心を探し求める水瓶座   作:リコレクションでも嬉しい

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第20話

 

 ホームルームの終わりを告げるチャイムの音が鳴り響く。クラスメイト達が部活や放課後の予定に繰り出していく中、スバルはぼーっと斜め前の空席を見つめていた。

 

「星河君……星河君? ほ・し・か・わ君!」

 

「……あ、委員長。どうかした?」

 

 三回目の呼び掛けでスバルはやっと我に返り、隣に立つルナ達の存在に気付いた。ゴン太とキザマロを後ろに連れたルナはこめかみに青筋を浮かべながらスバルを見下ろす。

 

「あ、委員長。じゃないわよ! 何度名前を呼んだと思ってるの!?」

 

「ご、ごめん。ぼーっとしてて気付かなかったよ」

 

 平謝りするスバルの態度からわざとでないことを察し、ルナは仕方がないとばかりに大きな溜め息を吐いた。

 

「これは重傷ね……海鳴さんがいなくなって心配する気持ちはよく分かるけど、それにしたって腑抜け過ぎよ、星河君」

 

「先生に当てられても気付いてなかったもんな、スバル」

 

「移動教室にすら気付かずに残っていたのはちょっとどうかと思いますけどね」

 

「うっ……」

 

 ゴン太とキザマロにまで指摘されて、スバルは気恥ずかしさから顔を逸らした。

 

 スバルがこうも上の空になっているのは幼馴染のシオナが突如として失踪したからだ。

 

 廃遊園地の探索の翌日から、シオナは行方知れずとなった。かつてのスバルのように引き籠っている訳ではなく、家にすらいないのだ。しかも帰宅した様子も見られず、完全な音信不通状態である。

 

 行方知れずとなって一週間。あかね経由で娘の失踪を知った海鳴夫妻がサテラポリスに捜索依頼を出したものの結果は芳しくなく、スバルも心当たりを片っ端から当たってみたが全て空振り。シオナの影すらも掴めない状況だった。

 

 不登校を脱却してからは隣に居るのが当たり前のようになっていたシオナの失踪は、スバルのメンタルに多大な影響を与えた。昼も夜も、登下校中も授業中も、自室ですらも上の空。ウォーロックにさえも呆れられてしまう始末だった。

 

 不登校だった頃はシオナと毎日顔を合わせていた訳でもなかったのに、会えなくなった途端にこの腑抜け具合だ。シオナと友人関係であると自負しているルナ達でもここまでではない。

 

「……はぁ」

 

 ちょっと目を離せば溜め息を吐きながら空席となっているシオナの席を見つめるスバルにルナは頭を抱える。クラスの委員長だからとか抜きに、友人として今のスバルはとてもではないが見ていられなかった。

 

「星河君! はいこれ、受け取りなさい!」

 

「……え、なにこれ?」

 

 目の前に差し出されたチケットらしきものにスバルは首を傾げる。

 

「ふふっ、聞いて驚きなさい。これは今週末に開かれるミソラちゃんのコンサートチケットよ。この前のチケットのお返しのつもりだったけど、ミソラちゃんの歌を聞いて少しは元気をお出しなさい」

 

「響ミソラの、コンサート……」

 

「海鳴さんのことが心配な気持ちは私も理解できるわ。でもね、星河君がそんな有様じゃ、海鳴さんだって見つかりっこないわよ……ちょっと、聞いてる?」

 

 ルナなりに言葉を選んで叱咤激励をしようとしたが、当のスバルにまるで耳を傾けている様子が見られず眉根を不機嫌に寄せる。

 

「……そうだ、まだそっちは当たってなかった!」

 

 腑抜け状態から急に立ち上がり、スバルはコンサートチケットを握るルナの手を両手でがしっと掴んだ。手を掴まれたルナは目を白黒させ、驚きから少し身を引いた。

 

「え、ちょ、ちょっと、急にどうしたのよ?」

 

「ありがとう、委員長! コンサートチケット、有難く頂くよ!」

 

「そ、そう。元気になったのなら、よかったわ……」

 

 何処か釈然としない思いを抱えながらも、ルナはスバルにミソラのコンサートチケットを手渡す。チケットを受け取ったスバルはつい先程までの腑抜けっぷりが嘘のように、週末が待ち遠しいと言わんばかりにコンサートチケットを掲げていた。

 

