心を探し求める水瓶座   作:リコレクションでも嬉しい

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令和の時代に流星シリーズ好きが集まって嬉しい……!


第16話

 シオナside

 

 

 コダマタウン内に幾つかあるショッピングモールの一つにて、私は待ち合わせの相手を待っていた。待ち合わせの相手は、なんと今を時めく国民的アーティストこと響ミソラである。

 

 今日はミソラへのお礼でショッピングに付き合うことになっていた。風邪で寝込んでいた時に、忙しいスケジュールの合間を縫ってまでお見舞いに来てくれたことへのお礼だ。ショッピングを指定したのはミソラである。

 

 気心知れた女友達とショッピングをしてみたいとのことで、私でよければ一日中だろうと付き合うと二つ返事で返した次第だ。私のもやしボディがバイタリティ溢れるミソラのショッピングに一日付き合い切れるかは考えないものとする。

 

 場所の指定は私がした。候補にはヤシブタウンも入っていたのだが、時期的にあそこに行くと漏れなくオヒュカスが出現しそうなので止めた。無難に近場のショッピングモールに決めました。

 

 ちなみにアクエリアスは別行動、スバルとウォーロックの監視もとい見守り……もう監視でいいかな。取り繕ったところでやっていることは同じだし。

 

 何かあれば呼ぶか戻るので、ミソラとのショッピングを心置きなく楽しんできてと送り出されてしまった。風邪で寝込んで以来、アクエリアスのオカンパワーが留まるところを知らない気がする。本当の母親のように思えてきたよ、宇宙人だけど。

 

 待ち合わせ十分前。実は今日が楽しみで二十分も早く来てしまったのだが、ちょっと早すぎたかもしれない。なお、漫画やアニメであるようなナンパはない。迷子の心配をされて声は掛けられたけど、三回も……。

 

 ちょっとさぁ、失礼じゃないかなぁ? 私がちんちくりんで心細そうに広場に突っ立っているのが悪いのかもしれないけど……。

 

 小さく溜め息を吐いていると、不意に背後から伸びた手に目隠しされた。こ、このシチュエーションは……!? 

 

「だーれだ?」

 

「……だれ?」

 

「えー、ひどーい! この国民的アーティストの声を忘れちゃったの?」

 

「冗談……ミソラ」

 

「ぴんぽんぴんぽーん!」

 

 名前を呼べば、目元を覆っていた手を退けてミソラが正面に回ってくる。その口元には悪戯っぽい、天真爛漫な笑みが浮かんでいた。

 

 おぉ、よもやミソラにこんなべたなシチュエーションをしてもられるとは思わなかった。しかもこのやり取り、本来ならスバルが受けるはずだったものだ。なんかごめんね、スバル。

 

「一度やってみたかったんだよね、これ。ドラマとかでは何回かあるんだけど、現実ではどうなのかなって」

 

「……不意打ちなら、もっと驚く」

 

 実際、スバルは何の予告もなくミソラにこれをされて大層驚いていた。私の場合はミソラと待ち合わせしていたから、驚くことも迷うこともなく相手がミソラだと分かってしまったので驚きは殆どなかったけど。

 

「じゃあ今度は予告なくやるね?」

 

「やめて……」

 

 そんなことをされたら心臓が麻痺してしまう。麻痺するのはハープ・ノートの攻撃だけにしてほしい。エネミーとしてのハープ・ノートは攻撃全部に状態異常付与があったから、滅茶苦茶に厄介だった記憶がある。

 

 どーしよっかなー、などと意地悪に笑うミソラ。くそぅ、顔がいいし可愛いから強く言えない。むしろコミュ能力圧倒的弱者の私が丸め込まれる未来しか見えなかった。

 

「じょーだんだよ。シオナが本気で嫌がることはしないから。ほら、今日だってシオナのお願い通り、簡単に変装もしてきたし」

 

「ん、ありがと……」

 

