心を探し求める水瓶座 作:リコレクションでも嬉しい
ミソラのコンサート当日。新曲発表も兼ねたコンサートは大勢のファンで溢れていた。大盛況となった会場にて、スバルは自分の席からきょろきょろと周囲を見回している。
「ちょっと星河君。いくらなんでもきょろきょろし過ぎよ?」
「ご、ごめん。こんなに大きなコンサートに参加するのは初めてだから」
隣の席に座るルナに苦言を呈されスバルは小さく頭を下げる。ルナを挟んで反対側の席ではゴン太とキザマロが呆れた顔でスバルを見ていた。
軽く注意を受けたスバルは小さく溜め息を吐きつつ、目線だけで周囲を見回す。スバルの予測が正しければ、シオナはこのコンサート会場に現れる可能性がある。決して見落とさないよう、目を皿のようにして探さなければと意気込んでいた。
『オイ、スバル。本当にここにシオナの奴は来るのか? 失踪してる奴が呑気に歌なんか聞きにくるか?』
スバルの行動を懐疑的に見ていたウォーロックが尋ねてくる。ウォーロックの意見も至極真っ当で、スバルは少し返答に困りながらも口を開いた。
「それはそうだけど、でも多分来ると思う。だってあの二人は……」
『あの二人は?』
「……ごめん、具体的にどんな関係性かは分かんないや。でも、仲が良いとは思うんだ」
『あのちんちくりんが有名アーティストと仲良しねぇ……ッ!?』
「どうかした、ウォーロック?」
急にトランサー内で挙動不審になったウォーロックをスバルは訝しむ。
『いや、なんつーか悪寒が……』
「風邪でも引いた?」
『宇宙人が風邪なんか引くかよ……引かないよな?』
「さぁ?」
電波生命体の風邪事情などスバルが知る由もない。ちょっと興味は惹かれるが、今は行方不明となっている幼馴染の捜索が最優先だ。
それからしばらく、スバルは会場内のファン達に目を走らせ続けたがシオナの姿を見つけることはできなかった。
肩を落とすスバルは気付かなかった。即時完売レベルの人気を誇るコンサートであるにも拘わらず、自分の隣の席がいつまで経っても空席なことに。偶然にもその席が、探し人である幼馴染が取った席だったなどとは夢にも思わなかった。
やがてコンサート開始の時間が近付く。間も無くミソラの歌が聞けるというのに辛気臭い顔をスバルがしていると、ルナがお手洗いに席を立つ。その瞬間、トランサー内のウォーロックが他の電波生命体の気配を感じ取った。
『スバル。近くにFM星人がいるぞ』
「え、それってアクエリアス?」
『いや、あいつの背筋が震えるようなおっかねぇ気配じゃねぇ』
「そんなこと言って大丈夫? 後で酷い目に遭わない?」
ウォーロックの歯に衣着せぬ物言いにスバルは心配を募らせる。いくら苦手な相手だからといえ、言い過ぎではないだろうか。何処かで誰かがスバルの意見に賛同する気配があった。
『この感じは……オヒュカスだ。あいつは厄介だぞ。FM星人の中でもかなりの武闘派だ。早いところ倒さねぇとコンサートどころじゃなくなっちまうかもな』
「それは困るよ」
コンサートが中止になってしまえばシオナを探すどころではない。また、大勢のファンが参加するコンサートでFM星人が暴れようものなら大変な事態となる。二重の意味で、スバルはオヒュカスを止めなければならなかった。
「オヒュカスが何処にいるか分かる?」
『大体の場所なら……こっちだ』
トランサーに引っ張られる形でスバルは席を立つ。ゴン太とキザマロから怪訝な目を向けられるが、笑って誤魔化しコンサートホールを抜け出す。そのままウォーロックの案内で会場内を進んでいく。
『ここだ、スバル。この中から気配を感じるぜ』
「待って、待ってウォーロック! ここ女子トイレ! ボク男だから入っちゃダメだよ!?」
オヒュカスの気配がするのは会場内の女子トイレだった。男であるスバルが足を入れたら一発アウトである。
