心を探し求める水瓶座 作:リコレクションでも嬉しい
FM星から来訪したウォーロックと共に、地球侵略を目論むFM星人や電波ウイルスと戦うロックマンことスバルは、時折発生する電波ウイルスによる細々とした事件を解決しつつ比較的穏やかな日常を過ごしていた。
今日もいつもと変わらない穏やかな一日が始まると疑わず、スバルはお隣さんで幼馴染のシオナと登校するために家を訪ねていた。しかし──
「おかしいな。いつもなら、そろそろ返事があるんだけど……」
呼び鈴を何度か鳴らしても反応が返らず、スバルは困ったように首を傾げる。
シオナが朝に弱いことはスバルもよく知っている。しかしここ最近は寝坊なんて一度もなかったし、たとえ寝過ごしていたとしても呼び鈴を何度か鳴らせば起きてきた。だが今日は反応の一つもない。
「うーん、どうしよう。このままじゃ遅刻しちゃうし……」
『だぁ、仕方ねぇな。オレがちょっと様子を見てきてやるよ』
「えー?」
宇宙人で電波生命体であるとはいえ、ウォーロックは男だ。存在を感知できなかったとしても、寝起きの姿を見られるのは嫌だろう。
しかしこのまま手を拱いていても埒が明かない。内心でシオナに謝りつつ、スバルはウォーロックに様子を見てくるようにお願いした。
『おう、じゃあちょっくら見てくるわ』
ウォーロックは壁などあってないように擦り抜け、家の中へと入っていった。流石は電波生命体である。スバルも電波変換すれば壁の擦り抜けくらいできるが。
ウォーロックがシオナの様子を見に家の中へ侵入しておよそ一分。やや焦った様子のウォーロックがスバルの元へと戻ってきた。
『オイ、スバル。シオナのやつ、部屋の真ん中で倒れてやがるぞ』
「うそっ!?」
『嘘なもんか、自分で確かめてみろ』
そう言われては確かめない訳にもいかない。スバルは即座にウォーロックと電波変換するとロックマンに変身、シオナが倒れているという部屋へと直行した。
シオナはリビングの真ん中で倒れ込んでいた。ロックマンは慌てて駆け寄り、小柄な幼馴染の身体を優しく抱き起こす。
「シオナ? 大丈夫、シオナ?」
「…………んぁ?」
ロックマンが呼び掛けるとシオナは僅かに身動ぎして薄く瞼を開く。気怠げに開かれた瞳は熱っぽく潤んでいた。
「ロック、マン……? どうして、ここに……」
「あ、えっと……君の友達から頼まれて、様子を見に来たんだよ」
「そぅ……」
苦し過ぎる言い訳を聞いて、しかしシオナは突っ込む気力もないのかそのまま黙り込んでしまう。素人目に見ても体調が良くないのは分かった。
「ごめん、ちょっと触るよ」
ロックマンが壊れ物を扱うかのような手付きでシオナの額に手を当てる。電波変換している状態でも伝わってくる高熱に、ロックマンは驚いて目を見開いた。
「酷い熱だ。早くお医者さんに診てもらわないと。あと、お父さんとお母さんにも連絡を──」
「──しなくて、いい……意味、ない」
「シオナ……」
高熱に魘されながらも必死に訴えるシオナにロックマンは掛ける言葉を失う。シオナの両親が滅多に家に帰らないことは知っていたが、スバルが知っている以上に海鳴家の親子には大きな溝が生まれていたらしい。
「……分かった。じゃあ、お隣さんの星河さんに伝えるのはいいかな?」
「それ、は……迷惑に、なるから」
「大丈夫だよ。ボクに様子を見てきて欲しいって頼んだのは、その星河さんちのスバル君だから」
頼むも何もスバル本人であるのだが、今は話がややこしくなるので黙っておく。シオナも状況を理解しているが指摘する気力もないのか、ぐったりとした様子で視線を彷徨わせた。
「…………お願い」
たっぷり一分近く悩んだ末に、シオナは星河家に頼ることを決めた。それでも申し訳なさは拭えないのか、心苦しそうな表情でロックマンを見上げていた。
「うん、任せて。家の鍵だけ借りてもいいかな?」
「……うん」
小さく頷きだけ返すとそのままシオナは目を閉じてしまう。一人で立ち上がることもままならない程に体調が悪かったのだろう。