 そう、本日のミソラは軽く変装している。具体的にはいつものフードを被り、お洒落なハートサングラスをしている。それでも溢れ出る美少女オーラは隠し切れていないが、響ミソラだとは早々気付かれないだろう。

 

 国民的アーティストを自称する割に、ミソラは自分がとんでもなく人気者であることの自覚がすっぽ抜けることがある。それによって引き起こされるのはミソラファンによるパニックである。ゲームでも突如として出没したミソラによってコダマタウンが大騒動に見舞われたのだ。

 

 此処でも同じだ。何の変哲もないショッピングモールにミソラが変装もせずに現れようものならあっという間にファンに囲まれ、ショッピングを楽しむなんて夢のまた夢である。それを危惧して態々変装するようにお願いしたのだ。

 

 変装を頼んでおいてよかったと内心で安堵していると、ミソラが自分の付けているサングラスとデザイン違いの星型サングラスを差し出してきた。

 

「はい、じゃあシオナも付けてね」

 

「え……?」

 

「え? じゃないよ。私だけ付けてたら目立つでしょ?」

 

 それはそうかもしれない。しかし何でも可愛く着こなせてしまうミソラならまだしも、無表情無愛想を地でいく私にこんなお洒落サングラスが似合うだろうか。

 

 なんて躊躇っていたら視界がちょっと暗くなる。ミソラが隙を見て私にサングラスを掛けたのだ。

 

「よし、これでお揃いだよ」

 

「……ん」

 

「すっごい不服そう?」

 

「……だって、似合わない」

 

「そんなことないよ。似合ってるし、ちゃんと可愛いよ」

 

「…………」

 

「あれ、もしかして照れてる?」

 

 そりゃ照れるよ、超絶美少女に臆面もなく可愛いだの言われたらさぁ! 自分の見た目と言葉がどれ程の威力を秘めているか、少しは考えて欲しいわ。

 

 必死に心の平静を保とうとしていると、ミソラが何が嬉しいのかくすくすと楽しそうに笑い出した。

 

「えへへ、楽しいなぁ。同年代の女の子とこういうやり取りすることなかったから。同業の女の子達は競合相手というか、みんな身構えちゃって気兼ねないやり取りなんてできなかったし……本当はお互いにもっと協力し合ったり、手を取り合いたいんだけどなぁ」

 

 あぁ、そうか。この頃から既にミソラはこの手の悩みを抱えていたのか。

 

 ゲームにおいてミソラは裏方のスタッフにも気を配れる描写があって、裏方含めた大勢のスタッフから慕われていた。それはこの前のライブで舞台裏を見学した時にも感じた。スタッフ全員がミソラのために全霊を尽くしている、そんな熱い空気を感じられたから。

 

 反面、同年代との関係性はどうかと言えば、ミソラの反応からして中々上手くいっていないのだろう。

 

 それも仕方ない。ミソラは国民的人気を誇るアーティストでトップスターだが、同業者の女の子達からすれば憧れ以上に競い争う相手だ。手を取り合って仲良しこよしは心情的にも立場的にも難しいだろう。

 

 それらの事情を全て飲み込んだ上で手を取り合えるのは、それこそスズカくらいなものだろう。あの子は優しいだけでなく芯がしっかりしているし、太陽みたいに眩しいミソラを前にしても折れていなかった。彼女なら、ミソラの求める同年代のやり取りもきっとできるはずだ。

 

 とはいえ私からそれを言うのは余りにも不自然だし、自然に巡り合うのを待った方がいいかな。変に介入して拗れたら目も当てられないしね。

 

 だから今は、今の私にできることをやろう。

 

 微かに表情を曇らせたミソラの手をぎゅっと握る。

 

「──いこ、ミソラ」

 

「──! うん!」

 

 花も恥じらう満面の笑みで頷くミソラの手を引き、私はミソラと共にショッピングの旅へと繰り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 ♒︎

