心を探し求める水瓶座   作:リコレクションでも嬉しい

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第19話

 シオナside

 

 迂闊だった。相手が私の正体を疑っている可能性は察していたのに、同じ部屋に閉じ込められた挙句に逃げ場のない状況での尋問めいた問い掛け。しかも委員長の悲鳴に急き立てられて電波変換までしてしまった。電波変換の瞬間を見られはしていないけれど、まず間違いなく私がアクア・レディであることはバレてしまったはずだ。

 

 ああ、どうしよう。ジェミニ・スパークに正体が割れてしまった以上、今まで通りに学校に通うことはできない。相手の出方に即応できるよう、私もアクエリアスと一緒に行方を晦ますか陰に身を潜めないと……。

 

 考えることは他にもある。双葉ツカサ──ツカサがジェミニと手を組んだ経緯。ゲームとはまるで違うけど、下手をしたらゲームよりも性質(タチ)が悪いかもしれない。

 

 交通事故に巻き込まれて死にかけ、他人に見捨てられて怒りと憎しみを募らせたところをジェミニに救われたとするなら、ジェミニへの心酔具合はゲームの時とは比べ物にならないはずだ。正直言って、説得で止められる気はまるでしない。

 

 あと、正体がバレたせいでアクエリアスの願いにどれ程の影響があるかも考えないと。今後の展開次第では立ち回りを変える必要が出てくるはずだ。

 

 あと、あと、あとは……。

 

『落ち着いて、シオナ。今優先すべきはお友達の安否でしょう?』

 

 そうだった。正体が完全にバレることを承知の上で電波変換をしたのは委員長を助けるためだ。あれこれ頭を悩ませるのは後回し。悲鳴が聞こえた場所に急ごう。

 

 一先ず頭を切り替えて先を急ぐ。建物に避難していたから気付かなかったけど、遊園地はクラウン・サンダーの影響で不気味にライトアップされ、アトラクションが独りでに動き続けている。見覚えのある髑髏が巡回するように飛び回っており、下手に見つかると一斉に襲い掛かってきそうだ。

 

「いやあああ! こっち来ないでぇ!?」

 

 髑髏の巡回に気を付けつつ進んでいると、委員長の悲鳴がはっきりと聞こえてきた。急いでそちらに向かえば髑髏が操るマスコット軍団に囲まれた委員長を見つけた。

 

 マスコット達は凶器を手にしている訳ではないが、委員長に迫っては脅かし、時折腕やら肩やらを掴んでは引っ張り乱暴している。これ以上の狼藉を認める訳にはいかない……!

 

「バトルカード──ベルセルクソード1、三連……!」

 

 一つで三連続の斬撃を繰り出すバトルカードを都合三枚、大盤振る舞いだ。その甲斐あって委員長を囲んでいたマスコット集団は一つ残らず沈黙した。

 

 突然にマスコットの集団が沈黙して委員長は驚いたように目を丸くする。しかし次の瞬間には顔色を明るくし、きょろきょろと周囲を見回し始めた。

 

「ロックマン様? ロックマン様が私を助けてくださったのよね!? ……あら、あなたはどちら様?」

 

 残念、委員長を助けたのはロックマンではなく私でした……なんか、ごめんね。

 

 ロックマンではなく見慣れない私の姿を見て首を傾げる委員長に内心で謝りつつ、私は口を開いた。

 

「怪我はない……?」

 

「え、ええ……もしかして、あなたが私を助けてくださったのかしら?」

 

「ん……ロックマンじゃなくて、ごめんね?」

 

「そ、そんなことは……むしろ助けてもらったのに失礼なことを言って申し訳ないというか」

 

 大変気不味そうな顔の委員長に、むしろ気を遣わせたみたいで逆に申し訳なくなる。分かるよ、どうせ駆け付けてくれるなら白馬の王子様的なヒーローがいいよね。残念ながら、駆け付けたのはロックマンではなくアクア・レディこと私だったんだけど。

