心を探し求める水瓶座   作:リコレクションでも嬉しい

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今話で書き溜めがなくなりました。以降は不定期更新になります。
筆者の気質的にある程度書き溜めてからの投稿になりますので、気長に待って頂けると幸いです!


第26話

 

 ──翌朝。いつになく早起きしたスバルはあかねを急かし、シオナが入院している病院へと向かう支度を整えた。そしていざ家を出発しようとした段階で、海鳴家の前を忙しなく右往左往する人影に気付いた。

 

 人影は可愛らしいピンクのフードを目深に被っており、ぱっと見では男女の区別が付かない。背中には愛用しているのだろうギターを背負い、年頃はスバルと同じくらいだろうことだけは分かる。

 

 シオナの自宅前を彷徨く怪しい人影を一目見た瞬間、スバルは殆ど直感的にその正体を察した。察して、どうしようかと悩む。

 

 しかし今後のことを考えて、今ここで直接接触した方が手間も面倒もないと判断し、あかねに一言断ってから声を掛けに向かった。

 

「あの、ちょっといいかな?」

 

「────!」

 

 唐突に声を掛けられてフードの人影は大袈裟に驚く。その拍子にフードの下から覗いた少女の顔を見て、やっぱりとスバルは胸中で一人納得していた。

 

「ミュージシャンの響ミソラだよね。ボクは星河スバル。シオナの家の隣に住んでる幼馴染なんだ」

 

「あなたが、幼馴染のスバル君?」

 

 一発で正体を見抜かれて警戒しかけたミソラは、スバルの自己紹介に目を丸くした。以前から幼馴染の存在をシオナから聞かされていたが、直に顔を見るのは初めてだったのだ。

 

 へぇー、と興味深そうに顔をまじまじと見つめてくるミソラに、スバルはやや戸惑いながらも話を進める。

 

「シオナに会いに来たんだよね?」

 

「うん、そうだよ……何の音沙汰もなく居なくなっちゃったから」

 

 居候を始めてから欠かさず晩御飯を作って帰りを待ってくれていたシオナが、昨夜は家に居らずそれどころか行方知れず。連絡を取ろうにも音信不通で、シオナの身に何かあったのではと心配になって自宅を訪れたのだ。

 

「やっぱり、君の家に居たんだね」

 

「あ……」

 

 しまった、とばかりに口元を手で覆うミソラにスバルは苦笑を零した。

 

「シオナのこととか、今後のこととか、君とは一度、ちゃんと話し合いたいと思っていたんだ──ハープ・ノート」

 

「え──」

 

 次から次へと情報を畳み掛けられてフリーズするミソラ。ちなみにトランサー内のウォーロックも突然のカミングアウトに大層驚いており、またしても何も知らない状態に陥っていたりする。

 

 正体を看破されたミソラは驚愕に目を見開きながら、同時に目の前の少年に強い既視感を覚え、動揺しながらもじっと観察する。

 

「……もしかして、ロックマン?」

 

「うん。生身で会うのは初めましてだね」

 

「じゃあ、アクア・レディの正体も……」

 

「シオナだって知ってるし、そのシオナが今何処にいるのかも知ってるよ」

 

「ほんと!? シオナは何処にいるの!?」

 

 飛び上がらんばかりの反応を見せて尋ねてくるミソラに、スバルは表情を曇らせながらも昨日のことについて端的に説明する。

 

「実は──」

 

 天地研究所で起きた出来事、そしてシオナが大怪我を負って入院していること。スバルは隠すことなくミソラに明かした。

 

 話を聞いたミソラはシオナが手術して入院したという件で酷く衝撃を受け、顔色を青褪めさせた。初めての友達らしい友達が入院したとあれば、ショックを受けるのも当然だろう。

 

「今からシオナが入院してる病院に行くんだけど、一緒に行く?」

 

 目も当てられないミソラの様子にスバルはそう提案する。元よりシオナと引き合わせるつもりであったし、今後のFM星人との戦いについても相談したかったのだが、今は一先ずミソラの不安を取り除くのが先だと判断した。

