心を探し求める水瓶座   作:リコレクションでも嬉しい

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しばらくはシリアスなるかなぁ……。


第22話

 シオナside

 

 

 委員長がオヒュカスと電波変換してオヒュカス・クイーンとなり、大暴走してから数日。ここ最近は電波ウイルスが幾つか障害を発生させるくらいで、比較的平和なものだった。ツカサも学校で何か事件を起こすような素振りもなく、表面上は大人しくしているように見えた。

 

 そんな日々の中、私は今日も今日とて行方を晦ましながら学校でのスバルを見守りつつツカサの監視に精を出していた。勉強の心配はいいのかって? これでも人生二周目だから、流石に小学生の授業範囲でついていけなくなるようなことはない。授業も、監視の片手間に聞いているから、大丈夫だ。

 

 授業の終わりを告げるチャイムの音が鳴る。今日の授業はこれで最後。後はホームルームを終えれば下校の時間だ。

 

 今日もすべて世はこともなし。そろそろ私も、ミソラの家を出ようかな。学校と自宅には戻らないけど、何時迄も受け身態勢で待っている訳にはいかない。多少強引でリスクがあっても、こちらから仕掛けないと状況を打開できない。

 

『シオナ。幼馴染君の様子が妙ですよ』

 

 やっぱり確実なのは闇討ちかな、なんて物騒なことを考えているとアクエリアスの声で意識を現実へと引き戻される。見ればトランサーで誰かと会話していたスバルが血相を変えて教室を飛び出していた。

 

 何があったのか様子を見ているとスバルは人気のない場所で電波変換、ロックマンになるや学校を飛び出していく。向かう先は……この方角は、アマケン? この時期にアマケンに行く用事なんて、あったかな……? 

 

 飛び出していった時の表情もかなり切羽詰まったものだったし、ただならぬ事態なのかもしれない。私もすぐに追うべきか少し迷って、不意に視線を感じた。

 

 視線を感じた方を見ると、教室の窓からじっと私を見つめるツカサと目が合った。ツカサは私と目が合うと、ふっと小馬鹿にするような笑みを浮かべて背を向ける。そのままひらひらと手を振ると廊下の先へと姿を消した。

 

 挑発……にしてはあからさまだ。ただ煽っているだけとも取れるけど、どうするべきか。

 

『どちらを追いますか、シオナ?』

 

「……スバルを、追う」

 

 ツカサからあまり目を離したくないけれど、スバルのいない学校で何かを仕掛ける可能性は低いと思う。むしろ今は尋常ならざる様子でアマケンに向かったスバルを追った方がいい。

 

 優先すべき対象を決めて、私はすぐにスバルことロックマンの後を追う。ウェーブロードに乗って走れば移動時間はそう掛からない。ただ、それはロックマンも同じ事だから、向こうで何か起きていた場合は事態がかなり進んでいる可能性もある。

 

 逸る心を抑えて研究所に急ぐこと数分、いつかの焼き直しのように研究所から立ち昇る黒煙が見えた。やっぱりアマケンで事件が起きていたようだ。

 

 アマケンで事件となると、以前の事件の時にそのまま行方知れずとなった宇多海さんが戻ってきたのかもしれない。宇多海さんが戻ってきたと天地さんあたりから連絡を受けて、キグナスの策略を疑ってスバルは急行した。それで駆け付けたら、案の定の騒ぎということかな。

 

 今の推測が合っていたとしたら、宇多海さんことキグナスの目的はいったい……いや、今は現場に急ごう。どんな目的があったとしても、キグナス・ウィングを倒してしまえばそれで解決だ。

 

『シオナ。予め警告しておきます。今まではその場で倒せばFM星人との電波変換は解除され、操られていた地球人は無事に救出できました。ですが、宇多海深佑はあまりにも長くキグナスと同調してしまっている。助けられる確率は、高くないかと』

 

「それ、は……」

 

 キグナス・ウィングを倒したところで宇多海さんを助けられる保障がない、ということ。いや、アクエリアスがわざわざ前もって警告したということは、救える可能性は殆どないのだろう。倒してしまえば、最悪の場合死に至る。