 

 そもそもロックマンは何処で何をしているのだろうか。てっきりクラウン・サンダーと戦って決着を付けているだろうと思ったのに、何処にも姿が見当たらない。まさか、負けてしまったのだろうか。

 

 ロックマンの行方に微かな不安を覚えつつ、じっと私を見つめている委員長に向き直った。

 

「……一人?」

 

「え、ええ。ゴン太とキザマロは遊園地の外に置いてきちゃったから……」

 

「そう……どうして、戻ってきたの?」

 

 今の口振りからして、委員長も一度は遊園地を脱出していたはずだ。それがどうして今、遊園地内部に舞い戻ってしまっているのだろうか。

 

「だって、星河君達がいつまでも戻ってこないから。みんな、幽霊に捕まっちゃったんじゃないかって思ったら、居ても立っても居られなくて……あと、ロックマン様に会えるかもとちょっと思って

 

 もじもじと指と指を突き合わせながら委員長は危険を冒した理由を語った。最後の方は小声過ぎてよく聞き取れなかったけど、友達思いの委員長らしい行動原理だ。

 

 ただ、私としてはクラウン・サンダーの支配下にある遊園地に留まっていてほしくない。私達を心配してくれるのは素直に嬉しいけど、毎度毎度危険地帯に戻ってこられては堪ったものではない。

 

「お友達は、私が見つける。あなたは、今すぐ逃げて……」

 

「で、でも……」

 

「お願い……」

 

 私が誠心誠意込めてお願いすると、委員長はどうするべきか迷うように小さく唸る。しかし私からの有無を言わさぬ眼差しに折れたのか、不承不承ながらも小さく頷いてくれた。

 

「ん、後は任せて……一人で戻れる?」

 

「道は覚えてるから、だいじょ──きゃあ!?」

 

 ズン、と下から突き上げるような重い振動に委員長は悲鳴を上げる。私は咄嗟に委員長の身体を支えつつ、周囲の様子に目を走らせた。

 

 揺れの感じからして地震ではない。どちらかといえば、地面ごと持ち上げられるような衝撃だった。でも、埋立地に建設された遊園地が浮き上がるなんて、そんなこと、ありえ……な……。

 

 その時、私の目に信じ難い光景が映った。遊園地が動いているのだ。いや、アトラクションが動いているとかいう次元ではなく、()()()()()()()()()()()

 

「なに、これ……?」

 

「……船? 遊園地の下に船があるのよ! いやもう、どういうことなのよぉ!?」

 

 遊園地が土地ごと動き始めたカラクリは、遊園地の下に超巨大な船が出現したからだった。その船が遊園地の土地を載せて大航海を始めたのだ。いや、自分で言っておいて何だけど全くもって意味が分からない。頭がどうにかなりそう。

 

 現実と認めたくない光景に頭を痛めていると、突然船が大きく揺れて進行方向を曲げ始める。最初は真っ暗闇の大海原を目指していたはずの巨大遊園地船は、大きく回頭するとその針路を陸地へと固定した。

 

 ちょっと待って。まさかこの船、コダマタウンに突っ込もうとしている? こんな遊園地丸ごと載せた船が?

 

 最悪の展開に内心で戦慄していると、私にしがみ付くように立っていた委員長が鼓膜を突き破りかねない勢いで悲鳴を上げた。

 

「嘘でしょ!? この船、電波エネルギー発電所に突っ込もうとしてるじゃない!?」

 

「うそ……」

 

 そんな施設にこんな超巨大質量が突っ込んだりしたら施設は崩壊、周辺地域は火の海に呑まれることになる。それだけではない。コダマタウンのエネルギー供給を一手に担う発電所が停止すれば、コダマタウンのインフラが大打撃を受けてしまう。被害規模は想像を絶するものになるだろう。

 

 キグナスもそうだったけど、現実になってやることなすことスケールアップし過ぎじゃない? ゲームではシナリオ後に登場してろくに侵略活動もしていなかった癖に、余計なところで張り切らないでほしい。切実に。

 

 内心で文句を吐いていても仕方がない。暴走船を止めるためにも、一刻も早くクラウン・サンダーを倒さないと。でも、いったい本人は何処にいるの?