 

 

 

 

 

 

 ミソラとショッピングモールを巡ることしばらく。バッグやポーチ、服やちょっと小洒落たアクセサリーなどを見て回った。

 

 やはりというか、ミソラも委員長に負けず劣らず服や小物のセンスが良い。その中でも傾向を上げるのなら、ミソラは可愛くてファンシーなものが好きらしい。特にピンク色には目がないようだった。

 

 これがいい、あれが可愛い、なんて感想を言い合いながらウィンドウショッピングを楽しみ、時折気に入った小物を衝動買いしたりしながら過ごし、今は休憩がてらベンチに座ってソフトクリームを食べている。

 

「ん〜、冷たくて美味しぃ〜。歩き回った身体に沁みるねぇ」

 

「ん、うまっ……」

 

 殆どずっと歩きっぱなしで疲れた身体に冷たいソフトクリームが堪らない。こうやってウィンドウショッピングして、思い付きで食べ歩くのも悪くなかった。ミソラも楽しんでくれているようで何よりだ。

 

 ちびちびとソフトクリームを食べていると、不意に目の前を男女の二人組が通り過ぎた。女性は品のあるお淑やかそうな見た目で、綺麗な人ではあるけど特に何かある訳でもなかった。ただ、男の方に強烈な既視感を覚えた。

 

 浅黒い肌に顔に真一文字の傷跡。そして狼のように鋭い目付き……記憶に違いがなければ、彼は確かウルフの電波変換相手である尾上十郎だ。

 

 尾上十郎はFM星人であるウルフと電波変換し、ウルフ・フォレストというボスとしてゲームに登場したキャラクターだ。といってもシナリオに絡む事はなくて、キャンサーと同じで隠しボスのような立ち位置だったけど。

 

 挟見は一目で思い出せなかったのに、何故尾上十郎は思い出せたし覚えているのかって? だって彼、三作目ではちょろっとシナリオ内で登場したから。三作目ではリストラされていたキャンサーとは違うのだよ。

 

 それにしても……誰だろう、あの女の人。恋人かな? もしかしてデートの最中だったりして……何にせよ、警戒はしておいた方がいいかもしれない。この前のキャンサーみたいに、突然ウルフに憑依される可能性も否定できないし。

 

 問題は、今この場にアクエリアスがいないこと。今頃はスバルとウォーロックの監視に精を出しているだろうから、もしもの事態が起きた時にすぐに対処ができない。まさか私の方で問題が起こるかもしれないとは思わなかった。

 

 幸いにも今のところ尾上十郎が暴れ出すような気配はない。隣の女性と何やら仲睦まじげに会話を交わしながら、近くの店舗へと消えていった。そのまま甘酸っぱいデートで終わってください、お願いします。

 

 内心で祈っていると、賑やかな声が吹き抜けフロアの下から聞こえてきた。ミソラと顔を見合わせて下の階を覗くと、何やらゼッケンを付けた大勢の人達が集まっていた。

 

「何かのイベントかな?」

 

 大勢の集まった人達を見てミソラが首を傾げる。流石に今日、どんなイベントが開催されるかまでは私もリサーチしていなかったので分からない。

 

 ミソラと揃って疑問符を浮かべていると、不意に私のトランサーがぱかりと開いた。

 

『彼方では今、ボールで的当てチャレンジなるイベントが開催されているのです』

 

「アクエリアス……どうして、此処に?」

 

 スバルとウォーロックを監視しているはずのアクエリアスが、何故か私のトランサーに戻ってきていた。

 

『実は彼方のイベントの景品が最新型の小型電波望遠鏡という品で、幼馴染君はそれを獲得するためにこの場へ』

 

 あ、なるほど。つまりあの人混みの中にスバルがいるのね……。

 

 アクエリアスが戻ってきてくれて良かったと思う反面、この場にロックマンとハープ・ノート、そしてアクア・レディの三人が揃ってしまったことに運命の悪戯を感じざるを得ない。これもう絶対何か起きるでしょ……。

 

 私がそんな予感を抱いた瞬間、近くのテナントで爆発と悲鳴が巻き起こった。ほら、やっぱりぃ……! 