 

 研究所に急ぐ足に迷いが生じる。今まではロックマンを、罪のない人を守るために戦っていた。でも今回は、意図していなかったとしても人を殺してしまうかもしれない選択をしなければならない。果たして私は、キグナス・ウィングを前にして、戦えるのだろうか。

 

 ……いや、私が戦わないといけない。私が戦わなかったから、その役目はスバルに回ってしまう。人の命を奪うような重荷を、スバルに背負わせる訳にはいかない──絶対に。

 

 大丈夫だ。この前の委員長の時のようなヘマはしない。宇田海さんと私の間には躊躇してしまうような関係性もない。最悪の結果も覚悟して、戦ってみせる。

 

『…………』

 

「行くよ、アクエリアス……」

 

『えぇ、行きましょう』

 

 研究所はもう目と鼻の先だ。覚悟を決めて、私は天地研究所の敷地へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 スバルが天地研究所へと急行したのは、天地から宇多海が戻ってきたという連絡を受けたからだ。

 

 先のキグナス・ウィングによる研究所襲撃事件以来、宇多海はキグナスから解放されることなく行方不明となっていた。その宇多海が無事な様子で戻ってきたというのだ。

 

 連絡を受けた当初はスバルも宇多海の帰還を素直に喜んだ。しかしウォーロックから、キグナスがそう簡単に地球人を解放するはずがないと指摘され、最悪の可能性を考えて天地の元へと急行した。

 

 すると案の定、研究所はキグナス・ウィングによって再び襲撃されていた。それだけに飽き足らず、キグナス・ウィングは天地個人を無理やりウェーブロード上空へと連れ去り、そこから落とすなどという凶行に走った。

 

 幸いにも駆け付けたスバルによって地面に激突する寸前に助けられたが、その時にロックマンの正体がスバルであることが天地にバレた。どうやらそれ以前に宇田海がロックマンの正体がスバルであると仄めかしていたらしい。

 

 バレてしまったものは仕方ない。幸いなことに天地はスバルの父である大吾と親友で、スバルにも良くしてくれている。ロックマンの正体を吹聴するような真似はしないだろうと、後で事情を説明する約束をしてこの場から避難してもらった。

 

 そして今、天地研究所上空にて、スバルはキグナス・ウィングと因縁の対決を繰り広げていた。

 

「くっ、バトルカード、プレデーション──ガトリング1!」

 

『甘い──キグナスフェザー!』

 

 左腕から発射したガトリングと翼から射出された無数の羽が衝突する。威力はほぼ互角で弾丸も羽も互いには届かない。

 

「バトルカード……」

 

 即座にスバルは次のバトルカードを選ぼうとするが、その動きが不自然に鈍い。普段よりも明らかに動きの精彩に欠けていた。

 

『どうしたロックマン! いや、スバル君! 随分と動きが悪いじゃないか──行け、ワタリドリ!』

 

「……っ」

 

 召喚された白黒のアヒルのような電波体が突っ込んでくる。スバルは一拍遅れながらも突進を回避、ブレイクサーベルを読み込んで一匹残らず斬り伏せた。

 

『スバル! 戦闘に集中しろ、スバル!』

 

「分かってる! でも……」

 

 戦闘に集中したくても、できない理由があった。それは戦いの最中にウォーロックから告げられた、宇田海を助けられない可能性が原因だ。

 

 今までは電波変換したFM星人を倒せば、操られていた地球人は怪我も殆どなく無事に助けることができた。ゴン太も育田も、ルナもFM星人の精神支配から解放することができた。

 

 宇田海も、キグナス・ウィングを倒せば元に戻すことができると、そう思っていた。しかし宇田海はこれまでの被害者とは事情が変わってしまっていた。

 

 宇田海がキグナスに囚われてから既に二ヶ月近く。その間、キグナスと同調を強制されていたのであれば肉体が受けた影響は計り知れない。キグナス・ウィングを倒して同調を解除したとしても、無事に元の身体に戻れるかは分からないのだ。

