心を探し求める水瓶座   作:リコレクションでも嬉しい

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第14話

 シオナside

 

 

 あれからジェミニ・スパークが大規模な騒動を起こすようなことはなかった。私とミソラに手酷くやられた傷を癒しているのか、無策で挑めばまた敗北するかもしれないと考えて慎重になっているのかもしれない。

 

 まあ、双葉ツカサとしては活発に動き出したようだけど。クラスが違う癖に偶然を装ってはスバルに接触して、仲を深めようとしている。目的はロックマンに関する情報収集か、あるいはゲームの時のように友情破壊作戦でも目論んでいるのか。

 

 勿論、その目論見を看過するつもりはない。双葉ツカサが単独でスバルと接触するようなことがないよう、ここ最近は殆どスバルの傍で過ごして牽制している。スバルからは不思議そうな目で見られ、委員長やクラスメイトからは微笑ましいものを見るような目で見られ、アクエリアスには揶揄われたが仕方ない。コラテラルダメージというやつだ。

 

 私の努力の甲斐あって、今のところはスバルと双葉ツカサの関係性に大きな進展はない。気分は人の恋路を邪魔する嫌な女だけど、男の子同士だし、双葉ツカサに微かな悪意が見え隠れしているから許してほしい……いよいよアクエリアスのことをとやかく言えなくなってきたかもしれない。

 

『ふふっ、私とシオナの周波数がぴったり合ったのはやはり必然。今後とも、末永く仲良くしましょうね?』

 

 仲良くすることに否はないけど、私もやべー女カテゴリに入れるのは止めてほしい。

 

 そんな小学生生活を送りつつ、迎えたミソラのライブ当日。舞台裏を案内してもらうという約束のため、私は鬼門である早起きの試練を乗り越えてライブ会場へ向かっていた。

 

 今日はスバルの動向を見守らなくていいのかって? 私もそのあたりがちょっとネックだったんだけど、その心配はスバルに今日のライブに一緒に行かないかと誘われたことでなくなった。どうやらスバルも今日のライブに参加するつもりでチケットを用意していたらしい……四枚も。

 

 間違えて四枚予約した挙句、キャンセル方法が分からずそのまま購入してしまったそうだ。それで、まずはお隣の私を誘おうと考えたらしい。残念ながら私は既にチケットをミソラから貰っていたため、スバルの誘いはお断りしたけど。代わりに委員長達を誘ったらどう、と勧めたら迷いながらも頷いていたから、多分委員長達と一緒に来るだろう。

 

 それにしてもスバルはどうしてミソラのライブを見ようと考えたのだろうか。宇宙や科学に関連する事柄には目がないけど、音楽関連やアイドルに興味を持っているような素振りはなかったはず……。

 

 ……やっぱり、ミソラがハープ・ノートの正体だと薄々察しているのかな。同年代で音楽に深く関わっているような人間はミソラくらいのものだから、スバルが疑うのも不思議な話ではない。なら今回のライブでミソラの正体バレか、確信を持つような何かが起こるのかもしれない。

 

 何にせよ、ミソラのライブが台無しになるような事件が起きないことを祈ろう。

 

 そんなことをつらつらと考えながら歩いているとライブ会場前に辿り着いた。警備員に話を通してくれているそうだから、チケットを見せて名前を伝えれば楽屋まで案内してもらえるそうだ。

 

 警備員は何処にいるのかと周囲を見回していると、それらしき人物を見付けた。ただその人は私よりも年下であろう男の子の首根っこを掴み、外へと追い出そうとしていた。いったい何事やら。

 

 こっそりと近付いて聞き耳を立てると、どうやらミソラのファンである男の子がチケットもなしにライブ会場に忍び込もうとしていたらしい。しかも常習犯なのか、警備員に呆れられながら怒られている。

 

 それはちょっと擁護できないというか、ちゃんとチケットを用意してライブに参加してほしいとしか言いようがない。ミソラから貰った私が言っても説得力皆無だけど。

 

 ……それよりあの男の子、何処かで見たことがあるような気がする。なんだろう、ゲーム時代に登場していたのは間違いないけど、シナリオにあんな特徴的な帽子を被った男の子いたかな? 

