心を探し求める水瓶座 作:リコレクションでも嬉しい
パフェコレ発売まで近付いてきましたね。
というわけで、ある程度書き溜めたので放出です。
シオナside
スバルとミソラが連れ立って見舞いに訪れるという驚愕の展開に鋼の意思で狸寝入りを貫き通した今日この頃。
日頃から忙しいはずのミソラがわざわざお見舞いに来てくれて嬉しいやら申し訳ないやら、スバルとの距離感がやけに近いような気がして流石は原作ヒロインと感心するやら。狸寝入りしている私の目と耳の代わりを果たしてくれているアクエリアスの報告に一喜一憂していた。
『幼馴染君と響ミソラの距離感に関しては、果たして感心していただけでしょうか?』
別にぃ? ミソラがゲームの時よりも気さくで明るくて優しくて可愛くて愛嬌があってヒロイン属性マシマシなのは、ここ最近の同居生活で重々承知している。陰気で暗くて無口で無表情で可愛げのない幼馴染よりも、ミソラの方がよっぽどスバルの隣に相応しいよね。
『しっかり気にしていますね……』
はいそこ、うるさい。病み上がりどころか現在進行形で入院中の私に余計な心労を掛けないで。
そんなことより、そんなことよりもだ。FM星人達の本格的な地球侵略が始まったみたいだね。
『ええ、ご丁寧に放送電波をジャックして宣戦布告までして。今は世界各地で実体化した電波ウイルスが暴れ、それをFM星人達が積極的に扇動しているようです』
ウイルスの実体化? え、なに? 『ノイズ』が大量発生したとかそんな理由? もしそうだったら、フライングクリムゾンドラゴンとかいうとんでもない事態になるのだけど。
『いいえ。ウイルスの実体化は地球の電波環境の悪化が原因です。FM星人達がサテライト管理局を襲撃し乗っ取ったために電波世界が著しく乱れているようです』
今までの行き当たりばったりな行動とは一線を画する、随分と計画的かつ統制の取れた侵略活動だことで。誰かが陣頭指揮を取ったのかな? 取ったとすれば、アンドロメダの鍵をウォーロックから奪取したキグナスだろう。
地球へと来訪したFM星人達はあれでも立派な戦士だ。綿密な連携を取って侵略活動を開始したら、こちらも相応の戦略を揃えない限り食い止めることはできないだろう。
残念ながら地球側にFM星人達の侵略に真っ向から対抗できる戦力は……うーん、居なくもないけど表立って戦うことはないだろう。
ソロはムー関連に触れるか地球が滅亡目前くらいにでもならないと戦わないだろうし、シドウさんはそもそも戦えるのかも分からない。
敵対勢力勢も同じく、地球が滅亡する以外に道がなくなるくらい追い詰められなければ表舞台には出てこないだろう。いや、仮に対抗するにしてもサテラポリスに気取られないよう裏から手を回すか、最悪利用しようとするはずだ。
つまり、現時点でFM星人達の侵略行為に真っ向から立ち向かえるのはロックマンとハープ・ノートだけ。多勢に無勢だ。
しかしスバルが、ロックマンがスターフォースの力を得ているのならFM星人くらいならなんとかなるはず。問題はただ一つ──アンドロメダのみ。
実際に戦ってみない限り何とも言えないけど、真っ向勝負で打ち勝てるような代物ではないと思う。その目でアンドロメダの暴威を目の当たりにしてきたアクエリアスの話を聞いて、そう思った。
──だったら、馬鹿正直に戦わなければいい。
『──アンドロメダの出現を確認。操っているのはキグナスで相違ありません』
居場所の特定は?