 

「え、なに!?」

 

「気をつけて……っ」

 

 驚くミソラを庇うように立ち、いつでも電波変換できるように構える。爆発が起きたのは尾上十郎と女性が入店した店舗だったはず。つまり、私の予想が外れていなければ出てくるのは──

 

 テナントから悲鳴を上げながら飛び出してくる客に続き、巨大な爪を携えた狼男のような電波体が飛び出してきた。尾上十郎がウルフと電波変換した姿──ウルフ・フォレストだ。

 

『アオオオォォォン!!』

 

 ウルフ・フォレストは血に飢えた獣のように甲高い咆哮を上げると、獲物を追い求めるように吹き抜けの階下へと飛び降りていった。するとイベントに参加していた人達が一斉に悲鳴を上げて逃げ惑い始める。

 

「今のって、FM星人? どうしてこんなところに!?」

 

「分からない……」

 

 誰が電波変換しているかは知っているけど、どんな経緯でこんな状況に陥っているかまでは分からない。一緒にいた女性はどうなったのか、何を目的に暴れているのか、分からないことだらけだ。

 

 だが、一つだけ確かなことがある。

 

「早く、止めないと……危ない」

 

 酷く興奮した様子のウルフ・フォレストは見境なく暴れ回っている。このままでは何の罪もない人達がウルフ・フォレストの爪牙に掛かってしまう。

 

「うん、シオナの言う通りだね。いくよ、ハープ!」

 

『待っていたわよ、ミソラ』

 

「いくよ、アクエリアス……」

 

『えぇ、勿論です、シオナ』

 

 ミソラと頷き合い、息を合わせて電波変換する。

 

「電波変換! 響ミソラ、オン・エア!」

 

「電波変換、海鳴シオナ、オン・エア……!」

 

 掛け声と同時、私とミソラは眩い閃光に包まれて電波変換を果たしてハープ・ノートとアクア・レディに変身した。

 

「よーし、さっさとあの狼男をとっちめてショッピングの続きをしちゃおう……あれ?」

 

 元気に息巻いて階下に降りようとしたミソラは、いつの間にかウルフ・フォレストと対峙している青いシルエットに目を丸くした。そうだよね、下のイベントにはスバルが参加していたのだから、ロックマンだって出てくるのは当然だ。

 

 ロックマンは獣のように暴れ狂うウルフ・フォレストを抑えようと戦っていた。しかし巨体の割に俊敏なウルフ・フォレストの動きに翻弄され、逆に押し込まれている。

 

 流石はウルフ・フォレスト。ゲームでも慣れない内はその高速移動と出の早い攻撃に翻弄されていたけど、現実になると更に手強く見える。何処ぞのお子様キャンサーとは大違いだ。

 

「……どの道、加勢は必要みたい。行きましょう、アクア・レディ!」

 

「らじゃー……」

 

 気の抜けそうな返事と共に手摺りを乗り越え、吹き抜けの階下へと飛び降りる。そして着地するや否や苦戦するロックマンに加勢した。

 

「何をもたもたしてるの、ロックマン! 早く倒さないと滅茶苦茶になっちゃうわよ!」

 

「え、ハープ・ノート?」

 

「ん、アクア・レディ……推参」

 

「アクア・レディまで? どうしてここに……」

 

 息を合わせて加勢に現れた私とハープ・ノートにロックマンは困惑している。まあ疑問に思うよね、タイミングが良すぎるし。でも今回に関しては本当に偶然でしかなく、ただショッピングを楽しんでいただけだから、疑問に足を止めないで戦ってほしい。

 

