心を探し求める水瓶座   作:リコレクションでも嬉しい

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第25話

 シオナside

 

 

 目を覚ましたら病院のベッドの上、それも呼吸器やら管やら繋がれた重症人だった。なんだか最近、こんな役回りばっかりで嫌になるなぁ。

 

『──目が覚めたようですね』

 

 うん、なんとか。私の無茶にまた付き合わせてごめんね、アクエリアス。怪我とかない? 

 

『いいえ、私の方こそ……傷が、残ってしまいました』

 

 ああ、胸を貫かれた傷が残ってしまったのか。別に私は一切気にしていないけどね。お嫁に行く予定もないし、命があるだけ十分。

 

 それよりも、それよりもだ。アクア・レディの正体が私であるとバレていたことの方が余程ショックだった。しかも初めて直接対面した時点でバレていたという。

 

 正体がバレていないと思って振る舞っていたのに、その前提が崩れていただなんて……は、恥ずかしい。穴を掘って埋まっていたい。いっそ水底に沈んでいたい……。

 

 身体の自由が利いていたのならのたうち回っていただろう羞恥に震えながら、頭の冷静な部分で思考を回す。そもそもどうして、スバルは電波変換した状態のアクア・レディを私だと見抜いたのだろう。分かりやすいボロを出した覚えはないのに……。

 

『逆の立場になって考えてみては?』

 

 逆? 私がスバルの立場だったらってこと? 

 

『前世の知識がなかったとしても、ロックマンと直に対面すれば幼馴染君だとシオナなら分かりますよね?』

 

 そりゃあ幼稚園の頃からのお隣付き合い、幼馴染だからね。見た目が多少変わったところで、直に会って話せば分かるよ。気付かないなんてことはあり得ない。

 

『そっくりそのままその通りですよ』

 

 ……な、なるほど。言われてみれば、確かに。原作ではスバルのことをよく知る幼馴染で共に戦う存在なんていなかったから失念していたけど、冷静に考えてみれば気付いてもおかしくないよね。

 

 納得はできた。受け入れられるかといえば、今しばらくは現実逃避をしていたいところだが。いつまでも目を背けている訳にもいかない。

 

 私が倒れて目が覚めるまでに何があったのか。分かる範囲で構わないから教えて欲しい。

 

『もちろん──』

 

 そこからアクエリアスに私が倒れて以降のことを掻い摘んで説明してもらう。

 

 アンドロメダの鍵をキグナスに奪われ、私は生死の境を彷徨って緊急手術と入院。壊れかけたスバルとウォーロックの絆は再び強固に繋がり、そしてサテライトの光に導かれた、と。

 

 うん、大体の状況は把握できた。中々スターフォースを習得する気配がなかったから心配していたけど、サテライトに導かれたのならもう大丈夫だろう。今頃何処で何をしているかは分からないが、戻ってきた時には新たな力を手にしているはずだ。

 

 スターフォースがあればキグナスを含めFM星人達に遅れを取ることも早々ないだろう。ジェミニ・スパークにだって勝てるはずだ。

 

 問題があるとすれば、アンドロメダの存在だろう。あれは最終的にみんなとの絆の力で打倒したようなもの。スターフォースの力があったとしても倒せるとは限らない。

 

 原作ではFM星に置かれたコントロール装置と鍵が揃わないとアンドロメダの起動はできない。だがこの現実においては、鍵さえあれば起動は疎かその場に召喚までできてしまうそうだ。アクエリアスの情報だから間違いない。

 

 つまり、今この瞬間にもラスボスが地球に出現してもおかしくない訳だ。スターフォース習得したてのロックマンと、アクア・レディとハープ・ノートの三人で戦ったとして、果たして止められるかどうか。

 

 ゲーム画面の中ではない、現実世界で対峙したことがないから何とも言えないが、多分難しいだろうなと思う。星を容易く滅ぼしてしまえるような兵器を、一個人が易々と止められるとは到底思えない。

 

 でもまあ別に、()()()()()()()()()()()

 

 むしろこれはまたとない好機だ。私とアクエリアスの願いを叶える絶好の機会に他ならない。そうだよね、アクエリアス? 

 

『……そうですね』

 

 なんだか煮え切らない態度のアクエリアス。何か心配事でもあるのだろうか。懸念事項があるのなら、包み隠さず教えてほしい。

 

『いいえ、何も……何もありませんよ』

 

 そう? なら、いいけど……。

 

 私達がやるべき事は決まっている。願いを叶えるため、今は雌伏の時だ。心配してくれているスバルやあかねさん達には悪いが、意識が回復したことは誰にも悟られないようにしよう。

 

『……本当にいいのですか? このまま突き進めば、貴女は』

 

 何を今更。アクエリアスに出会ったその日から、私の前世(コドク)を明かしたその時から、私の覚悟は決まっている。それはアクエリアスだって、そうでしょう? 

