心を探し求める水瓶座   作:リコレクションでも嬉しい

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ウルフは無印でもかなり苦戦した記憶があります……


第17話

 

 アクア・レディが一人で凶暴化ウルフ・フォレストに挑み掛かった姿を見て、ジェミニ・スパークは何秒持ち堪えるかと鼻で笑っていた。

 

 元々ウルフはFM星の戦士の中でも凶暴な性格で知られ、戦闘能力も上位に位置していた。そこに加えて満月による凶暴化だ。一対一の真っ向勝負でウルフに敵う者は早々いない。

 

 そんなウルフが地球人の男に取り憑きながら、逆にその男の強靭な精神力によって押さえ込まれてしまっていたのは笑ったが。ジェミニ・スパークが外部から手助けしたことでウルフは男を支配し、今や自由の身だ。

 

 その身を縛る鎖は千切れ、満月によって野生の本能を解き放ったウルフ・フォレストの力はジェミニ・スパークに並ぶといっても過言ではない。現にロックマンとハープ・ノートはたった一撃で戦線離脱だ。

 

 この調子でアクア・レディも間もなく地に沈む。そう考えていた。

 

 だが現実は違った。

 

『グルアアアァァ!』

 

「左、縦……離れて、ソニックブーム……次」

 

 人型の台風のように暴れ回るウルフ・フォレストに対して、アクア・レディは一撃も被弾することなく渡り合っていた。

 

 最初の数度はまぐれだろうと気にも留めなかった。だが目にも留まらない速度で動くウルフ・フォレストの攻撃を読み切り、少ないながらも反撃までし始めたアクア・レディの動きを偶然で片付けるのは無理があった。

 

 建物を支える柱すらも輪切りにする凶悪な爪による攻撃を、アクア・レディは全て紙一重で回避し、怒涛の連撃を終えた僅かな隙を突いて反撃を繰り返す。

 

 その反撃も恐ろしく的確で手慣れている。

 

 チェインバブルからの電気属性で追撃、プラズマガンで麻痺を入れて高威力のナックルでダメ押し、シンプルに弱点属性である炎属性を叩き込むなど。次の一手を迷うことなく選び、行動に移すまでが余りにも早い。

 

 決して余裕がある訳ではない。ウルフ・フォレストの苛烈で俊敏な攻勢に追い縋り続けたアクア・レディの息は既に上がっており、ソードなどで攻撃を受け流さざるを得ないような場面も増えてきた。それでも完全には崩れず、焦らずインビジブルやバリアで体勢を立て直す。

 

 ウルフ・フォレストの苛烈で凶暴な強さではない、相手の攻撃の先を読み切り限界まで無駄を省いた立ち回り。そして何よりも、流れる水のように動きに淀みがない。

 

 戦い方が上手い以上に、戦い慣れし過ぎている。ウルフ・フォレストとアクア・レディの戦闘を見て、ジェミニ・スパークが抱いた感想だった。

 

「前に君は、アクエリアスはFM星人の中でも下の方って言っていたけど、本当にそうなのかい?」

 

 眼下で繰り広げられる激闘を眺めながら、ホワイトことツカサが抱いて当然の疑問を投げかける。問われたブラックことジェミニは眉間に皺を寄せ、難しい表情で口を開く。

 

『……仮に、アクエリアスが実力を隠していたとしても、あの強さは異常だ』

 

 FM星で見せていた実力が偽りである可能性は勿論ある。しかし、そうだとしてもアクア・レディの強さは異質が過ぎた。ジェミニの目には、アクア・レディの動きは余りにもウルフ・フォレストと戦い慣れているようにも見えた。

 

『恐らくだが、アクア・レディの強さの根源は人間側にある』

 

「ボクと年に大差はなさそうだけど?」

 

『地球人の年齢事情など俺が知るか。だが、あそこまでの実力となると、俺達でも危ういかもしれないな』

 

 ともすればアクア・レディはロックマンやハープ・ノートよりも余程手強いかもしれない。真正面からの戦闘は不覚を取る可能性が十分にあった。

 

『電波変換の相手が誰か分かれば、生身の時に襲うなりやりようはいくらでもあるがな』

 