 

 諸悪の根源たるクラウン・サンダーを探していると、頭上から青い流星が降ってきた。

 

「きたぁ! ロックマン様! お会いしたかったですわ!」

 

「え、どうして戻ってきて……アクア・レディまで?」

 

「ん、ちょっと通り掛かった……」

 

「あ、そう……──!」

 

 ロックマンことスバルは委員長と私の姿を見て驚いていたが、余り余裕がないのか深く突っ込むことはせず身構える。心なしかその横顔は苦しげで、クラウン・サンダー相手に苦戦していることが察せられた。

 

 私もロックマンに倣って身構えた直後、雷と共に頭上から電波体が目の前に降り立った。何処ぞの王様のような格好をした、骸骨の電波体──クラウン・サンダーだ。

 

『ふーはっはっはっ! ロックマンなぞ恐るるに足らんなぁ。このまま我が船を街へとぶつけ、愚かな地球人どもを恐怖のどん底に突き落としてくれようぞ』

 

 姿を現すなり偉そうに口を開いてそんなことを宣うクラウン・サンダー。ケタケタと骸骨が笑う様はホラーだが、どうしてだろうか、そこはかとなくお馬鹿な気配を感じるというか……キャンサーと同類の雰囲気を感じる。

 

『む、お主はアクエリアスか……え、こんな辺境の星までウォーロックを追いかけてきたのか? 余、ドン引き』

 

『愛の前に距離も時間も関係ありません。何億光年離れようと、私の想いを振り切ることなどできませんよ』

 

『……大変じゃのう、ウォーロック』

 

『ヤメロ。てめぇにまで同情されたらオレは泣くぞ?』

 

 情けなさ過ぎるウォーロックの宣言にその場の空気が微妙なものになる。ロックマンとクラウン・サンダーは戦闘の真っ只中だったはずなのに、どうしてこんな同情的な空気が漂っているのだろうか。

 

「って、それどころじゃないですわロックマン様! 早くこの船を止めないと、電波エネルギー発電所に突っ込んじゃうのよ!?」

 

「なんだって!?」

 

 委員長の悲鳴にロックマンも事の重大さを悟り、即座に戦闘態勢を取る。私も委員長を庇いつつヘビーキャノンを構えた。

 

『ふん、何度やっても同じ事。お主らの攻撃など余には一切通用しないのじゃよ』

 

「……どういうこと?」

 

「実は──」

 

 クラウン・サンダーの言葉の意味をロックマンが説明してくれる。

 

 何でもクラウン・サンダーは切っても撃っても殴っても即座に回復してしまうらしい。攻撃自体は当たるが、不死身に等しい再生力を前にロックマンは苦戦を強いられていたようだ。

 

 無限回復? 強制敗北イベント戦みたいなものかな。もしそうだったら、クラウン・サンダーを倒す事なんて不可能になってしまう。きっと、不死身には何かしらのカラクリがあるはずだ。

 

 不死身のカラクリを探るためにも、私自身の目で一度確かめてみよう。というわけで一発、しゅーと!