 急に元気になったスバルをルナ達は訝しむが、いつまでも上の空で延々と溜め息を吐いているよりはマシだと考え、とりあえずは落ち着くまで様子を見ることにする。

 

「あれ、みんな揃ってどうかしたの?」

 

 生徒が疎らとなった教室に違うクラスのツカサが姿を現した。

 

「あら、ツカサ君じゃない。どうもこうも、ほら」

 

「スバル君、随分とご機嫌だね。最近は元気がなかった様子だったけど、何か良いことでもあったのかな?」

 

「それがね──」

 

 ルナは簡潔にスバルの元気が戻った経緯を説明した。話を聞いたツカサは興味深そうに頷いていたが、やがて何を考えているのかよく分からない微笑を浮かべると口を開いた。

 

「へえ、そうなんだ。スバル君は響ミソラのファンだったんだね」

 

「そんな素振りはなかったような気もするのだけど……」

 

 ルナの知るスバルは宇宙と科学が好きなオタクでマニア気質な大人しめの男の子だ。前にミソラのライブに参加した時、スバルは大して熱狂している様子もなかった。にも拘わらずチケット一枚にここまで喜んでいるのはどういう風の吹き回しなのか、正直ルナには理解できていなかった。

 

「ところで、ツカサ君は海鳴さんの行方に心当たりとかないかしら?」

 

「ボクかい? 残念ながら、ないかな」

 

「そうよねぇ……失踪する前、海鳴さんによく話し掛けていたから、何か知っているんじゃないかと思ったのだけど」

 

「大して相手にしてもらえてなかったけどね……でも」

 

 ふと何気ない仕草でツカサは教室の窓の外を見やる。

 

「案外、近くに居たりするかもしれないよ?」

 

 ルナから見えない角度でツカサは口端に酷薄な笑み浮かべて答えた。

 

 

 放課後の教室でのやり取りを、ウェーブロード上から見下ろす青い影があった。肩に水瓶を担いだ電波体は教室内の光景を、取り分けコンサートチケットに舞い上がるスバルをじっと見つめている。

 

 しばらくスバルの様子を微笑ましく見守っていた電波体であるが、教室にツカサが踏み込んでくると眠たげな無表情を鋭くした。怪しい挙動をすればその場で仕掛けるつもりでその一挙手一投足を監視する。

 

 ツカサは何やらルナと言葉を交わすと、何気ない仕草を装って窓の外に目を向ける。その視線が、電波体の視線とぶつかり合う。

 

 互いに言葉を交わさずとも敵意は伝わる。特に電波体側から、少しでも妙な真似をすれば仕掛ける、と明確な意思を発していた。

 

 二人はしばし視線で火花を散らし合い、やがてどちらからともなく視線を切った。この場で事を構えるつもりは、今のところはないのだ。

 

 教室に残っていたスバル達を含める生徒達が下校を始める。その背中を最後まで見送り、青い電波体はその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 ♒︎

 

 

 

 

 

 

 シオナside

 

 

 現在進行形で四方八方に心配と迷惑を掛けている自覚がある私ですが、今はコダマタウンの都心部に建つ高層マンションの一室に身を寄せていた。

 

 時刻は夜の九時を過ぎた頃。小学生ボディがそろそろ眠気を訴え始める頃合いだが、ぐっと堪えつつ家主の帰宅を待つ。間も無くして玄関の扉が開く音が聞こえてきた。

 

 家主の帰宅に合わせて私も玄関へ向かう。玄関ではピンクのパーカーを着た女の子が、丁度靴を脱いでいるところだった。

 

 女の子は出迎えに現れた私をみると嬉しそうに笑顔を零した。

 

「ただいま、シオナ!」

 

「ん、お帰り……ミソラ」

 

 精一杯の労りの気持ちを込めて、私はこの部屋の家主ことミソラの帰りを出迎えた。

 

 そう、何の便りもなく失踪した私は今、ミソラの元に転がり込んでいた。

 

 突然押し掛けた私から身バレについての事情を聞いたミソラは、嫌な顔一つせず私を泊めてくれた。むしろ私が頭を下げるよりも前に、家においでよと言ってくれたのだ。その優しさに私は甘えさせてもらっている。

 

「お風呂、焚けてるから……ご飯、あっためて待ってる」

 

「ありがとー、シオナ。じゃあ、先に入ってくるね」

 

 玄関からそのまま洗面所に消えていくミソラの背中を見送り、私はキッチンへと向かう。予め作っておいた料理を温めるためだ。

 