トランサーに腕ごと引っ張られるのを必死に耐えるスバル。何があってもこの先には入らない、と断固たる意思をもって抗う。しかしウォーロックもオヒュカスを野放しにはできない、とぐいぐい引っ張る。
女子トイレ前でスバルがウォーロックと格闘している姿は何とも滑稽な光景だった。
『いいから腹を括れよスバル……──! 伏せろ、スバル!』
「え──?」
切羽詰まったウォーロックの叫び声に間の抜けた反応をするスバル。直後、女子トイレから凄まじい勢いで何かが飛び出してきた。
それは上半身が人間の女性、下半身が蛇の姿となった怪物。ギリシャ神話に登場する蛇の化け物、半人半蛇のラミアそのものの姿をした電波変換体。オヒュカスがある人物と電波変換した姿──オヒュカス・クイーンだった。
オヒュカス・クイーンは巨大な蛇体をくねらせながら女子トイレを飛び出してきた。女子トイレ前でウォーロックと格闘していたスバルは、間の悪いことにその突撃をもろに受けてしまう。不幸な交通事故が発生した。
「うあっ──!?」
『スバル──!?』
生身の状態でオヒュカス・クイーンの突進を食らい、スバルの身体が大きく吹き飛ぶ。そのまま硬い壁に叩き付けられるかと思われた寸前、青い影がスバルの身体を受け止めた。
「う、くっ……あれ?」
「……大丈夫?」
「えっ、あ、アクア・レディ!?」
あわや壁に激突しそうになったスバルを救ったのはアクア・レディだった。ヴェールに隠された瞳が心配そうにスバルを見つめている。
驚いて目を見開くスバルだが、不意に腕を抑えて苦しそうに顔を歪める。壁への激突は免れたが、蛇体による突進はもろに受けてしまったのだ。その拍子に左腕を痛めてしまったらしい。
「痛いなら、じっとしてて……すぐに、終わらせるから」
「あ、待って──」
スバルが止める間も無くアクア・レディはオヒュカス・クイーンと対峙してしまう。
オヒュカス・クイーンは眼前に立ち塞がったアクア・レディを見下ろすと、蛇のように狡猾な笑みを浮かべた。
『ほう、誰かと思えばウォーロックと同じ、裏切り者のアクエリアスか』
『お久しぶりですね、オヒュカス。随分と波長の合う地球人を見つけられたようで』
『ああ、ジェミニの奴に勧められたのは業腹だったが、周波数はこの上なくぴったり合った。この姿となれば貴様だろうとロックマンだろうと、容易く捻り潰して──』「──ロックマン様? ロックマン様がいらっしゃるの!? 何処? いったい何方に!?」
冷徹なオヒュカスの声が、突如として素っ頓狂な声に掻き消される。オヒュカスの宿主が精神支配を押し除けて表に出てきたのだ。
『……ええと、どうしましたか、オヒュカス?』
『くそっ、この娘、どうなっている!? 私の支配を跳ね除けるなどと……!』「ああ、ロックマン様! ずっとお会いしたいと思っていましたの! さあ、この私と共に銀河の果てまでハネムーンに行きましょう!」
「……なに、あれ?」
一人でコントを始めたオヒュカス・クイーンにアクア・レディは困惑を隠せない。その後ろで、ロックマンことスバルもオヒュカス・クイーンのおかしな態度に目を点にしていた。
『……恐らく、宿主がロックマンに対して並々ならぬ執着を抱いているのでしょう。その執着心がオヒュカスの精神支配を跳ね除けているのかと』
「……委員長」
アクエリアスの説明にアクア・レディは呆れやら感心やらで気が抜けそうになる。しかし不意にオヒュカス・クイーンから向けられる視線に強烈な敵意を感じ、反射的に身構えた。
「アクア・レディ……貴方は、ロックマン様の何なの?」
「……何って、別に」
「ロックマン様と肩を並べて戦って、息もぴったりで、羨ましいぃ……! 許せないわ!」
「えぇ……」
今にもハンカチを噛み始めそうなオヒュカス・クイーンにアクア・レディは微妙な顔付きになる。敵対するのは致し方ないと思っているが、それにしたってもっとこうあるだろうと思わざるを得ない。緊張感の欠片も感じられなかった。