「いくわよ──ショックノート!」

 

 ハープ・ノートが召喚したスピーカーから音符を飛ばす。しかしウルフ・フォレストは持ち前の俊敏さで回避し、逆に乱入してきたハープ・ノートへと一足飛びで距離を詰めた。

 

『アオオォォォォン!』

 

「やばっ──」

 

「バトルカード、プレデーション──ワイドソード!」

 

 鋭い爪の横薙ぎがハープ・ノートを切り裂く直前、左腕をワイドソードに変えたロックマンが間一髪で割り込んだ。

 

 長く凶悪な爪との鍔迫り合いへと縺れ込んだロックマンはその状態で叫ぶ。

 

「今だ、アクア・レディ!」

 

「ん、任された──バトルカード、チェインバブル2」

 

 足が速いのなら止めてしまえばいい。選ばれたのは着弾と同時に相手を泡状態にして身動き不能に追いやるチェインバブルでした。

 

 ロックマンに気を取られていたウルフ・フォレストに私の攻撃を回避する余裕はなく、目論見通りに泡の中に閉じ込められ身動き不能になる。足が止まればこっちのものだ。

 

 私達はそれぞれに最大火力の攻撃を放とうと身構えて──頭上から降り注いだ電撃に攻撃を無理やり中断させられた。

 

「ちょっと! いきなり何するのよ!?」

 

「この攻撃は、まさか──」

 

「…………!」

 

 ハープ・ノートとロックマン、そして私は間一髪で電撃を回避して頭上を見上げた。ウルフ・フォレストへの攻撃を中断させた下手人は吹き抜けフロアの最上階から私達を悠々と見下ろしていた。

 

「久しぶりだね、ロックマン」

 

「ジェミニ・スパーク!」

 

 電気を纏った二人一組の電波体──ジェミニ・スパークが私達を見下ろしていた。

 

 ずん、と空間を支配する緊張感が重くなる。ウルフ・フォレストと戦っている最中に介入してきたということは、ジェミニ・スパークはこの場で私達と一戦交える意思があると考えられる。そうなると人数的には互角だが、ウルフ・フォレストを三人掛かりで倒そうとしていたことを鑑みると、戦力的にはかなり厳しい戦いを強いられることになってしまう。

 

 私達がジェミニ・スパークの一挙手一投足に注意していると、その当人達が何やら愉快そうに笑い始めた。

 

「そう身構えなくていいよ。今日のところはウルフに見せ場を譲るつもりだから」

 

『わざわざ手間を掛けて解放してやったからな。だが、流石のウルフも三人が相手だと厳しそうだ。少しだけ、背中を押してやるよ』

 

 そう言うとホワイトとブラックは互いの掌を向け合い、そこに生まれた空間に眩い電気を蓄え始めた。すわ私達に対して攻撃を仕掛けるつもりなのかと身構えるが、二人は電撃を球状に蓄えるだけで解き放つ素振りを一向に見せない。

 

 何のつもりだろうかと首を傾げたところで、ロックマンの左腕となっているウォーロックが声を上げた。

 

『しまった! ウルフは満月を見ると更に凶暴化しちまう!』

 

 は? 満月って、あの電気の塊が? いやいや、あれで狂暴化するならボールでも何でもお手軽強化アイテムになって──

 

『グルアアアアアア!!!』

 

 ──凶暴化しちゃったよ、そんなの何でもありじゃない……。

 

 ジェミニ・スパークが作り出した満月を模した電気の塊を見て凶暴化したウルフ・フォレスト。全身が血のように赤く染まり、四肢はより俊敏な動きを可能に、そして巨大な爪牙はより鋭さを増していた。

 

 三作目では存在ごと抹消された凶暴化状態、要は強化状態だ。その強化内容は単純明快で、動きがより速く、攻撃はより苛烈になる。この状態に入ったら出の遅いバトルカードは役立たずになってしまうくらい、凶暴化状態のウルフ・フォレストは強い。