 

「……行く。シオナの無事を確認したいから」

 

 顔色は青いままにミソラはスバルの提案に頷きを返した。意識が戻っていなかったとしても、ちゃんとシオナが生きていることを確認したかったのだ。

 

 スバルとミソラはシオナが入院する病院へ向かうべく、あかねが運転する車に乗り込む。

 

 突如として増えた同乗者、それも今を時めくトップミュージシャンの響ミソラとの邂逅にあかねは仰天したものの、シオナの友達というスバルの説明でとりあえずは納得した。

 

 道中はあかねが努めて明るい話題を切り出し、車内の空気が重くなりすぎないように気遣って振る舞った。そのおかげでミソラとシオナの関係の深さや、シオナが行方を晦ましていた時期に何をしていたのかなどを知ることができた。

 

「ミソラちゃんはシオナちゃんと仲良しだったのね」

 

 何気ないあかねの発言にミソラは表情を照れくさそうに緩めた。おかげでミソラの張り詰めた糸のような空気が和らいだ。この辺り、あかねの緊張を解す手腕は見事と言わざるを得ない。

 

 あかねに促される形で少しずつシオナとのエピソードを語り始めるミソラを、スバルは微笑ましく思いながらも心の片隅に微かな寂寥を覚えていた。シオナに自分以外の友達や親しい相手ができることを嬉しく思うのに、心の何処かで素直に喜ぶことができない自分がいる。

 

 己の身勝手さに内心で溜め息を吐いていると、不意にバックミラー越しにあかねと目が合った。

 

「ふふっ、スバルったら。シオナちゃんにお友達が増えて妬いてるのかしら?」

 

「うえっ!? いや、別にそんなことは……」

 

「スバルもあんまりお友達が多くないものね。ミソラちゃんさえよかったら、うちの子とも仲良くしてくれると嬉しいわ」

 

「ちょっと母さん! 余計なお世話だよ!?」

 

 揶揄い混じりに笑みを零すあかねにスバルが噛み付く。シオナも大概だが、つい最近までアグレッシブ不登校をかましていたスバルも友達の数はかなり少ない。辛うじて委員長達を友達にカウントしたとしても、シオナを含めて四人である。

 

 友達は数よりも質だと思っているスバルだが、それをこの場で言ってもただの見栄や強がりにしか見えない。だからといって親に促されて友達になるのも違うだろうと、スバルは有名人とお話できてすっかり気分が良くなっているあかねにジト目を送った。

 

 そんな親子のやり取りを目を丸くしながら眺めていたミソラは、不意にくすりと笑みを零した。

 

「スバル君さえよければ、友達になってもいいよ。シオナからスバル君がどれだけ優しい男の子なのかは沢山聞いてるからね」

 

「待って、ちょっと待って。シオナはいったい、君に何を言ったの?」

 

 ミソラの恐ろしい発言にスバルは顔を引き攣らせる。シオナとミソラの関係が良好そうなのは複雑ながらも嬉しかったのに、別の理由で不安が湧き上がってきた。

 

「聞きたい?」

 

 にっこりと小悪魔めいた笑みを浮かべるミソラに、スバルは己の敗北を予感した。この手の女の子の笑顔に男は勝てないと古来から相場が決まっている。

 

 此処にはいないはずの大吾が、何故か力強く頷いている気配がした。

 

「じゃあお友達になろっか。私のことは名前で呼んでね、スバル君?」

 

「……ウン、ヨロシク。ミソラチャン」

 

 世の男性なら諸手を挙げて喜ぶだろうミソラのお友達だが、しかしスバルは素直に喜べなかった。悲しきかな、根が陰の者であるスバルにとって、ミソラは高嶺の花でちょっと眩しすぎる。何よりシオナに対して並々ならない感情を抱いているのが端々から察せられて、どうしても警戒せざるを得ないのだ。

 

 とはいえシオナの身を案じて激しく気落ちしていたミソラが少なからず気を持ち直したのは素直に良かったと、スバルは内心でほっと安堵した。

 