 

『──っ、シオナ! 気を付けてください!』

 

 私が既視感に首を傾げていると、突然トランサーからアクエリアスの警告が発せられた。直後、頭上から降り注いだ眩い光が警備員と男の子を呑み込んだ。

 

「これ、って……!?」

 

 間違いない、FM星人が地球人と電波変換しようとしている。何故この場で、どちらと電波変換しているのか、などと疑問が湧き上がるが一旦横に置いておく。今は何が起きても対応できるよう、いつでも電波変換できるように身構えておく。

 

 目が眩むような閃光が徐々に収まっていく。閃光が降り注いだ場所に居たのは何も変わった様子のない警備員と、非常に見覚えのある姿に電波変換した男の子の二人だった。

 

「キャンサー・バブル……」

 

『ああ、キャンサーでしたか……』

 

 私達の目の前に現れたのはキャンサー・バブルだった。流星シリーズの1と2に登場したシナリオとは関係なくバトルできるボスなのだが、ゲームの頃は侵略目的で地球に訪れた癖に侵略らしい侵略を何一つしておらず、ベストコンボ作りとカード集めのために只管ボコっていただけで忘れてしまっていた。

 

 というか、今思い出したよ。さっきの男の子はキャンサーの電波変換の相手である挟見……挟見……ちょきちょき? 駄目だ、シナリオにろくに絡んでこないキャラクターだったから細かいところまで覚えていない。思い出したのだってキャンサー・バブルの特徴的な見た目で思い出せたようなものだし。

 

 それで……どうしようかな。ゲームのように地球侵略をせずにいるのなら放置でいいけど、積極的に侵略行為を働いたり、ロックマンを狙うようなことがあれば迷わず処す。

 

 私がキャンサー・バブルの処遇を考えていると、キャンサー・バブルが自分を追い出そうとした警備員に襲い掛かる。不味い、幾らキャンサー・バブルが子供同然の体格でも電波体に襲われたら一般人は一溜りもない。

 

「危ない……!」

 

 私が精一杯の声量で叫ぶも間に合わない。キャンサー・バブルが振り被った大きなハサミが警備員を殴り付けようとして──警備員の屈強な手が振り下ろされるハサミを普通に受け止めた。

 

「え……?」

 

 思わず間抜けな声を上げる私の目の前で、警備員は小柄なキャンサーの頭を鷲掴みするとぺいっと放り投げる。放り投げられたキャンサー・バブルは顔面から地面にずしゃあ! とダイブした。とても痛そう。

 

 生身の人間にいいようにあしらわれたキャンサー・バブルは目尻に涙を浮かべ、何やら捨て台詞を残して会場前からダッシュで姿を消してしまった……って、ええ? 

 

「逃げた……?」

 

『みたいですねぇ……』

 

 アクエリアスと二人揃ってキャンサー・バブルが消えた方向を呆然と見つめる。いやだって、電波変換しておきながら生身の人間に負けて逃げるって、どういうことなの? それでもFM星から地球を侵略しに来た戦士なの? 