 いかにアクア・レディの実力が高くとも、電波変換していない生身の状態ではただの地球人に過ぎない。そこを襲えばどれだけ強かろうと関係ないだろう。

 

「アクア・レディの正体、ね……」

 

 意味深に呟いてホワイトは眼下の戦闘に意識を戻した。

 

 ウルフ・フォレストとアクア・レディの戦いは佳境に突入していた。荒れ狂う嵐のような連撃を掻い潜り、アクア・レディが加え続けた反撃が蓄積してきたのか、ウルフ・フォレストの動きが目に見えて悪くなっている。決着までもう時間はないだろう。

 

 ロックマンとハープ・ノートもそろそろ戦線復帰するだろう頃合いだ。今は繰り広げられる激戦に割り入るタイミングを図っているようだが、ウルフ・フォレストが大きく崩れるようなことがあればすかさず復帰するだろう。

 

「バトルカード──リュウエンザン……!」

 

『グゥ、ルアアァァア!?』

 

 そうこうしているうちに弱点属性のソード攻撃がクリーンヒットし、ウルフ・フォレストが苦悶に満ちた絶叫と共に膝を突く。今の一撃が決め手となったのか、真っ赤に染まっていた体色が戻り凶暴化も解除された。

 

『ちっ、ここまでだな。ウルフめ、思ったより使えない奴だ』

 

「そうだね……ん?」

 

 勝敗は決したと考えた矢先、眼下で何やら妙な騒ぎが起きていた。止めの一撃を放とうとしたアクア・レディの前に素性の知れない女が飛び込んだのだ。

 

「待ってください! お願いです、これ以上十郎様を傷付けないでください!」

 

「でも……」

 

 女性は何やら必死にアクア・レディに懇願する。懇願されたアクア・レディは困ったように動きを止めたが、左腕のリュウエンザンは残したままだ。いつ何が起きても対処できるよう、意識は膝を突いたウルフ・フォレストに向けられていた。

 

「十郎様は心優しい人なんです。こんな怪物に成り下がるような人ではないんです! だから……」

 

 女性はアクア・レディからウルフ・フォレストへと向き直る。常人ならば恐怖のあまり足が竦んでしまうだろう狼男の姿を前にしても怯まず、女性は必死の声音で呼び掛け始める。

 

「十郎様、どうか正気を取り戻してください。いつものお優しい貴方に、どうか戻ってください!」

 

『グルゥ……アァ、お、おじょう……さん』

 

「十郎様!」

 

「うそ……」

 

 女性の呼び掛けに、ウルフ・フォレストの凶悪な顎から咆哮以外の声が漏れ聞こえる。それは間違いなく理性ある人間の声であり、様子を見守っていたアクア・レディは信じられないと小さく呟きを零した。

 

『あの女、余計な真似を……』

 

「安っぽい展開だね。でも、チャンスだよ」

 

『なに?』

 

「上手くいけばアクア・レディの正体を白日の下に晒すことができるかもしれない」

 

 そう言ってホワイトは指先に眩い電撃を溜め始める。その狙いはウルフ・フォレストに呼び掛け続ける女性に向けられていた。

 

『ほう? そいつは面白そうだな』

 

 ホワイトの意図を察したブラックは口元を笑みに歪め、追従するように電撃を蓄え始めた。

 

 女性の必死の呼び掛けにより、ウルフ・フォレストの電波変換が解除される。その場に現れたのは取り憑かれていた尾上十郎と、取り憑き暴れていたFM星人ウルフだ。

 

 一方的な電波変換を自力で解除するという偉業を為した尾上は気力を使い果たしたのかそのまま崩れ落ちそうになる。その前に女性が駆け寄り支えたことで倒れることは防がれた。

 

 一方、電波変換を解除されたウルフにもはや争う術はなく、アクア・レディと戦線復帰したロックマンとハープ・ノートに追い詰められていた。

 

 誰もが戦いの終わりを予感し気が抜けたその時、ジェミニ・スパークが攻撃を仕掛けた。

 

「今だ──」

 

「『ジェミニサンダー!!』」

 