 

『──って、ぐわぁ!? 何をするんじゃ、貴様ぁ!?』

 

「……ほんとだ」

 

 勝ち誇って高笑いしていた顔面にヘビーキャノンを撃ち込んだが、怯みこそすれまるで堪えた様子がない。不意打ちキャノンに元気よく文句を宣っている。

 

 ダメージリアクションはあるから無敵ではない。キャノンのダメージも入ってはいた。ただ、直後に傷もダメージも元から存在していなかったかのように消えてしまった。まるで本当に幽霊でも相手にしているかのようだ……って、そうだった。クラウン・サンダーは本当に幽霊と電波変換しているんだ。

 

 確か、無駄に長い名前の何処かの貴族らしき人間の幽霊と電波変換していたはずだ。長すぎて覚えていないけど。

 

 もしかして、クラウン・サンダーが不死身なのは幽霊だから? もう死んでいるから倒す事はできないとか、そんな理屈? だとしたら為す術がないというか、エクソシストとかそういう類の人を呼ばないといけなくなってしまう。

 

『ふん、無駄じゃ無駄じゃ。余はこの遊園地に取り憑いた地縛霊と電波変換し、不死不滅の電波体となったのじゃ。お主らに余を倒すことなどできぬわ。そら、余の威光に平伏すがいい──ハジョウハンマー、トツゲキランス!』

 

 クラウン・サンダーの指令に従った髑髏がハンマーとランスを構えて突っ込んでくる。ゲームで何度も見てきた攻撃なので回避は容易いが、こっちには非戦闘員の委員長がいる。抱えたまま逃げ回るのは厳しいだろう。

 

 仕方ない、効率は悪いけど片っ端から迎撃しよう。

 

「バトルカード、ガトリング3……!」

 

 迫る髑髏達をガトリングで一掃する。単調に真っ直ぐ突っ込んでくるだけだから迎撃自体は難しくない。ただ、数が、多い……! 切りがない! そしてケタケタ笑い声が鬱陶しい!

 

 隣でロックマンも迎撃しているけど、攻撃に転ずる余裕はなさそう。あっても倒し方が分からない以上、どうしようもない。不死身の電波幽霊なんて、いったいどうやって倒せばいいの……?

 

 悠長に考えている余裕もない。手を拱いている間にも船は電波エネルギー発電所へと迫っている。一刻も早くあの冠お化けを倒す方法を見付けないと詰みだ。

 

「ちょ、ちょっと!? やめなさい、離しなさいよぉ!?」

 

「委員長……!」

 

 髑髏の迎撃に集中していたら、後ろに庇っていた委員長にまたぞろマスコットが性懲りも無く絡んできていた。嫌がらせにだけは余念がないな、この地縛霊……!

 

「バトルカード──ジャンボハンマー2……!」

 

 ガトリングから巨大なハンマーに切り替え、委員長に絡むマスコット達を蹴散らす。昔は遊園地の人気者だったのかもしれないけど、今はただただ鬱陶しい。粉微塵にしてくれる!

 

「しつ、こい……!」

 

 蹴散らしてもなお向かってくるマスコットに、私は内心の苛立ちを込めてハンマーを振り下ろす。可愛らしいマスコットは巨大ハンマーの一撃で地面ごと粉砕された。

 

 ふぅ、ちょっとすっきりした。なんて思った直後、断末魔の如き絶叫が響き渡った。なになに? いったい何事?

 

 絶叫が上がった方を見れば、何やら苦しげにもがくクラウン・サンダーの姿。演技ではなく本当に苦しんでいるように見える。でも、どうして?

 

「アクア・レディ。今、何かした?」

 

 クラウン・サンダーの異変にロックマンが尋ねてくるけど、正直心当たりがない。やったことといえばマスコットを粉砕したくらいなので、残骸となったマスコットを指差す。

 

「……木っ端微塵だね」

 

「ん、すっきり……」

 

 ツカサにやり込められたストレスも全部上乗せして叩き潰したからね。フルパワーでいかせてもらいました。隣でロックマンが微妙に引いているように見えるけど、きっと気のせいだろう。

 

 それにしても、いったい何がクラウン・サンダーのダメージに繋がったのだろうか。マスコットの粉砕かと思って手近なマスコットにヘビーキャノンを撃ち込んだけど無反応。そうなると、残るは……。

 

 マスコットの残骸が散乱する、ハンマーの衝撃で陥没した地面をじっと見て……地面?