 

「キャンサーって、あんな感じなの……?」

 

『元々子供っぽいところはありましたが、果たしてあれは電波変換した相手の影響なのかどうか……』

 

 アクエリアスも答えに窮するって相当だよ。どうなっているのさ、キャンサー……。

 

『どうしますか、シオナ。追いますか?』

 

 しばらく途方に暮れているとアクエリアスがキャンサー・バブルの対応を尋ねてくる。正直、生身の人間にも負けるようなキャンサー・バブルがロックマンを追い詰めるような光景も想像できないし、とりあえずは放置でいいかなぁ。

 

「……やらかしたら、お仕置きで」

 

『では、そのように』

 

 一先ずの方針を決めたので、当初の予定を優先しよう。キャンサー・バブルを追い払った警備員に近付き、チケットを見せて名前を告げる。

 

 ミソラはちゃんと私のことを警備員に伝えておいてくれたようで、警備員はにこやかに対応してくれた。キャンサー・バブルを追い払った時の鬼の形相とはまるで正反対だ。

 

 その後、私は開場前のライブ会場に入場し、警備員にミソラの楽屋まで案内してもらうのだった。

 

 

 

 

 

 

 ♒︎

 

 

 

 

 

 

 ライブ開始まであと十分程。私は関係者用に用意された席でライブの始まりを待っていた。

 

 つい先程までは楽屋で出迎えてくれたミソラに舞台裏を案内してもらっていた。前世でも経験したことのない、ライブの裏側の見学は中々に興味深いものがあった。あと、ミソラはスタッフのみんなとも仲が良くて、人気者だったのはゲームと同じで流石だと思う。

 

 唯一仲が悪そうなマネージャーも、ゲームの時ほど嫌な感じがしないというか、お金にがめつい感じはするけど人道を踏み外すような気配はしなかったので安心した。

 

 そんな舞台裏ツアーを終えて、今はライブの開始を待っている状況だ。

 

 あ、ミソラには一応、キャンサー・バブルが現れたことは伝えておいた。その後の顛末も伝えたらハープ共々目を点にしていたけど。驚くよね、私も驚いたよ。

 

 今までのFM星人はそれなりに威厳や何やらがあったのに、キャンサーは何をしているのだろうか。いや、ジェミニに並みに強い敵がポンポンと現れても困るから、ポンコツであってくれる分には有難いけど……なんというか、気が抜けそうになる。

 

 はぁ、と小さく溜め息を吐いていると不意に観客席の後ろの方で悲鳴が上がった。振り返ってみると、大勢の観客達が人間大の泡に閉じ込められて空中に浮かばされている。

 

 泡──バブルという単語で即座に思い浮かんだのはキャンサー・バブルの姿。まさかと思って観客席後方を確認してみれば、何やら鬼気迫る顔付きで暴れているキャンサー・バブルがいた。どうやって会場に侵入したかは知れないけど、戻ってきたんだ。

 

『ブクー! ミソラちゃんの歌を聞かせるブクー!』

 

「…………?」

 

 えっと、なに? ミソラの歌を聞きたいがために戻ってきて、ライブ会場で暴れているってこと? 侵略行為とかではなく? 地球に何をしにきたの、この宇宙人は……。

 

『シオナ、理由はどうあれ早く対処してしまいましょう。このままではライブが中止になってしまいますから』

 

「分かった……」

 

 キャンサーの意味不明な行動原理に宇宙を背負っていたところからどうにか意識を引き戻し、騒ぎに乗じて物陰で電波変換する。そして暴れるキャンサー・バブルを止めるべく立ち向かう。

 

「これ以上は、やめて……ライブができなくなる」

 

『誰だブクー!』

 

「アクア・レディ……暴れるなら、倒す」

 

『うるさいブクー! オレっちの邪魔をするんじゃないブクー!』

 

『妙に鬼気迫っていますね、ストレスでも溜まっていたのでしょうか……』

 

 さあ? FM星人の気苦労なんて私には分からないし、どんなストレスがあろうとミソラのライブを妨害する真似は許さない。何の罪もない観客に危害も加えているし、問答無用でぶっ飛ばしていいでしょう。

 

『くらえ、バブルポ──』

 

「──バトルカード、ホタルゲリ2」

 

『ぐええええ!?』

 

 初手から出鼻を挫く連続蹴りを浴びせる。電気属性で盲目付与のバトルカードだ。弱点属性も相まって相当に効いたはず。

 