 

『さあ、野生の力を思うがままに振るうがいい、ウルフ・フォレスト!』

 

 煽るだけ煽って自分達は高みの見物を決め込むジェミニ・スパーク。おのれ、今すぐそこから引き摺り下ろしてやりたい……でも、そんなことを考えている暇はなかった。

 

『グルゥア! ワイドクロー!』

 

「──は、やい!?」

 

 先程までの通常状態とは比べものにならない速度でウルフ・フォレストは距離を詰め、躱す暇もない程の速さで凶悪な爪を振るう。ロックマンはワイドソードで受け止めるが、力を増したウルフ・フォレストと鍔迫り合いはできず、そのまま大きく吹き飛ばされてしまった。

 

「ロックマン──!?」

 

 すぐ側にいたロックマンが吹き飛ばされ、そちらに意識を奪われてしまうハープ・ノート。でも、今この場においてはほんの僅かな油断が命取りになってしまう。

 

『ショッククロー!』

 

「きゃあああああ!?」

 

 横薙ぎの一撃から放たれたソニックブームにハープ・ノートも吹き飛ばされてしまう。身構える余裕もなかったハープ・ノートはごろごろと地面を転がり、意識は残っているが立ち上がれなくなってしまった。

 

 ウルフ・フォレストが凶暴化してから僅か数秒、たったそれだけでロックマンとハープ・ノートが大打撃を受けてしまった。信じられない強さに言葉が出ないけど、私には驚く暇も時間もなかった。

 

『グルウゥゥウ! アッパークロー!』

 

「──っ、バトルカード、インビジブル!」

 

 間に、合ったぁ……! ウルフ・フォレストの爪が触れる寸前でインビジブルの読み込みが間に合い、紙一重で攻撃を透かすことに成功した。危なかったぁ……。

 

 ほっと安堵した私の後ろで、ずんと低い音が響く。見れば私を捉え損ねた爪の一撃によって、建物を支える大きな柱の一つが輪切りにされていた。

 

 ……あ、あんなの受けたら普通に命が危ないよ。絶対に食らう訳にはいかない。

 

『どうしますか、シオナ?』

 

「戦うしか、ない……でも」

 

 ロックマンとハープ・ノートは戦線離脱状態。少しすれば立ち上がれるだろうけど、それまでは私一人で戦うしかない。

 

 凶暴化状態のウルフ・フォレストに一対一で勝てるのか。無理だ逃げたい、と弱気な私が叫んでいる気がした。

 

 でも逃げる訳にはいかない。私が立ち向かわなければ身動きの取れないロックマンとハープ・ノートが危ないし、逃げ遅れている一般市民達にも更なる被害が及んでしまう。ここで絶対、食い止める。

 

『切りますか、切札を』

 

 それは……ジェミニ・スパークに見られている状態では可能な限り隠したい。でも、ロックマンとハープ・ノートに危険が及ぶようなら躊躇わずに切る。それまでは、私一人でやってみるよ。

 

『いいでしょう。幸運を祈ります』

 

 ありがとう、アクエリアス。無茶に付き合わせて、ごめんね。

 

 インビジブルの効力が切れた。インビジブルがあろうとなかろうと見境なく暴れていたウルフ・フォレストに、私は真正面から対峙する。

 

 暴れ狂うウルフ・フォレストは正しく狼男。聞く者を心胆から震え上がらせる咆哮を轟かせ、獲物を切り裂かんと爪を縦横無尽に振り回している。

 

 さあ、久しぶりのボス戦だ。正直言って滅茶苦茶怖いけど、やるっきゃない。流星シリーズをやり込んだゲーマーの意地を見せてあげよう。

 

「ウェーブバトル、ライド・オン……!」

 

 震える足を叱咤して、私は凶暴化ウルフ・フォレストに挑み掛かった。

 

 

 

 

 

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