 

『……そうですね。本当に、今更が過ぎるというもの』

 

 ……アクエリアスが嫌なら、止めるよ。アクエリアスが居なかったら私は無力な小娘に過ぎない。分不相応な願いを叶えることも、孤独を埋めることもできなかったんだから。主導権は私じゃなく、アクエリアスにあるんだよ。

 

『──いいえ。アンドロメダの鍵がキグナスの手に渡った以上、引き返す道はありません』

 

 そうだね。私達が何もしなければ、地球はアンドロメダによって滅ぼされる。スバルとウォーロックなら或いは何とかできるかもしれないけど、あの二人に地球の命運を全部押し付けるつもりは毛頭ない。

 

 私達の意志は出会ったその日に決まっていた。そしてもう、立ち止まることはできない。

 

 

 ──あなたの願いは私の願い。

 

『──貴女の孤独は私の孤独』

 

 

 忘れていない、一言一句足りとも。絶対に忘れない。今日までずっと心に刻み続けてきた、誓いの言葉だ。

 

 誓いを再確認した私達にもはや迷いも何もありはしない。ただ互いの願いのために、突き進むだけ。

 

 ……あぁ、でも一つだけ。ケジメを付けておきたいことがある。この期に及んで何を今更という話だけど、最後にしっかりと清算しておきたいんだ。

 

『構いませんよ。あれらの事に関して、私が擁護するようなことは一切ありませんので』

 

 アクエリアスは辛辣だなぁ。一応、血縁上は私の両親だよ。血が繋がっているだけの他人とも言えるし、もはや愛想なんてお互いに尽き果てているかもしれないけど。

 

『シオナ……貴方はまだ』

 

 それはないから心配しないで。でも、()()()()()()()()()()()? 

 

『……ええ、そうですね』

 

 うん、だから私がするのは復讐でも八つ当たりでもない、ただの訣別。それ以上の意味はないから、本当に心配しないで。

 

『……分かりました。ですが、今は少しでも身体を休めてください。時機が訪れたら、報せますので』

 

 アクエリアスは心配性だなぁ。でも、今はお言葉に甘えておこうかな。手術で塞がったとはいえ、胸に穴を開けられたのは中々に堪えた。今後のためにも、大人しくして英気を養っておこう。

 

 アクエリアスの勧めるがままに私は意識を手放した。

 

 

『もしも、貴方がシオナの言う主人公(ヒーロー)であるのならば、どうか──』

 

 小さな祈りが病室に木霊して虚しく消えた。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 地球の周囲に浮かぶ無数の人工衛星。その中でも地球の電波環境を維持構築している三基のサテライト、ペガサス・レオ・ドラゴン。

 

 開発した研究者達ですらその全容を把握し切れていない電波技術の結晶。その人工衛星の一基であるペガサスに、スバルとウォーロックは誘われていた。

 

「す、すごいよウォーロック。此処、本当に宇宙だよ!」

 

『呑気してるんじゃねぇぞ、スバル。もっと警戒しろよ!』

 

 窓から覗く宇宙空間に興奮を抑え切れないスバルに、ウォーロックが呆れを滲ませながらも警戒を促す。

 

 頭上から降り注いだ光に呑まれたと思えば、二人揃って宇宙空間に浮かぶ人工衛星の一つに連れ去られていたのだ。二人は誘拐されたも同然である。反応として正しいのは間違いなくウォーロックだろう。

 

「う……ごめん、つい。でも、いったい誰がどうしてボク達をこんな場所に……」

 

 FM星人達に襲われるのならまだしも、宇宙空間に浮かぶ人工衛星に誘拐される覚えはない。それはウォーロックも同じで、警戒を強めつつも首を傾げていた。

 

『お前達をこの場に誘ったのは、我々だ』

 

 威厳のある声がスバルとウォーロックの耳朶を打った。

 

 反射的に身構えた二人の前に虚空から姿を現したのは三体の電波体。相対するだけで凄まじい威圧感と存在感が伝わってくる、強大な電波体だ。

 

 スバルとウォーロックを見下ろす三体の電波体。その姿は翼を有する蒼き天馬、雄々しく紅い獅子、悠然ととぐろを巻く翡翠の龍と、神話か伝説の世界から飛び出してきたかのような偉容であった。

 

「あなた達は、いったい……」

 

『我らは地球の周りを回るサテライトの管理者──』

 

 三体の電波体はスバルとウォーロックに自らの正体を語る。

 

 サテライト・ペガサスの管理者──ペガサス・マジック。

 

 サテライト・レオの管理者──レオ・キングダム。

 