しかしオヒュカス・クイーンの敵意は本物。実力も武闘派のオヒュカスと電波変換しただけあって高いだろう。油断できる相手ではない。
「こっち……私が相手」
「あ、お待ちなさい、アクア・レディ! そのヴェールを引き剥がして、白日の元にその姿を晒して上げますわ!」『ちっ、まあいい。邪魔者のアクア・レディを始末できるなら、好きにしろ……!』
コンサート会場の外へと誘導するアクア・レディをオヒュカス・クイーンは何の疑いもなく追跡する。スバルが口を挟む暇もなく、二人は会場外へと消えてしまった。
『オイ、スバル。怪我の具合はどうだ? 戦えるか?』
アクア・レディとオヒュカス・クイーンの気配が遠ざかったのを確認し、ウォーロックがスバルに確認する。
「うん、大丈夫だと思う。ちょっと痛むだけだから」
オヒュカス・クイーンの突進を受けた腕は相変わらず痛むものの、戦えない程ではない。何よりアクア・レディが戦っているのに指を咥えて見ているだけなどできるはずもない。
痛みに顔を顰めつつもスバルは立ち上がり、ウォーロックと電波変換。ロックマンとなり、アクア・レディとオヒュカス・クイーンの後に続いて会場外へと飛び出した。
♒︎
シオナside
ミソラのコンサートを楽しもうと思っていたら、まさかの隣の席がスバルというミラクルに見舞われた。元から席で聞くつもりはなかったのでばったり出会すことはないが、偶然にしても出来過ぎである。
驚きつつも電波変換状態で購入した席の天井付近でコンサートの開始を待っていたら、ウォーロックの失礼な発言が聞こえてきたのでお仕置きを決意した。私をちんちくりん扱いしたことを後悔させてやる……。
お仕置きを決意した矢先に今度はアクエリアスがオヒュカスの気配を感じ取り、気配を辿れば女子トイレ前でスバルとウォーロックが格闘している場面に出会した。君達は一体全体何をしているのかな?
なんて呆れていたら女子トイレから飛び出してきたオヒュカス・クイーンにスバルが不幸にも吹き飛ばされ、大慌てで助けに入ることに。私が咄嗟に飛び込んでいなかったらどうなっていたことやら。肝が冷えたよ。
そしてオヒュカス・クイーン。見た目がゲームの時とまんま同じであることから察するに、電波変換の相手は委員長に間違いない。というか中身の言動からして十中八九委員長だ。オヒュカスの支配を跳ね除ける程のロックマン愛とはいったい……。
そもそも、委員長がオヒュカス・クイーンに電波変換したのは、両親とのいざこざに付け込まれたからだ。娘の成績を更に上げるために転校させようとする両親に、自分の気持ちを蔑ろにされた委員長が不満を爆発させたことでオヒュカス・クイーンに電波変換したのである。
しかし現実のオヒュカス・クイーンは……うーん、これ両親への不満とかじゃないよね。多分、オヒュカスに一方的に取り憑かれたけど、ロックマンへの溢れる愛が爆発して無自覚に支配を打ち破り、暴走しているような感じだろう。愛の力は偉大だね、アクエリアス。
兎にも角にも委員長を正気に戻さなければならない。コンサート会場内で暴れられては困るので外に誘導し、いざ勝負と相なったのだが……。
「待ちなさい、アクア・レディ! ロックマン様とどんな関係なのか、洗いざらい吐いてもらうわよ!」『この、言うことを聞け、小娘がっ!?』
大量の蛇を展開して、自分自身も巨体に見合わない俊敏さで突進してくる。迂闊に距離を離せば麻痺効果付きの目からビームが飛んでくる。正直言って、強い。というかすごく厄介。
ゲームの時からオヒュカス・クイーンは割と強い部類に入っていて、攻略法を知らないと苦戦を強いられる相手だった。それが現実となって、ゲームにはないような動きを手下の蛇とオヒュカス・クイーン本人もしてくるから動きが読みにくい。