 瞬間、限界を超えて蓄えられた電撃が真昼の落雷となって降り注いだ。

 

 吹き抜けフロアを白く染め上げる程の稲妻は最上階から地上階へと真っ直ぐ落ちる。その矛先は電波変換を自力で解除した尾上と、その尾上を支える女性に向けられていた。

 

 電波変換すらしていない生身の人間が直撃すれば命はないだろう災害級の落雷だ。自由に身動きが取れない尾上と、その尾上に寄り添っている女性に回避する術はない。気を抜いてしまっていたロックマンとハープ・ノートにも対処はできない。

 

 唯一対処できるのは、落雷が放たれる直前にその気配を察したアクア・レディだけで──

 

「だめッ──!!」

 

 バトルカードは間に合わない。二人を抱えての離脱は体格的に不可能。残る選択肢は一つ。迷うよりも早く、躊躇いを覚えるよりも先に、アクア・レディは全力で尾上と女性を有らん限りの力で突き飛ばした。

 

 稲妻の落下地点から尾上と女性が弾き飛ばされ、入れ替わるようにアクア・レディが取り残される。そこへ容赦なく落雷が降り注ぎ、目が眩む程の閃光が小柄な少女の身体を呑み込んだ。

 

「「アクア・レディ!?」」

 

 落雷の衝撃で巻き上がった塵煙にロックマンとハープ・ノートが悲鳴にも似た声を上げる。生身なら即死級、電波変換していても甚大なダメージは間違いないだろう落雷をもろに受けたのだ。まず間違いなく、無事ではないだろう。

 

 ロックマンとハープ・ノートの意識が逸れた隙にウルフがそそくさと逃げていく。最上階からその様子を見下ろしていたジェミニ・スパークは、しかしそんな些事には興味がないと視線を塵煙の中へと向けた。

 

『最大出力のジェミニサンダーを食らったんだ。電波変換を維持することもできないだろう』

 

「さあ、そのヴェールの下の素顔を見せてもらおうか──がっ!?」

 

『どうした──ぐっ!?』

 

 舞い上がった塵煙が晴れるのを待っていたホワイトの顔面に、階下から狙い澄ました砲撃が直撃した。続けてブラックにも同じように命中する。

 

 ジェミニ・スパークを狙い撃ちしたのはロックマンだ。アクア・レディのヴェールの下を見ることに気を取られていた二人を、階下からプラスキャノンで的確に狙撃したのだ。

 

「ぐっ……ふふっ、驚いたよ」

 

 不意を打たれて面食らいながらも、ホワイトは口元に愉しげな笑みを浮かべていた。

 

「君もそんな顔をするんだね──スバル君」

 

 未だにプラスキャノンを構えたままのロックマン。そのバイザーの下に隠された瞳に浮かぶ燃え上がるような怒りの色が、ホワイトの──ツカサの心をどうしようもなく搔き立てた。

 

 ロックマンがジェミニ・スパークを追い払うためにプラスキャノンを連射する。流石に今度は二人とも回避するものの、このまま呑気にアクア・レディの正体を眺めている余裕はなさそうだった。

 

『ちっ、仕方ない。退くぞ、ツカサ』

 

「分かったよ……もっと君の色んな感情を見たくなったよ、スバル君」

 

 最後に意味深な言葉を呟いてジェミニ・スパークはこの場から完全に撤退した。

 

 上層階からジェミニ・スパークが完全に消えたのを確認したロックマンは、湧き上がった激情を宥めるように大きな溜め息を吐いた。

 

『オイ、大丈夫か、スバル?』

 

「うん、ボクは大丈夫。それよりも、アクア・レディは──」

 

「ごめんなさい、ロックマン。私とアクア・レディは先にお暇させてもらうね」

 

 稲妻が落下した地点を振り返ると同時、ハープ・ノートのそんな声が響いた。直後、ぐったりとした様子の少女を抱えたハープ・ノートがロックマンに背を向けて飛び去っていく。少女の顔はロックマンの位置からだとハープ・ノートの身体に隠れて見ることはできなかった。

 