 サテライト・ドラゴンの管理者──ドラゴン・スカイ。

 

 地球の電波環境を飛躍的に進化させ、電波世界を守るサテライトの管理者たる電波体。サテライトに管理者なんてものが存在していたことすら初めて知ったスバルは、そんな文字通り天上の存在との邂逅に驚愕した。

 

 しかしスバルの驚愕はそれだけに留まらない。サテライトの管理者である三体の電波体は、自らが滅亡したAM星の生き残りであることを明かしたのだ。

 

 ──AM星。かつてはFM星と兄弟星の関係だった美しい星であったが、FM星からの一方的な侵略行為によって滅びてしまった。

 

 三体の電波体はAM星の数少ない生き残り。それもAMの三賢者と謳われる程の実力者だった。

 

 そんな三賢者が何故、地球のサテライトの管理者を担っているのか。それはFM星の蛮行を止めるため、次の標的になるだろう地球を守るためにこの星に降り立ち、地球人を導いてサテライトを造らせたのだ。

 

 サテライトの成り立ちと管理者達の出自にスバルもウォーロックも驚きを隠せない。特にウォーロックは三体の電波体がAM星の生き残りであることに酷く驚いていた。

 

『我らはFM星の凶行を止めるため、地球を守るために此処にいる』

 

「そうなんだ……じゃあ、ボク達を此処へ連れてきたのは」

 

『この星を守るため、お前達の力を借りたいのだ』

 

 三賢者達がスバルとウォーロックを真っ直ぐ見据える。

 

 三賢者はその肩書きに偽りのない実力を有している。凡百のウイルスやFM星人であれば容易く蹴散らすことができる。

 

 しかし、それでもAM星は滅びた。その元凶はFM星が有する最恐の電波兵器ことアンドロメダ。アンドロメダの存在によってAM星は抵抗も虚しく、跡形もなく滅ぼされてしまったのだ。

 

『我らだけでは守れない。故にお前達の力を貸して欲しいのだ。真の絆で結ばれた、お前達の力を』

 

「真の絆って、そんな」

 

『いちいち大袈裟な奴らだな』

 

 大仰な物言いにスバルとウォーロックは今一つ釈然としない様子だ。

 

『否、大袈裟などではない。種族の垣根を越えて揺るぎない絆を結んだお前達だからこそ、この星に迫る未曾有の脅威に抗うことができる。お前達にしか、できないのだ』

 

 半信半疑のスバルとウォーロックにペガサスが断言し、レオとドラゴンも同意するように頷く。

 

 身に覚えのない三賢者からの期待と信頼に腰が引けそうになりながらも、スバルは話の途中から抱いていた疑問を口にする。

 

「でも、どうしてボクとウォーロックなの? 種族の垣根を越えた絆なら、ハープ・ノートとアクア・レディだって対象になるんじゃ……」

 

 三賢者の口振りからすれば、FM星人であるハープとアクエリアスと電波変換しているミソラとシオナも対象になるはずだ。しかし今この場に誘われたのも、話題に挙がるのもスバルとウォーロックだけだ。

 

 何故、ハープ・ノートとアクア・レディを除外するのか。それがスバルには分からなかった。

 

 スバルの疑問に答えたのはペガサスだ。

 

『理由は幾つかある。お前が星河大吾の息子であること、ハープ・ノートでは我々と周波数が合わないこと──』

 

「──待って、父さんのことを知ってるの!?」

 

 予想だにしないタイミングで飛び出してきた行方不明となっている大吾の名前にスバルは目に見えて反応した。

 

 大吾の形見のペンダントが光って此処に連れてこられたことを思えば、三賢者と大吾の間に何かしらの繋がりがあるだろうことは予測できていただろうに、それ以前に与えられた情報のインパクトにすっかり失念していたのだ。

 

『星河大吾と我らはある種の協力者だった。あの男を中心とした大勢の科学者の力があったからこそ、三基のサテライトは完成したのだ』

 

「父さんが、サテライトを……」

 

『そのペンダントは我らと大吾の通信手段だった。そして今、お前と我らを繋ぐ証となったのだ』

 

「そうなんだ。すごいや……」

 

 初めて知った大吾の新たな一面にスバルを驚きつつも、嬉しさを噛み締めるようにペンダントを握り締めた。

 

「……あ、ごめん。それで、ハープ・ノートは周波数が合わないっていうのは?」

 

 三賢者とウォーロックから向けられるやや生温かい視線に気付き、スバルは慌てながら話を戻す。

 

『言葉通り、FM星人であるハープと我らでは周波数が違い過ぎるが故に力を合わせられない。無論、地球を守るために協力することはできるし、彼女達もまた種族の垣根を絆を結んでいることは否定しない』

 

「そっか……アクア・レディも周波数が合わないからダメなんだよね?」

 