ロックマンは丁重な手付きでシオナをソファに寝かせるとすぐさま玄関に向かい、鍵を借りた上で外に出た。そして電波変換を解除すると自宅に飛び込み、あかねにシオナの状況を伝えて助けを求めた。
両親が海外出張で小学生にして一人暮らしをしているシオナを気に掛けているあかねは直ぐに駆け付け、熱に魘されるシオナを病院へと運び込んだ。幸いにも風邪を拗らせただけとの診断で、重い病気の類ではなく大事なかった。
その後、シオナは自宅にて療養することになった。しかし両親は遠く離れた海の向こうで、看病はあかねが請け負うことになった。というよりは、一人で大丈夫と言い張るシオナをあかねが説き伏せた形だが。
一通りシオナの世話を見て、体調が落ち着いたところであかねは一度自宅へと戻った。すると学校に居るはずのスバルがリビングでそわそわとした様子であかねの帰りを待っていた。
「スバル? 学校はどうしたの?」
「最近はちゃんと登校してたから、今日ぐらいはいいでしょ。それより、シオナの具合はどう?」
「うん、お薬も飲んで大分楽になったみたい。今はぐっすり眠っているところよ」
「そっか、よかった……」
ほっと胸を撫で下ろすスバル。倒れているシオナを最初に見た時は心臓が止まるかと思ったが、大事ないと確認できて安心したのだ。
「ねえ、シオナのお父さんとお母さんには……」
「連絡したわよ? 黙っている訳にはいかないもの」
「だよね」
ごめん、とスバルは心の内でシオナに謝る。だがあかねの行動は何一つ間違っていない。本来であれば面倒を見るべきはシオナの両親であり、スバルの母であるあかねではないのだ。
「でも、二人とも娘なら一人でも大丈夫だからって、それだけで。診察代とか、迷惑料だとかってお金だけ振り込まれちゃったのよ……」
「そんな、どうして……」
困ったように頬に手を当てるあかねと、シオナの両親のあんまりな対応にショックを受けるスバル。いくらシオナが一人暮らしができる程に自立していたとしても、その対応は無責任が過ぎるしシオナに対して冷淡が過ぎるだろう。
スバルの記憶の中にいるシオナの両親はそこまで情に欠けたような人柄ではなかった。むしろ親切で子供を大切にしそうな印象の夫婦であったはずだ。
「家族が欠けることなく揃ってるのに、どうしてかしらね……」
ぼそっと、あかねが溢した言葉には羨望の色が滲んでいた。数年前に夫である大吾を宇宙ステーションの事故で亡くしてから、あかねはずっと女手一つでスバルを育ててきた。家族みんな揃って幸せになるという叶わない願いを胸に抱きながら、気丈に振る舞ってきたのだ。
そんなあかねにとって、誰一人欠けることなく生きているのにバラバラに暮らしている海鳴家の在り方には、前々から思うところがあったのだろう。
「母さん……」
「ごめんなさいね、スバル。母さん、ちょっと買い出しに出かけてくるわ」
やや暗い顔で俯いていたあかねは、スバルの気遣うような視線にはっと顔を上げると、取り繕ったように表情を明るくさせて買い物に出掛けていった。
『それで、どうするんだ、スバル?』
「うん、とりあえず時間を置いて様子を見にいくよ……って、着信? うわっ、委員長からだ」
まず間違いなく学校をサボったことを咎められると直感し、スバルは嫌そうに顔を歪める。しかし無視しても明日が怖いと思い、渋々の体でトランサーの通話ボタンをタッチした。
「ちょっと星河君? 今日はどうして学校をサボったのかしら? ちゃんと納得できる理由があるんでしょうね?」
開口一番に不機嫌顔でサボりの理由を尋ねてくるルナにスバルは言葉に詰まりながら答えようとする。
「ええっと、その、実は……」
どうにか言い訳を絞り出そうとスバルが四苦八苦していると、不意にトランサーの画面に映っているルナがくすりと笑みを零した。
「なーんて、分かっているわよ。海鳴さんの看病のためでしょう? 先生から体調不良でお休みの話を聞いてぴんときたわ。彼女、一人暮らしだって話だったから、星河君が面倒を見ているんじゃないかしらって」
