心を探し求める水瓶座 作:リコレクションでも嬉しい
地球への大々的な侵略を開始したFM星人達に対抗するべく、ロックマンとハープ・ノートは病院を飛び出した。
二人は至る所で暴れる実体化したウイルスを倒しつつ、騒動を煽動しているFM星人達の元へと向かう。道中でサテラポリスや五陽田警部と出会すが、天地が手を回したお陰で敵対することはない。というより、実体化したウイルスの大群の相手で手一杯なため、注意を向けられることすらなかった。
「バトルカード、プレデーション──ガトリング2!」
「ショックノート! って、切りがないわ!? いったいどれだけいるのよ!?」
暴れるウイルスの大群を手当たり次第にデリートしながら、ハープ・ノートが堪らず叫ぶ。隣でバルカンを撒き散らしているロックマンも渋い顔だ。
「ウイルスを相手にしていたら切りがない。煽動してるFM星人を早く倒さないと……!」
ウイルス達は操られてこそいないが、暴走の方向性を誘導はされている。意図的に民間人を襲うように、被害をより拡大させるように仕向けられているのだ。
最善は煽動しているFM星人を倒すことだが、しかし目の前で暴れるウイルスを見過ごすこともできない。ジリ貧な状況にロックマンが歯噛みしていると、頭上から威丈高な声が響いた。
『無駄な足掻きをする地球人がいると思えば、お前達だったか。ロックマンとハープ・ノート』
現れたのは雄々しく赤い体躯を持つ雄牛のFM星人ことオックス・ファイア。ゴン太と電波変換しなければなれないはずの姿に、スバルとウォーロックは驚きに声を上げた。
「オックス!? まさか、またゴン太と電波変換したの!?」
『てめぇ、また性懲りもなく地球人を操ってやがるのか!』
『ふんっ、地球人を依代にしなくともオレ達は電波変換できるようになったのだ。その証拠に──』
オックス・ファイアの両隣に新たな敵影が現れる。リブラ・バランスとウルフ・フォレストだ。オックスと同じく、両者共に電波変換した姿である。
『愚かな裏切り者よ、貴様に選択の自由を与えよう。A.負けを認め大人しく降伏する。B.実力の差をその身をもって味わう』
『グルルウゥゥゥ! この前のリベンジをさせてもらうぜ、ウォーロック!』
並々ならない敵意と戦意を向けてくるリブラ・バランスとウルフ・フォレストにロックマンは苦い表情になる。単純計算で三対一の状況。まともにやりあえば一方的に蹂躙されるのが関の山だろう。
ならばハープ・ノートと連携して立ち向かえばと考えるが、ハープ・ノートの方にもキャンサー・バブルとクラウン・サンダー、そしてオヒュカス・クイーンが立ち塞がっている。相手は数の暴力で確実にロックマンとハープ・ノートを始末しようとしているらしい。
『裏切り者のお前達は此処で終わりだ。せめてもの慈悲に、オレ達の手で滅ぼしてやる』
気炎を吐いてオックス・ファイアがロックマンの前に立ち塞がる。この場での激突は避けられない。逃走も不可能だろう。
「ちょっと、流石に不味いかも……」
『幾らなんでもこの数に立ち向かうのは無茶よ』
顔色を悪くするミソラにハープも状況の不利を訴える。仮にロックマンとハープ・ノートで巧く連携したとしても、六対二だ。コンビネーションで覆すには無理がある戦力差だった。
圧倒的に不利な状況を前にしてスバルとウォーロックはすぐに決断する。
「ウォーロック。ぶっつけ本番になるけど、いける?」
『おう。出し惜しみしてられる状況でもねぇ。オレ達の絆ってヤツを見せてやろうじゃねえか!』
互いに覚悟は決まっている。唯一の不安は練習も何もないことだが、文句を言っていられる状況でもない。此処で敗れてしまえば、その時点で地球の滅亡が確定してしまうのだから。
「いくよ、ウォーロック!」