 容赦のない蹴りにキャンサー・バブルはサッカーボールもかくやの勢いで転がっていく。何だか弱いもの虐めをしているような気がするけど、先に手を出したのは向こうだから気にしないでおこう。

 

『うぐぐ、前が見えないブク……だったら、こうしてやるブクー!』

 

 ホタルゲリの影響で前が見えなくっているキャンサー・バブルが、大きなハサミから見境なく泡を噴き出し始める。狙いを絞らない泡攻撃は無関係な観客を巻き込み、泡の中へと閉じ込めていく。

 

「まずい……」

 

 ゲームでは強力な効果の一つであった盲目だけど、無差別に暴れられては堪ったものではない。ここにはミソラのライブを楽しみに訪れたファンが大勢いるのだ。

 

『観客が邪魔ですね。どうにかキャンサーを会場の外へ追い出せませんか?』

 

「やってみる……!」

 

 要はこの場からキャンサー・バブルを会場外へ吹っ飛ばせばいいのだ。バトルカードそのものに敵を吹き飛ばすような効果はないけど、その手の芸当ができそうなカードに心当たりはある。

 

「バトルカード──インビジブル、ジャンボハンマー2……!」

 

 インビジブルで大量に吐き出された泡を擦り抜け、前が見えていないキャンサー・バブルの目の前に立つ。そして手元に出現した巨大な木製のハンマーを思いっきり振り被り──

 

「ふっとべ……!」

 

 全身全霊の力を込めて振り抜いた。

 

『ブクーーー!?』

 

 防御すらできずにハンマーの一撃を食らったキャンサー・バブルはゴルフボールもかくやの勢いで吹っ飛び、ライブ会場の天井を打ち抜いて外へと放り出された。できるかどうかは五分だったけど、目論見通り外へと追い出すことができた。

 

「よし……」

 

 会場の天井に大穴が開いてしまったけどキャンサー・バブルを外に追い出すことができたからヨシ! ……嘘です、全然良くないですごめんなさい。でも、こうでもしないと観客とキャンサー・バブルを引き離すことができなかったから。

 

「アクア・レディ! 遅くなってごめんなさい!」

 

 後で怒られるかな、と内心で恐々しているとハープ・ノートに電波変換したミソラが駆け付ける。これだけ観客席で騒いでいたら、そりゃあ来るよね。

 

「それで、キャンサーは何処に……」

 

「……あれ」

 

「あれって……わあ、おっきな穴がぽっかり」

 

 ミソラが口をぽかーんと開けて天井の大穴を見上げる。自分のライブ会場にあんな大穴が開いていたら驚くよね、ごめんなさい。

 

「ごめんなさい……」

 

「いいのいいの。ぜーんぶキャンサーの仕業にしておけばいいから」

 

 それでいいのだろうか。まあ、キャンサー・バブルがライブ会場を滅茶苦茶にしたのは事実だし、庇う理由もないからいいか。

 

「私はキャンサーを追いかける……ミソラは、ライブを開いて」

 

「一人で大丈夫?」

 

「よゆー……」

 

 観客が周囲にいないのであれば、生身の人間にすら負けるようなキャンサー・バブルに後れを取ったりはしない。バスティングレベルSで倒すことなんて赤子の手を捻るよりも簡単な話だ。

 

 この場をミソラに任せ私は天井に開いた大穴から外へ出て、吹っ飛んでいったキャンサー・バブルの後を追う。

 

 吹っ飛ばした時の感覚と角度を考えて周囲を探すと、会場近くの公園の砂場に犬神家状態で突き刺さているキャンサー・バブルを見付けた。元々そんなものは微塵も感じていなかったけど、もうちょっとこう侵略者としての威厳とか風格と出せないものだろうか……。

 

 内心でげんなりしながら公園に降り立つと、やっとのことで砂場から抜け出したキャンサー・バブルが凄まじい形相で睨んでくる。

 