何より戦いづらい原因は、肉体の主導権を握っているのがオヒュカスではなく委員長であること。思い立ったように無茶な動きをしたり、バトルのセオリーなんて知らんと突っ込んでくるからやりづらい。
「バトルカード、テイルバーナー2……!」
弱点属性の火炎放射で押し寄せてくる蛇の群勢を焼き払う。一匹一匹は大したことないけれど、数が多い上に四方八方から迫ってくるから
でも、勝てない程でもない。主導権を握っているのが委員長だから、純粋に戦い慣れていない分隙を突きやすい。ちょくちょく攻撃も当てているから、何れはダメージの蓄積で倒れるはずだ。
ただ……。
「バトルカード──モエリング2……!」
「いたっ、ちょっと痛い! 何をするのよもう!?」
「…………っ」
委員長が身体の主導権を握っているから、攻撃を受ける度に委員長が悲鳴を上げたり痛がる素振りを見せる。そのせいで、委員長を傷付けているような気分になって、とにかく戦いづらい。
『シオナ。白金ルナを解放するには、オヒュカス・クイーンを倒す他ありません。躊躇えばこちらが不覚を取ることになりますよ』
「分かっ、てる……! バトルカード、リュウエンザン……!」
炎属性のソードを構え、一気に距離を詰める。差し向けられる蛇達を一刀の元に斬り伏せ、がら空きの懐へ飛び込んだ。
「これで、終わり……!」
燃え盛る炎のようなソードを振り上げ、躊躇いなく振り下ろす。ここまでのダメージと合わされば、この一撃で止めとなるはずだ。
だが──
「ひっ──いやっ、やめて……!」
「────っ」
怯えるオヒュカス・クイーンに委員長の姿が重なって、私は反射的に手を止めてしまった。刹那、オヒュカス・クイーンの口元が邪悪に歪んだ。
『下がって、シオナ!』
「──っ、あ」
アクエリアスが耳元で警告してくれたけど、もう遅かった。
オヒュカス・クイーンの蛇体がうねり、一瞬で私の身体に巻き付く。気付いた時には全身締め上げられていて、身動きが一切取れなくなってしまっていた。
『ふふふっ、捕らえたぞアクア・レディ。このまま締め殺してやろう』
「ぅあっ……!」
きっつい……! 全身凄まじい力で締め上げられて、肺の中の空気全部吐き出してしまう。骨が軋んで、激痛に意識が一瞬で飛びそうだ。
両腕ごと締め上げられているせいでバトルカードで抵抗することもできない。残された手段は一つだけ。迷っていたら気を失ってしまう……!
「あ、くえ──」
苦痛に喘ぎながら助けを求めようとして、不意に身体を締め上げる力が緩んだ。呼吸が楽になり、遠退きかけた意識が戻ってくる。ただ、身動きを封じる拘束だけは外れていない。
長い蛇体に巻き付かれながら、何があったのかと顔を上げる。すると蛇のように鋭くなったオヒュカス・クイーンの瞳と目が合った。
「ふ、ふふっ、やっと捕らえたわよ、アクア・レディ! さあ、あなたの可愛い素顔を見せなさい!」
「──い、やっ!」
命の危機から身バレの危機にシフトチェンジした!? 締め殺される心配はなくなったのに、まるで危機から脱出できていない!
うぎぎぎ……! 全力で抵抗しているのに抜け出せない。全身を締め上げる力はなくなったが、未だ蛇体は私の身体に巻き付き拘束を継続している。気分は丸呑み直前のウサギかカエルだ。
「はな、して……!」
「い・や・よ。さあ、見せてもらうわよ──」
オヒュカス・クイーンの細くしなやかな両手が私の頬を挟んで捉える。抵抗を封じられ、顔を逸らすことすら禁じられた私に為す術はない。
私の顔を覆うヴェールに指が掛けられる。この至近距離でヴェールを剥がされたら、いくら電波変換していても私が海鳴シオナだとバレてしまう。
「……あら? あなた、は──きゃうん!?」
せめてもの抵抗に目を固く閉ざした直後、可愛らしい悲鳴が耳元で聞こえた。恐る恐る目を開くと、私の顔を覗き込んでいたオヒュカス・クイーンが何やらぷるぷると痙攣している。これは……麻痺?