 

「…………バトルカード、ソード」

 

「どうしたの、アクア・レディ?」

 

 脈絡もなくソードを構えた私にロックマンが疑問符を浮かべている。正直、私も半信半疑だから断言できないけど、もしかしたらの可能性を確かめるだけ確かめてみようと思う。

 

 振り上げたソードを一気呵成に振り下ろす。狙いは私達が立っている遊園地の地面。そこへ躊躇いなく十文字の傷を刻み込む。すると次の瞬間、地面が苦痛に悶えるように淡く光を放った。

 

『ぎ、ぎゃああああああ!? 我が玉体に何をするのじゃ!?』

 

 またもや耳を劈く絶叫を上げるクラウン・サンダー。その不死身の肉体には、私が地面に刻み込んだ十文字の傷と全く同じ傷が浮かび上がっていた。

 

 やっぱり、クラウン・サンダーの不死身の秘密は地面──遊園地が建てられた土地との繋がりにあったんだ。

 

 クラウンが宿主に選んだ幽霊は遊園地に取り憑いた地縛霊で、この土地と密接に繋がっている。つまりは私達が立っている地面そのものがクラウン・サンダーの本体、あるいは土地が無事なら幽体も無事とかいう理屈が働いているのだろう。

 

 だが、不死身のカラクリは暴かれた。ロックマンも一連の流れから不死身の秘密を察したようで、やることを理解した様子だ。

 

「バトルカード、プレデーション──フリーズナックル!」

 

「バトルカード──フリーズナックル……!」

 

 視線を交わし言葉もなく私とロックマンはフリーズナックルを構え、そのまま容赦なく足元の地面を殴り付ける。拳を叩き付けた地点から放射状に凍り付き、地面は一面氷に覆われた。

 

『ぐあああああ!? や、やめるのじゃ貴様らぁ!?』

 

 全身を氷塊に覆われながらクラウン・サンダーが叫ぶが、止めろと言われて止める人間がいるとでも? ここまで溜めに溜めたフラストレーション全部開放する勢いで、遠慮なく追い打ちを仕掛けさせてもらう。

 

「バトルカード、プレデーション──タイボクザン!」

 

「バトルカード──タイボクザン……!」

 

 木属性のソードをロックマンと重ね合わせ、呼吸を合わせて地面に大きな十文字を描く。奇しくもそれは幽霊に効力を発揮しそうな十字架となっていた。

 

 弱点属性を同時に叩き込まれたクラウン・サンダーは限界に達したのか、断末魔にも似た絶叫を上げると膝を突いた。不死身の肉体は末端から崩れ落ち始め、ほんの僅かな衝撃で粉微塵になってしまいそうな有様になっている。

 

「止めは、お願い……」

 

「うん、任せて。バトルカード、プレデーション──ジェットアタック1!」

 

 左手をカラスの電波体に変えてロックマンは一直線に突撃する。膝を突いたクラウン・サンダーに回避する手立ては残っておらず、ロックマンの突撃によって不死身の肉体は跡形もなく消し飛んだ。

 

『ぬわああああ!? 覚えておれよ──ー!?』

 

 お約束過ぎる捨て台詞を残してクラウン本体が空の彼方に吹き飛んでいく。流石にあれを追い掛けて追撃するのは骨が折れそうだから止めておこう。それよりも、船の動きは止まった?

 

 船を操っていたクラウン・サンダーが倒されたことでエンジンは停止した。だが、エンジンが止まったからといって船の進行が止まるかといえば、そんなことはない。慣性の力で船は電波エネルギー発電所へと真っ直ぐ突き進んでしまっている。

 

「ダメだ、間に合わない!」

 

「うそお!?」

 

 止まらない巨大船にロックマンが焦りの声を上げ、委員長が顔面蒼白になって叫ぶ。このまま船が発電所に突っ込んでしまえば、コダマタウンを未曽有の大災害が襲う。そうなれば、みんなの家族や友達が危険に晒されてしまう。

 

 迷っている時間はない。やれること全部やってみせる……!