『よくもオレっちを殴ったな! お前だけは絶対に許さないブクー! ロックマンと同じようにボコボコにしてやるブク!』

 

「──なんていった?」

 

『ブクっ!?』

 

 自分でもびっくりするくらいどすの利いた声が出た。威勢よく叫んでいたキャンサー・バブルがビビッて縮こまっているけど知ったことじゃない。

 

「ロックマンに……何を、したの?」

 

 このキャンサー・バブルが真っ向勝負でロックマンに何かできるとは思えない。でもさっきのライブ会場みたいに戦闘に集中できない状況を作り出したり、人質を用意すれば話は変わる。圧倒的な実力差があったとしても、心優しいロックマンなら窮地に陥りかねない。

 

『ぶ、ブクっ!? べ、別に、ちょっとライブのチケットを奪っただけで何もしてないというか、できなかったというか……ひぇ』

 

「そう……バトルカード──ライメイザン」

 

 左手に電気属性のバトルカードの中でも強力なライメイザンを装備する。その切っ先を怯えて震えているキャンサー・バブルの鼻先に突き付けた。

 

「嘘じゃ、ない……?」

 

『嘘じゃないブクー!』

 

「…………」

 

『信じてブクー!?』

 

 キャンサー・バブルが涙ながらに潔白を訴える。傍から見たら泣いている年下に激詰めしている年上女子だ。かなり酷い絵面になっている自覚はあった。

 

「はぁ……分かった」

 

 これ以上は只の弱いもの虐めでしかない。ロックマンにもろくに危害を加えられていないのであれば、私が怒る理由はミソラのライブを滅茶苦茶にしたことだけだ。その分の落とし前だけきっちり付けさせてもらおう。

 

『ブクー! ありがとうブクー……ブククッ』

 

『──ッ、離れてください、シオナ!!』

 

「え……?」

 

 ロックマンの無事を確かめて安堵したその時、アクエリアスが切羽詰まった声を上げる。訳も分からないまま、咄嗟にその場から離れようとしたけど遅かった。

 

『さっきのお返しだブクー! くらえ、タイダルウェーブ!』

 

「しまっ……!?」

 

 足元から噴き出した瀑布に呑み込まれ、ろくな抵抗もできずに押し流される。そのままの勢いで公園の遊具の一つに身体を強かに打ち付けた。

 

「かふっ……!?」

 

 衝撃に意識が飛びそうになる。攻撃で吹き飛ばされて構造物に衝突するとこんなにも痛いなんて、知らなかった。タイダルウェーブのダメージにプラスされる形で追撃されたようなものだろうか。こういったところもゲームと現実の差異の一つだ。

 

 なんて、冷静に考えている場合じゃなかった。早く、体勢を立て直さないと……! 

 

『シオナ! 大丈夫ですか!?』

 

「なん、とか……」

 

『ふっふっふっ、油断したブクね。このまま始末してやるブクよ、アクア・レディ!』

 

 全身を貫く痛みに呻く私をキャンサー・バブルが上から見下ろしてくる。このポンコツカニめ、ちょっと自分が優勢になったからって調子に乗りおって……もう弱いもの虐めだとか知らない。泣いて謝るまでボコす。

 

 内心でキャンサー・バブルの処遇を決めた瞬間、視界の端で青い閃光が瞬いた。

 

「やめろ、キャンサー!」

 

『ブクー!? ろ、ロックマン! どうしてここに!?』

 

 何処からともなく駆け付けたロックマンがキャンサー・バブルに向けてロックバスターを撃ち込む。私を相手に勝ち誇っていたキャンサー・バブルにそれを回避する余裕はなく、全弾見事に的中して大きく蹌踉めいた。

 

 その隙を逃す私ではない。

 

「ライメイザン……!」

 

『ぎょえーーー!?』

 