「うん、まあそんなところ」
「じゃあ、今日のサボり多めに見てあげましょう」
「えっと、ありがとう?」
いったいルナはスバルの何なのだろうか、と思うものの余計なツッコミは藪蛇になると考えてスバルは反論を飲み込んだ。
「それより、海鳴さんの具合はどうかしら? お見舞い序でに今日の授業ノートを渡そうと思うのだけど、お邪魔しても大丈夫そう?」
「今は薬を飲んで寝ているところだから、夕方くらいなら大丈夫だと思う」
「そう、じゃあそれくらいの時間にお邪魔させてもらうわね」
「うん、シオナも喜ぶと思うよ」
「この私が直々にお見舞いに行くんだもの、元気になってもらわないと困るわ。それじゃあ、また後で」
プツッと通話が途切れる。怒られずに済んで良かったと思いつつ、わざわざ見舞いに足を運んでくれるルナの優しさにスバルは密かに感謝した。実の家族が側に居てくれないシオナにとって、見舞いに訪れる友達の存在はきっと嬉しいもののはずだ。
無論、幼馴染であるスバルも率先してシオナの面倒を見るつもりだった。父親を亡くして一番辛い時期に、あかねと一緒に寄り添い続けてくれたシオナには返しきれない程の恩があるからだ。
実の両親が寄り添ってくれなくても、シオナにはちゃんと側に居る人達がいる。それが少しでも伝わればいいな、とスバルは思うのだった。
♒︎
シオナside
あぁ、情けない。一人でも暮らしていけると息巻きながら、体調崩して倒れた挙句にスバルとあかねさんに迷惑掛けてしまった。最悪だ、罪悪感で吐きそう。
『ここ最近、ウイルス退治やFM星人との戦いで忙しかったですから。疲れが溜まっていたのでしょう。仕方のないことです』
それを言ったら私以上に精力的に活動しているスバルがけろっとしているのはどういうことなのだろうか。やはり精神年齢の差か……これが若さというものか。単純に私がもやしなだけかもしれないけど。
それにしても自力で起き上がることすらできなくなるとは思わなかった。スバルが、というかウォーロックが気付いてくれたお陰で無事に済んだけれど、本当に一人暮らしだったら詰んでいたところだ。
『その時は、私が救急車を呼んでいましたよ。それくらいはできますので』
うん、そうだね。実際、スバルとウォーロックが異変に気付かなかったらそうなっていたと思う。実の両親よりもよっぽど頼りになる存在だよ、アクエリアスは。
両親への連絡は、あかねさんが駆け付けた時点で諦めた。責任ある大人が子供の我儘で実の両親への連絡を怠るはずがない。この点に関してスバルをとやかく言うつもりはない。
むしろ私の両親が無責任でごめんなさいと言いたい。あかねさんだって、普段は明るく振る舞っていても心の内で旦那さんのことをずっと気に掛けているだろうに、私みたいな愛想もなくて可愛げの子供の面倒を見ることになって本当に申し訳ない。
あー、やばい。思い出したら罪悪感で本当に吐きそう。
両親の冷めた対応に関しては、想定していたのでそこまでのショックはない。後から生存確認がてらの連絡はあったけど、それも普通の親子らしさを装った定型文みたいなものでちょっと笑ってしまった。無理に取り繕うくらいなら放置すればいいのにね。
まあでも、これも自業自得みたいなもの。あの人達だって、私が真っ当な子供だったら、普通に愛情を注いで、星河家にも負けないくらいの仲良し家族ができていたはず。それもこれもみんな、私が──
『──シオナ。体調を崩して弱気になっていますね。もっと楽しいことを考えましょう』
楽しいこと? うーん、そうだなぁ……あぁ、委員長達がお見舞いに来てくれたのは素直に嬉しかったなぁ。熱が下がり切ってなくてろくにおもてなしもできなかったけど、いつでもどこでも変わらない三人組の明るさには元気を分けて貰えた気がする。
あと、ミソラがお見舞いに現れたのは驚いた。アクエリアスだよね、ミソラにメッセージを送ったのは?