『否、それは──』

 

 スバルの問いに答えようとしたペガサスの身体が、ノイズが走ったようにブレる。見ればレオとドラゴンも、異常が発生したのか不安定に揺れ動き始めていた。

 

『……どうやら時間がないようだ。地上のサテライト管理局がFM星人によって襲撃を受けている』

 

「なんだって? じゃあ、早く止めないと!」

 

『いいや、我らのことは構わなくてもよい。それよりも、お前達に我らの力を授ける』

 

「三賢者の力?」

 

 疑問符を浮かべるスバルの目の前に三つのバトルカードが浮かび上がる。カードにはそれぞれ、ペガサス・レオ・ドラゴンのシンボルが描かれていた。

 

 見た目はただのバトルカードでありながら、手に取らずとも秘められた力の大きさが分かる。まず間違いなく、普通のバトルカードではないだろう。

 

『それはスターフォース。我らの力を込めたバトルカードだ。ロックマンならば使い熟せるだろう』

 

「スターフォース……」

 

 目の前のバトルカードが放つ圧倒的な存在感に気圧されながらも、スバルはバトルカードを手に取った。

 

『その力で、地球を、大切な人々を守るのだ──』

 

 ザザッ──と耳障りな音が響き始め、三賢者の姿が大きくブレ始める。もはや限界が近いのだろう。威厳に満ちた三賢者の声も、ノイズ塗れで聞き取りが困難になっていた。

 

 不意にスバルとウォーロックの身体が眩い光に包まれる。病院の屋上で二人に降り注いだ光と同質のものだ。恐らくは元いた場所へと送り返そうとしているのだろう。

 

「ま、待って! まだ聞きたいことが沢山あるんだ!?」

 

『スバルの言う通りだ。もう少しちゃんと説明しやがれ!』

 

 大吾の行方やこのスターフォースの扱い方、それにアクア・レディのことも。疑問は山のようにある。

 

 しかしスバルとウォーロックの疑問に答える時間はもう残されていないのだろう。ペガサスがノイズ越しに力なく首を振った。

 

『すま──な、い──我ら──』

 

 スバルとウォーロックを包む光が一層輝きを増し、反比例して三賢者の姿がノイズに呑まれ薄れていく。地上のサテライト管理局がFM星人の襲撃によって制圧間近か、あるいは壊滅寸前なのだろう。

 

『星河、スバル──ウォーロック……健闘を、祈る──』

 

 最後にそれだけ言い残し、三賢者は姿を消した。同時にスバルとウォーロックもサテライトから地上へと送り返される。

 

 地上への帰還は一瞬。瞬き程の時間でスバルとウォーロックは病院の屋上に戻っていた。

 

「も、戻ったんだ……なんだか、全部夢みたいだ……」

 

 余りにも現実味のない体験にスバルはぼんやりと呟く。しかし、夢でも幻でもない。その証拠に、スバルの手には三賢者から授けられたスターフォースのバトルカードが握られている。

 

『……おい、スバル。気になることは山ほどあるが、早く戻らねぇとあかねが心配するんじゃないか?』

 

「はっ!? そうだった! 早く戻らないと……!」

 

 ウォーロックと話し合うために屋上へ出て、そこからまさかのサテライトの管理者と対面。時間にして一時間以上は待合室を離れていたことになる。上手く誤魔化すと言ってくれた天地でも、限界はあるだろう。

 

 血相を変えて待合室へと戻るスバル。案の定、待合室では青い顔色でスバルを待つあかねと、そんなあかねをどうにか宥めようとしている天地が待っていた。

 

 あかねは戻ってきたスバルを見るや否や駆け寄り、こんな夜遅くに一人で居なくなったことをこんこんと叱り付けた。普段、怒ることも少ないあかねだが、シオナが入院するという事態を目の当たりにしてかなり精神的に不安定になっていたのだろう。

 

 非が自分にあるだけにスバルは平謝りする他なく、あかねに連れられてそのまま帰宅の流れとなってしまう。本心としてはシオナの側についていたいし、天地に事情も話したかったのだが、流石に今のあかねに逆らうことはできなかった。

 

 結局、スバルはその夜は家に帰ることになった。天地にはメッセージで翌朝にシオナが入院している病院で会う約束を取り付け、そこで今後の相談をすることにした。あかねもシオナの様子を見にくるそうなので、丁度良いだろう。

 

 本当は今からでもFM星人の侵略行為に対して動きたいところだったが、余りにも夜も遅く、スターフォースの力があっても一人では限界がある。天地や、可能ならハープ・ノートとも協力して対処するべきだという、ウォーロックにしては珍しく冷静な助言を受けて、スバルは大人しくあかねと共に帰宅するのだった。

 

 

 

 

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