 

 共通の話題、つまりはシオナのことで少しずつ打ち解け合うスバルとミソラをバックミラー越しに優しく見守りながら、あかねは胸中で安堵の息を零していた。

 

 まさかシオナとあの響ミソラが友人関係だったなどという中々に信じ難い現実に驚いたのも束の間、昨夜のスバル並みに暗い表情をしているものだから色々と世話を焼いてしまった。あの状態のまま意識不明のシオナに会わせては倒れかねないと危惧したからだ。

 

 幸いにもミソラはすぐに持ち前の明るさを取り戻し、嬉しいことにスバルとも打ち解けてくれた。スバルには余計なお世話だと怒られてしまったが、多少のお節介は多めに見てほしい。序でにもう少し男女関係の機微も勉強しなさい、と心の中でだけ呟いた。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 ガラス張りの部屋の中、呼吸器や様々な管を繋がれてシオナはベッドで眠っている。術後の容態が安定しているのか、心なしか昨夜よりも顔色は良くみえた。

 

 こんこんと眠るシオナの姿をスバルとミソラはガラス越しに見つめる。何かの拍子に目を覚ましてくれたらいいのに、と友達になって間もないにも拘わらず二人は同じ思いを抱いていた。

 

 あかねはこの場にはいない。シオナの今後の治療について医者と別室で話している。本来はシオナの両親が受けるべき説明だが、未だ海外から戻ってきていないためにあかねが引き受けたのだ。

 

「……シオナのパパとママはどうして此処にいないのかな」

 

「それは……まだ、海外から帰ってくる途中だから、とか」

 

「帰ってこようとはしてるんだ?」

 

「……分からない」

 

 シオナの両親が海外から日本へ戻ろうとしているかどうかさえ、スバルには分からない。あかねならば状況を把握しているかもしれないが、尋ねたところで望んだ答えが返ってくるとは思えなかった。

 

 返答に窮するスバルにミソラは悲しげに眉を下げた。

 

「シオナはずっと寂しそうにしてた。私のママがうちに来てくれた時も、ずっと……」

 

 シオナに自覚はなかっただろうが、他人から見れば親の愛に飢えているのは一目瞭然だった。それはスバルも、あかねも気付いていたことだ。

 

 だが気付いていたからといってどうにかできるわけでもない。スバル達にできたのは、シオナの孤独をほんの僅かに和らげることだけ。それだって根本的な解決には程遠かった。

 

「少しでも寂しくないようにって沢山お話したり、お出掛けもしたけど、私の独り善がりだったのかな……」

 

「そんなことない。シオナはミソラちゃんと一緒にいて、すごく楽しそうにしていたよ」

 

 ショッピングモールでウルフ・フォレストが暴れたあの日。近くの公園でミソラと談笑するシオナは心の底から楽しそうで、満ち足りた様子だった。友達としてミソラと共に居る時間はシオナにとって掛け替えのないものだったに違いない。

 

 力強く断言するスバルにミソラは目を丸くし、次いで照れくさそうに笑みを零した。

 

「うん、ありがとうスバル君。こんなところで勝手に落ち込んでたら、シオナも困っちゃうよね。やめやめ!」

 

 暗い話はここまでとばかりにミソラは話の流れを切り替える。

 

「スバル君はこれからどうするの?」

 

「地球を守るため、大切な人達を守るために戦うよ」

 

 スバルの覚悟は昨夜の時点で既に決まっている。勿論、相棒であるウォーロックの意志もだ。

 

 FM星人にこれ以上好き勝手はさせない。アンドロメダに地球を破壊なんてさせやしない。生まれ故郷であり、大切な家族や友人が暮らすを星を必ず守り抜くのだ。

 

 並々ならない覚悟を示したスバルにミソラも強く頷く。

 

「私も戦うよ。私にだって守りたい家族や大切な友達がいるし、まだまだ歌いたい曲が沢山あるんだもん。地球が滅ぼされるのを指を咥えて見てなんかいられないよ」

 