『滞りなく』
流石はアクエリアス、仕事が早い。なら、そろそろ私達も動き出すとしようか。いい加減、狸寝入りしているのも疲れたしね。
スバルとミソラだけに地球の命運を押し付けたりはしない。誰であろうと、私の大切な人達を傷付けることは許さない。
さあ、私達の願いを叶えにいこう……でも、その前に一つだけ。ケジメを付けにいこうか。
『星河あかねがあれらと連絡を取っているようですね』
それは丁度いい。あかねさんには悪いけど、少しだけ利用させてもらおう。どうせ私から連絡しようにも向こうが拒絶するだろうからね。
外で巻き起こる騒動で慌ただしくなっている病院内の隙を突き、私はアクエリアスと共に行動を開始した。
FM星人なる者達による宣戦布告から勃発する騒動で浮き足立つ病院内。その病室の一室から、一人の少女が忽然と姿を消した。
▼
病院内に設けられた通話可能区域にて、あかねはトランサー越しにシオナの母親と連絡を取っていた。
「ですから、シオナちゃんは入院して意識が戻らない状態なんです。お仕事があるにしても、せめてお母さんだけでも側にいてあげられませんか?」
トランサーの向こうには、娘が入院しているとは思えない程緊張感に欠けた表情の女性がいる。あかねが昨夜から何度訴えかけても暖簾に腕押しの反応というか、何処か他人事といった態度なのだ。
実の娘が緊急手術して入院しているという実感がないのか、或いは
どうしてこんなにも冷淡な態度なのか。昔はもっと温かな親子関係だったはずなのに、いったいいつからシオナと両親の関係はこんなにも歪で冷め切ってしまったのだろうか。
内心の思いを声音に出してしまわないように、あかねは鈍い反応しか返さないシオナの母親をどうにか説得しようとして──
「──もういいよ、あかねさん」
此処に居るはずのない少女の声に愕然と目を見開いた。
「シオナちゃん? 目が、覚めたの?」
後ろを振り返れば病衣を身に纏ったシオナが、感情の読めない無表情で立っていた。
胸に穴が開いて緊急手術したばかりの子供が、誰の助けも借りず自分の足で歩き回っている。常識的に考えてあり得ないし、看護師や医者の目を盗んでこの場に現れた理由も分からない。
ただ、あかねは漠然とした不安に襲われた。このままシオナと母親を引き合わせたら、取り返しのつかない事態になってしまう。そんな予感がしてならない。
思わずトランサーを閉じようとするあかねだったが、それよりも先にシオナがトランサーの向こうにいる母親に話しかけてしまった。
「ねえ、お母さん──ナギサは元気?」
ひぃ、とトランサーの向こうで引き攣った悲鳴が聞こえた。トランサーの画面に映った母親の表情は恐怖に歪んでいて、とてもではないが実の娘に向けるような代物ではなかった。
一方のあかねはナギサという聞き覚えのない人名に首を傾げる。しかし続くシオナの言葉によってかつてない衝撃に襲われることになった。
「私の妹。顔すら見たことのない、妹……元気にしてる?」
「妹、って……まさか」
信じられない、信じたくない言葉にあかねはトランサーの画面に映るシオナの母親を見た。
母親はシオナの問い掛けに顔面を蒼白にし、激しく目を泳がせていた。
『どうして、あなたがナギサのことを、知って……』
「全部、知ってる……三年前、海の向こうで生まれた、お母さんとお父さんの大切な娘。たくさん愛されて育った、私の妹……知ったのは、最近のことだけど」
いつになく饒舌なシオナだが、その表情は能面のような無表情。だがあかねには、シオナがあらゆる感情を押し殺して泣いているようにしか見えなかった。
日本にいて知る術のないシオナが、海外で生まれたナギサのことを知っているという異常。絡繰はアクエリアスが電波体であることをいいことに直接確認してきたのだが、それを知らない母親の目には自分の娘であるシオナがどんな風に映っているのだろうか。