「逃げるんだ、アクア・レディ!」
慣れ親しんだ幼馴染の声に、私は考えるよりも先に身体を動かす。麻痺して緩んだ拘束から抜け出し、オヒュカス・クイーンから距離を取った。するとすぐ隣に見慣れた青い影が並んだ。
「大丈夫、アクア・レディ? 怪我はしてない?」
左腕にプラズマガンを携えたロックマンが心配するように寄り添ってくれる。すぐに終わらせてくるとか言っておいて助けられてしまうなんて、情けないにも程がある。穴があったら埋まりたい……。
情けなさと自己嫌悪からまともに顔も見れず、小さく頷きだけを返す。ろくにお礼も言わない態度に気を悪くしてもおかしくないのに、でもロックマンは心の底からほっとしたように表情を緩めた。
「よかった、本当に……」
「酷い、酷いわロックマン様! 私というものがありながら、そんな泥棒猫にうつつを抜かすなんて!?」
「ええ!? いや、えぇ? どういうこと?」
オヒュカス・クイーンの言動にロックマンが素で困っている。気持ちはとても分かる。今回ばかりは洗脳されて大人しくしていてほしい。でないと戦いづらくてかなわない。
「何だろう、誰かに似ているような気がする……」
『気を抜くな、来るぞ!』
「ロックマン様を捕らえなさい、我が僕達──スネークレギオン!」
オヒュカス・クイーンが大量の蛇を展開する。四方八方から押し寄せる蛇の大群にロックマンはプラズマガンからウォーロックに左腕を切り替え、ロックバスターで迎撃した。
しかしバスターを乱射するロックマンの横顔に微かな苦悶の色が浮かぶ。やっぱり、痛めた腕が万全じゃないんだ。このまま無理をさせる訳にいかない。
「ロックマン……私が、露払いする。だから、止めをお願い」
「でも……」
心配そうな顔で私を見つめるロックマン。先の体たらくを見ていたら、手放しには任せられないよね。でも、本当に問題ない。オヒュカスの宿主を知っているから直接攻撃こそ躊躇ってしまうけど、蛇やらビームやらを防ぐくらいなら支障なくできる。
信じて、とじっと見つめ返すとやがてロックマンは覚悟を決めたように頷いてくれた。ありがとう、ロックマン。
「また! またそうやって二人でいちゃついて! 私だけを見てください、ロックマン様ぁ!」
「ちょっと、静かに……して。バトルカード──テイルバーナー2」
再び迫ってくる蛇の大群を火炎放射で焼き払う。ロックマンには蛇一匹たりとも近づけさせやしない。
「だったら──ゴルゴンアイ!」
「バトルカード──バリア……!」
当たれば麻痺する高火力ビームをバリアで防ぐ。一撃でバリアが剥がれてしまうが問題ない。次の攻撃に対して身構える。
「もう! さっきから私の邪魔ばかりして! だったらまた捕らえて動けなくしてあげるわ──クイックサーペント!」
「それは、いや……だから、お願い──」
巨体には似合わない速度で突進してくるオヒュカス・クイーン。まともに受ければ大ダメージに加え、ゲームと違って拘束までしてくる。迂闊にバリアで防ごうとすれば為す術なく巻き付かれて動けなくなってしまうだろう。
でも、私は一人で戦っている訳じゃない。信頼できる仲間がすぐ側に居るから、大丈夫だ。
「バトルカード、プレデーション──ファイアバズーカ1!」
「『きゃああああ──!?』」
私に突っ込んでくるオヒュカス・クイーンに狙い澄ましたバズーカが直撃する。私が地道に与え続けたダメージの蓄積に加えて、弱点二倍の大ダメージだ。オヒュカス・クイーンの電波変換を解除するには十分過ぎる一撃だった。
断末魔の悲鳴を上げてオヒュカス・クイーンの電波変換が解除され、オヒュカスと委員長が分離。オヒュカスは尻尾を巻いて逃げていき、解放された委員長は力なく地面に倒れ込んだ。
私は倒れ込んだ委員長の側に駆け寄り、優しく抱き起こして怪我の類がないか確認する。幸いなことに目に見える怪我の類はない。電波変換時に受けたダメージは余程酷いものでない限りは生身に残らないので、今眠っているのは精神支配から解放された反動と単純な疲労が原因だろう。
ほっと安堵の息を吐くと側に寄ってきたロックマンが驚いたような声を上げた。
「委員長だったんだ……道理で」
オヒュカス・クイーンの素っ頓狂な言動の原因が理解できたのか、ロックマンは納得の表情を浮かべた。
兎も角、このまま委員長を地べたに放置するのは可哀想なので近くのベンチに運ぶ。じきに目を覚ますだろうし、最悪直ぐに目が覚めなくても電波変換を解除したスバルがすぐに起こしてくれるはずだ。
ベンチに委員長を丁重に横たえ、私はロックマンに向き直る。
「さっきは、ありがと……じゃあ──」
「──ま、待って!」
短くお礼を伝えてこの場を後にしようとしたが、ロックマンに手を掴まれて足を止めざるを得なくなってしまった。何だろう、何か用事でもあったかな?