 ミソラの部屋に押し掛けて早一週間。ただ居候させてもらうだけでは申し訳がないので、私は一人暮らしで培った家事炊事洗濯スキルをフル活用して家政婦の真似事をしていた。

 

 仕事がなければ昼間は学校、放課後は仕事で帰りは夜遅くになることが当たり前。小学生ながらトップアーティストもとい芸能人として活動するミソラは、確実なオフ以外はこのマンションの一室で一人暮らしをしていたらしい。

 

 オフの日こそ両親が暮らす実家に帰って家族水入らずの時間を過ごしているが、仕事がある日や平日は実家に帰る余裕がなくてこの部屋で寝起きしていたそうだ。寝起きするくらいにしか使われていなかったため、必然的に家事炊事洗濯回りは疎かになっていたので、私が色々と梃入れをさせてもらっている。

 

 何というか、私が転がり込んだ当初は限界OLみたいな有様だった。これが今をときめくトップアーティストの生活か? 冷蔵庫の中身とか、飲み物とゼリー飲料しかなくて、とてもではないが食べ盛りの小学生の自宅とは思えない有様だった。

 

 ご飯はどうしているのかと聞けば、ロケ弁や外食で済ませているとのことで。週一で母親が様子見ついでに掃除やら洗濯やらしてくれていたので何とかなっていたようだ。

 

 そう、母親。ミソラママはゲームと違ってご存命で、何なら普通に顔も合わせた。洗濯物を畳んでいたらご来訪されて、まさかのエンカウントを果たした。

 

 ミソラママはミソラから私が居候していることを聞いていたらしいが、私は何も知らなかったために大変ビックリした。ミソラママが生きていることも含めて二重のドッキリだった。

 

 ミソラママは私という友達ができてからミソラが寂しい思いをしなくなったと、わざわざ私にお礼を言いに来てくれたらしかった。そんな滅相もないと謙遜しておいたけど。むしろ迷惑掛けて申し訳ないと逆に頭を下げた。

 

 その日はミソラママが手料理を振る舞ってくれて、ミソラも含めた三人で食卓を囲んだ。ミソラが大変幸せそうで良かったです。

 

 そんなこんなで一週間。昼間は学校で双葉ツカサが何かやらかさないように監視し、ずっと上の空気味なスバルを心配する生活を送った。今のところは私が失踪したこと以外の問題は起きていない。

 

『シオナ、そろそろミソラが上がってきますよ』

 

「ん、分かった……」

 

 ミソラが風呂を上がるタイミングに合わせてご飯を温める。本日のお品書きはミソラママから教わったミソラの好物こと煮込みハンバーグだ。他にはライスとコーンスープ、簡単なサラダを用意した。

 

 テーブルに温め終わった料理を並べているとミソラが風呂から上がってきた。風呂上がりで頬を上気させたミソラはテーブルの上に並んだ好物に目を輝かせる。

 

「わぁ、ハンバーグだ! もしかして、ママから教わった?」

 

「そう……上手くできたかは、自信ないけど」

 

「心配要らないよ。だってシオナのお料理、みんな美味しかったから!」

 

「……ありがと」

 

 臆面もなく嬉しい事を言ってくれるなぁ。そんな風に言ってもらえると、作った甲斐があるというもの。一人でこつこつ勉強したり、あかねさんに教わった努力が報われたような気がするよ。

 

 

 ──本当に食べてほしい人達には、一度も振る舞ったことがないけど。

 

 

「冷める前に食べよっか?」

 

 ミソラの言葉に頷いて二人揃ってテーブルに着く。手を合わせていただきますをして、ミソラは早速とばかりに煮込みハンバーグを口に運んだ。

 

「ん〜! 美味しいよ、シオナ! 結婚しよう!」

 

「……それは、むり」

 

 勢いでとんでもないことを宣うミソラだが、私が居候生活を始めて三日目あたりからこんな調子である。最初の一発目は私もドギマギしたものだが、流石に何度も言われ続けていれば慣れた。

 

「むぅ、冗談だけどちょっと反応が冷たいなぁ。結婚したいくらい美味しいのは本当なのに」

 

「嬉しいけど、ちょっと大袈裟……」

 

 料理の腕を褒めてもらえるのは嬉しいが、そういった褒め言葉は将来の為に大切に取っておいてほしい。問題点があるとすれば、その相手は最低でも私以上に料理の腕が良くないといけなくなってしまったことだが。まあ、大丈夫でしょ。