『ええ、シオナが風邪を引いて寂しそうで死んでしまいそうと送ったら、飛んできてくださいました』
余計な、一文を、付け加えんで宜しい。ふと目を覚ました時に、国民的アーティストが目の前にいた私の気持ちを少しは考えて? 何故、自分の家で二度もドッキリを食らわなければならないのか。
でもまあ、わざわざお見舞いに来てくれたのは本当に嬉しかったし、ミソラ即興の子守唄などという贅沢を味わえたし、私は本当に幸せものだなぁ……。
後は、そう。スバルことロックマン。熱が一番酷いタイミングだったからスルーしてしまったけど、焦っていたにしても迂闊が過ぎない? スバルに頼まれたって、つまりはスバルとロックマンの間に繋がりがあると認めているようなものだよ。
私だからいいものを、これがサテラポリスだとか五陽田警部にでも知られたら面倒な事この上ないことになるだろうに。私の口から情報が漏れることは絶対に、口が裂けてもないから大丈夫だけど。
でも、正体バレに気が回らない程、私を心配してくれていたのなら……ちょっと嬉しいかもね。
あとは、えっと……あー、やばい。眠くなってきた……。
『疲れてしまったのでしょう。ゆっくりお休みなさい、シオナ』
うん……そう、する。でも、後一つだけ。
ありがとう、アクエリアス。私の大切な友人で、大事な家族……あなたのお陰で、私は孤独じゃなくなった。本当に、感謝……してるから……。
『えぇ、分かっていますよ。私も、シオナには心から感謝していますから』
よかった……じゃあ、おやすみなさい……。
『──私の願いが成就するその時までは、優しい夢の中で心安らかに眠りなさい』
◆
──翌朝。
昨夜の時点で熱も下がり、学校にも行けると宣言していたシオナを迎えにいくべく、スバルはいつもより十分程早く家を出た。そしてすぐに海鳴家の門扉前に屯する見慣れた三人組を発見する。
「あら、今日は早いじゃないの、星河君」
「星河も海鳴の迎えだよな?」
「毎日マメですねぇ。いえ、毎日一緒に登校しているボクらも大概ですけど」
海鳴家の門扉前に集まっていたのは委員長達だった。
「うん、今日は行けそうって言ってたから。委員長達はシオナを心配して?」
「そうよ。お友達……いえ、支援者を心配するのは当然でしょう?」
「わざわざ言い直す必要あったのか?」
「シッ、委員長は俗に言うツンデレというヤツなのです。星河君の前で素直に友達と認めるのが恥ずかしかったんですよ、きっと」
「そこ二人、ちょっとお黙りなさい」
「ウスッ!」
「はいっ!」
「あははっ……」
コントみたいな三人のやり取りにスバルは思わず笑いを零すが、キッとルナに睨まれてそそくさと目を逸らした。
「まあいいでしょう。早く海鳴さんを呼んで登校しましょうか」
「うん、じゃあ今日は委員長に任せるよ」
「任せなさい。この私が海鳴さんを呼び出して差し上げますわ」
呼び鈴を鳴らすだけなのにルナはいったい何を喚び出そうとしているのだろうか。疑問に思いながらもスバルは矢鱈とやる気に満ち溢れたルナを見守った。
ルナが呼び鈴を鳴らす。家の中から電子音のチャイムが響き、その数秒後に玄関の鍵が開く音が聞こえた。そしてゆっくりと玄関扉が開かれる。
開かれた玄関扉からひょこっと顔を覗かせたのは随分と顔色の良くなったシオナだ。シオナは玄関前の大所帯を見て僅かに目を開きながら、荷物を詰めた鞄を片手に外へと出てきた。
「おはよう……?」
「おはよう、海鳴さん。体調はどうかしら?」
「ん、大丈夫……みんなで、お迎え?」
「支援……お友達を迎えに来るくらい当然のことよ」
「今度は何で言い直したんだ?」
「海鳴さんだと言葉をそのまま受け取られると思ったのでしょう。ケースバイケースというやつです」
物知り顔で解説するキザマロに納得顔のゴン太。委員長が密かにこめかみに青筋を立てていることなど、二人は露ほども知らなかった。
そんな三人の気の抜けそうなやり取りを見たシオナは楽しそうに目元を微かに緩める。こんな日常の他愛ないやり取り一つでも、シオナにとっては楽しい思い出の一つだった。
「ありがと、委員長……ゴン太とキザマロも、それからスバルも……いつも、ありがと」
いつになくご機嫌な様子でお礼を口にするシオナ。スバル程の付き合いの長さがなくとも分かる、シオナなりの精一杯の微笑みに委員長達は目を丸くするが、間もなく屈託のない笑顔で返した。
それから一行は肩を並べて学校への道を往く。五人で登校する姿は遠からず仲良し集団としてコダマタウン内でも知られるようになり、校内でも五人揃って集まっている光景がよく見られるようになるのだった。