「ありがとう、ミソラちゃん」

 

 ミソラの、ハープ・ノートの協力を取り付けられてスバルはほっと一安心した。

 

 AMの三賢者からスターフォースなる力を授けられたとはいえ、たった一人で地球を守り切れると思う程、スバルは自惚れていない。無論、持てる力の全てを尽くす所存ではあるが、それでも肩を並べて戦ってくれる存在が一人増えるだけで、それだけで心強いことこの上ない。

 

 スバルとミソラが互いの意思を確かめ合ったところで、落ち合う約束をしていた天地がこの場に姿を現した。

 

「スバル君、お待たせ……おや、君は?」

 

「天地さん! えっと、この子は……」

 

 病院内でも身バレを避けてフードを目深に被っているミソラをなんと紹介するべきかスバルが迷っていると、当のミソラが一歩前に出てぺこりとお辞儀をした。

 

「私、シオナの友達のミソラです。スバル君からシオナが入院したって聞いて、お見舞いに来ました」

 

「そうか……僕は天地、スバル君のお父さんの後輩でね。その縁で、スバル君とも仲良くさせてもらっているんだ。ミソラ君も、気軽に話しかけてくれていいよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 人当たりの良い天地はミソラに対しても気さくに接する。ミソラが有名人であることには気付いているが騒ぐこともない。今この場にいるのはシオナの身を案じて駆け付けた友人である、というミソラの考えを汲んでいるのだ。

 

 色々な意味で大人な天地の態度にミソラが再度頭を下げたところで、スバルが話を切り出す。

 

「天地さん。約束通り、ボクの事情を話すよ」

 

「分かった。とりあえず、場所を変えよう。屋上なら人気も少ないだろうから、そこでいいかな?」

 

「うん。じゃあ──」

 

「待って、スバル君。その話、私も参加していいかな?」

 

 屋上に向かおうとしたスバルと天地にミソラが待ったを掛ける。ロックマンに纏わる事情を明かすのなら、ハープ・ノートである自分も同席した方がいいと考えたのだ。

 

「ボクはいいけど、ミソラちゃんはいいの?」

 

 ミソラと天地は今日が初対面だ。信用も何もない相手にハープ・ノートの正体を明かしてもミソラは構わないのか。

 

 スバルの疑問にミソラは間髪入れずに頷きを返した。

 

「スバル君が信用している人なら大丈夫だよ」

 

「……分かった。天地さん、ミソラちゃんも一緒にお願いします」

 

「僕は構わないよ。君にも色々と事情があるようだしね」

 

 スバルが構わない以上、天地に否はなかった。

 

 スバル達は病室前から病院の屋上へと移動する。ウォーロックと和解し、その後にAMの三賢者にサテライトへと誘われた現場だ。昨夜に引き続き今日も何か起きたりするのではと、ちょっと身構えながらもスバルは人目に付かない屋上の一画で足を止めた。

 

「天地さん、事情を話すって言ったのに待たせてごめんなさい」

 

「いや、あんなことがあったんだ。気にしなくていいし、話したくないことがあれば話さなくてもいい。ただ、僕にできることがあるのなら言ってほしい。君の力になりたいんだ」

 

「ありがとう、天地さん」

 

 心強い天地の言葉にスバルは改めて覚悟を決めた。

 

「天地さん、ボクは──」

 

 それからスバルは端的に今日までのこと、ウォーロックと出会い、ロックマンとして地球侵略を目論むFM星人と戦ってきたことを語った。

 

 スバルの荒唐無稽とも取れる話にも天地は真剣な顔で耳を傾ける。FM星人の侵略に関しては宇田海を操るキグナスの襲撃を二回も受けている以上、天地が宇宙人や侵略の話に疑問を持つことはなかった。何せ当事者だからだ。

 

 途中、ミソラがハープ・ノートであることを自ら明かしたり、シオナがアクア・レディとして地球を守るために戦っていたことも伝えつつ、昨日の出来事に関しても包み隠さず話した。