 

「ロックマン、彼女を連れて逃げて……!」

 

「待って、アクア・レディ! 何処に──」

 

 ロックマンの声を無視して私は暗い海に飛び込む。電波変換した状態であれば呼吸の心配はない。そして今の私はアクア・レディ。水中はホームも同然だ。

 

 魚のようにすいすいと水中を泳ぎ、遊園地を載せて進む船の底に取り付く。近付いた事で分かったが、この船、木造だった。だけどクラウン・サンダーの能力によって実体化させられているからか、下手な木造帆船よりも頑丈そうだ。

 

「バトルカード──ブレイクサーベル……!」

 

 頑丈な船底に穴を開けるならこれだろうと、選んだのはガードすらも切り裂くブレイクサーベル。私は躊躇うことなく船底を真一文字に斬り付けて大穴を開いた。

 

 船底に開いた穴から海水が一気に流れ込む。船体がぐっと沈み、速度が一気に落ちる。だが、それでもまだ船の進行は止まらない。

 

 だったらこっちも最終手段だ──

 

「アクエリアス、お願い……!」

 

『ええ、シオナのお願いとあれば、全霊を尽くしましょう』

 

 頼もしい声が響くと、周囲の海水が生き物のように流れを変え始める。水流は大きく渦を巻き、やがて船を水底へと引き摺り込む巨大な渦潮へと変わった。

 

 船底からの浸水と直下で巻き起こった巨大な渦潮により船は急激に失速。みるみるうちに渦に呑まれていく。

 

 早く、早く、もっと早く。冷たく昏い海の底へと──

 

「──沈んで」

 

 船底に開けられた大穴と浸水、止めの渦潮によって船は真っ二つに崩壊する。電波エネルギー発電所を目前として船体は海の底へと引き摺り込まれていく。遊園地を丸ごと載せた船が沈む光景は圧巻で、まるで映画のワンシーンのようだ。

 

 昏い海の底へと沈む船を見送り、私は地上へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「す、凄いわ。映画のワンシーンみたい……」

 

 ロックマンにお姫様抱っこという夢のようなシチュエーションで船を脱出したルナは、海岸沿いから巨大な船が海に沈んでいく光景を眺めていた。

 

「……はっ! ロックマン様は何処に!?」

 

 現実離れした光景に意識を奪われていたルナは周囲をきょろきょろと見回す。しかし愛しのロックマンは既に影すらなく、この場から離脱してしまっていた。

 

「せっかく二人きりになれるチャンスだったのに……それにしても、アクア・レディだったかしら。ロックマン様といったいどんな関係なのかしら……」

 

 ロックマンに恋する乙女であるルナから見て、アクア・レディなる少女は余りにもロックマンと距離が近かった。目線を交わすだけで通じ合っていたり、息を合わせて攻撃したりと、赤の他人とは到底思えない連携振りだった。

 

 突如として現れた恋敵に嫉妬の炎を燃やす一方で、ルナはアクア・レディに対して拭い切れない既視感のようなものを感じていた。今日が初対面であるはずなのに、何処かで会ったことがあるような気がしてならない。

 

 うーん、とルナが頭を悩ませていると、聞き馴染みのある声が聞こえてくる。振り返れば、見慣れた大小のシルエットが慌てた様子で駆け寄ってきていた。

 

「あら、ゴン太とキザマロ。そんなに慌ててどうしたのよ?」

 

「委員長! 無事で良かったぜ……」

 

「遊園地が動き出してからずっと追い掛けてきたんですよぉ……」

 

 ぜえぜえと息を切らしながらルナの元へ駆け付けたのはゴン太とキザマロだった。遊園地の外で待機していた二人は、海岸沿いを走って船の行方を追い掛けてきたのだ。

 