「……どうかした?」
「あ、いや……えっと」
「……?」
手を掴んでまで止めておきながらロックマンは何を言うべきか迷っている様子だ。どうしたのだろうか? もうミソラのコンサートも始まってしまっているだろうし、早く会場に戻りたいんだけど……。
「……ま、また! またね!?」
「え……う、うん? また、ね?」
しばし迷った末にロックマンが選んだ言葉に首を傾げながらもそう返すと、ロックマンは何故か安心したように微笑みを零した。
私の返答に満足したのかロックマンが手を離してくれたので、今度こそこの場を立ち去る。最後まで矢鱈とロックマンから突き刺さるような視線を感じだけど、やっぱり何か用事でもあったのかな?
『──これでやっと三人ですか』
「何か、言った……?」
『いいえ、何も。それよりも、一度電波変換を解除して休みましょう。このまま電波変換を維持するのは身体に負担が大きすぎます』
「え……」
いやでも、電波変換を解除したらミソラのコンサートを会場で楽しめないんですが……だめ? 休息が最優先? 無理をしたら強制解除? そんなぁ……。
その後、オカンと化したアクエリアスの説得に負け、ハープに事情を説明した上でミソラの楽屋で休ませてもらうことになった。残念ながらコンサートを生で楽しむことはできず、折角の新曲発表も聴き逃すという有様。悲しい……くすん。
でもコンサートを終えたミソラが、コンサートを守ってくれたお礼として新曲オンリーのミニコンサートを開いてくれたのでプラマイゼロかな。むしろ貰い過ぎなくらいだった。
オヒュカス・クイーンの突然の襲撃には参ったけれど、ミソラのコンサートは守り抜けたし、久し振りにロックマンことスバルともちょっと話せたし、まあ良しとしよう。委員長に正体がバレたかもしれない可能性には目を瞑る。
◆
響ミソラのコンサートが終わり会場前。満足げな表情をしたゴン太とキザマロのやや後ろで、酷く疲れた様子でスバルが腕を摩っていた。
「どっと疲れたよ……腕も痛いし」
『間が悪かったな、あれは。まあ、無事にオヒュカスは倒せたんだ。結果オーライってやつだろ』
「そうだね……シオナも元気そうだったし」
『あん? 何か言ったか?』
「何もないよ」
ゆるゆるとスバルは首を振り、ミソラの歌を聞いてご機嫌な様子のゴン太とキザマロに置いていかれまいと歩みを早めようとした。
「星河君、ちょっといいかしら?」
スバルが早めた歩みを止めたのは、何やら悩ましげな表情で頭を抑えているルナだった。
オヒュカスの支配から解放され、意識を取り戻したルナは電波変換中の記憶を失っていた。断絶した記憶に混乱しているところをスバルの手でコンサート会場に連れ戻され、訳も分からないままミソラの歌を聞くことになったのだ。
「どうかしたの、委員長?」
「いえ、ちょっと聞きたいのだけど……今日、何処かで海鳴さんと会ったりした?」
「え、えっ? い、いやぁ……会ってないけど、どうして?」
予想だにしない質問にスバルは挙動不審になりながらも聞き返す。難しい表情で考え込んでいるルナはその不審な態度には気付かず、うーんと小さく唸りながら答える。
「なんだか、何処かで見掛けたような気がするのよねぇ……でも思い出せなくって。会場に居たのなら、星河君が見つけているかもと思ったのよ」
「えっと、ごめん。コンサート会場にシオナはいなかったと思うよ」
「そうよね……」
やっぱり気のせいかしら、と首を捻るルナにスバルは心の中で謝罪した。
「ところで、少しは元気が出たかしら、星河君?」
「うん、おかげさまで。委員長がコンサートに誘ってくれたおかげだよ」
ルナがミソラのコンサートに誘ってくれたからこそ、スバルは当初の目的を達することができた。掛け値なしにスバルはルナに感謝していた。
「ふふっ、次期生徒会長を目指す者として当然のことをしたまでです。でも感謝しているなら今後とも私の支援者として誠心誠意尽くしなさい?」
「あ、あははっ……とりあえず、応援はさせてもらうよ」
得意げに胸を張って恩を着せてくるルナに苦笑いしながら、スバルは控えめながらもそう答えた。下手に言質を取られるような発言をすれば、馬車馬の如く働かされるような気がする。普段のゴン太とキザマロの様子を思い出して、スバルは迂闊な発言を控えたのだ。
それでもルナには十分だったらしく、嬉しそうな笑顔を見せた。屈託のないルナの笑顔にちょっと申し訳なさを感じて、スバルはそっと目を逸らすのだった。