『おう!』
AM三賢者から授かった三枚のバトルカード、そのうちの一つを読み込む。ペガサス・マジックの力が込められたカードを──
眩い輝きがロックマンを包み込む。激しい力の奔流と輝きに対峙するFM星人達が怯んだ。
僅かな間を置いて閃光が霧散してロックマンが現れる。その姿は普段の青い意匠とは異なり、背中から翼を生やし、左手のウォーロックは天馬のようなフォルムになっていた。
「スターブレイク──アイスペガサス!」
ペガサス・マジックから授けられたスターフォース──アイスペガサス。ロックマンが三賢者から受け取った新たな力の一つだ。
「これが、スターフォース……」
『すげぇぞ、こいつは……力が溢れてきやがる』
スバルとウォーロックは身体の内側から湧き上がる力に戸惑いと高揚を覚えていた。この力があれば、数の不利も覆すことができる。FM星人達の地球を滅ぼすという目論見も挫くことができる。
手にした新たな力を確かめるように手を握り締め、ロックマンはFM星人達と対峙する。FM星人達は変身したロックマンの姿に動揺を隠せない様子だった。
『なんだ、その姿は……いや、姿が変わったくらいでなんだ。数の差で叩き潰してやる!』
変身して増したロックマンの力を肌で感じながら、しかしオックス・ファイアの戦意に陰りはない。それは他のFM星人達も同じだ。姿が変わって多少力を増したからといって、FM星の戦士である自分達が数の有利を得ておきながら負けるはずがない。
戦意を漲らせ立ち塞がるFM星人達に、ロックマンは一歩も引くことなく立ち向かう。
「ボクが前に立つから、ハープ・ノートは援護をお願い。大丈夫、絶対に守るから」
それはシオナを守り損ねてしまったからこその言葉だったが、圧倒的に不利な状況に気後れしかけていたハープ・ノートを奮い立たせるには十分だった。
「……! うん、背中は任せて!」
弱気な心を蹴飛ばし、ハープ・ノートはギターを構えてロックマンと肩を並べた。
地球を守るために立ち上がったロックマンとハープ・ノート。地球滅亡を目論み立ちはだかるFM星人達。地球の命運を左右する戦いの第一幕が切って落とされた。
◆
完全に制圧したサテライト管理局にて、キグナス・ウィングはアンドロメダを召喚する準備をしていた。
『ロックマンめ、大人しく小娘の側にいればいいものを。まあ、いい。アンドロメダさえ喚び出してしまえばこちらのものだ』
スターフォースなる新たな力を得て、数的不利を物ともせず戦うロックマンとハープ・ノートを忌々しく思いながらも、キグナス・ウィングは粛々と作業を進める。如何にロックマンがパワーアップしようが、星をも滅ぼすアンドロメダには敵わないという確信があるからこその余裕だ。
宇田海を連れ去り、地球を滅亡させるために力を付けること二ヶ月近く。長い潜伏期間を経て宇田海の意識を完全に手中に収めたキグナスは、FM王より賜った使命を果たすために動き出した。
天地研究所を襲撃して必要な機材を回収し、アンドロメダの鍵を奪取してものの序でにアクア・レディことシオナに戦闘不能の重傷を負わせた。ジェミニが裏から協力を申し出たおかげで、鬱陶しい裏切り者の一人を戦線離脱に追い込めたのは僥倖と言える。
次いで回収した機材で組み上げた電波変換装置を用いて他のFM星人達を宿主なしで電波変換させ、地球侵略に必要な戦力を拡充させた。その際に、自らの軍門に降るように誓わせることも忘れずに行った。これで今まではバラバラだったFM星人達の動きを一つに統率することができるようになった。
アンドロメダの鍵を手に入れ、十分な戦力も手に入った。後はFM王の命を忠実に遂行するのみ。
『さあ、出でよアンドロメダ! 我らが王たるケフェウス陛下の命のもと、この星を滅ぼすのだ!』