 加減も容赦もなくライメイザンを振り抜く。ロックバスターに続けてのダメ押しは致命的だったのか、キャンサー・バブルは今日日聞かないような悲鳴を上げると電波変換を解除、操っていた男の子を残し尻尾を巻いて逃げていった。

 

「大丈夫だった、アクア・レディ?」

 

「ん、大丈夫……助けてくれて、ありがと」

 

「困った時はお互い様だよ」

 

『ジェミニとはいい勝負していた癖に、キャンサーには負けるのかよ。変なやつだな』

 

「ちょっと、ウォーロック……」

 

 辛辣な物言いのウォーロックをスバルが嗜めるけど、仰る通り過ぎて何も言い返せない。穴があったら入りたいくらいには情けなかった。

 

「ちょっと、油断しただけ……負けてない」

 

 負け惜しみにしか聞こえないけど、実際あの状態からでも負けるつもりは毛頭なかった。調子に乗って迂闊に近付いてきたところを不意打ちとか、大振りを仕掛けてきそうならバリアかインビジブルで透かしてカウンターとか、勝ち筋はいくらでもあったのだ。

 

「ボクも油断しちゃって、やられちゃったから。気持ちは分かるよ」

 

 気恥ずかしそうに笑うロックマン。油断した理由はキャンサー・バブルが余りにも子供っぽかったからとかそんなところだろう。気持ちは大いに分かる。

 

 ロックマンの意見に胸中でうんうん頷いていると、小さな呻き声が聞こえてきた。キャンサーに乗っ取られていた男の子が目を覚ましたらしい。

 

「んあ? ここは何処……?」

 

 男の子──挟見は起き上がると周囲をきょろきょろと不思議そうに見回す。どうやら取り憑かれていた間の記憶はないようだ。

 

 電波変換が解除された挟見に私達の姿は見えない。わざわざ姿を見せる必要もないので、私とスバルも周波数はそのままだ。挟見には何も知らないままで帰ってもらおう。

 

「あれ、これって──」

 

 ふと挟見は自分の手に握り締められていたチケットを見て、驚愕に目を見開く。そう言えば、キャンサーがロックマンからライブのチケットを奪ったとか言っていたような……。

 

「あ、ボクのだ」

 

 案の定、挟見が手にしているチケットはロックマンことスバルから強奪した物のようだ。でもそんなこととは知らない挟見は降って湧いたミソラのライブチケットに小躍りし始めた。

 

「やった! これがあればミソラちゃんのライブが見れる! 今すぐ行くからね!」

 

 心底嬉しそうな笑顔を浮かべて挟見はライブ会場へ走り出そうとするけど、それは看過できない。

 

 挟見にも私の姿が見えるように周波数を変えて、走り出そうとしたその手を掴む。何処からともなく現れた私に挟見は驚いて声を上げた。

 

「な、なんだよお前……」

 

「そのチケットは、ダメ……盗まれたもの」

 

「知らないよ! オレが持ってるんだから、オレのでいいじゃんか!」

 

「ダメ……盗んだチケットで応援されても、ミソラは喜ばない」

 

「うっ、それは……」

 

 痛い所を突かれたのだろう、挟見は苦しそうに顔を歪めて肩を落とす。

 

「あの、ボクは別にいいから……」

 

 いつの間にか隣に並んでいたロックマンが挟見を庇うような発言をするけど、静かに首を振って否定する。挟見はルールを破って会場に忍び込む常習犯らしいから、甘い対応をしたら今後の挟見にとってもよくない。ちゃんと叱らないとダメだ。

 

「……ごめんなさい」

 

「ん……それで、いい」

 

 渋々ながらも挟見はチケットを差し出してきた。ここで自己中心に開き直るような子だったらチケットだけ取り上げていたけど、きちんと善悪の区別が付いて反省できるようなので少しだけサービスしてあげよう。

 

 差し出されたチケットを受け取り、そのままロックマンに渡す。そして代わりに私のチケットを、落ち込んでいる挟見に差し出す。

 