「……あれ? そういやぁ、スバルと海鳴はどうしたんだよ、委員長?」

 

「ツカサ君も見当たりませんね」

 

「しまった!? 三人とも、まだ船の上に──」

 

「──ちゃんと脱出できたから、心配いらないよ」

 

 ルナが顔色を青褪めさせた直後、暗がりからスバルがひょこっと姿を現す。特に怪我をしている様子もなく、ルナが安堵の息を吐いた直後、続けて別方向からも声が響いた。

 

「ボクも大丈夫だよ、委員長さん」

 

「ん、私も……」

 

「ツカサ君、それに海鳴さんも……本当に無事で良かったわ」

 

 バラバラの方向から現れたツカサとシオナにルナは心底安心した様子で胸を撫で下ろした。いつの間に脱出したのだとか気になる事はあるものの、友人達が無事であるのならそれに越した事はない。

 

「にしても、遊園地が動き出すなんてビックリしたぜ」

 

「遊園地の怪異の正体は幽霊船だったという事ですね。沈んでしまいましたけど」

 

「グループ研究の内容、どうしようかしら……」

 

 危機を脱したことで気が抜けたのか、委員長達は呑気にお喋りを始める。ついさっきまでコダマタウンが未曾有の大災害に見舞われるかという瀬戸際だったというのに呑気なものだ。

 

「その話は明日にしない? もう夜も遅いし、此処にいると騒ぎを聞き付けたサテラポリスに補導されちゃうよ」

 

 二度もサテラポリスに補導されたことがあるスバルとしては、三度目は勘弁願いたいというのが本音だった。

 

「それもそうね。色々と疲れたし、また明日にしましょう」

 

 ルナもスバルの意見に賛同し、この場は解散の流れとなった。

 

 各々が帰路に着く中、自然を装ってツカサがシオナの側を通り過ぎる。

 

「──またね、海鳴さん」

 

「…………」

 

 微笑混じりの挨拶にシオナは敵意と警戒を込めた眼差しを返した。

 

「シオナ? どうかした?」

 

 いつになく張り詰めた空気を纏う幼馴染にスバルが声を掛ける。シオナはツカサの背が離れていくのを見届けた後、何でもないと小さく首を振った。

 

「遅くなっちゃうから、帰ろうか?」

 

「……ん」

 

 家が隣同士のスバルとシオナは肩を並べて帰路に就く。道中、スバルとシオナは無言。通報を受けたのだろうサテラポリスのパトカーのサイレンだけが、夜の静寂に木霊していた。

 

 しばらく歩いていると家が見えてくる。友人達と出掛ける旨は伝えたが、遊園地の騒ぎでかなり遅くなってしまったためあかねは心配しているだろう。

 

 小言を言われそうだなぁ、とスバルが若干げんなりしていると、隣を歩いていたシオナが自宅の前で歩みを止めた。合わせてスバルも足を止めてシオナを振り返る。

 

「じゃあ、また明日だね」

 

「…………」

 

「シオナ?」

 

 黙ったまま返事をしないシオナにスバルは首を傾げる。いつもなら、一言二言の返事があって別れるところだが、今夜のシオナは思い詰めた様子で目を伏せていた。

 

「……おやすみ、スバル……さよなら

 

「え、今何て──」

 

 聞き取れなかった最後の言葉を聞き返そうとするも、シオナは足早に門扉を通り抜けて玄関扉の向こうに消えてしまう。パタン、と音を立てて閉じられた扉がスバルを拒絶しているようにも感じられた。

 

 逃げるようなシオナの態度に疑問と一抹の不安を覚えながらスバルも帰宅する。そして案の定、あかねに帰りが遅くなったことに関して小言を貰うのだった。

 

 

 ──翌日、シオナは登校せず、家からも忽然と姿を消した。

 

 

 

 

 

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