 飛び去っていったハープ・ノートと、恐らくはアクア・レディの正体であろう少女の後をロックマンは追わなかった。本人達が隠したがっているのなら、無理に詮索するのはよくないだろうと考えたのだ。アクア・レディの安否だけは確認したかったが。

 

 この場から離れていく少女達を見送り、ロックマンも後に続いてこの場を離れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 ♒︎

 

 

 

 

 

 

 シオナside

 

 

 ふと目を覚ますと、国民的美少女でアーティストな響ミソラに膝枕されていた件について。顔に触れる冷たい感触で目を覚ましたら、目と鼻の先にミソラの美少女フェイスがあるとはこれ如何に? 

 

「あ、目が覚めた? 大丈夫? 痛いところとかない?」

 

「……う、ん」

 

「痛いんだね、身体。無理しちゃダメだよ?」

 

 めっ、と幼子に言い聞かせるように指で額を突かれ、私は痛みを堪えながら小さく頷きを返した。

 

 うぐぅ、何故こんなにも身体が痛むのだろうか。そもそも、ここは何処? 見える範囲の情報からして、何処かの公園のベンチみたいだけど。一体全体どんな経緯でこんな状況になったのだろうか。

 

 疑問に思った私は意識を失う直前の記憶を遡る。

 

 私は確か……ああ、そうだ。ジェミニ・スパークの攻撃から尾上十郎と、尾上十郎の恋人らしき女性を庇ったんだった。

 

 限界までチャージしたのか、ゲームの時とは比べ物にならない程の威力の電撃だった。いや、あれはもはや電撃ではなく落雷だった。悲鳴を上げる暇もなく、激痛を感じた瞬間には意識が消し飛んでいたような気がする。

 

 その後は……どうなったのだろうか。

 

 気絶した後のことを聞きたくてミソラの顔をじっと見上げていると、ミソラが疑問符を頭上に浮かべてこてんと小首を傾げた。可愛い、大抵の青少年は今の仕草一つでイチコロだろう。ではなくて、気絶した後の話だった。

 

「あの後……どうなった?」

 

「シオナが気絶した後のこと? ウルフはどさくさに紛れて逃げちゃって、ジェミニ・スパークはロックマンが追い払ってくれたよ」

 

「そう……」

 

「それで、気絶して電波変換も解除されちゃったシオナをここまで運んできたんだ」

 

「そう……え?」

 

 電波変換が解除されていた? それって、つまり、私の正体がロックマンにバレてしまったということ……? 

 

「私の正体が、バレた……?」

 

「多分大丈夫だと思うよ? シオナの顔が見られないように離れたから」

 

 ミソラの言葉に思わずほっと安堵の息を吐く。心構えも何もない状況で一方的に身バレするのは流石に抵抗があった。無駄にシチュエーションに拘っている訳ではないけど、正体を明かすならお互い同時が一番丸いと個人的に思っているのだ。まあ、私は一方的に知っているのだけど。

 

 ……そういえば、アクエリアスはどうしたのだろう。いつもこういう時は誰よりも近くで、私の傍に寄り添ってくれる家族のような存在が、何処にも見当たらない。

 

 私が不自然にきょろきょろし始めると、ミソラの傍らに立てかけられたトランサー機能付きのギターから声が響いた。

 

『アクエリアスなら、あなたのトランサーの中で眠っているわよ。流石の彼女も、あの雷は堪えたみたいね。命に別状はないだろうけれど、今日一日くらいは目を覚まさないかもね』

 

「そう……アクエリアス……」

 

 私の無茶に巻き込んだせいで、アクエリアスが深く傷付いてしまった。情けなくて、申し訳がなくて泣きそうになる。ごめんね、アクエリアス。私のせいで……。

 

 労わるようにトランサーを撫でていると、額に冷たい感触。目線を上げれば、ミソラが濡れタオルで私の顔を優しく拭いてくれていた。

 

「すごかったよ、シオナ。あのウルフ・フォレストに一歩も引かずに立ち向かって、一人で倒しちゃうんだもん」

 

「でも……ジェミニ・スパークに、やられた」

 