いや、今日よりもずっと前から。母親と父親の目に映る娘は、果たして愛する娘として映っていたのだろうか。
『な、ナギサに何をするつもり? あの子は──』
「べつに、何も……だって、子供に罪はないから……」
子供であるシオナの発言とは思えない、余りにも大人びた物言いに母親は更に表情を引き攣らせた。
「今日は、別れを告げにきただけ……」
何をされるのかと怯えている母親を他人のように見つめながらシオナは言葉を紡ぐ。
「今まで、不自由なく暮らさせてくれてありがとう……曲がりなりにも、家族の
『あ、あなたは……』
「──でも、一つだけ約束して」
母親の言葉を遮り、感情の読めない瞳で母親を見据える。
「ナギサのことは、ちゃんと愛してあげて……その子は私と違って、ちゃんと
シオナのように前世の記憶なんて持った転生者ではない、無垢な魂を持って生まれた純粋な子供。親に愛されようと気遣ったり、子供らしからぬ振る舞いや教養を見せる異質な子供ではない。正真正銘、普通の子供だ。
シオナの両親は何も最初からシオナを愛していなかった訳ではない。血の繋がった一人娘を両親も最初はきちんと愛していた。
しかしその愛は徐々に離れていった。何か大きな切っ掛けがあった訳ではないが、転生者であるシオナの子供らしからぬ大人びた振る舞いや雰囲気が積み重なり、やがて両親はシオナを自分の子供とは見られなくなってしまったのだ。
シオナの両親は、普通を逸脱したシオナをただ受け入れられなかったのだ。
当のシオナが二人に受け入れてもらおうと振る舞えば振る舞うほど、距離も愛情も離れていった。中身が転生者であっても身体は幼い子供。精神は少なからず肉体に引っ張られ、いつの間にか口数も表情の変化にも乏しい子供になってしまっていた。
シオナを自分達の娘と見ることができなくなった両親は、シオナが小学生低学年にして大人並みに自立できることをいいことに、仕事を理由に海外へと逃げた。そして逃げた先で、新たに子供を設けたのだ。
それがナギサである。顔も知らない、触れたことすらないシオナの妹だ。
これが海鳴家の抱える歪な闇。シオナの心に巣食う孤独の一つだ。
顔も見たことすらない妹であるナギサの幸せを願うシオナを、しかし母親は化け物でも見るような目で見る。唇をわなわな震わせながら、決して口にしてはならない言葉を吐き出す。
『や、やっぱりばけも──』
──ブツッ! とトランサーの通話が切れる。海鳴家の問題だからと口を挟まずにいたあかねが、しかしその先だけは言わせてはならないと通話をブチ切ったのだ。
トランサーを乱暴に閉じたあかねは一瞬の躊躇いもなくシオナの小さな身体を目一杯抱き締める。突然の抱擁にシオナは普段の無表情を驚きに変え、目を丸くした。
「あかねさん……?」
「──シオナちゃんは普通の女の子よ。優しくて、気遣い上手で、誰かのために一生懸命お料理を勉強する、健気な女の子。私が、保証するわ」
「────」
出し抜けのあかねの言葉にシオナは目を見開き、抱き締められたまま硬直した。
母親と父親からは終ぞ貰えなかった、何よりも欲しかった言葉だった。相手はスバルの母親であるあかねだが、お隣さんとして、スバルの幼馴染として両親以上にシオナを側で見守ってきたあかねだからこそ、その言葉は胸の奥底にまで染み渡った。
ほろりと溢れそうになる涙を堪え、抱き締め返そうとしてしまう両腕を鋼の意志で抑え付ける。揺らぎそうな覚悟はアクエリアスとの誓いを思い返し、無理やりに固めた。
「……ありがとう、あかねさん」
「シオナちゃん。あなたさえ良ければ、うちに──」
「──それは、ダメ」
あかねが何を言おうとしたか先読みしたシオナは、ピシャリとその言葉を断ち切った。
「あかねさんは、スバルのお母さんだから……ちゃんと、スバルを愛してあげて」
子供らしからぬ達観した、諭すような声音でシオナはあかねの厚意を制した。