 

 自分を庇ってシオナが大怪我を負ったこと、アンドロメダという危険極まりない電波兵器の鍵を奪われたこと、サテライトの管理者から力を託されたこと。端的ながらも重要なことは全て説明した。

 

 余りにも沢山の情報、それもどれもこれも重要極まりない事実の開示に天地は途中から難しい顔で黙り込んでしまっていた。話を理解できていない訳ではないだろう。だが受け止めるには情報の量が多すぎた。

 

 眉間に皺を寄せながらも天地は反応を返す。

 

「そうか、スバル君達はずっと戦っていたんだね。そしてこれからも、地球のために戦うと……」

 

「うん。FM星人に地球を滅ぼされたくなんてないから」

 

「そうだな、そこは僕も同感だ……だが」

 

 ロックマンとして戦う意志に満ち溢れているスバルを天地は複雑な表情で見つめる。

 

「本音を言えば、スバル君にもミソラ君にも危ない真似はしてほしくない。君達はまだまだ守られるべき子供なんだから」

 

 良識のある大人だからこそ、天地は子供の身分でありながら戦おうとするスバル達をすんなりと受け入れられない。なまじシオナがその戦いの最中で命を落としかけている以上、無責任にその背中を押したくはなかった。

 

「でも! ボクにしか、ボク達にしかできないことがあるんだ!」

 

「────」

 

 スバルのその言葉に天地は目を見開く。奇しくもその言葉は、かつての先輩である大吾が宇宙へ旅立つ時に残した言葉と似通っていたからだ。

 

「……まったく、血は争えないな」

 

「え?」

 

「いや、なんでもないさ」

 

 ぽん、と天地はスバルの頭に手を載せる。その目元は何かを懐かしむように細められていた。

 

「僕にできる限りのことなら協力するよ、スバル君。元より、そのつもりだったしね」

 

「ほんと!?」

 

「もちろん。ただし、条件がある」

 

 天地は目の前に立つスバルとミソラを真正面から見据えた。

 

「二人とも、無事に帰ってくること。君達の帰りを待っている人がいることを忘れないこと。それが条件だ。分かったかい?」

 

「「はい!」」

 

 声を揃えて返事をするスバルとミソラに天地は満足げに微笑み、次いで少し申し訳なさそうに眉尻を下げた。

 

「とはいえ、君達みたいに戦う術を持っていない僕にどんな協力ができるのかという話ではあるんだが……」

 

「えっと、じゃあ早速お願いしたいことがあって……」

 

「何かな?」

 

「実は──」

 

 スバルのお願い、それはサテラポリスに関することだった。

 

 宇宙からの来訪者であるウォーロックと電波変換して戦うスバルだが、地球の電波環境を守るサテラポリスからすれば他のFM星人と区別なんて付かない。危険な存在だと一緒くたにされ、見つかれば毎度の如く追いかけ回される。具体的には五陽田警部に。

 

 天地には、どうにかしてロックマンやハープ・ノートが地球側の味方であることをサテラポリスに伝えてほしかった。欲を言えば、肩を並べて地球を守ることができればいいのだが、そこまで高望みはしない。ただ、最低でも足の引っ張り合いにだけはならないようにしたかった。

 

 スバルのお願いを天地は真剣に聞き届けた。スバルの口調はそこまで深刻なものではなかったが、地球存亡の危機を前にして内輪揉めで争うのは愚の骨頂。早急に対処すべきことだった。

 

「分かった。サテラポリスには昔お世話になった博士がいるから、その人に話を通しておこう。すぐに連絡するよ」

 

「ありがとう、天地さん!」

 

 相談してよかったとスバルは胸を撫で下ろす。隣のミソラもこれで電波変換する度に追いかけ回される心配がなくなると、こっそり笑みを浮かべていた。ミソラは割と電波変換してあちこち出掛けているので、スバルの知らない所でも怪電波としてサテラポリスに追いかけられているのだ。

 