キグナス・ウィングがアンドロメダの鍵を高々と掲げた。
莫大な負のエネルギーを秘めた鍵はキグナス・ウィングの呼び掛けに応じるように不気味に光り輝く。ゲームの鍵とは違い、この鍵は単体でアンドロメダの起動と顕現ができてしまう。つまりは──
──星に終焉を齎す災厄が顕現した。
それは巨大な機械と形容するべき代物だった。獣の頭を模したような形状だが、感じられる気配は無機質な機械そのもの。その正体は過去に幾つもの星を滅ぼしてきた、FM星が所有する最強災厄の電波兵器だ。
『アンドロメダよ。愚かな地球人共に、お前の力を見せつけてやれ!』
キグナス・ウィングが命じるとアンドロメダは不気味なほど静かに、しかし忠実に命令を遂行し始めた。
街に突如として流星群やミサイルが降り注ぐ。衝撃波がアスファルトとコンクリートの大地を紙のような容易さで引き裂き、全てを破壊し尽くす。
容赦も慈悲もない破壊の嵐に街並みや建物は一瞬で崩壊し、大勢の市民達が恐怖に逃げ惑う。ほんの少しの時間で、周囲一帯は爆撃にでも晒されたかのような有様になった。
『素晴らしい、流石はFM星が誇る最終兵器! そのまま地球人共を蹂躙し、この星を滅ぼしてやるがいい!』
命令に従い、アンドロメダは地球を蹂躙する。全てを破壊で飲み込むブラックホールのように、終わりなき孤独を埋めるために、何もかも総てを──
アンドロメダが地球と地球人を蹂躙する様を上機嫌に眺めるキグナス・ウィング。その背後に、黒い影が立った。ジェミニ・スパークの片割れであるブラックことジェミニだ。
『随分と景気が良さそうだな、キグナス』
『……ジェミニか。何の用かな。僕は今、忙しいんだ』
『つれないことを言うなよ。アクア・レディを潰すのに協力してやったことを忘れたのか?』
先の天地研究所襲撃において、キグナスとジェミニはロックマンとアクア・レディを潰すために裏で結託していた。ロックマンを唆し、アクア・レディを窮地に追いやったのは全てキグナスとジェミニの思惑通りだったのだ。
厄介な裏切り者の一人であるアクエリアスを戦線離脱させられたのは一重にジェミニの協力があったから。故にキグナスはジェミニを邪険にはできなかった。
『ふん、まあいいさ。それで、本当に何の用かな? 暇をしているのなら、ロックマンとハープ・ノートを潰してきてほしいものだが』
サテライト管理局からやや離れた位置で戦うロックマン達。戦闘の趨勢は驚くべきことにロックマンとハープ・ノートに傾いている。三つのスターフォースを切り替えながら戦うロックマンが想定以上に強いのだ。また、宿主なしでの電波変換の影響でFM星人側が実力を発揮し切れていないのもある。
しかしそこにジェミニが加われば戦況は一気にFM星人側に傾く。単純な数の暴力以上に、ジェミニはFM星人の中でも屈指の実力者だからだ。スターフォースを手に入れたロックマンといえど、宿主がいる状態のジェミニに加勢されてしまえばひとたまりもない。
『それも悪くないが、先に済ませたい用事があってな』
『用事だと?』
『ああ、それは──』
「こういうことだよ、キグナス──エレキソード!」
ジェミニとの会話に気を取られていたキグナス・ウィングの背後に現れたホワイトが、一切の躊躇いなくその背中をエレキソードで斬り付けた。
『ぐ、ああああ!? 何のつもりだ、ジェミニ!?』
予想だにしない不意打ち、しかも仲間からの裏切り。キグナス・ウィングは背中に受けた傷に苦悶しながら、即座に体勢を整えようとする。だが、ジェミニ・スパークは二人で一つの電波体。先手を取られた時点で、後手に回った時点で詰みだ。
『こっちだ』
ホワイトに反撃しようとしたキグナス・ウィングを間髪入れずにブラックが斬り伏せる。畳み掛ける連携攻撃にキグナス・ウィングは為す術もなく地に倒れた。