 

 下手に倒してしまえば命を奪ってしまうかもしれない。その可能性をウォーロックから聞いてしまっては、根が善良な少年であるスバルがまともに戦えなくなってしまうのも無理はない。

 

『戦いづらそうですね、スバル君。やはり君は優しい。僕を騙して利用してきた連中とは違う』

 

「宇田海さん……」

 

『戦え、スバル! 助けるのが無理だとしても、このまま野放しにすれば被害が広がるだけだぞ!?』

 

「でも……」

 

 ウォーロックに何度警告されても、スバルは覚悟を決めきれない。なまじキグナス・ウィングが宇田海のように語り掛けてくるため、躊躇いを振り切れないのだ。

 

 戦うよう強く促すウォーロックに対して、キグナス・ウィングは軽蔑するような眼差しを送る。

 

『スバル君は戦いたくないと言っているのに、あなたは無理やり戦わせようとするんですね、ウォーロック。流石は裏切り者の戦士。宇宙ステーションを襲撃した時も、地球人を何人殺そうと何も思わなかったのでしょう?』

 

「……どういう、こと。宇宙ステーションを、襲撃した?」

 

 キグナス・ウィングの口から飛び出した信じられない言葉にスバルは立ち尽くし、左手のウォーロックを激しく動揺しながら見下ろす。今の発言が事実なら、ウォーロックはスバルの父親である星河大吾が巻き込まれた宇宙ステーションの事故に関与していることになるのだ。それも、当事者レベルで。

 

「嘘だよね、ウォーロック……?」

 

『……今は、戦闘に集中しろ。心を乱せば、電波変換を維持できなくなる』

 

「だったら、答えてよ。知ってること、ちゃんと全部話してよ……!」

 

 スバルはウォーロックの抱える事情の殆どを知らない。何故FM星を裏切ったのか、アンドロメダの鍵とは何なのか、何もかも。

 

 今まではそれでも、必要に駆られて戦ってきた。しかし父親である大吾の事となれば黙ってはいられない。

 

『…………』

 

「ウォーロック……!?」

 

 もはや戦闘の最中であることすら忘れて、スバルはウォーロックに問い糺す。しかしウォーロックは答えず、彼にしては珍しく沈黙した。

 

 無言を貫くウォーロックに代わって答えたのはキグナス・ウィングだ。棒立ち状態になったロックマンを攻撃することもなく、キグナス・ウィングはまるでスバルに寄り添うような声音で語る。

 

『そんなに知りたければ教えてあげますよ、スバル君。君と電波変換しているウォーロックは、FM王の命に従って宇宙ステーションを襲撃した戦士の一人です。つまり君は、自分の父親を殺した奴と電波変換しているんですよ!』

 

「そんな……」

 

 キグナス・ウィングから齎された衝撃を受け止め切れず、スバルは呆然と立ち尽くす。今まで信頼して肩を並べて戦ってきた相手が、よもや自分の父親を殺したかもしれない相手だったなどと、到底信じたくもなかった。

 

 ウォーロックに対してスバルの胸中に大きな不信の芽が生まれる。電波変換相手に対する信頼の揺らぎは、電波変換の維持に多大な影響を齎す。現に青いロックマンのシルエットがブレて電波変換が解けかけていた。

 

『スバル! 集中を切らすな、電波変換が解除されちまう!?』

 

『もう遅い──ダンシングスワン!』

 

 電波変換が不安定となっているロックマンに対してキグナス・ウィングが容赦なく攻撃する。自らを激しい竜巻と化して呆然自失状態のロックマンに突っ込んだ。

 

「……! しまっ──」

 

 スバルが気付いた時には竜巻は目と鼻の先に迫っていた。電波変換の維持すら怪しいスバルに回避も防御も不可能。身構えることすらできないまま、激しい竜巻に呑まれそうになって──

 

 ──深い青のシルエットが荒れ狂う竜巻を一刀両断にした。

 

『ぐぅあ!? 誰だ!?』

 