 善は急げとばかりに天地は二人からやや距離を取り、早速とばかりにトランサーでその博士とやらに連絡を取り始める。

 

 スバルとミソラは聞き耳を立てるのも失礼だと考え、今後の動きについての相談を始めようとして──耳を劈く爆発音に二人揃って飛び上がった。

 

「え、なに!?」

 

「……! スバル君、あそこ!」

 

 ミソラが指差した方向を見たスバルは愕然と目を見開く。街の中を走るモノレールの軌道が無惨にも破壊され、黒煙が空高く立ち昇っていた。そして破壊されたモノレールの軌道付近には無数のウイルスが群がっている姿が()()()()()()()()()()()()()

 

「待って。ビジライザーを掛けてないのに、どうしてウイルスが見えるの?」

 

「私も、電波変換してないのにウイルスが見えるよ」

 

 電波ウイルスは肉眼では捉えることができない存在だ。だからこそ一般市民はウイルスによる事故や災害に苦しめられ、サテラポリスがその対処に日夜奔走させられているのだ。

 

 だがそのウイルスが肉眼で見えるようになってしまっている。それ即ち、ウイルスが現実世界に実体化しているということ。尋常ではあり得ない事態だ。

 

『オイ、スバル。ビジライザーを掛けて空を見てみろ』

 

「え? でも、掛けなくてもウイルスは見えるよ」

 

『いいから、見てみろ』

 

 やけに深刻な声音のウォーロックに促され、スバルは首を傾げながらも言われた通りにする。そして、ウイルスが肉眼で見えた以上の衝撃に唖然と口を開いた。

 

「ウェーブロードが、おかしくなってる……?」

 

 ビジライザー越しに見える電波世界に尋常ならざる異変が生じていた。

 

 普段は真っ直ぐと地球上の至る所を繋いでいるウェーブロードが、何かのバグでも発生したかのように乱れている。道が途中で切れていたり、繋がっていたと思えば突然消失したり、飛石程度の繋がりしかなくなっていたり。とにかく酷い有様だ。

 

「どうして、こんなことに?」

 

『地球の電波世界を維持管理しているサテライトがFM星人の手に落ちて、電波世界を滅茶苦茶にされちまってるんだろうよ。だから電波ウイルスも実体化しちまってるんだ』

 

「そんな、大変な事じゃないか! 早くなんとかしないと──」

 

「スバル君! ミソラ君!」

 

 知り合いの博士に連絡を取っていたはずの天地が血相を変えて駆け寄ってきた。焦燥に塗れた表情から、何か非常事態が起きているのだとスバルとミソラは察する。

 

「ついさっき、TVの放送電波がFM星人を名乗る連中にジャックされたらしい。彼らは地球を侵略すると宣戦布告し、世界各地で暴れ始めているようだ!」

 

「……本気、なんだ」

 

『みてぇだな……』

 

 今までの単発的な事件ではない、FM星人達が足並みを揃えて地球侵略に乗り出したのだ。加えてその掌中には星一つ破壊することも容易い兵器の鍵が握られてしまっている。もはや一刻の猶予もない。

 

 スバルは隣のミソラと目を合わせ、二人揃って真剣な顔付きで頷き合った。

 

「天地さん。ボク達、行ってきます。FM星人達に地球を滅ぼさせる訳にはいかない」

 

「……分かった。くれぐれも気を付けて、さっきの約束を忘れないように」

 

 天地の念押しにスバルとミソラは頷きを返し、どちらからともなくトランサーを構える。

 

「──電波変換! 星河スバル、オン・エア!」

 

「──電波変換! 響ミソラ、オン・エア!」

 

 天地の目の前で二人は電波変換する。地球の電波環境が不安定になっていることでロックマンとハープ・ノートの姿も、一般人である天地の目にもはっきりと視認できた。

 

 ロックマンとハープ・ノートは天地に一瞥を残し、地球を守るために飛び立った。その背中を天地は忸怩たる思いを抱えながらも見送った。

 

 

 

 

 

 

 

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