『ぐ、あぁ……何の目的で、僕を……まさか、手柄を独り占めにするために……!?』
『手柄? こんな辺境の惑星一つ滅ぼす程度の手柄にどれ程の価値がある。俺達の野望はもっと大きいぞ』
地に伏したキグナス・ウィングを見下ろし、ブラックは心底馬鹿にしたように笑う。
『アンドロメダの力を利用し、俺達がFM星を支配する真の王になる。臆病で愚鈍な王はもう要らないんだよ』
『なん、だと……!?』
それはアンドロメダの鍵を奪い逃亡したウォーロックに匹敵する裏切り。いや、明確にFM星とFM王に叛旗を翻した分、ジェミニの方が重い裏切りと言えるだろう。
『そんなこと、させるわけ──がっ!?』
『無駄な足掻きはやめておけ、キグナス。お前が俺達に勝てる訳がないだろう』
ブラックが地に伏せるキグナス・ウィングの手を踏み付ける。踏み付けられた手にはアンドロメダの鍵が握られていた。
ぎりぎりと手を踏み付ける足に力を込めていく。増していく圧力にキグナス・ウィングは耐えたが、やがて手が砕けかねない程の激痛に堪えかねて鍵を手放してしまう。
キグナス・ウィングの手から転がり落ちた鍵をホワイトが拾い上げ、ジェミニ・スパークは悪意に満ちた笑みを交わした。そして足元で倒れ伏すキグナス・ウィングを見下ろす。
『ご苦労だったな、キグナス。お前のおかげで手間が省けたよ』
「地球の破壊はボク達に任せるといいよ。邪魔になるロックマンと他のFM星人諸共、滅ぼしてあげるから」
『おのれ、叛逆者め……!』
怨嗟の声を上げるキグナス・ウィングに冷笑を向け、ジェミニ・スパークは息を合わせて構えを取る。突き出した二人の両腕が眩い雷光に包まれた。
『「──ジェミニ・サンダー!」』
『があああああ──!!』
身動きもろくに取れない状態での一撃。ジェミニ・スパークが持ち得る最大火力の雷撃を受けたキグナス・ウィングは断末魔の絶叫を上げた。
青天の霹靂の如き稲妻に見舞われたキグナス・ウィングは電波変換が解除され、地面には宿主として操られていた宇田海だけが転がっていた。
二ヶ月以上にも及ぶ長期間の電波変換とキグナスによる洗脳操作。相当な負担が掛かっていたはずだが、しかし気を失って倒れる宇田海に欠損や外傷の類は見受けられない。その他、後遺症に関しては意識を取り戻さない限りは不明だ。
代わりとばかりに影も形もなくなってしまったのはキグナスだ。宇田海を操り利用していたキグナスは、ジェミニ・スパークが放った最大出力の雷撃を受けて跡形もなく消し飛んでしまったらしい。
ピクリとも動かない宇田海には視線も向けず、ジェミニ・スパークは手に入れたアンドロメダの鍵を嬉々として手で弄ぶ。
「これでボク達を止められるものは誰もいない」
『その通りだ、ツカサ。手始めに、邪魔な連中を纏めて消してやれ』
「そうだね、じゃあ──」
鍵を通してアンドロメダを操り、ロックマン達に嗾けようとして──荒れ狂う激流が二人を横合いから襲った。
『ぐっ、なんだ──!?』
「しまっ──」
不意打ちの一撃にジェミニ・スパークは踏み止まること叶わず、鉄砲水もかくやの激流に呑まれ押し流される。その拍子にホワイトは手にしていた鍵を手放してしまった。
手放された鍵は激流に呑まれ、しかし何かの意思に導かれるように水流の中を泳ぎ、やがて少女の掌に収まる。鍵を手にしたのは水瓶を肩に背負った青い少女だった。
『お前は……!?』
激流から脱したブラックは鍵を奪い取った少女を見て驚愕する。ホワイトもまた、この場にいるはずのない少女の姿に動揺を隠せなかった。
鍵を奪い取った少女──アクア・レディは常の無表情でジェミニ・スパークを睥睨する。ヴェールに隠された瞳はぞっとする程に冷たく冷え切っていた。