロックマンを襲った。
「くっ、バトルカード、プレデ──」
咄嗟にバトルカードをウォーロックに読み込ませようとするも遅い。ろくに身構えることもできないまま、ロックマンは突き進む電撃をその身に浴びてしまった。
「うあああああ──!?」
悲鳴を上げてロックマンはウェーブロードから落ちていく。落下先は波が寄せては引く浜辺。人影一つない夜の浜辺に墜落した。
『おい、スバル! しっかりしろ、スバル!?』
左腕のウォーロックが懸命に呼び掛けるもスバルの意識は戻らない。防御もままならない状態でジェミニの必殺技に等しい電撃を受ければ、意識を喪失してしまうのも無理ないだろう。
「呆気なかったね」
『終わりだ、ロックマン』
墜落したロックマンを追って浜辺に降り立ったジェミニ・スパークが止めを刺すべくエレキソードを構える。意識を失っている状態でそんな攻撃を受けようものなら電波変換していてもスバルは只では済まない。
絶体絶命の危機にウォーロックが死を覚悟した、その時──歌が響いてきた。
月明かりが照らす夜の浜辺に響き渡る歌。万人を魅了するだろう明るく胸の躍るような少女の歌声にジェミニ・スパークは手を止め、周囲を見回す。
「この歌声は?」
『……あそこだ』
ブラックが指差したのは浜辺の近くに建つ給水塔の上。月明かりを背に浜辺を見下ろし、愛用のギターを掻き鳴らしながら歌うピンク色の少女がいた。
『ハープだな』
「ああ、確かハープ・ノートとか言うんだっけ」
『そうだ。まあいい、あいつは放っておけばいいだろう』
付き合っていられないとばかりにブラックはハープ・ノートの奇行を一蹴し、さっさと仕事を済ませようとロックマンを見下ろす。しかしその行動は頭上から襲ってきた音符攻撃によって中断させられた。
反射的に音符を回避するジェミニ・スパーク。入れ替わるようにハープ・ノートは地上に降り立ち、ロックマンを庇うように立ち塞がる。
『貴様……何のつもりだ、ハープ?』
ブラックが怒りを滲ませた声音で問えば、ギターの一部となっているハープが口を開く。
『悪いけど、私は抜けさせてもらうわ。地球での生活が思ったより気に入っちゃったから』
『裏切りか……高く付くぞ』
「邪魔をするのなら、君から始末してあげるよ」
「ふふん、やれるものならやってみなよ」
剣呑な空気を醸し出すジェミニ・スパークにハープ・ノートは挑発的に返す。負ける可能性など微塵も考えていない態度だった。
『馬鹿な女だ。二対一で勝てるとでも思っているのか?』
「その思い上がりを後悔させてあげるよ」
「望むところ──って、言いたいところだけど、一つだけ訂正してあげる」
バイザーの下で不敵に笑ってハープ・ノートはジェミニ・スパークの思い違いを訂正する。
「二対一じゃない──二対二よ!」
『なに……!?』
ハープ・ノートの宣言にブラックが怪訝に顔を歪めた直後、爆音と共に海面で巨大な水柱が立ち上がる。反射的に振り返ったジェミニ・スパークの目に映ったのは、海面に立つ小柄なシルエット。ロックマンの青とは違う、深海のように深い青色の電波体だった。
「誰だ……!?」
『この周波数は、まさか……!?』
新手の登場にジェミニ・スパークが驚愕していると、その電波体は海面を歩いて浜辺に足を踏み入れる。そして当然のようにハープ・ノートと肩を並べ、ジェミニ・スパークと対峙する。
「──アクア・レディ、参上……これで、いいの?」
「うん! ばっちり決まっててサイコーだったよ、アクア・レディ!」
「そう……」
急に現れたと思えばハープ・ノートとコントみたいなやり取り始めたアクア・レディ。どうやらド派手な登場の仕方はハープ・ノートのお願いだったらしい。インパクトは強烈だったが、果たして必要だったのかどうか定かではない。
ハープ・ノートと親し気に話すアクア・レディ。肩に背負った水瓶と顔を覆い隠すヴェール、そして覚えのある周波数。それらの情報からアクア・レディの正体を察したブラックは至極面倒臭そうに口端を歪めた。
『アクエリアスか。また面倒な女が来たな』
『ふふっ、随分と失礼な物言いですね、ジェミニ』
肩に背負った水瓶からアクエリアスの声が響いた。
『貴様がウォーロックに付くのは不思議でもない。前々からウォーロック狂いで頭のイかれた女だったからな。だが、何故地球にいる? 貴様にFM王からの指令はなかったはずだ』
『愚問ですね。彼の隣こそが私の在る所です。彼が地球へ訪れる二週間前から、この星でお待ちしていました』
『……だそうだぞ、ウォーロック。愛されているな』
ここまで好戦的で相手を見下すような態度ばかりであったブラックが、同情的な目をウォーロックに向ける。嫌味抜き、純度100%の同情の眼差しだった。
そんな視線を向けられたウォーロックはと言えば、カタカタと震えながら必死にスバルを起こそうと小声で叫んでいた。
『起きてェ! 起きてくれェスバルぅ!? 今すぐこの場から逃げるんだスバルぅ!!』
「……うぅ」
もはや懇願にも近いウォーロックの呼び掛けにスバルは身動ぎするが目は覚さない。意識を取り戻しそうな気配はするが、覚醒までまだ時間がかかりそうだ。
可哀想に、とブラックがロックマンを見下ろしていると、ホワイトが苛立ち混じりの声を上げた。
「それで、あのアクエリアスとかいうのは誰なの?」
『あぁ、俺達と同じFM星人だ。訳は知らないが、ウォーロックに執着していてな。ウォーロックの行く先々に現れては付き纏っていた女だ』
「ストーカーってやつかな」
身も蓋もないホワイトの物言いにアクエリアスが否を唱える。
『ストーカーだなんてそんな、夫の動向を把握するのは未来の妻として当然の役目です』
「頭がおかしい人だってことはよく分かったよ」
『アクエリアスに付き纏われ過ぎて、ウォーロックはノイローゼになりかけていたからな』
『私の有り余る想いに酔ってしまったのでしょう』
『こういう奴なんだ、相手をするだけ時間の無駄だぞ』
疲れたと肩を落とすブラック。頭の可笑しい女には付き合い切れないと言わんばかりの態度だ。
「だったら、まともに取り合う必要はないね。さっさと始末しよう」
『同感だ』
ジェミニ・スパークがアクア・レディとハープ・ノートを排除するべくエレキソードを構える。対するアクア・レディとハープ・ノートも迎え撃つべくそれぞれ構えた。
「いくよ、アクア・レディ!」
「ん、タッグバトル、ライド・オン……!」