 外部からの横槍で攻撃を中断させられたキグナス・ウィングが怒りに叫ぶ。後一歩で憎きロックマンを倒す事ができたというのに、邪魔をされて激しく憤っているのだ。

 

 スバルことロックマンを守った深蒼の影は竜巻を斬り裂いたブレイクサーベルを構えたまま、肩越しに背後を振り返る。その見慣れた姿にスバルは思わず口を呟きを零す。

 

「アクア・レディ……」

 

「ん……怪我は?」

 

「だ、大丈夫、だけど……」

 

 戦えるかどうかで言えば、とてもではないが戦闘に集中できる精神状態ではない。電波変換の相手であるウォーロックに対する信頼が揺らいでしまっているのだ。今この瞬間ですら、気を抜けば生身に戻りかねない精神状態である。

 

 俯いて立ち尽くすロックマンを見て、アクア・レディはほんの僅かな時間瞑目する。次に目を開いた時、そのヴェールの下に隠された瞳には冷徹な覚悟の光が宿っていた。

 

「分かった……危ないから、下がってて」

 

「キグナスと戦うの? ダメだよ! キグナス・ウィングを倒したら、電波変換してる宇田海さんの命が……」

 

「……だから?」

 

「え……?」

 

 アクア・レディから返ってきた信じられないくらい冷たい声音に、スバルは思わず間の抜けた声を洩らす。今まで一度だって聞いた事がない程に冷たく、無機質な声だった。

 

「倒さないと、沢山の人が傷付くことになる……放っては、おけない」

 

「でも、そんな──」

 

「誰かが、やらなくちゃいけない……だったら、私がやる。ロックマンは、下がってて」

 

 言外に、邪魔だから下がっていて、とアクア・レディは言っていた。咎めるような強い口調ではなかったものの、スバルには言葉に込められた強い覚悟が感じ取れた。

 

 即ち──アクア・レディは本気でキグナス・ウィングを倒すつもりだということ。それも、宇田海が死んでしまうかもしれない可能性を覚悟した上で。

 

 並々ならないアクア・レディの覚悟にスバルは何も言えなくなってしまう。アクア・レディは言葉なく立ち尽くすロックマンを申し訳なさそうに一瞥し、すぐに意識を切り替えるとキグナス・ウィングの前に立った。

 

『アクエリアス。裏切ったとは聞いていたが、よもやこの僕の邪魔をするとは……! FM王の沙汰を待つまでもない。この場で僕が手ずから処断してあげよう!』

 

『私の愛する人を侮辱しておいて、よく回る口ですね。二度と妄言を吐けないよう、縫い付けてあげましょうか』

 

 ウォーロックに纏わる大凡の事情を知っているアクエリアスは、スバルとウォーロックの仲を引き裂こうとしたキグナスの詭弁に静かな怒りを募らせていた。普段は引き気味なシオナも、今回ばかりはその怒りを諌めることはない。

 

『できるものならやってみろ! キグナスフェザー!』

 

「バトルカード、ベルセルクソード2……!」

 

 戦闘続行不可能のロックマンに代わり、アクア・レディがキグナス・ウィングと戦い始める。激しく鎬を削り合う二人を、スバルはただ呆然と眺めていることしかできなかった。

 

 ロックマンを傍観者に追いやったアクア・レディとキグナス・ウィングは、ウェーブロードの上を目まぐるしく移動しながら激しい攻防を繰り広げている。

 

 優勢なのはアクア・レディだが、しかしキグナス・ウィングも負けていない。隙の少ない攻撃から距離を詰め、長い手足と翼を駆使して近接格闘を繰り出す。ゲームにはなかった挙動の上、小柄でリーチの短いアクア・レディにとっては中々に厄介な攻撃だった。

 

 それでもアクア・レディが優勢なのはキグナス・ウィングの手の内を知っている事と、状況に応じたバトルカードの選択が巧いからだ。恐らくはこの世界において、アクア・レディ以上にバトルカードの扱いに慣れている存在はいないだろう。

 

『ぐ、ぅ……おのれ!』

 