あかねもスバルも人格者で、シオナが孤独に苦しんでいると知れば迷わず受け入れてしまうだろう。だがその厚意に、優しさに甘えることはできない。
星河家は父親である大吾が広大な宇宙で行方知れずとなり、あかねが女手一つでスバルを育てているのだ。シオナが如何に大人びていて自立できていたとしても、子供をもう一人育てることは現実的に考えて不可能だろう。
何よりシオナには星河家には世話になれない理由が、負い目があった。未来を知りながら、星河大吾を救えなかったという特大の負い目が。
だからシオナはこれ以上、星河家に甘えることも頼ることもできない。むしろ今まで受けた恩を返し、大吾を救えなかった罪を償わなければならないとより覚悟を強くしていた。
「大丈夫……スバルも、あかねさんも……みんな、守るから」
「シオナちゃん? ……!?」
脈絡のない宣言にあかねは首を傾げ、不意に腕の中にいたはずのシオナの感触が喪失して目を見開いた。
シオナの身体が幽霊のようにあかねの両腕を擦り抜ける。その肉体は既に生身の軛から解き放たれ、不安定な電波のように揺らいでいた。胸に受けた大怪我の負担を無視して病室を抜け出すために、シオナはアクエリアスの協力でその肉体を半電波化とも言える状態にしていたのだ。
信じられない現象にあかねは呆然とシオナを見つめた。
「さよなら、あかねさん……今まで、ありがと」
「待って、シオナちゃん!?」
慌てて呼び止めるも、もう遅い。シオナはあかねに背を向け、誰にも聞こえない小さな声で呟いた。
「──電波変換、海鳴シオナ、オン・エア……」
シオナの身体が昏い瑠璃の光に包まれ、深海の青を纏った姿へと変身した。
腕の擦り抜けからの変身という常軌を逸した現象を前に言葉を失い、あかねは手を伸ばしたまま硬直してしまう。そんなあかねから目を逸らし、シオナことアクア・レディはこの場から姿を消した。
残されたあかねが呆然と立ち尽くしていると、血相を変えた天地が入れ替わるように姿を現した。
「あかねさん! 今、シオナ君が病室から居なくなったと騒ぎになって……あかねさん?」
その場に崩れ落ちそうな顔色のあかねを見て天地は慌てて駆け寄って肩を支える。
「どうしたんですか、あかねさん?」
「シオナちゃんが……シオナちゃんが、今ここで……」
今この場で起きた衝撃的な光景をあかねはしどろもどろになりながらも打ち明ける。
海鳴家の確執から始まる歪みとシオナの訣別、そしてその後の夢幻のような現象。冷静さを失っているあかねの話を何とか聞き取った天地は、自分達の手を離れて動く状況に顔付きを険しくした。
シオナの家庭状況に関しては、一大人として物申したい事は山程あるが星河家以上に部外者である天地には何も言えない。問題はその後のこと。あかねの腕を擦り抜け、見たこともない姿に変身したという話だ。
スバルとミソラという前例を知っており、事情を聞いていた天地はシオナが電波変換したのだとすぐに察した。しかしその後の動向については流石に読めない。
確実なのは、今外で巻き起こっている騒動の中心へと向かっていること。地球の命運を左右する戦いに、シオナもまた足を踏み入れているということだけだ。
シオナがスバルとミソラのように地球を守るために立ち回ろうとしているのなら、まだいい。しかしあかねの話を聞く限り、ただ地球を守るためだけに戦おうとしているようには思えなかった。
シオナが何を考えているのか、どんな目的の元に行動しているのかが読めない。ただこの戦いがどんな終わりを迎えるにせよ、シオナに帰る気がないことだけは確かだろう。
そして今この状況において、シオナを止められるのはたった一人──
シオナを止められなかったことに激しく気を落とすあかねを気遣いながら、天地は子供に頼るしかない状況に内心で歯噛みするのだった。
転生ものにおいて、転生後の家族との関係性が上手くいかないのはままあること。
海鳴夫妻は常識的でまともで、普通だった。ただそれだけです。悪意は決してありません。