 

 顔を綻ばせてハンバーグを食べ進めるミソラに内心でほっこりしつつ、私もちびちびとハンバーグを口に運ぶ。ソースがハンバーグによく染みていて、我ながら会心の出来だと思う。これならミソラママにも太鼓判を貰えそうだ。

 

「学校の方はどうだった?」

 

「……今のところは、大丈夫。向こうも、警戒してるから」

 

 ミソラにはジェミニ・スパークの正体が私の学校に通う双葉ツカサであること、そのツカサにアクア・レディの正体がバレてしまったことを伝えている。学校の生徒達と教師達を危険に巻き込まないため、行方を晦まして何が起きても即時対応できるように監視していることもだ。

 

 ただ、ロックマンが私の幼馴染ことスバルであることは伝えていない。正直、隠す意味も薄れつつあるのだけど、本人が目立ちたくない性質であることと、私の口から一方的に明かすのもどうかと思って黙っている。スバルはこの前のライブで半ば確信しているような素振りがあったけど。

 

「うーん、困るよね。このまま互いに牽制し合うだけだとシオナがいつまでも日常に戻れないし……あ、別にシオナに早く出て行ってほしいとかそんなことは思ってないよ? むしろいつまでも居てくれていいからね」

 

 冗談めかしてウインクまでしてミソラはそう気遣ってくれるが、私もいつまでもミソラの元で厄介になり続けるつもりはない。ミソラに迷惑というのもあるが、余り長く行方を晦ましていると騒ぎが大きくなってしまうからだ。

 

 本来、子供一人が失踪するというのは大事件だ。それが未だニュースやらになっていないのは、私の両親が積極的に動いていないから。私が事前に両親へとメッセージを送ったからである。

 

 メッセージの内容はたった一言。

 

『私は大丈夫、気にしないで』

 

 たったそれだけ。以降、両親から事情を尋ねるようなメッセージが一つ、連絡を取ろうとした素振りが一度だけあった。でも無視したらそれ以後はなぁんの音沙汰もなし。

 

 小学生の子供が勝手に学校サボって行方晦ましているのに、海外から戻ってこようともしない。距離と時間の問題? もう一週間も経ったよ。でも家に帰ってきた形跡はなし。

 

 世間体を気にしてサテラポリスに捜索依頼だけ出して、それ以上は騒ぎ立てるつもりはないのだろう。笑っちゃうよね。世間一般の家族は、娘が失踪したらもっと大々的に騒ぐのに。まあ、私にとっては好都合だけど。

 

 それに、向こうが気軽に戻って来れない事情も、知ってるからね。

 

「シオナ? 大丈夫?」

 

「……ん、大丈夫。もう少しだけ、此処に居てもいい?」

 

「本当にいつまでだって居ていいからね? 私はシオナの美味しいご飯を毎日食べられて幸せだし、帰ってきたら『お帰り』って言ってもらえるのがすごく嬉しいし、だから……」

 

「……ありがと、ミソラ」

 

 あぁ、最悪だ。ミソラに気を遣わせた挙句、こんな悲しそうな顔させて。ミソラも私と両親との関係に大きな溝があることに気付いてしまったのだろう。そりゃあ、失踪してから一度も親の話をしないでいたら、気付くよね。

 

 或いはミソラママの方が察して伝えたのかな。この手の事情は子供よりも大人の方がよく察する。あかねさんも、随分と前から海鳴家の歪な関係に気を揉んでくれていたし。申し訳ないなぁ……。

 

 やめやめ、両親のことは考えない。暗い話は終わりにして、何か明るい話題に変えよう。

 

「今週末……コンサートだよね?」

 

「うん。今回は前よりも大きな箱だし、新曲も発表するから、結構気合い入ってるんだ」

 

「頑張って……見にいくから」

 

 今回は自分でチケットも用意した。秒で完売したから驚いたけど、何とか取れたよ。まあ、聞く時は席からではなく電波変換して別の場所から楽しませてもらうつもりだが。

 

「うん、待ってるよ!」

 

 悲しそうな顔から一転して眩しい笑顔になるミソラ。太陽のような笑顔というのはこのことを言うのだろう。眩しくて目が潰れそう。

 

 暗い話の流れは断ち切られ、それからは明るい話題を取り上げながら私達は賑やかで楽しい時間を過ごした。学校の友達に会えなくなった分の寂しさを埋め合わせるように。

 

 

 

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