 ジェミニ・スパークが高みの見物をしていることは分かっていたのに、ウルフ・フォレストとの戦闘に集中し過ぎて意識の外に追いやってしまっていた。しっかり念頭に置いていれば、こんなことにはならなかったのだ。

 

 ずーん、と落ち込んでいるとミソラが否定するように首を振った。

 

「あんなの反則だよ、ノーカン! それにシオナは負けたんじゃなくて、守ったんだよ。シオナが庇わなかったら、あの二人は死んじゃっていたかもしれないんだから。そこを間違えちゃ、ダメ」

 

「……分かった」

 

 守った……確かに、そう考えれば少しは気が楽になる。身を呈して尾上十郎とその恋人らしき女性を守り抜いた。そう考えれば、この失敗もあまり気に病まずに済みそうだ。アクエリアスにだけは、やっぱり申し訳ない気持ちが拭えないけど。

 

 あぁ、でも折角のミソラの休日を台無しにしてしまったのも謝らないと……。

 

「……ごめんね、ミソラ。お買い物、できなくなった……」

 

「それこそシオナは悪くないよ。気にしないで」

 

「でも、お礼だったのに……」

 

 今日のショッピングはお見舞いに来てくれたミソラへのお礼も兼ねたものだった。それがどうして、また看病されるような事態になっているのか。情けなさ過ぎて泣けてきた。

 

 ダメだ、身体が弱っているせいかメンタルがボロボロだ。風邪の時もそうだったけど、子供の身体の影響か精神面がかなり脆くなっている。感情の制御が上手くできない。

 

 これでこの身体が感情表現豊かだったら今頃人目を憚らず号泣していたかもしれない。今だけは、無表情無感動フェイスに感謝しよう。

 

 私が内心でひっそり落ち込んでいると、ミソラがぽんぽんと優しく頭を撫でながら口を開く。

 

「お礼だとか、そんな貸し借りに拘らなくてもいいんだよ。友達のためにしたことなんだからさ」

 

「…………」

 

「でも、ショッピングのリベンジはしようね! あ、ショッピングじゃなくても、何処かに遊びに行くでも全然いいよ?」

 

「……ん、分かった」

 

 私がこれ以上気に病んでしまわないように、ミソラは話の流れを明るい方向へと切り替えた。精神年齢年下の女の子に気を遣われるとか別の理由で恥ずかし過ぎて死にそうだけど、ここはその流れに身を任せるとしよう。

 

「今度は何処に行こうか。やっぱりヤシブタウンとか?」

 

「……もっと遠く、とか?」

 

 下手に近場で遊ぶから事件に巻き込まれるのであって、いっそ何のフラグもないだろう場所に遠出してしまえば邪魔が入ることなく過ごせるのではないか。距離と時間に関しては電波変換してしまえば大抵の場所はあっという間だしね。

 

 唯一の心配はスバルとウォーロックの状況が把握できなくなってしまうことだけど……どうしよう、盗聴器でも仕掛ける? でもそんな超長距離でも音を拾える盗聴器なんてないし、あっても民間人である私では手に入れられないだろう。

 

 ……ナチュラルに盗聴する思考が出るのはちょっと頭アクエリアス過ぎたかもしれない。別にスバルから一日目を離したくらいでとんでもない大事件が起こるとは限らないのだから、遊びに行くくらいなら問題ないだろう。

 

「県外とか? あ、シーサーアイランドとかどうかな? 海は綺麗だし、食べ物も美味しいって話だよ……あれ、なんか嫌そう?」

 

「……今なら、大丈夫。多分……」

 

「なんだかダメな時があるみたいな言い方だね?」

 

 それはまあ、あそこは委員長散り散りショック事件の現場だから。まだ先の話だと分かっていても、抵抗感があるのは仕方ない。でも今の時期ならディーラーもジョーカーも関わりがないから、遊びに行くくらいなら問題ないだろう。

 

 それから私とミソラは途中終了してしまったショッピングの時間を埋め合わせるように、他愛ない雑談に興じた。お開きになったのは日も暮れ始めた頃合い。私が一人で歩いて帰られるようになるまで、私達は同じ時間を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

『それにしても驚いたぜ。スバルもあんな風に怒ったりするんだな』

 