「バトルカード──ネバーレイン2……!」

 

 キグナス・ウィングの素早く隙のない動きにも慣れ、アクア・レディが一方的に押し始める。もはやここからキグナスに逆転の目はないだろう。それ程までに、アクア・レディは順当に強かった。

 

 そんなアクア・レディとキグナス・ウィングの戦闘をスバルは途方に暮れながら見ていることしかできなかった。いつもなら血の気の多いウォーロックも黙りで、この場にスバルの背を押す誰かは何処にもいなかった。

 

 ただ、一切の迷いなくキグナス・ウィングを倒そうとしているアクア・レディの横顔に、言語化できない焦燥を募らせるだけで──

 

「──このまま見ているだけで、本当にいいのかい?」

 

 不意に響いた声にスバルは反射的に振り返る。いつからいたのか、ジェミニ・スパークが冷ややかな笑みを浮かべてスバルを見下ろしていた。

 

『ジェミニ!?』

 

『キグナスに随分といいようにやられたようだな、ウォーロック?』

 

『てめぇ……!』

 

 ブラックの嘲笑混じりの煽りにウォーロックは悔し気に唸る。事実、キグナスの言葉に惑わされてスバルは戦闘不能状態だ。今この場でジェミニ・スパークに仕掛けられたとして、果たして何処まで抗えるものか。

 

 警戒と緊張を高めるウォーロック。一方のジェミニ・スパークに敵意や戦意は見受けられない。代わりに彼らは立ち尽くして何もできないロックマンを、嘲笑うように眺めていた。

 

「アクア・レディは強いね、臆病な君と違って」

 

「…………」

 

 離れた場所でキグナス・ウィングを圧倒し始めたアクア・レディとロックマンを見比べてホワイトが言う。わざわざ言われなくても、そんなことは前々から分かっていたことだ。

 

 自分が苦戦したジェミニ・スパークとも対等に渡り合い、ハープ・ノートと二人掛かりでも怪しかった凶暴化ウルフ・フォレストをたった一人で抑え込んでみせた。戦い方を見ていても、自分よりも圧倒的に戦い慣れていると前々から思っていたのだ。

 

 そして今、覚悟の差も明白になった。

 

 何も言い返せず俯くスバル。キグナス・ウィングを倒す覚悟も持てず、キグナスの言葉に惑わされて立ち尽くしていることしかできない自分はなんて情けないのだろうか。

 

「……ああ、そろそろ決着が付きそうだね」

 

 横目に戦闘の様子を眺めていたホワイトが呟く。のろのろとスバルが顔を上げると、ダメージの蓄積でキグナス・ウィングが膝を突いており、その前でアクア・レディが止めを刺すべくソードを構えていた。

 

「もう一度訊くよ。このまま見ているだけで、本当にいいのかい?」

 

「……何が、言いたいの?」

 

 含みありげに問い掛けてくるホワイトにスバルは弱々しく聞き返す。ホワイトがどんな意図をもって問い掛けているのか、スバルにはまるで理解できなかった。

 

「いや? むしろ、何かあるのは君の方な気がするけどね」

 

「…………ボクは」

 

 無言で拳を握り締めてスバルはアクア・レディの横顔を見つめる。冷徹に敵対者に止めを刺そうとしている無機質な瞳が、スバルには感情を押し込めて無理やりに取り繕ったものに見えた。

 

 胸の奥底から湧き上がる焦燥がスバルの背を押す。力なく立ち尽くしていた両足が、無意識の内に一歩を踏み出していた。

 

「ボクは……!」

 

『どうした、スバル?』

 

「止めないと、このままじゃダメなんだ!」

 

 つい先程まで無気力で電波変換の維持すら危うかったスバルが、自らの足で駆け出した。向かう先は今まさにキグナス・ウィングに止めを刺そうとしているアクア・レディのもとだ。

 

『待て、スバル!? くそっ、ジェミニ! まさかこれが狙いで──!』

 

「──ふふっ」

 

 ホワイトの嘲笑するような笑い声が小さく響いた。

 

 

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