「あげる……」

 

「え、いいの!? しかもこれ、関係者席のやつだし……うわぁ、ミソラちゃんのサインまである!?」

 

 私が差し出したチケットを見て、挟見は興奮を抑え切れないといった様子で顔を近付けてくる。やっぱり相当にプレミアな品だったんだね。

 

「その代わり、約束して……これからは、ルールを守って、ミソラの応援をするって」

 

「分かった! オレ、ちゃんとチケットも取るし、会場に忍び込んだりもしない!」

 

「ん……ライブ、楽しんできて」

 

「ありがとな、姉ちゃん!」

 

 受け取ったチケットを宝物のように握り締め、挟見は私に手を振りながら公園を出ていった。

 

「優しいんだね、アクア・レディ」

 

「別に……」

 

 またキャンサーにでも取り憑かれてミソラのライブを台無しにされては堪らない。それに、警備員の口振りからしてルール破りの常習犯だったみたいだし、誰かが言わないとずっと直らないままだっただろうからね。チケットを上げちゃったのは、ちょっとサービス過剰だったかもしれないけど。

 

「じゃあ……私は、いくから」

 

「あ、待って。これ、上げるよ」

 

 そう言ってロックマンが差し出したのは取り返したばかりのチケットだ。

 

「ボクはそこまでして見たい訳じゃないから」

 

「要らない……私は、特等席から見るから」

 

 チケットがなくてもライブを鑑賞することはできる、電波変換すればね! ルールを守れと言った側からルールを破るなよという話だが、そこはほら、誰にも迷惑を掛けていないということで一つ許してほしい。

 

 あと、そのチケットを受け取ってライブを鑑賞したら一発で正体がバレる。ロックマンに、スバルにそんな意図はなさそうだけど、結果的に正体が露呈してしまったら同じだ。

 

 それに──

 

「──行って……確かめたいこと、あるんでしょ?」

 

 ロックマンの目的はライブ鑑賞ではなく、響ミソラがハープ・ノートの正体か否かを見極めること。だったら尚のこと、そのチケットは自分で使うべきだ。

 

「やっぱりハープ・ノートの正体は……」

 

「…………」

 

 流石にあからさまな言い回しだったかな。でも、ジェミニ・スパークを退けてなお、お互いの正体を知らない状態なのは危うい気がするし、困った時は助け合うという話にもなったのだから、多少強引にでも正体はバラしておいた方がいいはず。

 

「じゃあ……」

 

「あ、待って──」

 

 ロックマンが呼び止めようとするけど無視してその場を離れる。余り長く話していては正体がバレかねないし、ミソラのライブも終わってしまう。ごめんね、ロックマン。

 

『ふふっ、今日のシオナはいつになくお姉さんしていましたね』

 

 失礼な、これでも中身は立派なお姉さんである。おばさんとか言ったら容赦なく処すからそのつもりで。

 

 それにしても、オヒュカスが来ると思っていたらまさかのキャンサー来襲とは予想だにしていなかった。この調子だと、ゲームではシナリオに絡んでこなかった他二人も、敵対する可能性を視野に入れておいた方が良さそうだ。

 

 面倒だなぁ、と思いつつ私はライブ会場に戻るのだった。

 

 その後、電波変換したまま私はミソラのライブを楽しませてもらった。ライブはキャンサーによるトラブルがあった後とは思えないくらいの大盛り上がり。私からチケットを貰った挟見や委員長達がライブに白熱している姿も確認できた。

 

 スバルはと言えば、ライブを楽しむというよりはミソラ本人をずっと観察しているような様子だったけど、それなりにライブ自体も楽しんでいるように見えた。後々に音楽鑑賞やライブ鑑賞が趣味の一つになる可能性もあるかもしれない。

 

 そんなこんなでミソラのライブは無事に幕を下ろしたのだった。

 

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