「え、何のこと?」

 

 ショッピングモールから自宅への帰り道、唐突にそんな話を振られてスバルは首を傾げた。惚けている訳ではなく、本当に理解できていないか自覚がなさそうな態度だった。

 

『何って、ジェミニ・スパークを追っ払った時のことだよ。滅茶苦茶にキレてたじゃねぇか。驚いたぜ?』

 

 ジェミニ・スパークに対してプラスキャノンを問答無用で撃ち込んだ時、スバルはウォーロックが見たこともないくらいに激怒していた。スバルの反応からして自覚はないようだが。

 

 気弱とまではいかないが、目立つ事を嫌う大人し目な性格のスバルが激怒するような場面は滅多にない。今でこそそこまでだが、不登校を決め込んでいた時にズケズケとスバルの領域に踏み込んできた委員長達にだって、面倒だとは思っても怒りの感情を向けるようなことは一度もなかったのだ。

 

『いったい何にそんなキレてたんだ?』

 

「うーん……抵抗できない市民を囮にしたこと、かな?」

 

 ジェミニ・スパークは自力で動くこともままならなかった尾上と、その恋人らしき女性をわざと狙ってアクア・レディが庇わざるを得ない状況を作り出した。その卑劣極まりない手口に、正義感から怒りを覚えたというのがスバルの言い分だった。

 

 ただ、電波変換していてスバルの剥き出しの心に接触していたウォーロックは、その返答が今一つ納得いかなかった。

 

『そんな感じじゃなかったような気がするけどな』

 

「そんなこと言われてもなぁ……あれ?」

 

 ウォーロックと話しながら歩いていたスバルは、偶然通り掛かった公園の入り口で歩みを止めた。その視線は子供達で賑わう公園の中、木陰の下に設置されたベンチに向けられている。

 

 ベンチではスバルと同年代だろう二人の少女が、片方を膝枕した体勢で楽しげに談笑に耽っていた。

 

 木陰の下にいるのに二人は個性的な形をサングラスを掛けており、個人の特定まではできそうにない。ただ、遠目から見ても仲睦まじい様子であることは見て取れる。

 

『どうしたんだ、スバル? 急に立ち止まったりして』

 

「……いや、何でもないよ」

 

 ウォーロックの疑問にスバルはゆるゆると首を横に振って歩みを再開する。その横顔には何処となく嬉しそうな、それでいてちょっぴり寂しそうな笑みが浮かんでいた。

 

「あ、そういえば、結局望遠鏡は手に入れられなかったなぁ……」

 

『仕方ないだろ。ウルフが暴れまくって壊れちまったんだからな』

 

 スバルがわざわざショッピングモールまで足を運んだ理由であるイベントの景品である最新式の小型電波望遠鏡。残念ながらウルフが暴れた拍子に見事に壊されてしまい、獲得することは物理的に不可能になってしまった。地味にスバルはそれがショックだった。

 

「欲しかったなぁ、望遠鏡……」

 

『望遠鏡なら部屋にあるだろうが。だいたい、あんなでけぇ望遠鏡手に入れたとして、何処に置くつもりだったんだ?』

 

 小型と銘打ってはいたが、サイズはかなりのものだった。スバルの部屋に置くには無理があっただろう。

 

「それは……庭とか?」

 

『あかねに怒られるのが関の山だろうが』

 

「確かに……でもさぁ、最新式の電波望遠鏡だったんだよ? あれがどれだけ凄いものなのか、ウォーロックにも分かるように教えてあげようか?」

 

『いい、ヤメロ。スバルの蘊蓄は聞き飽きた』

 

「そんなこと言わずにさ。そもそも電波望遠鏡っていうのはね──」

 

 断られても構わず蘊蓄語りを始めたスバルに、ウォーロックは大きく溜め息を吐いた。オタクでマニア気質なスバルの蘊蓄は一度始まると早々止まらない。既に何度もその被害に遭ってきたからこそウォーロックは知っていた。

 

 電波望遠鏡の魅力をペラペラと語るスバルにウォーロックは頭を抱えるのだった。

 

 

 

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